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【掌編私小説】4階の兄さん

小6の頃もそれなりだったが、年度が変わり
俺が中学1年生になると輪をかけて
多感になってしまった。
同時に上の姉が大事な受験期に入ったのもあり、
厳しい父は更にその性格を濃くし始めた。

ガキなりに環境がガラッと変わり、何だかんだと
俺は父からよく怒られるようになった。
叱責に耐えられなくなり、説教が終わったら
メンタルがやられて、外へサンダルを突っかけて、
急いで絶望から逃げ出す。

白くて分厚いソックスにサンダルが脱げそうに
なりながら、追っては来なさそうな近所の
処方せん薬局まで全速力で走る。

走り疲れた背中をシャッターに打ち付けて大きな
音を立て、ペタッと座り込んで涙の続きをする。
やがて涙のアトが頬でヒリヒリし始めると
喉も同じ擬音で渇いて、炭酸か何かをどうしても
飲みたくなっても着の身着のまま出てきたから
小銭も何も持っていない。

帰る勇気も持っていない。

自宅マンション。エレベーター。
住所のある2階じゃなく、4階へ上がる。

夜分にインターホンを数回鳴らすと出た、
俺のすこし下のふたりの女の子を持つ、
少し顔見知りの兄さん。
奥さんの雰囲気からいって多分、お気に入りの
飲み屋のベッピンを射止めた、兄さん。

いつか初めて会ったとき、上背はあまり高くない
ながらにゴツい体躯をして、坊主頭でいかつい
風貌だったが情に厚い性格を彼はしていた。

すこし話すと彼は鷹揚に笑って全てを察して、
たまたま家に遊びに来ていたお友達と
面白がりながら3人で2階に降り、
ウチのインターホンを押すと、ドア越しに
俺を補導した警察官を装い、ちょうどいい茶化し
具合で俺を家に引き渡した。

そんなことが、次の春にも起きてしまった。

…そのまた次の春、大きな花を胸にさした俺は、
卒業式を見に最前列で座っていた彼と退場前に
偶然目が合い、深々とゆっくり、頭を下げてみた。

坊主頭のヒーローは温かく頷いた。


終

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