
児相、はじめました。 #58 だって面白いんだもん
児相、はじめました。
—まだ知らなかった頃の話—
七章『綿帽子雲』
それからは、
みんな食べることに夢中だった。
肉。
野菜。
ビール。
会話は続いている。
でも、
さっきより少しだけゆっくりだ。
食べて、
笑って、
また食べる。
河原の風に乗って、
網の上では、
とうもろこしが甘い匂いを出し始めていた。
その頃には、
鐙気野さんは河原の石ころの上に寝転がっていた。
そして。
眠った。
どこか、プーさんみたいだ。
誰も起こさなかった。
風も、
匂いも、
みんなの笑い声も、
そのまま鐙気野さんのところを通り過ぎていく。
それでいいのだろう。
誰かが誰かに合わせるのではなく、
それぞれ勝手に過ごしている。
なのに、
一緒なのだ。
俺は、最後の肉を皿に盛った。
肉と。
肉と。
ちょっと野菜。
それで肉。
食った。
……もう限界だ。
しばらく肉は見なくていい。
そう思うくらい食べた。
みんなもだいぶ満足したのか、
網や鉄板の上の食べ物も端に寄せられ、炭火は静かになっていた。
そんな中、
環さんだけはまだ山盛り食べてる。
グイグイ飲む。
ガンガンしゃべる。
無限に元気だった。
「環さん、ずっとしゃべってません?」
俺が言うと、
環さんは焼きそばを口いっぱいに入れたまま答えた。
「そんなことねぇよ。」
……しゃべっていた。
完全にしゃべっていた。
「いや、今もしゃべってますよ。」
ぉおせloose
「おお。」
環さんは少し考えた。
「まあ、さすがに俺も、もう食えねーぞ。」
すごい、ほんと。
「松
井、すまねぇ、そこのビール取ってくれ」
まだ、飲むんかい!
「そうだ。加藤木さん。」
焼きそば片手に、俺からロング缶を受け取りつつ、環さんが加藤木先生を見た。
「お願いがあるんですよ。」
「食べてしゃべって、それが環さんよね。わかっているけど、大変ね。なに?」
加藤木先生は笑っている。
「でしょ。早く落ち着きたいものですよ。そういうこっちゃなくて、あのね、加藤木さん。」
「はい。」
「子ども呼んできてさ。」
子どものことか。
大事なことかも。
「『加藤木先生と環先生、どっちが若く見える?』って聞くの、やめてください。」
加藤木先生が吹き出した。
「だって面白いんだもん。」
なんだ、その遊び。
「面白かねぇよ。いつも俺の負けじゃないですか。」
「ね。面白いわ。」
「だからって俺を使うってどうなのよ。あ、鐙気野くんはどうですか。」
「鐙気野さんにも全勝!」
加藤木先生は、もう笑いが止まらない。
「でも、松井さんや江口さんじゃ自信ないわ。もうムリね。」
またケラケラ笑っている。
環さんも文句を言いながら、
結局ちょっと嬉しそうだった。
こういうやり取りを、
この人たちは俺が出会う前からやってきたのだろう。
俺は缶ビールを飲みながら、
その輪の中にいる自分を少し不思議に思った。
数か月前まで、
俺はただの大学生だった。
今は、
河原で先輩たちと肉を食っている。
しかも、
その先輩たちは、
みんな少し変だった。
そして、みんなすごかった。
……ちょっと、酔ったか。
だいぶ飲んだし。
おっと、みんなじゃない。
江口は先輩じゃないし、別に凄くもない。
見ると、江口は沢丸さんと話してる。
なんか、むずかしい話かな。
あれ、割とスッキリした顔で、ん? ジンジャーエールか?
「江口は、もう飲まねーのか?」
「ん? 最初から飲んでねーよ。」
「え。なんで。」
「未成年。19歳。」
そーなの!? だって、最初から酒強そうな顔してたじゃん。
「……年下?」
「そう。ストレートで入ったから。」
酔ってるからか、全然理解できない。
「あれ、バンドやってなかったっけ?」
「やってるよ。」
「だろ。」
「だからなんだよ。酒も歳も関係ねーだろ。」
そうだけど、そうじゃないじゃん。
……江口の、最初の印象が遠くなる。

……あれ?
みんなの印象もなんか違う。
俺が近寄れたってことかな。
だったら、嬉しいな。