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『静削のルナ・ハヌトレむ』セノヌテ蚎䌐線「沈んだ空のセノヌテ」小説版

    雚季の熱垯枯湟郜垂は、濃厚な湿気ず海の匂いが混じった熱颚に包たれおいた。

     ひさしを叩く激しい雚音が、ギルドの喧隒をいくらか遠ざけおいる。石造りの広い酒堎を兌ねたギルドの掲瀺板の前で、ダオトル は倧きな身䜓を揺らし、満足げに錻を鳎らした。

    「おい、ルナ 芋ろよこれ。今月の掘り出し物だ。仕留めれば、報酬欄の銙蟛料は山分け、おたけに珟地の䞊等な也燥肉ず穀物たで぀いおくるぞ」

     圌が指さした矊皮玙には、高額の賞金ずずもに『セノヌテ倱螪事件』の文字が躍っおいる。

     密林の奥地にある巚倧な倩然泉――セノヌテ。そこで、倜な倜な旅人や調査隊が姿を消すのだずいう。転萜した圢跡はなく、争った跡もない。ただ、生還したわずかな者が錯乱状態で口にしたのは、

    「あそこは、本圓に綺麗だった」

     ずいううわ蚀だけだった。

     隣に立぀ ルナ・ハヌトレむ は、長槍を背に負ったたた、小さく眉をひそめた。

    「  たた食料目的なはれ」

    「旅っおのは飯が倧事なんだよ。第䞀、この雚季だぞ 也物ずスパむスの備蓄は呜綱だ」

     ダオトルは豪快に笑いながら、すでに受泚のサむンをすたせた曞面をカりンタヌぞ提出しおいる。ルナは圌を止めるこずはしなかった。ただ、掲瀺板に曞かれた「昌間は絶景」ずいう蚎䌐䟝頌には䌌぀かわしくない矎蟞麗句を、静かに芋぀めおいる。

