
短編小説『星5つでも雨は降る』
私の朝は、携帯の占いから始まる。
当たると信じているわけじゃない。
ただ、毎朝なんとなく見てしまう。
歯を磨いたり、顔を洗ったりするのと同じ。
私にとって占いは
そんな日課のようなものだ。
だからといって
1日を占い通りに過ごすわけじゃない。
それでも、星が五つ並んでいると
少し嬉しくなるし
少ない日は少しだけ肩を落としてしまう。
今日のラッキーアイテムは
ポストイット。
普段なら気にも留めない。
その日も、ラッキーアイテムのことは
気にも留めなかった。
いつも通り支度を済ませ
仕事へ向かおうと玄関の扉を開ける。
頬に冷たい雨粒が落ちた。
星は五つだったのに。
そんなことを思いながら、私は傘を広げた。
職場に着き教室の鍵を開けると、
いつもの静かな空気が迎えてくれる。
授業の準備をしようと講師室へ向かい
机の上に積まれた教材へ手を伸ばした。
そのとき1枚のポストイットが目に入った。
教材の上に貼られた小さな黄色いメモ。
何気なく視線を向けると
そこには名前が書かれていた。
『高橋 敬人先生へ』
思わずその文字をもう1度見直す。
今まで「高橋先生」としか
呼んだことがなかった。
だからその名前が少しだけ特別に見えた。
たった1枚のポストイット。
ただ、名前を知っただけ。
それだけなのに少しだけ嬉しかった。
占いなんて信じているわけじゃない。
それでもこの日だけは
星五つを、少しだけ信じてしまった。