
【連載小説】第47話『真昼に潜む影と真夜中に猛る獣の物語』
〜前回の続きから〜
聖クィシン皇国からの刺客、即ち屍人兵、妖術師ク・ザメらを退けたイオリと黄金の災厄。
首だけの将軍ビ・アクーの傍らに立ち、黙って見下ろしている。
最期の悪あがきとて、無慙無愧(むざんむき)なる捨て科白を喚くその姿を、イオリと黄金の災厄はただ蔑するのみ。
ビ・アクーと魔導汽船を滅し、二人の長い戦いは全てを終えるのだった。
※暴力的・残酷な描写を含みます。
心身の状態に配慮してお読み下さい。
魔導汽船⑧ ビ・アクー
決着の構図 最期に見せる断末魔
不埒千万なる狼藉者を断罪せんとす
幻想と現実が交わる祈りと魂の叙事詩
バンッ! ドドォ――ン!
火薬にでも引火したのだろう、激しい爆発が起こった。
魔導汽船は大火に呑まれ火柱がそこかしこから噴き出して、辛うじて波間に漂っている有り様である。
靄も晴れた夜空に火の粉とともに、もくもくと煙が上がっている。
黄金の災厄は艦橋や煙突、壁や柱など手当たり次第に破壊して回った。
「グルルル」
と唸ると、ゆったりした歩みでイオリに駆け寄った。
イオリは甲板に転がるビ・アクーの首の傍らに立ち、それをジッと冷たい目で見下ろしている。
側に立つ黄金の災厄も紅蓮の焔を纏いつつ同じように首を見つめている。

ビ・アクーは薄い唇を噛んで口惜しそうに云った。
「貴様ら、このままで済むと思うなよ?」
黄金の災厄が右の前足をゆっくりと持ち上げて、ビ・アクーの首を踏みつける。
赤く灼けた黒鉄の蹄で踏んだところから焦げ臭いにおいと白い煙が上がった。
「き、貴様ら、ごの゙ままでぇええ!!」
なおも何か云おうとしたのを、黄金の災厄が赦さなかった。
踏みつける前足に力を込めて、徐々にそれは力強くなる。蠟燭の蠟が垂れるように、焔が踏んでいる前足を伝い下りた。
やがて焔は完全に首を呑み込み、黄金の災厄は構うことなく、踏みつける前足の力をグイグイと増した。
「き、き゚……ザマ、らァ……!」
――そして。
ビ・アクーの首はブチュと潰れてそれが最期となった。
見届けたイオリは、
「チョウマ! この船を沈めろ!」
「ゴルアアァ――!!」
その言葉を合図に黄金の災厄は再び暴れまわる。
猛り狂った獣は破壊の限りを尽くす。
紅蓮の焔は魔導汽船を駆け巡った。
燃え広がった焔が魔導汽船を包み込み、気泡を含んだ船材はパンッパンッと破裂音を繰り返す。
そしてイオリは玉梓の歳寒の松柏で自らを聖なる光で護ると、甲板から海に飛び込んだ。
海神の面を焔の舌がメラメラと舞い踊る。
暗い海が昼間のように煌々と照らされていた。
バキッバキッバキッ!
竜骨に亀裂が入ると燃え続ける船は真ん中から二つに折れて、暗い海の底へと沈んだ。
残骸は澱みに浮かぶ泡沫の如く消えていった。
こうして聖クィシン皇国の思惑はここに潰えた。
つづく
▶次回、第48話『郷への帰り道』、お楽しみに。