    屋根を打぀雚の音。飛び亀う怒号。それらが壁に反射しお届くたでの時間。

    「  音の沈み方が、少し深すぎるなはれ」

    「はあ ただ珟地にも行っおねえぞ」

    「ええ。だからこそ、もう始たっおいるのかもしれないなはれよ」

     数日埌。二人は熱垯の密林の奥深くぞず足を螏み入れおいた。

     鬱蒌ず茂る朚々。苔むした叀代の石段遺跡。むせ返るような緑の匂いの䞭に、癜霧が立ち蟌めおいる。

     しかし、奥ぞ進むに぀れお、奇劙な倉化が起きおいた。

     密林特有の隒がしい虫の音や、獣の気配が、䞍自然なほどに消え倱せおいくのだ。ダオトルの重い足音すら、湿った苔に䞍気味に吞い蟌たれ、本来の反響を返しおこない。

     空気は穏やかで、おぞたしい魔物が朜む気配など埮塵もない。むしろ、神聖な芳光地のような矎しさすら挂っおいた。

     だが、進めば進むほど、ルナの芚える違和感は匷くなっおいく。

    「  深すぎるなはれ」

    「ん だから、ただ䜕も芋えちゃいねえっお」

    「ダオトル、あなたの足音が岩肌に吞い蟌たれる速床。颚が抜ける空気の抵抗感。遠くの氎音の䜍眮  すべおが、わたしの感芚ず少しず぀ズレおいるのよ」

     やがお開けた芖界の先に、それは唐突に姿を珟した。

     巚倧な倩然泉、セノヌテ。

     すり鉢状にぜっかりず開いた倧地の底には、吞い蟌たれそうなほど青く透き通った氎が満ちおいた。

     頭䞊の暹冠の隙間から垂盎の光が差し蟌み、波䞀぀ない静かな氎面を照らしおいる。

     圧倒的なたでの静寂ず矎しさ。

     誰もが「綺麗だった」ず語るのも無理はなかった。

     だが、真の異垞は倜の蚪れずずもに牙を剥いた。

     倪陜が沈み、星々が倜空に瞬き始めたずき――氎面に映る星の䜍眮が、頭䞊の空ず狂い始めたのだ。

     それだけではない。

     ふず足元を芋れば、氎鏡に映る星空がゆらりず歪み、たるで自分たちが空の䞊に立っおいるかのように、景色が䞊䞋逆転する錯芚に襲われる。

    「おい、ルナ  なんだかおかしくねえか」

     ダオトルの声が、奇劙な方角から響く。圌の姿は右斜め前にいるのに、声は氎底の奥深くから、くぐもっお返っおくるように聞こえた。

    「近いな」

     ダオトルがすぐ目の前にある岩壁ぞ手を䌞ばす。

     だが、その手は虚空を掻いた。

     岩壁は、実際には数十メヌトル先にあったのだ。

     距離感芚が狂う。音の方向がねじ曲がる。平衡感芚が氎に溶けおいく。

    「来るなはれ」

     ルナの鋭い声ず同時、セノヌテ最深郚から『それ』は静かに浮䞊した。

     《星喰いのアカトル》

     星光を乱反射する濡れた矜毛を纏う、領域掌握型幻獣。

     それは嚁圧感や暎力ではなく、ただ静かに戊堎党䜓を『掌握』しおいた。

    「おおおおおっ」

     ダオトルが斧を振りかぶり、氎面から突き出た岩を蹎っお跳躍する。

     だが、圌が着地したはずの堎所には䜕もなかった。

     ダオトルは無様に氎面ぞ叩き萜ずされそうになり、間䞀髪、ルナが槍の柄で圌の襟銖を匕っ掛けお岞ぞ匕き戻す。

    「くそっ、なんだこりゃ 敵がどこにいるか分からねえ」

    「芋えおいる䜍眮を信甚するな 螏み蟌んだ足堎も、聞こえる氎音も、党郚座暙がズレおるなはれ」

     氎面から無数の氎柱が䞊がり、芋えない刃ずなっお二人を襲う。

     ルナは槍で匟き萜ずすが、回避方向さえ錯芚させられ、肩口を浅く切り裂かれた。

     敵の胜力は、距離誀認、音方向改竄、氎面反射操䜜。

     近づきたくおも近づけず、逃げるこずすら叶わない。

     圧倒的な劣勢だった。

    どうする  

     ルナは息を吐きながら、感芚の海ぞ深く朜り蟌んだ。

     芖界はアテにならない。耳も隙されおいる。

     ならば、䞖界を構成する絶察的な理から逆算するしかない。

     ぜちゃん、ず氎滎が萜ちる

     波王が広がる呚期

     氎滎が萜ちおから氎面を叩くたでの間隔
     
     空気を震わせる音速 
     
     肌を撫でる颚の振動

     ルナの脳内で、無数の情報が高速で凊理されおいく

    敵本䜓じゃない。この掌握領域そのものが歊噚  なら、その誀認を削り萜ずすなはれ

     ルナの瞳に、鋭い知性の光が宿った。

    「ダオトル 䞉歩䞋がっお右 そこが本圓の陞地なはれ」

    「お、おう」

     指瀺通りに動いたダオトルの足が、硬い岩盀を捉える。

    「そこから四十五床、斜め䞊ぞ斧を投げお」

     ルナは長槍を構え、自身の呌吞を極限たで薄く、静かにした。

     《静削》

     それは、芳枬による䞖界の再定矩。

     圌女の圧倒的な挔算胜力が、歪められた座暙をひず぀ず぀正確に䞊曞きしおいく。

     ダオトルが攟った斧が空を切り裂き、䜕もないはずの空間で
    「ギャンッ」ず硬い火花を散らした。

     芋えない壁が砕ける音が響く。

    「音の反響、修正。光の屈折、修正  ようやく固定されたなはれ」

     パリンッ、ず甲高い音を立おお、空間を芆っおいた掌握領域が完党に厩壊した。

     その瞬間、䞖界に本来の静寂が戻った。

     䞍気味にねじ曲がっおいた氎音も、狂った星の瞬きも消え去る。

     絶察の盟を剥がされたアカトルは、初めお明確な動揺を芋せた

     矎しい矜毛を逆立お、埌ずさる。

     無敵の領域の䞻から、ただの怯える獣ぞず倉わった䞀瞬の『タメ』。

     ルナはその隙を決しお逃さない。

    「  そこね」

     長槍が静かに構えられる。

     䜙蚈な力みも、無駄な螏み蟌みもない。

     ただ、歪められおいた䞖界ぞ、正しい座暙を通し盎すように。

     ――《静削》。

     銀閃が、氎飛沫を瞫っお盎進する。

     狙うは、すべおが歪む『深床の䞭心』。

     次の瞬間

     アカトルの眉間を、癜銀の槍が正確に貫いおいた

     錓膜を劈くような絶叫がセノヌテに響き枡り、巚倧な䜓躯がゆっくりず最深郚の暗がりぞ沈んでいく。

     やがお氎面は完党に静止し、再び星空を正しく映し出した。

     蚎䌐完了。

     圧倒的な静寂が、本来の矎しさを取り戻しお二人のもずぞ戻っおきた。


     数日埌。

     雚季の枯町は、鮮やかな朝焌けの光に包たれおいた

     䟝頌を達成し、高額の報酬を受け取ったダオトルは、公玄通り倧量の銙蟛料ず食料を買い蟌み、ご機嫌な錻歌を歌いながら屋台の網でタコスを焌いおいる。

     ゞュヌゞュヌず肉の脂が焊げる匂いが、朮颚に乗っお挂っおきた。

     ルナは枯の朚箱に腰掛け、静かに海を芋぀めおいた

     あのセノヌテの矎しさず、底知れぬ狂気が、ただ網膜の裏にこびり぀いおいる。

    「  綺麗に芋える堎所ほど、深床を芋倱いやすいなはれ」

     ぜ぀りずこがれたルナの呟きに、ダオトルが焌きたおのタコスを差し出しながら笑った。

    「お前、たたに詩人みおぇなこず蚀うよな」

    「 なはれ✚」

     ルナは小さく埮笑み、タコスを受け取る。

    湯気

    朮颚

    そしお、静かで確かな珟実の朝が、そこにはあった

    『静削のルナ・ハヌトレむ』セノヌテ蚎䌐線「沈んだ空のセノヌテ」完

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