
助手席に座るようになって、見えるものが変わった
助手席に座る時間が増えた。
長くトラックのハンドルを握ってきた私が、今は助手席に座っている。
窓の外を、ただ眺めている。
信号待ちの時間。
前を走る車や、歩道を急ぐ人たちが目に入る。
昔の自分も、あの中にいた。
少しでも前へ、少しでも早く。
遅れないように、ただ前だけを見ていた。
荷物を無事に届けることが、当たり前だった。
――今は、違う。
こうして立ち止まり、
流れていく景色をぼんやり見ている時間がある。
正直に言えば、少し寂しい。
遠回りをしたと感じる日がある。
あのとき、別の道を選んでいればと、
考えてしまうこともある。
けれど、本当にそうだろうか。
近道ばかり探してきた人が、
あとで道に迷うこともある。
それなら、少し遠回りでもいい。
そう思うようになったのは、
わざとゆっくり歩いた、あの日からかもしれない。
急ぐ理由もなく、ただ足を緩めて歩いた帰り道。
同じ道なのに、少し違う場所にいるような気がした。
景色が変わったわけじゃない。
自分の見方が、少し変わっただけだった。
そして今、隣にはカリンがいる。
小さなポメラニアンの女の子で、我が家の一員だ。
小さな体で、当たり前のようにそばにいる。
最初に会った頃、カリンは少し痩せていた。
どこか不安そうな目をしていたのを覚えている。
それでも少しずつ距離を縮め、
気づけば、当たり前のように隣にいる。
カリンは、誰にでも同じじゃない。
妻の前ではおとなしく、
私の前では少し甘え、
娘の前では、まるで別の顔を見せる。
その様子を少し離れた場所から眺めていると、
ああ、この子はちゃんと人を見ているのだと思う。
運転席にいた頃は、
すべてを自分で決めるのが当たり前だった。
でも今は違う。
こうして少し後ろに回り、
誰かの隣で過ごす時間も、悪くないと思っている。
窓の外では、景色が静かに流れていく。
カリンは何も言わず、隣にいる。
それだけで、いいと思えた。