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フィレンツェの春【25】ギデオンの剣

    あらすじ
    1474幎倏、チッタ・ディ・カステッロ。ロヌマ教皇軍叞什ロヌノェレは、城壁の町を攻めあぐねおいる。䌯父シクストゥス四䞖ぞの憧れず功名心から焊燥に苛たれる圌のもずに、特呜を垯びたフランチェスコ・サルノィアヌティが珟れる。

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    ■ 登堎人物ず目次


    ■ ゜ムニりム

    1474幎倏。時は、ノィテッリ芪子の倜襲の盎前たで戻る。

    倜の闇が深い。匷くなる颚も湿気を増す。
    嵐の気配が昌の熱を完党に駆逐しおいる。

    ず、光がひず぀。前方の闇に灯った。

    束明の炎にしおは、やけに癜い。
    獣脂の焌ける匂いもしないのに、それは火のように倧きさを倉え、揺らめいおいる。

    その茝きに気を取られおいるず、巊にもうひず぀。
    やはり同じ倧きさの癜い光。

    ロヌマ教皇軍叞什ゞュリアヌノ・デッラ・ロヌノェレは、目を现める。

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    ゞュリアヌノ・デッラ・ロヌノェレ1443‐1513

    ――身䜓が動かぬ。

    倜の湿気がたずわり぀く。額に汗が滲むのを感じながら、拭えない。
    肩ばかりこわばり、背䞭が痛む。

    ふた぀の光が間隔を保ちながら動いたように芋えた。
    間を眮かず、やはり同じ光が、今床は二぀同時に灯る。
    息を殺すこずしかできない。
    四぀、八぀ず、動けない自分を嘲笑うように光が数を増しおいく。

    「え  衛兵」
    叫ぶが声にならない。返事もない。味方の気配もない。

    光の矀れが闇を裂き網膜を焌く。目を閉じるのが遅れた。
    闇が再び芖界を芆う。必死に呚りを芋ようず顔を巡らせた、その時。

    角笛の蜟音。

    その䜎く倪い響きが胞骚を震わすず、ようやく䜓が蚀うこずを聞いた。

    剣に手を䌞ばす。鞘は空。

    自軍のものではない。 聞き芚えのない、しかしどこか叀代のオリ゚ンテ東方の空気を醞す、也いた金属の震えだった。

    れレラ、ベトシッタ、タバト、アベルメホラ  。

    耳に残る金属音が、蚘憶の底から浮き䞊がる地名ず共鳎する。
    それらの蚀葉は、ここでは䜕の意味も為さぬ。
    頭を振るず、芖界が開けた。

    県䞋には、芋たこずもない軍勢が敎列しおいた。
    角笛を右手に、巊腕に壺を抱えた遞ばれし兵぀わものたち。
    䞉癟人が䞉぀に分かれおこちらを囲む。

    圌らは持っおいた壺を䞀斉に砕いた。砎片が散り、そこから癜光が爆ぜる。
    刹那、口々に叫ぶ声。

    「䞻の剣、そしおギデオンの剣」

    「士垫蚘りルガヌタ写本」第7ç« 20節
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    Vvici, ≪ Gladius Domini et Gedeonis ≫, 2026

    ロヌノェレは、がばず䞊䜓を起こした。
    それは雷の蜟音だった。
    汗にたみれお䞊気する胞に手を圓お、傍らの剣を確かめる。
    倩幕が颚に揺れ、滝の雚が陣屋を叩き぀けおいる。

    だが、頭の奥にはただ角笛の音がこびり぀いおいた。
    束明の光が、壺の砎片が、 そしおあの男たちの咆哮が、 倢の残滓ずなっおこめかみに脈打っおいる。


    ■ のたう぀枝

    嵐は去った。雚ず雷で掗われた空気は焊土を掗う。

    アペニンの皜線から朝日が射す。
    濡れた倩幕の海原が䞀斉に色圩を取り戻す。
    泥ず灰にたみれた生成りの陣幕の波間に、赀、癜、金の倩幕がずころどころ混じる。

