とある人との話①
大学3年の春。研究室で花見をすることになりました。みんなで手分けをして準備することになりました。
買い出しをする人、料理を作る人、場所取りをする人などがいましたが、私は料理をして、みんなとワイワイ楽しみながらオードブルを作りました。
夜桜見物なので、夕方にみんなで料理や酒を持って花見をする公園に行きました。そこは桜の名所として有名なところです。
花見の席取りを一人でしてくれていた人がいました。午前3時から、花見が始まる18時までずっと一人でした。みんなが花見会場にやってきた時には、彼は疲れ果てていました。
花見が始まり、みんなが輪になって会話やお酒を楽しんでいる時、ふと彼の姿が目に入りました。
彼はみんなの輪には入らず、ゴザの端っこで体育座りをして顔を伏せてぐったりとしていました。
そんな彼が誰からも顧みられていない場面を目の当たりにして、私は胸が震えました。
次の瞬間、何故か私は彼に近づき、肩に手を置き、背中をさすって、
「お疲れさま」
と声をかけました。そうせずにはいられなかったのでした。
彼は研究室の室長で、私も仕事を一緒にすることはあり、必要があれば話をすることはありました。でも、親しかったわけではないのです。
そして、喉は渇いていないか、お腹は空いていないかと聞いて、彼に料理やお酒を取り分けました。
彼が食事をしている間、私は近くに座って他の人と話をしていました。
私の後ろの方に座っていた彼が急に、
「ああ、楽だ…」
と言って、私の背中を座椅子のようにして、もたれかかってきました。
私はびっくりして振り向き、彼の顔を見ると、少し微笑んだように目を閉じていました。
私はそんな彼を何だかそのままにしてあげたくて、彼に背中を貸したまま、他の人との会話を続けました。
私は男の人と話すのがあまり得意でなく、自分から話しかけたり、触れたりするなんてしたことがなかったのに、何故かそうせずにいられなかった。
満開の夜桜の下でのそんな出来事が、全ての始まりでした。
