
「この出会いに、意味があるなら」〜何気ない出会いから始まる、少し不思議な恋の話〜【第6話】
偶然って、こんなに重なるものだろうか。
その日は、なんとなく外の空気が吸いたくて、近くの公園に足を運んでいた。
特に理由はない。
ただ、少しだけ一人でいたかった。
ベンチに腰を下ろして、ぼんやりと前を見る。
子どもの笑い声。
風に揺れる木の音。
穏やかなはずなのに、どこか落ち着かない。
「……また来ちゃった」
誰かに言うわけでもなく、小さく呟く。
あの散歩道のことが、頭から離れなかった。
その時だった。
「……あ」
聞き覚えのある声。
顔を上げると、少し離れたところに立っていたのは――
「……この前の」
思わず、そう口にする。
「あ、やっぱり」
男の人は少しだけ驚いたように笑った。
「こんなところで会うなんて」
「ほんとに……びっくりしました」
まさか、こんな形でまた会うなんて思ってもいなかった。
「よくここ来るんですか?」
男の人が、自然に隣のベンチを指差す。
「たまに、です」
「じゃあ俺も、たまたまですね」
軽く笑いながら、隣に腰を下ろす。
その距離が、少しだけ近く感じた。
少しの沈黙。
「この前はありがとうございました。コンビニの」
「あ、いえ……全然」
「助かりました」
会話は普通。
特におかしなところなんてない。
なのに――
「……あれ、もしかして」
男の人がふと思い出したように言う。
「○○会社の人ですよね?」
「え、はい……そうですけど」
「やっぱり。俺も同じ会社で」
思わず目を見開く。
「え、そうなんですか?」
「部署違うから、会ったことなかったと思いますけど」
一気に距離が縮まったような気がした。
「あと、こうき知ってます?」
その名前に、少しだけ驚く。
「知ってます。同期で……」
「やっぱり。あいつ、よく話してるんですよ」
それだけだった。
名前までは、出さなかった。
「世間って狭いですね」
うるみがそう言うと、
「ほんとに」
男の人は楽しそうに笑った。
その笑顔を見て、少しだけ思う。
――この人、こんなに話す人だったんだ。
会話は続く。
仕事のこと。
何気ない日常のこと。
話していて、楽しくないわけじゃない。
でも――
少しだけ、テンポが合わない。
悪い人じゃない。
むしろ、優しいし話しやすい。
それなのに。
「……あの」
ふと、男の人が口を開く。
「名前、聞いてもいいですか?」
一瞬、間が空いた。
「……うるみ、です」
「うるみさん」
小さく、確かめるように繰り返す。
「俺は、つよしです」
ようやく、名前を知る。
「……つよしさん」
口にしてみると、少しだけ不思議な感じがした。
「……うるみさん?」
「え?」
「ぼーっとしてました?」
「あ、すみません」
慌てて笑ってごまかす。
「大丈夫ですか?」
「はい、ちょっと考えごとを……」
「そっか」
つよしは特に気にする様子もなく、また話し始める。
その自然さに、少しだけ救われる。
しばらくして、立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ帰りますね」
「そっか。じゃあまた、どこかで」
「……はい」
軽く会釈をして、その場を離れる。
振り返ることはなかった。
歩きながら、さっきの会話を思い返す。
楽しかったはずなのに。
「……なんでだろ」
胸の奥に、またあの違和感が残る。
合わないわけじゃない。
でも、ぴったりでもない。
一方で――
「……普通に、楽しかったな」
ベンチに残ったつよしは、小さく呟いた。
やっと、ちゃんと話せた。
それだけで、少し満たされた気がした。
同じ時間を過ごしたはずなのに。
感じているものは、少しだけ違っていた。
――この出会いに、意味があるなら。