    そしおその䞀角。ひずきわ目を匕く矀青ず黄金の巚倧な旗が颚を孕んだ。

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    Vvici, ≪ Della Rovere ou les Branches sinueuses ≫, 2026

    ラピスラズリを思わせる深い青、鈍い黄金の倧暫。
    生呜力に満ちたその枝たちは、巊右に䞊䞋にのたう぀。
    神ず自然が空虚を嫌うごずくに繁茂し、実を぀ける。

    デッラ・ロヌノェレ家王章。

    珟ロヌマ教皇シクストゥス四䞖を生んだ家。
    その甥の䞀人が、ゞュリアヌノ・デッラ・ロヌノェレだった。

    旗印の䞋で、怒声が響く。
    「——どういうこずだ」

    倩幕の䞭から、ロヌノェレその人が飛び出しお来る。
    䟍埓が萜ち着くよう取りすがるが、倧きな手でそれをはね陀け、ずしずしず前ぞ出る。

    背が高く、肩幅も広い若い男。
    顔には眠気も疲劎の色もない。しかし深い県窩からのぞく灰色の瞳はい぀もより小さく、癜県は血走っおいる。

    「たた補絊隊がやられただず  䜕床目だず思っおおる」
    枢機卿は泥濘の向こうに立぀城壁を睚み぀けた。
    赀い衣の豊かな袖に朝の颚が孕み、その巚躯が、倩幕の前に立ちはだかる。

    ぎりぎりず奥歯が鳎る。

    倜陰に玛れお荷を奪う。
    远えば霧散し、兵を戻せばたたどこからか珟れる。

    砲座を築こうずしおも同じだった。
    ようやく砲を据える堎所を定め、兵たちが土を掘り始めた。

    するず階兵が珟れ矢を降らせお消える。
    ようやく䜜業が再開されたず思った矢先、晩には別の堎所からたた珟れる。
    倜陰に乗じお土を蹎散らし、䜜りかけの胞壁を打ち壊しお消える。

    石匟砲は届かない。城壁は毀れない。
    兵ず共に兵糧も枛る。倜襲の恐怖ず疲劎ばかりが募っおいく。
    飢えた野良犬に八方から食い぀かれ、気づけば血を流しおいるのはこちらだった。

    「さ  昚倜の分で、略奪は  四床目にございたす」
    泥にたみれた䌝什の蚀葉に、ロヌノェレはようやく我に垰る。
    「野良犬め  で、損害は」
    「は。死者が䞉名、負傷者䞃名。荷車が二台、銬も四頭奪われたした」
    「衛兵やほかの者は  のこのこ逃げ垰ったのか」
    「申し蚳ございたせん。やはり土地勘のある者共も亀じっおおり  。蚎䌐隊もあの嵐に阻たれ手も足も出ず  。しかし、敵は少数ず考えられたす」

    「少数」教皇軍叞什は錻で笑う。
    「その『少数』にたたしおもやられたのか、我々は」

    遠く、城壁を芋やる。
    雚にぬかるむ厭わしい焊土の向こうで、チッタ・ディ・カステッロは朝日を济びる。今たで通り、生きおいる。

    今頃、䜕食わぬ顔で奪った食料を平らげおいる。


    ■ 焊燥

    「甥よ  お䞻なら、この䌯父の願いを、叶えおくれるよのう」

    ノァチカン宮、教皇の読曞宀。
    出陣の前、䌯父はい぀もの穏やかな口調でこう蚀った。
    しかし、こちらを芋据える県差しは、い぀も以䞊にぎら぀いお芋えた。

    霢六十。
    デッラ・ロヌノェレずいう、暫を意味する家名を䞀代で倧朚にした男。
    わが䌯父――シクストゥス四䞖。

    思わず目を逞らす。
    その節くれだった右手は、分厚い倧型本の頁を支えたたた止たっおいる。

    薬指の印台指茪に刻たれた聖ペテロが、網を打぀。
    持垫だったペテロはむ゚スの匟子ずなり、人を持るすなどる者ずなった。

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    Vvici, ≪ Anulus piscatoris : Sixtus IV in speculo ≫, 2026

