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怪談マンスリーコンテスト2026年8月期応募作品『ダメ出し』(お題:先祖に纏わる怖い話)

 これは学生の頃、美大生の知人から聞いた話だ。

 ある夏、彼は祖父の初盆のために帰省した。
 念願叶って入学した美大だったが、同級生や先輩の作品に触れるにつけ、自分の未熟さばかりが頭に纏まとわりついて仕方ない。
 そんな時期だったという。

 課題制作の人物画を持ち帰り、離れの自室にイーゼルを組んで、ただ眺めて過ごした。

 法事が終わり、線香の匂いの染みついた喪服を脱ぎ、寝間着に着替えてからも、気付けば眼は未完成のその絵に向かっていた。

 この物足りなさは何だろう。
 やはり、自分には才能がないのではないか。
 今、自分は無駄な時間を費やしているだけなのではないか……

 鬱々うつうつとして絵を眺め、眠りについたのは日付が変わってからだった。

 いくらも寝ないうちに目が覚めると、中途半端に閉め忘れていた遮光カーテンの隙間から月明かりが差し込んでいるのが見えた。

 仄かな光のなかに、何かが蠢いている。
 ……人?

 灰色の背を丸く屈めて、イーゼルの絵を覗き込んでいる。
 あの背中は……

 そのとき、吊るした喪服から漂う線香の香りの向こうに、ふっと煙草の匂いが鼻を掠めた気がした。

 祖父が吸っていた、煙草の匂い。

 「……祖父ちゃん?」
 呼びかけようとしたが、うまく声が出せず、身体も動かせなかった。

 影がゆっくりとこちらを振り向く。
 逆光で顔は見えなかったが、それは僅わずかに微笑んだような気がした。

 「わしと違ぅて、お前は絵が上手いのぉ」
 昔、祖父が何度もかけてくれた言葉を思い出した。

 「お前は絵ぇ描け、なぁ?」
 そう言って、事故で右腕を無くしていた祖父は、決まって左手で頭を撫でてくれたものだった。

 あぁ、祖父ちゃんが励ましに来てくれたんだ。
 そう思うと、温かい気持ちになって、すとんと眠りに落ちていった。

 翌朝、清々しい気持ちで目を覚ました彼は、イーゼルの前で息を呑んだ。

 絵の左上から右下へかけて、ナイフで薙ないだような裂け目が入っていた。

 「祖父ちゃん、なんで?」

 孫を励ましに現れた祖父の眼にも、この絵は稚拙ちせつに映ったのだろうか。

 「……ダメだし、か?」
 思わず苦笑しかけて、ふと背筋が冷えた。

 絵は、左上から右下へ切り裂かれている。
 祖父ちゃんは右腕を事故で失っていたのに。

 それでは、あの月明りの下にいたものは……
 いったい何だったのか。

 「あれ、フォンタナの『空間概念』みたいで、ちょっと良かったんだよね」
 そう言って、彼は笑った。


 これは竹書房の怪談マンスリーコンテスト、2026年8月期『お題:先祖』に応募しようと思って書いて、結局出さずに死蔵しちゃっていたものです。

 ところで、先日『第3回 角野栄子あたらしい童話大賞』にTALESから応募した『きぃちゃんの おんがえし』が、現代ファンタジー部門で日間ランキング41位になりました!

 他の創作物も投稿してみたいなぁ…と思いつつ、でも、童話をあげたアカウントで実話怪談やミステリをあげるのもなんだか節操がない気もして。
 どう棲み分けていこうかと考え中です……

 そもそも、童話を応募する筆名が「氷鯰」って、どうなん?


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