
小さな手|コンビニで出会った彼|シロクマ文芸部
小さな手。
コーヒーを買いに入ったコンビニで、黒いものが落ちていた。
ゴミ?
通り過ぎようとして、動いた。
よく見ると、クワガタだった。
ひっくり返ったまま、起き上がれずに手足をばたばたさせている。
いや、正しくは全部足か。
しばらく見ていたけれど、どうにも起き上がれそうにない。
仕方ない。
そっと人差し指を足に近づけた。
すると、黒く小さな手が、私の指をがっしりつかんだ。
いやいや。
手じゃない。足やで。
黒く小さな、手のような足。
思ったより力が強い。
痛いかと思ったけれど、痛くはない。
ただし。
その立派なハサミには要注意。
クワガタは私の指につかまったまま、無事に起き上がった。
おー、助かった。
ありがとよ。――と、
思っていたかどうかは知らない。
んっ?
待て。
もしや、一難去ってまた一難?
俺は捕らえられたのか?
どこに連れていくんじゃ!
今度は、そんなことを思っているように見えた。
私はクワガタを指につかまらせたまま、コンビニの外へ出た。
近くの草むらまで歩く。
葉っぱに移そうとすると、なかなか指を離してくれない。
いや、さっきまで床でもがいてたやん。
帰りなさい。
ようやく私の指を離れ、葉っぱにつかまった。
「もう迷うんじゃないよ」
私は彼と別れた。
小さな手を振ってくれた。
……ように見えた。
足やけど。