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【エッセイ】 笑顔

    無性にポテトが食べたい。だけど外には出たくない。

    今から日焼け止めを塗って、着替えて、財布を持って、靴紐を結んで、と。頭の中で順序を組み立てれば、自然とソファに腰が沈む。ファストフードってファストだからいいんでしょう?自分では作れないけれど、今、なんだかとっても食べたいの!

    Uber eatsは本当に便利である。病気でもない、ただの私の怠惰のために、安い言い訳ごと全てを包んでお腹いっぱいにしてくれるのだから。隔週ペースであの酸化した油の風味を思い出してしまう私は、すっかりその虜である。

    配達員の方の気遣いには、たびたび驚かされる。インターフォンのモニター越しに笑顔で深々とお辞儀をしてくれる人。ものの10分で到着したのにお待たせしましたと言ってくれる人。玄関先に置き配を頼めば、品物が直接地面につかないよう綺麗な紙を敷いてくれる人。

    本当は伝えたい。笑顔で、ありがとうございますと。彼らの誠意に反応したい。だけど私は今日も、無言でオートロックを解錠した。

    ある時、どこかで失くした免許証が、後日自宅のポストにぽろんと入れられていた。
    ダイヤルを回してポストを開けると見えた、水道料金の払込表、の下からはみ出る馴染みの証明写真。一瞬の安堵を覆うように、背中がひんやり、体が動かなくなる。誰かが届けてくれた、、のか?

    都会の一人暮らし、善意も悪意も、同じすり鉢に入れられ擂すられて均されている。

    女に生まれたことを恨んだことは一度もないが、確かにこんな場面では、男でいられた方が勝手が良さそうだ。

    だから私のUber eatsは男の名前に変えていて、眩しい笑顔の配達員さんにも、無愛想な男のふりして無言を貫く。インターフォンのモニターが、直視できない。

    本当は、気持ちのいい配達をしてくれた彼らと、玄関先で無駄に天気の話などをしながら、次も気をつけて、なんて言って見送りたいのだけど。

    彼らはどんな表情をしているだろうか。

    息を切らして自転車で坂を登り、目的地の我が家に辿り着く。部屋番号を押して、笑顔を整え挨拶をするが、返事はない。扉が開く機械音だけが響く静かなエントランスで、ゆっくりと口角を下げていく。

    空虚な後味だろうか。それとももう、よくあることだと気に留めることすらないのだろうか。

    アプリから配達完了の通知が届き、彼らは次の場所へと車輪を漕ぐ。

    行き届いた至便の網に漉され、都会はこうして回っていくのだろう。

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