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【連載小説】第11話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』

    〜前回からの続き〜
    一杯だけ酒を酌み交わしたチョウマと吾作。
    チョウマはイオリを迎えに夜半、山を下りると云った。吾作はそれを何ら疑うこともなかった。
    家を出るチョウマとそれを見送る吾作。
    あとに残って留守番をする吾作は、チョウマとイオリ夫婦に何を思うのか。


    田舎の郷④ 噂


    長閑のどかな春の日が続く郷
    そんな郷に とある噂を伝え聞く
    幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩




     空からの湯呑を床に置くチョウマ。
     そして鉈なたを取り出して帯の背側に差し込んだ。

    「ほんっとにすまんね。客は誰も来ないって。
     まぁ、ゆっくりじっくりやってて」
     身支度を整えて草鞋わらじを履いて吾作に云った。

    「んだか。判った、任せてケロ」
     振り返り吾作と頷き合うと扉を開き
    「ふぅぅ」
     と一息ついた。
    「気をつけてな」
    「ん。大丈夫」
     そして表に出て行ったチョウマ。
    「気をつけてなぁ!」

     扉を閉めたチョウマからの返事は特にない。 が、吾作は心配していない。

     タタタッと駆け出す足音が聞こえたのもつかの間、直ぐに静かになった。

     吾作は獨酒のおかわりを注いで沢庵を手に取り一口齧った。
     おかわりを呑んで、ついボヤく。

    「仲がいい夫婦だなやぁ。
     チョウマさんとイオリさん。
     羨ましいべさぁ。
     あゝ、オラも嫁っこさ欲しいぃ」

     家の中はまだまだ肌寒い。
     薪をくべると囲炉裏の火が強く暖かくなる。

     悶絶しながら独りでおかわりを呑む吾作は、チョウマとイオリの仲の良さに当てられた気がして少し嫉妬した。

     囲炉裏の火はそんな気持ちに寄り添うようで、ぬくぬくと身に沁みる。


     長閑な郷の村だったが
     いつの頃からか 不穏な噂を
     耳にするようになったそうな

     昼ひなかに釣り人は
     鴉の群むれと影を見たと云い
     夜ふけにマタギは
     燃える牡鹿を見たと云う

     それまで平和で長閑だった村に
     化け物が出ると 噂になった

     慌てふためく村人を
     村長は とりあえず諌いさめた
     そしてそれも ひとときのこと

     人の噂も何とやら
     幾歳月が経ったなら
     村はまた 平和で長閑な
     村のままとなったそうな


    つづく