メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo byjmemu_p

創䜜倧賞応募䜜品 寧々 《第10話》

    青朚慧

    《第10話》 再䌚


     最初にその䞭幎女性の姿を芋たのは、駅の監芖カメラの映像だった。

     懐かしいような既芖感に囚われたが、すぐに気の迷いだず掻き消した。䜕故なら、その女性は閉鎖しおいる改札を匷行突砎しおいったからだ。䞍正乗車である。

     実際にその人物を目の圓たりにする機䌚は、皋なくしお蚪れた。有人改札にお、透哉が蚀葉の通じない倖囜人芳光客ぞの案内に四苊八苊しおいる隙を突いお、暪を擊り抜けおいった。

     透哉は改札業務を俊さんに任せお、圌女の埌を远っお階段を駆け降りる。その女性が自分の想定しおいる人物か吊か確認したかった。

    「お客さた、お埅ちください。切笊を確認いたしたす」

     止たらない。想定枈みだ。このたたホヌムに駆け蟌んで乗車しおしたう぀もりだろう。

    「埅およ、母さん」

     階段を降り切ったずころで、女性の脚が止たった。圌女を母ず呌ぶ人間は、透哉以倖に存圚しないはずだ。自分が捚おた息子の顔を芋るのが怖いのか、女性は振り返らない。

     远い぀いた透哉は、切笊を拝芋いたしたす、ず圌女の手にしおいるIC乗車刞を半ば匷制的に奪いずる。案の定、定期の期限が切れおいた。

     透哉  、ず呆然ずしおいた母芪の口から、自分の名が溢れるのを、透哉は耇雑な思いで受けずめる。

     時の流れを蚌明するように、透哉の身長は圌女を優に超えおいる。芋䞋ろした圌女の頬には歳を重ねた分の皺が幟぀も寄っおいた。

     再䌚した母芪に向けた透哉の蚀葉は優しさに欠け、半ば脅迫じみた物蚀いになっおいた。

    「このたた䞍正乗車で譊察呌ばれるのず、自分が捚おた息子ず再䌚を祝しおお茶するの、どっちがいい」


    ♊♊♊

     お茶をする堎ずしお、母芪の䜏凊すみかを透哉は芁求した。䞍正乗車をする皋たでに、困窮しおいるのか。その生掻背景を知っおおきたかった。

     いや、もしかしたら平垞心で察応する自信がなかったのかもしれない。喫茶店では、声を荒げお眵倒するこずもできない。呚囲の目を気にせず䌚話ができる空間を必芁ずしおいた。

    「ねえ、こんなずこたで来お、どういう぀もりたさか今さらその歳で、䞀緒に暮らしたいなんお蚀いださないわよね」

     郊倖の団地の䞀宀。単身者向けなのか、間取りはで手狭な印象を拭えない。冷蔵庫に貌られたチラシや、テヌブルに眮かれた食パンの特売品のシヌルが生掻感を醞しだしおいた。

     再婚しお、新たな家庭を築いおいるわけではない。自分たちを捚おた母芪の末路が、どこか䟘しくお幞犏ずは察極の䜍眮にありそうなこずに安堵する。それだけで、赊せる気がしおいた。

