
夢から醒めて⑩
■雫sideストーリー
『————ずっと、話してみたいと思っていました。』
彼女は、隣の部署にいて、ふと視線を向ければ姿を確認できることがある。
親しみやすい性格なのか、他部署の人と話している姿も多く見かけた。
ブラウスやスカート姿のキレイ目なファッションが似合っていて、女子アナのようと表現する人もいるらしい。
でも、話すと気さくな感じが垣間見えて、それが周りを引き付けているのだと思う。
現にシステム部の先輩も彼女と話すのを楽しみにしている。
まだ直接話していない僕も、“話題の人”としてどんな人なのか気になっていた。
ある日、仕事で彼女と話す機会ができた。
ただの業務連絡であったけど、その時の若手ならではの俺のちょっとしたミスを、彼女は笑って受け流してくれた。「大丈夫。」と。
それから、時々彼女のことが自然に目についた。
はじめは、ただその程度だった。
彼女を見ていていると、実は感情がよく顔に出ていることに気が付いた。
時々ミルクティーを両手で持って笑みを浮かべている姿も見かけた。
お気に入りなのかもしれない。
みんなは気づいているかわからないけれど、存外わかりやすい人なのかもしれない。
ただ時々、つくろった表情や窮屈そうな顔が見てとれることがあって、その違和感がいつも引っ掛かっていた。
小さなことに気づいて、他人のことを褒めたり伝えたりできること、一人ひとりに丁寧に接する七瀬の姿勢を人として尊敬していた。だからこっそり見ていた。俺はきっとあんな風にはできないから。
彼女は強い人だとも思う。努力家で責任感も強い人。
でも、気合だけで傷ついている自分を無理やり立たせて、痛みを引きずりながら歩く人のような気がした。それはひどくしんどいことだなと思う。
「傷を早く消す方向」「傷を隠す方向」だけに向かないでほしいな。
傷ついて弱った自分に、鞭を打って引きずっているように思えて、心配だった。
たまには立ち止まっていいし、寄り道をしてもいい。
何もかも先回りして、抱え込んで、一人で『大丈夫』の鎧を着続ける必要はないと思う。
揺れていいし、揺れながらも戻っていく途中でいい。
どうかこれからの七瀬さんが、七瀬さん自身の気持ちを大切にして笑っていられますように。