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続・夕日が見たくて-第九話:縦縞が横縞

    ​前々から気になっているパーツがあった。
    しかし、定価は税込33,000円。パーツの名前は「パフォーマンスダンパー」という。

    ​俺の07に、ハンドリングの不満はない。だが、これを付ければ本来の「ヤマハ・ハンドリング」が味わえるという噂だ。昔から「パワーのホンダ」対「ハンドリングのヤマハ」という格言もある。

    09と同じように走るには、このヤマハらしさを追求すべきだろう。奴の09に試乗した限りでは、ハンドリングは07の方が上だと感じていたが、さらなる高みがあるのなら話は別だ。
    ​要は車体のよじれや振動を吸収するパーツらしい。

    口コミによれば、振動が減り、路面のギャップをいなしてくれるという。大きなバイクに乗り換えたような、どっしりした安定感。入れて損はないという声が大半だ。

    ​しかし、ネットのインプレ記事はどれも「振動激減」「安定感アップ」という結論ばかり。コーナーでの安定性や、倒し込みの重さ、一本橋のような低速域での挙動など、俺が知りたい核心にはどこにも触れていない。
    結局、自分の体で試してみるしかないのだ。

    ​ある日、Amazonで新品が半額で売られているのを見つけた。二度見した。
    部品番号を何度も確認する。間違いなく本物だ。とは言え、半額でも16,500円は安くはない。売り切れる恐怖と戦いながら、貧乏性の俺は四、五日悩んだ。

    結局、貯めていたポイントをすべてAmazonギフト券に換え、出し入れを5,000円に抑えることで自分を納得させた。
    ​ポチッとな。
    ……また、やっちまった。

    ​届いたブツを眺める。
    YSPに頼むと工賃が高いらしい。工程はブラケットをフレームに共締めしてダンパーを固定するだけだ。説明書付きの1/1スケール・プラモデル。自分でやることにした。

    作業は迷うことなく完了した。出来上がりはメカニカルで格好いい。いかにも「やりそう」な見た目だ。

    期待が大きいと効果を薄く感じるかもしれないが、今はただ、早く試したくて仕方がなかった。

    ​翌日は、ガッツリ雨だった。玄関から車庫まででびしょ濡れになるほどの土砂降りだ。

    それでも、どうしても峠での具合を確かめたくて、カッパを着てバイクを引き出した。奴と走るようになってから、雨で乗るハードルがバカみたいに低くなっている。
    新調したワークマンのカッパが、ここで役立つとは思わなかった。

    ​R6から左折し、風神山の道を抜ける。
    普通に走るだけで、確かに安定感は増していた。手に伝わる振動が丸くなり、路面の凹凸を車体がしなやかに吸収しているのがわかる。

    ​市街地を抜け、諏訪林道に出る。
    雨の峠に入る前に、一旦、気合を入れ直した。

    滑る路面、右手の指先に神経を集中させる。一度強めに握り、手応えを確認してから緩める。旋回は滑りを意識し、リーンウィズよりわずかに体を外に構える。スロットルはパーシャルを保ち、挙動を乱さないよう細心の注意を払う。
    ​遠心力の弱い旋回を抜け、立ち上がる。
    フィーリングは、いつもと変わらない。

    ​……結果から言おう。
    現実の世界に魔法なんて存在しない。ハリー・ポッターは、所詮作り話なのだ。

    ​直線であれほど感じた安定感は、コーナリングでは何もない。

    雨で速度が遅かったせいもあるだろうが、曲がりにくさも、立ち上がりの開けやすさも、特筆すべき変化はない。ネガティブなわけではなく、ただ「何も感じない」のだ。

    俺が鈍いだけか、あるいは特記するような劇的な変化は起きないのか。
    ​せっかく土砂降りの中を飛び出してきたのに、何も掴めなかった。

    車庫に戻り、濡れたカッパを干しながら、目標とする「09をちぎる計画」を見つめ直す。

    ​今回は、雨だった。次は晴れた日に、もう一度このダンパーの真価を確かめに行こう。

    今日は夕日を見られなかったが、近い将来、この相棒に最高の夕日を見せてやるつもりだ。

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