
エッセイ:目を見ること
今日は街へ出かけた。
28度の空気は、ジメッとした梅雨を思わせる。
友人とご飯を食べて、
ひょんな事から本屋へ寄った。
この本屋は、広くて品揃えが良く見える。
最近の新刊から、少しニッチな専門書や、雑誌、画集が並ぶ。深呼吸をすれば本の香りがする。
また、雑貨も多かった。
誕生日の音楽の流れるカードや、文房具、
動物の置物、日記、それから栞。
私は、つい集めてしまうものがある。
それは栞である。その存在が愛おしいと思う。
私と本を繋ぎ止めていてくれる、夢みたいな道具である。本屋や、旅行先で気に入ったのがあれば迷わず買ってしまう。私の家には10枚程の栞が静かに出番を待っている。
そして今日、とある栞と目が合った。
緑色で細長く、トゲあり、ギョロっとした小さな目。よく分からないサボテンの栞。
「か、かわいい〜!!!」と思わず声が出た。
きっと話す時より3トーンほど上がっていたろう。
そしてまたその隣、
ふっくらとした黄色いしっぽと、じっとりとした目と、とんがった耳。狐である。「可愛すぎる…」また声が出た。尊すぎると声が低くなることもある。
やはり本屋は好きだ。
いつだって、ときめきを思い出させてくれる。
私は小気味のいい足取りで、新刊の単行本の棚へと向かう。本は分厚ければ分厚いほどいい。2、3センチの背表紙に思わずニヤリとしてしまう。
運命を待つ幼子のように、私は惹かれる表紙を探し歩く。そして、ピタリと足を止めた。
見たことない表紙に、見たことある作家の名前。
新刊である。脳は最短距離の電気信号を発し、私は本と栞2枚を胸に抱いてレジに向かった。
前に3人並んでいても、少しも気にならない。
だって私はこの本が出るのに1年近く待っていたから。むしろルンルンである。
「次の方どうぞ」と丁寧な案内の声。
ショートの店員さんの向かいに立って、本と栞を2枚置いて「お願いします」と言う。慣れた手つきで、茶色のブックカバーが本にかけられていく。鮮やかな表紙が隠される様は、まるで結婚式の白無垢のようだと思う。私はそれを眺めながら、彼女の胸元に目がいった。
ブローチが2個控えめに飾られている。猫だろうか。私は思わず「素敵ですね」と言いたくなったが飲み込んだ。変な人だと思われたくない。
いや、でも私は今どうしようもなく「素敵ですね」と言いたい。そしてまた、ときめいたばかりでテンションが上がっている。
速度オーバーにならないようにかけていたアクセルを、私は踏み込んで「そのブローチ素敵ですね、手作りですか?」と言ってみた。
品物を袋に入れようとしていたプロの顔が、ふわりと明るくなって「手作り作家さんの物なんです…」と少し照れたように教えてくれた。そして続けて「栞可愛いですね!」とも。「一目惚れしちゃったんです笑」と笑いながら丁寧に包まれた紙袋を受け取ってレジを出た。
素敵なものを素敵だと思うこと、そしてまたそれを伝えることは、ただの他人から、私たちを人と人にしてくれる気がする。
私は、このために酸いも甘いも見つめるのだ。