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お母さんより

    孫は女の子だ。
    孫が2歳になった春。
     
    妊娠していた娘の出産日が、近づいてきた。
    第2子が産まれる。
     
     
    娘は1週間ほど入院する予定だ。
    その間、孫は母親のいない家で過ごすことになる。
     
    孫と娘はいつも一緒にすごしていた。
    孫が「おかあさん」
    と呼ぶと
    「はーい」
    と、娘は必ず答えていた。
     
     

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    母親のいない日々が始まった。
    孫は、夜になると
    「お母さんは?」
    と泣き出した。
     
    「赤ちゃんが産まれるとよ」
    と言うと聞き分けるが、
    しばらくすると、また泣き出した。
     
     
    父親が、夜遅くまで「だっこ、ゆらゆら」をしてやっていた。
     
    昼間は、私と妻が遊び相手になる。
    孫の好きなおやつもたくさん用意した。
    おもちゃも集めた。
    ビデオも見せた。
    お絵描きもした、抱っこして昼寝もさせた。
     
    それでも、ふと思い出したように孫は「お母さんは?」
    と泣き出す。
    「赤ちゃんが産まれたら、帰ってこらすとよ(帰ってくるよ)」
    「そう、帰ってこらす、帰ってこらす」
    と、妻と私は、そのたびに同じことを言って孫をあやした。
     
    孫は、人差し指で涙を拭きながら小さくうなずくが、
    しばらくすると、再び思い出しては、また泣き出す。
     
    数日間、それの繰り返しだった。
     
    私は、孫を近くの公園へ連れ出した。
    孫の好きな滑り台がある。
     
    広い芝生の公園に孫と二人っきり。
    鳥の声が高く聴こえる。
     
    孫が、公園のフェンス沿いに咲く小さな白い花を見つけた。
    孫は、細い茎をそっと揺らしながら、
    花に話しかけた。
     
     

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    「こんにちは、お花さん、
    お名前はなんていうの」
     
    「しろちゃんよ。どこで遊んだの」
     
    「すべりだいよ……」
     
    孫が、一人二役でしゃべり始めた。
    孫の一人物語遊びは、いつもしばらくは続く。
     
    私は、そばで終わるまで待つことにした。
     
     
     
    孫に「お母さんは?」と駄々をこねられると、
    抱っこも、おやつも、
    思ったほど効き目がなかった。
     
    「お母さんは、赤ちゃんを産むために病院にいっとらすとよ(行っているんだよ)」とか
    「いい子にしていようね」
    「がまんできるもんね」
    などという説得や励ましも、効き目がない。
     
    どうすればよかったのか。
    どんな声かけがよかったのか。
     
    そうか。
    「お母さんに会いたいとやねえ(会いたいんだね)」
    と、孫の気持ちを代弁するだけで良かったのではないか。
     
     
     

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    娘は、孫あてに手紙を何通か残していた。
    それを毎日、夜になったら順番に渡してほしいと
    父親に頼んでおいたらしい。
     
     
    孫は、隠してあった「お手紙」を全部見つけてしまった。
     
    孫は、いつも母親といっしょに寝ていた部屋にいた。
    ドアが少し空いていた。
     
    隙間から部屋の中をそっと見た。
    部屋の中は薄暗い。
     
    孫はベッドの上で手紙を前にして、向こうを向いて座っていた。
    ちょこんと正座をしている。
     
    孫は、ひとつずつ手紙を開けていた。
     
    まだ文字が読めないので、絵だけの手紙だ。
    孫は、母からの手紙を両手で広げると、声に出して読み始めた。
     
     
    「こんどの、
    にちようびに、
    いっしょに、こうえんに、
    いきましょう、
    おかあさんより」
     
     
     
    「あかちゃんと、
    おとうさんと、うさぎさんと、
    くまさんと、いっしょに、
    どうぶつえんに、いきましょう、
    おかあさんより」
     
     

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    弟が産まれた。

    数日して、面会が許された。
     


    孫は、父親に連れられて病院へ行った。

    胸に母親への返事の手紙を抱いて。


















     
     
    ながた ふきろう 71歳。 おもわず、笑いがこぼれるような話が、いいなあ。 涙がとまらない話も、いいなあ。 日常の小さな感動を求めて、実話を書いています。

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