
ペロンとゴロンのこと ― むすび
うしろで、小さな足音が、ふたつ。
朝市の声は、もう、きこえません。
オレンジタウンを出て、しばらく歩いたところ。
空は、藍色になりはじめ、
夕焼けの最後のひとすじが、
丘のむこうで、ほそく光っていました。

わたしは、すこし先を、
ブンタンが、見送ってくれた道を、まっすぐに。
うしろは、ふりかえりません。
ふりかえると、
なにかが、こわれてしまう気がしたから。
ペロンと、ゴロン。
ふたりは、わたしのうしろを、
ならんで歩いていました。
足音だけが、きこえる。
やわらかく。
ふたつの音が、ときどき、ひとつになる。
わたしは、立ちどまって、空を見ました。

うしろが、ふっと、しずかになる。
足音が、消えていたのです。
ふりかえらないまま、わかりました。
ふたりも、足を止めている。
風の音、草の音。
声は、ありません。
ことばも、ありません。
ただ、空気が、
すこしだけ、重くなったような。
たいせつなものが、
そっと置かれたような、
そういう重さでした。

しばらくして、また、
足音が、はじまりました。
ペロンと、ゴロンが、ならんで歩いている。
さっきまでと、おなじように。
けれど、ペロンの、
おなかのしるしが、
ほんのすこしだけ、ちがって見えた気がしました。
気のせい、かもしれません。
「むすび」
朝市で、ブンタンが、
そっと教えてくれた、ことば。
「結び」
なにかと、なにかが、交わったしるし。
地球には、こういう、ことばがあるのです。
軽そうに見えて、ほんとうは、重い。
そういう、ことば。
わたしは、まだ、おぼえているところです。
ペロンと、ゴロンは、なにを、むすんだのでしょう。
わたしには、わかりません。
たぶん、わからなくて、いいのだと思います。
ふたりは、しゃべりません。
それでも、ちゃんと、伝わっている。
ふたりのあいだで。
ベジターブル星のあちらこちらで、
おなじようなことが、しずかに、起きているのです。
軽くない優しさは、
だれかが、ちゃんと、おぼえていてくれる。
空は、もう、すっかり藍色。
ひとつめの星が、ちいさく光りはじめて。
わたしは、ふたりのうしろを、
静かに歩いていました。

軽くない優しさを、ゆるりと、
お互いに磨いていけたら。
次回は、すこし辛いばしょのおはなしをします。
こんばんは、よりは少し前の時間に、また。
スイーキャン