    「心配しなくおも、そんなこず蚀わないよ。せっかくの息子ずの感動の再䌚なんだから、氎差すようなこず蚀うなよ」

     感動の再䌚ね、ず母芪は心底嫌そうな衚情をする。

     譊察ぞの通報を芋送った。定期刞の賌入費を透哉が代わりに負担した。それを笠に着るような振る舞いをする透哉が、気に食わないのかもしれない。

    「立掟になったずか、制服姿が芋違えたずか、そういうこずを蚀っお欲しいの」

    「蚀わなくおいいよ。むしろ、気味が悪い」

    「じゃあ、あなたを捚おお家を出たこずを謝っお欲しいの」

     あなた、ず母芪は単数圢で告げる。あなたたちの間違いではないのか。捚おたのは実子である自分だけか。寧々は含たれないのか。

     透哉の沈黙を母芪は非難ず受けずめたらしい。ごめんなさい、ず呟いおから、匁明らしきものを述べ始める。

    「あなたに、䞀緒にあの家を出るかっお蚊こうずしたのよ。ただあのずきの透哉は、どう考えおもあの子に心酔しおいお、銖を瞊に振ろうずはしなかったでしょう」

     寧々を、あの子ず呌ぶ。透哉が寧々に向けおいた感情を心酔ず呌ぶ。それだけで、母芪が寧々を快く思っおはいなかったのだずいうこずが窺い知れた。

     あの日、ボタンの匟け飛んだカヌディガンを纏っおいた寧々に、同情の県差しを向けない。同じ女性の立堎でありながら、寄り添おうずいう姿勢を芋せない。

     それを透哉は、母芪の薄情さからくるものだず信じおいた。寧々は、実子ではないから。だが時を経た今になっお、違和感を抱き始めおいた。

    「あの子、なんにもされおないわよ」

     母芪は、さらりず栞心を突く。透哉が、寧々に蚊きたくずも蚊けずに長幎胞のなかに秘めおいた疑問だ。

     すぐには蚀葉が出なかった。心を萜ち着かせたくお、テヌブルの䞊のほうじ茶を手にずる。口に含んだが、苊さばかりが舌に残った。

    「私は寧々の嘘に付き合うのに、ほずほず疲れ果おたの。嘘だっお気づいおいるのは女の私だけ。圌女の狂蚀だっお蚀えば、私は悪者扱いだし。もう、うんざりしお家を出たの」



     結局のずころ、自分は寧々のこずが知りたかったのだ。だから、母芪の自宅たで抌しかけた。い぀でも再蚪できるように。母芪の環境や経枈状況など二の次に過ぎない。

    「その根拠は母さん、病院に同行しおただろそれに確か、譊察にも被害届を出しに行ったはずだ」

     口に出しおしたっおから、病院に同行しおいたからこそ確信しおいるのだ、ずいうこずに透哉は気づく。あたり想像したくはないが、被害に遭えば身䜓に痕跡が残る。䟋えば痣であるずか、男の䜓液であるずか。

     それが、なかったずいうこずは  。

    「病院には行ったけど、服を脱いで身䜓の隅々たで調べなくちゃいけないっおわかった途端に、蚺察拒吊よ。裞にされただけだから、緊急避劊の凊方は必芁ないっお」

     芁玄するず、寧々の蚎えた被害は「裞にされた」「觊られた」「写真を撮られた」ずのこずだった。

    「その写真は  」

     裞にされた、觊られた。これらは誰もいない密宀では、蚌明するこずができない。いやだからこそ性犯眪は密宀で行われるのであり、その閉鎖性が立蚌を困難にする。

     だが写真は写真は、明確な蚌拠物件だ。

    「あったわよ。寧々が蚎えた『あの子』の携垯に、裞の写真が保存されおた」



     『あの子』ずは、寧々の通っおいたピアノ教宀の隣の䜏宅に䜏む青幎のこずだった。

     青幎であるのに、䜕故あの子・・・なのか。知的障害者だからだ。完党に成人した男性の䜓躯を持ちながら、その蚀動は幌い。

     倧人の身䜓に子䟛の蚀動。その違和感を嫌悪する人間もいれば、なんの拘りもなく受容する人間もいる。

    「ピアノ教宀の生埒さんのなかで、ちょっずした問題にはなっおたのよ。腕を掎たれたずか、埅ち䌏せされたずか」

     そういえば、寧々も「遊がう遊がうっおし぀こい」ず蚀っおいた。透哉は遥か昔の蚘憶を手繰り寄せる。

     本人に悪意はないのだ、ず母芪は障害者の圌を庇う。子䟛が子䟛を遊びに誘っおいる。だが䞖間の目には、倧人が子䟛に悪戯をしようずしおいるようにしか映らない。

     ちょっず埅っお、ず透哉は䌚話を止める。

    「なんで、寧々が嘘を぀いおいる前提どうしおその圌が無害な存圚だず蚀い切れる」

     私の叔父さんが知的障害者だったから、ず母芪は匁明する。人によっお違うけどね、ずも付け加えながら。

    「圌が逮捕された途端に、寧々が慌おたように『被害届を取り䞋げる』っお蚀い出したから。それに写真は䞀枚しかなかったから。普通そういう性癖があるなら、䜕枚も所持しおいるものでしょう」

    「その写真、芋た」

    「芋たもなにも、今も持っおるわよ」

     思いがけない䞀蚀に、透哉は驚愕する。母芪はどこか埌ろめたいような衚情で蚀葉を継ぐ。

    「あの子の母芪に謝眪に来おいただいた際に、写真のデヌタを送っおもらったの。どうしおも腑に萜ちなくお  。それを捚おられずに今たで持っおいたのは、あのずきただ幌くお蚊垳の倖だったあんたが成長しお、い぀か蚊きに来るんじゃないかっお思っおいたからかもしれない」

     確かに蚊垳の倖だった。あの日から、ヶ月以䞊も祖母の家に預けられお、そこから登校しおいた。譊察に被害届を提出しお、圌が逮捕、そしお被害届を取り䞋げるに至るたでの䞀連の流れのすべおが初耳だった。

    「被害届を取り䞋げたっおこずは、無眪攟免だろだったら、なんで  あの芪子は  」

     あの螏切で、蜢死䜓ずなっお暪たわっおいたのか。

     理由は蚊かずずも知れた。無眪であるか吊かではない。譊察に逮捕された時点で、もう犯眪者の烙印が抌されたも同然なのだ。人は、自らの芋たいようにしか芋ない。信じたいようにしか、信じない。

    「その写真のデヌタ、送信しおもらえる」

     透哉の䟝頌に、母芪は困惑したように眉を寄せる。たあ、圓然だろう。血が繋がっおいない姉の裞の写真を、実の息子である匟が芁求しおいる。抵抗があるのは無理もない。

    「寧々の承諟がないず駄目  もう既に男女の関係にあるず蚀っおも」

     溜息が聞こえた。あんた、やっぱり  、ず母芪は呆れたような呟きを挏らす。

     嘘も方䟿の぀もりだった。どうやら自分は、幌少の頃から寧々に恋慕の県差しを送っおいたらしい。



     
     
     
    noteお䌑みしたす😪💀 『暗くお、重くお、せ぀ない』 そんな小説が曞ける人間になりたいです。 noteにお、長線 & 短線小説、゚ッセむ掲茉しおたす。読んでくださるず嬉しいです TALESはログむンのみ。

    あなたぞのおすすめ