シニア人材特有の経験は経営資源 #161
企業は、経営理念に基づいて戦略を立て、その実現に向けて事業活動を行います。
その活動を支えるのが、ヒト・モノ・カネ、そして知識や情報などの経営資源です。
なかでも「ヒト」は、他の経営資源を活用し、価値に変えていく存在です。
だからこそ、人をどう活かすかは、単なる人事上の課題ではなく、経営そのものに関わる問題だと考えています。
■ 人事の役割が変わる
これまでの人事部門では、労務管理や制度運用、法令対応など、組織を安定して運営するための業務が大きな役割を占めてきました。
もちろん、これらは企業にとって欠かせない仕事です。
しかし、人事の役割はそれだけではありません。
人が持つ能力や経験を見つけ、それを活かせる環境をつくり、組織の成果につなげる。
人事とは、本来「人を管理する仕事」ではなく、人の可能性を引き出し、経営につなげる仕事であると考えます。
少子高齢化による労働力人口の減少、従業員の高齢化、技能継承の難しさ、デジタル化やAIの進展。
企業を取り巻く環境が変化する中で、人事には経営戦略と人材戦略を結びつける役割が求められています。
その考え方が、HRM(人的資源管理:Human Resource Management)です。
■ シニア人材の「経験」という経営資源
HRMを考える上で、特に重要なのが「経験」です。
企業には、長年の事業活動を通じて蓄積された知識や技能があります。
顧客との関係づくり、トラブルへの対応、状況を見極める判断力、組織を動かす力などです。
長い経験を通じて培われるからこそ、価値があります。
そして、こうした暗黙知は、データやマニュアルのような形式知には、容易に転換することはできません。
だからこそ、この特有の「経験」は、重要な知的資産であると言えます。
そして、この「経験」を豊富に蓄積した重要な存在となるのがシニア人材であるといえます。
■ シニア人材は「人手不足を補う労働力」ではない
シニア人材の活用は、人手不足対策として語られることが多くあります。
しかし、それだけではありません。
人間の能力は、年齢とともに一律に低下するわけではないからです。
記憶力や処理速度など、比較的若い時期に高まる能力がある一方、語彙力や経験に基づく判断、情緒の安定など、年齢や経験とともに高まる能力もあります。
つまり、年齢によって能力が単純に失われていくのではなく、その構成が変化していくと考えることができます。
そうであれば、60歳という年齢だけを区切りとして、それまで培ってきた経験を企業から切り離してしまうのは、経営資源の観点からも大きな損失になり得ます。
シニア人材は、人手不足を補うためだけの労働力ではありません。
豊富な経験そのものが、企業にとって貴重な経営資源なのです。
■経験は、学びによって更新される
ただし、経験が豊富であれば、それだけで十分というわけではありません。
環境は変わり続けるからです。
技術、市場、顧客の価値観、働き方などが変化する中で、過去の経験だけに頼っていては、その価値を維持できないこともあります。
だからこそ重要なのが、経験と学びの循環です。
経験を活かして学ぶ。
学びを次の経験に活かす。
そして、新しい経験からまた学ぶ。
この循環によって、経験の価値は更新されます。
「経験があるから学ばなくていい」のではなく、経験があるからこそ、新しい知識や技術を自分の経験と結びつけ、新たな価値に変えることができる。
ここに、シニア人材の可能性があります。
■ 技能を「人」だけに依存させない
一方で、企業が抱える大きな課題の一つが、技能や知識の継承です。
長年の経験から生まれた技能には、言語化しにくく、人から人へ伝えるしかないものがあります。
しかし、すべてを人から人へ継承しようとする必要はありません。
データ化、デジタル化、マニュアル化によって共有できるものは、できる限り形式知として残していく。
その上で、言語化や数値化が難しいものについては、実際の仕事を通じて人から人へ伝えていく。
つまり、人でなければ継承できないものに、人の時間と能力を集中することが重要です。
ここにDXやナレッジマネジメントを組み合わせる意味があります。
■ 技能の継承する重要な役割
こう考えると、シニア人材の役割も変わります。
定年後も、それまでと同じ仕事を続けてもらうことだけが活用ではありません。
若手社員の育成、技能や知識の継承、顧客との関係の引き継ぎ、問題解決への助言、新しい事業への知見の提供など、経験を活かせる役割へ転換することができます。
もちろん、健康や本人の希望を尊重することは大前提です。
重要なのは、「何歳まで働くのか」だけではなく、「その人が持つ経験を、どのように活かすのか」を考えることです。
そして、シニア人材自身も学び続ける。
経験を仕事に活かし、その経験を次の世代へ伝える。
次の世代が新しい環境で経験を積み、その経験がまた企業の知識として蓄積されていく。
こうした循環が、企業の持続的な成長につながります。
■ 人事がつくるのは「制度」だけではない
人事の役割は、制度をつくり、制度を守ることだけではありません。
人が持つ経験や能力を見つけ、それを活かせる場所をつくる。
学び続けられる環境をつくる。
世代を超えて知識や技能が循環する仕組みをつくる。
そして、それを経営戦略と結びつける。
人を管理するのではなく、人の可能性を経営につなげる。
それが、これからの人事に求められる役割ではないであると考えます。
単に人材を確保することで経営を持続させることはできません。
人が持つ経験や知識を活かし、学びによって更新し、次の世代へつないでいくこと。
その循環を経営の仕組みとしてつくること。
私は、これからのHRMには、この視点が必要だと考えています。
