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もういい。

    4回目のボストンへの出張の時だった。
    訪問先の会社が、全部が一階のスイートで部屋のドアがすべて中庭に向いているちょっといいホテルを予約してくれた。
    Dr.〇〇の名前で。
    日本と違って、アメリカのDr.(Ph,D)は社会的地位が高いらしい。特に企業勤めの人は。

    予約の本人としてホテルのフロントに現れたのは、池袋の古着屋で買った米軍放出のコート(3月でまだ寒かった)を着たやたら童顔で足の短い東洋人だった。

    I am Mr.〇〇. I have a reservation.と言ったのがよくなかったかもしれない
    Dr.〇〇?と聞き返されて、Yes, it's me.と言ったら、
    お前はDr.には見えない、Dr.であることを証明しろ、と言われた。
    名刺はスーツケースの中。日本のパスポートは性別だけ。
    仕方がないから、自分は菌学者(Mycologist)だといったら、それを証明しろと言われた。

    じゃあ、キノコが子孫を作るときの話をしよう、と言ったら、してみろ、と言う。

    種類にによってちがうけれど、たとえば、タモギタケは、胞子から生える菌糸は核を1つもつ。そして伸びていく中で、別の胞子から生えた、同じ種だけれども異なる遺伝情報をもって、かつ和合成(Compatibility)のある菌糸とであうと、お互いに接合して、核を複製して相手の中に送り込み、そこからは、核を2つもつ菌糸(2核菌糸)として生育する。この2核菌糸だけが、キノコ(子実体)を作ることが出来て、そのひだに担子器という器官ができてそこで遺伝情報が分配されて。。。

    もういい。あなたはDr.だ。 申し訳ない。 そこのロビーにMemberのための無料ディナービュッフェがある。かまわないから食べに来てほしい。

    初めての経験だった。 
    予約があるのにチェックインできないかもしれないと思ったのも
    キノコの生殖活動で身分証明をしたのも
    ホテルからディナーをおごってもらったのも

    多分フロントの男性はキノコの生殖にはそれほど興味はなく、エンドレスに続きそうな話を止めたかったのだろう。

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