第2話 一晩とは永遠のことなのだ
「本当におじゃましてもいいんですか?」
心にもない台詞がするすると出てくる。そう、うーさんは今、調子がいい。
足取りも軽く、おーつか夫妻についていった先は、街の中心部にほど近いマンションだった。
(マジか!いい!立地最高!)
「さ、どうぞ。あがってあがって」
「すいません、じゃ遠慮なく」
玄関を入るとその先にリビング、ほかに部屋がふたつある。なるほど、本当に二人住まいのようだ。これならば、問題なかろう。さてどの部屋に住もうか、どんな暮らしにしようか、夢を膨らませるうーさんに、女の方がビールを差し出す。ほどなくつまみも出てくる。
「ごめんね、今こんなものしかなくって。ピザでもとろうか?」
「いやいや、そんな気を使っていただかなくて大丈夫ですよ。お寿司は好きですけど」
「そうなんだ!じゃあお寿司にしよう」
「なんかすいません……お、奥さん」
冷えたビールにお寿司、その後には日本酒まで。至れり尽くせりのもてなしに感無量のうーさんである。いい、この家はすごくいい。うさぎの神様、ありがとう。
うーさんは上機嫌すぎて笑いが止まらなくなっていた。
(普段の行いが出るんだよ、こーゆーとこに!見たか!この野郎!)
この日は三人でよく飲んでよく笑った。おーつか夫妻はやはり本当に人のいい(騙されやすそうな)夫婦だ。
完全にいい気分で酔ったうーさんは、夜の風を浴びようと窓を開ける。するとそこには思ったよりも広いベランダがあったのだ。
「あ、ここにしよう」
(危なっ、心の声が出ちゃったよ)
明日はホームセンターに行こう。簡易ベッドと低反発まくら、テントもいるかな。懐中電灯と小さい冷蔵庫は必ず欲しいところだ。あとは奥さんにうまいこと言ってお金を出させてと。よし、計画は順調だ。家があるっていいもんだな。しみじみと思ううーさんにベランダがほほ笑んでくれた気がした。
「本当におーつかさんと奥さんは親切な方々ですね。こんな優しいご夫婦に会ったことないですよ。感動してしまいました」
「そんなことないよ、全然、ね?」
「そうそう、普通だよ」
よいしょはなるべくしておこう。褒めるところはたくさん見つけておこう(思ってなくても)。できる限りのことをすれば、この計画はうまくいくし、うーさんの生活は安泰になる。もう少し、もう少しだ。
宴もたけなわの頃。
「そういえばうさぎさん、今晩、ちゃんと泊まっていってね?お布団敷くね」
「いやいや、お構いなく。どこでも、なんならベランダでも寝れますんで」

「ベランダでいいの?それじゃ外とおんなじだよー!面白いなーうさぎさんは」
奥さんがにこにこと笑う。
「いやいや、布団さえ貸していただければ大丈夫です。お部屋を使うなんて申し訳なくて」
「そう?うさぎさんの方こそ、気を使いすぎだよ」
ほほ笑み合うおーつか夫妻。恐縮している風を装い、心でほくそ笑むうーさん。
(いい夫婦だ、ある意味。末永くよろしくだよー)
ふかふかのお布団を受け取り、うーさんは改まった顔でこう言った。
「本当にありがとうございました。では、しばらくお世話になります」
「……しばらく?」
丁寧に頭を下げ、布団を持ってベランダへと向かううーさん。背中で何を語ったのか、それはうーさんにもわからない。
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