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(ショートショート)ゆっくりと

    のぞみちゃん

     ゆっくりと、私は歩き出した。

     昨日までの「学生」という守られた肩書きを脱ぎ捨て、今日からは「社会人」という、まだ少しサイズの合わない新しいスーツを纏まとって。

     正直に言えば、この先に広がる世界が怖くてたまらない。

     一歩足を踏み出せば、そこには甘い誘惑が至る所に潜んでいて、自分を見失いそうになる瞬間があるだろう。

     思い描いた理想とは裏腹に、分厚い壁にぶち当たり、膝をついて立ち直れないほど打ちのめされる夜も、きっと来る。

     けれど、そんな時こそ、私は一旦立ちどまるのだ。

     重たい頭を上げて、どこまでも高く広がる空を見上げ、深く、深く、肺がいっぱいになるまで呼吸を整える。

     世界は、決して悪意だけで満ちているわけではない。

     理不尽な誰かがいる一方で、不器用な優しさを差し出してくれる「いい人」も、この街のどこかに必ずいるはずだ。

     社会に出ること。

     それは単に「働く」ということではなく、不確かな世界の中で自分の足で立ち、誰かと関わりながら生きていくために必要な、避けては通れない冒険なのだ。

     不安も、恐怖も、トランクの底に詰め込んで。

     私は再び、地面をしっかりと踏みしめ、新しい季節の中へと歩みを進めた。


    Fin。


    ※この小説はフィクションです。
    登場するモノや人物は存在しません。



    ↑この企画に参加しました。
    ありがとうございました。

     
     
     
    40代女性です。 難病患ってます。 業者、怪しい方、エロ、官能小説書いてる方、競艇、競馬系からのフォロー申請やスキお断り。 記事書いてない方からのフォロー申請もお断り。 感想文、エンタメ記事(詳しくない)読みません。 よろしくお願いいたします。