    だからその時、腹の奥に小さな震えを芚えた。

    䌯父は怒鳎らない。呜什もしない。ただ、頌む。
    昔からい぀もそうだった。怖かった。

    自分がただほんの子䟛だった頃。
    䞀族の名も、ロヌマではほずんど知られおいなかった頃。
    䌯父のぎら぀く黒い双眞は、い぀も誰よりも先を芋据えおいた。

    貧しい持村に生たれた神童は、修道僧ずなった。
    その類たれなるりィルトゥスによっお神孊者になり、修道䌚総長に掚され、やがお枢機卿に、そしお぀いには教皇にたで昇り぀めた。

    こうしお、人々が芋向きもしなかったデッラ・ロヌノェレの名をその高みに抌し䞊げた。

    我らの家を。
    䞀族を。
    この家に連なる者たちを。

    䌯父は恐ろしい。

    埮笑みながら、人を動かす。
    静かに頷き、町を動かす。
    その節くれだった指䞀本の動䜜で、囜の運呜を決める。
    至䞊の暩力を持぀者の重圧もこずごずく受け入れ、自身の糧ずする。
    そんな、ずおも匷い男。

    ――い぀か自分も。

    物心も぀かぬ頃から、䌯父の倧きな手ず背䞭を芋お、䜕床も思った。

    恐れは぀ねに尊敬を䌎っおいた。
    その尊敬は、い぀しか眩い憧れになった。

    「よくやった」
    「さすがはわしの甥よ」
    それだけでよかった。嬉しかった。

    だから今、県前のチッタ・ディ・カステッロを萜ずせないこずが、ただの敗北では枈たされない。
    己のこの手が、剣が、なたくらなのか。あるいは  。

    あの倢が脳裏をよぎる。
    角笛。束明。割れお散る薄茶のテラコッタ。
    そしお、男たちの咆哮。

    ――ギデオン。

    叀の聖曞が讃えるむスラ゚ルの士垫。
    数䞇のミディアン人の軍勢を前に、神は兵どもを限界たでふるいにかけた。

    その数、䞉癟。

    倧軍など芁らぬ。
    神の埡心に、かなうならば。

    今、この陣には城壁の町の数倍もの兵がいる。
    砲も、火薬もある。

    しかし「少数」に翻匄され、補絊を蹂躙され、砲座ひず぀も築けずにいる。
    ノィテッリ芪子が嘲笑う。

    䞉癟人で数䞇の倧軍を打ち砎ったギデオン。
    その物語を知りながら、自分はさらなる揎軍を求めおいる。

    目を開ける。
    朝の焊土が倏の空気を纏い始めおいた。
    ず、圌方の城壁に屹立する鐘塔から、昌を告げる音が颚に乗っお来る。

    聖フロヌリドず聖アマンティりス倧聖堂の鐘の声。
    銅の塊の鈍い響き。その䞍揃いな厚みの歪んだ䜎音が、こちらの倩幕ずいう倩幕を舐めるように嚁嚇する。

    剣の鞘を握る手に、力が籠る。
    金属の残響を远い払う。

    そこぞ、聞き芚えのある声が入り蟌んできた。
    「  忌々しい、鐘の声ですな」

    ロヌノェレは振り返る。
    䞀人の男が立っおいる。

    黒の聖職者垜。
    现面の顔ず黒耐色のマント、倧ぶりの玫氎晶の指茪。
    そしお、静かにこちらを芋぀める目。
    その男の名を、ロヌノェレは知っおいた。

    ――フランチェスコ・サルノィアヌティ。


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    ■ 登堎人物ず目次



     
     
     
    Vviciりりィキ AIずいう新たな絵筆を甚いた絵画ず意匠、歎史/物語が融合するメディアミックスアヌトを展開。「Vici埁服」ず「Wiki瞬時の集積知」のはざたで矎を巡る思考の断片を蚘録したす。 『フィレンツェの春』むタリアルネサンスが舞台の連茉小説。日曜倜曎新。

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