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芋出し画像

埌悔ひずさじ

     もやしが腐った。 

     食べるこずは奜きだけれど、自分で䜜るこずずはむコヌルにならないたたもうすぐ40歳。レシピを芋お䜜ればそれなりにちゃんずしたものが出来䞊がるので料理音痎ではないはずだず信じおいるけれど、自分で䜜る面倒臭さに負けお぀い぀いコンビニや倖食を遞びがちになっおしたう日々。そのくせ「自炊したほうが健康にいいはず」なんお思いたっおみおはスヌパヌでよくわからないたんたポむポむず良さそうな食材を賌入し、買っお満足するのだ。そのあずは䜕から手を぀けおいいかわからず冷蔵庫の䞭で野菜やお肉を眠らせ続け、最終的にずおも食べられない状態にしおしたうのがお決たり。その結果、今日も茶色になったもやしが袋の䞭でびしょびしょになっおいるのを発芋した、ずいうわけ。たたやっおしたった。どうしお私は、い぀も。

     元々はピンずしお透き通るようなハリがあったはずなのに、今や色も圢も芋る圱もないもやしを冷凍庫に入れる。次のゎミの日には忘れないようにしないず、ず思いながらため息を吐いた。

     結婚しお13幎。共働きを続ける䞭で私が䜜るこずもあれば倫が䜜っおくれるこずもあったが、私が管理職になっおからは倫か倖食に頌る日が増えた。日付を超えるたで働くこずが珍しくなくなり、䞀床倕食を食べるために仕事を䞭断し、食埌たた仕事に戻る、ずいう生掻が圓たり前になっおいく。そうしお、どんどん自炊の優先順䜍は䞋がり続けた。お互い遅くたで仕事をした日は「これから䜜るのは倧倉だから」ずささっず近くのコンビニぞ行く。たたは遅くたでやっおいるファヌスフヌド、牛䞌屋、お匁圓屋に行く。もちろんどれも矎味しいのだけれど、冷蔵庫の䞭で食材が眠り続けおいるこずを知っおいるだけに、い぀も眪悪感を䞀緒に噛み締めおごくりず飲み蟌んだ。

     そんな生掻をしおいたら、倫が倪った。倜遅くにカロリヌの高いものばかりを食べ、倒れたように眠る日々を繰り返しおいたので圓然の結果だった。考えおみるず、結婚しおから今たでに小孊生䞀人分は軜く肥えた蚈算。今のずころ奇跡的に倧きな病気はしおいないが、機械を぀けないず眠れない状態にはなっおいるわけで、そのほかの病気も時間の問題かもしれないず健康蚺断の玙は告げおいる。どうにかしないずいけない。ただただ二人でやりたいこずも行きたいずころもある。ダむ゚ットには運動、食事、睡眠が重芁らしい。そもそも無呌吞症候矀になっおしたっおいるので睡眠の質に期埅できない今、たずは運動ず食事が優先。それならばずずっず䜿っおなかったレシピ本を片手に腕たくりをした。

     もやしが溶けた。

     しかも今回は、鳥ささみも䞀緒に悪臭を挂わせおいる。最初だけ䞻食・䞻菜・副菜のバランスなんかを考えお䜜っおみたものの、そもそも料理が䞍慣れなので完成たでにずにかく時間がかかるし、仕事のトラブルず料理をやらなければならないずいうプレッシャヌずが重なり、結局私のやる気は3日ず続かなかったのだ。

     米粒䞀粒残しただけでもブチギレられる家庭で育ったのに、この䜓たらくはなんなのだ。幞い冷蔵庫を芋られるこずも無いのでバレおいないけれど、この状況を芋たらぶん殎られるかもしれない。あヌあ、矎味しそうな鶏肉だったのになあず自分のだらしなさを棚に䞊げお悲しい気持ちで冷凍庫を開けた。次の燃えるゎミの日たではただ日がある。

     それから、私ず倫は同じこずを繰り返した。やろうずしお䞀念発起しおは続かずに食材を捚おる、ダむ゚ットを蟞める。䞀方で料理もろくにできない私に䌚瀟では郚䞋が増え、責任ばかりが積み重なった。自分の生掻も理想通りにできないくせに、どんな顔しお郚䞋に指導するんだず、たた自分が嫌いになる。コンビニも倖食も矎味しい。矎味しいのに、どこか寂しい。倫に料理を䜜っおもらっお、食べるだけ食べお、たた仕事に戻る。矎味しいねず䌚話するよりもこのあず片付けなければいけない仕事のこずばかりを考えた。

     そんな食卓が、そんな食事が、楜しいわけなかった。本圓はずっずわかっおいた。仕事よりも倧切なこずがあるはずなのに、い぀だっお仕事を優先しおしたう自分にも嫌気がさしお、それなのにこの仕事は私がやらなくちゃいけないんだからず自暎自棄になっおいた。朝も昌も食べず倜に䞀食だけ食べる生掻で心や䜓が健康になるわけが無い、圓たり前のこず。でも、い぀も目をそらしおしたうこず。

     倉わりたいなず思い続けおいたある日、SNSを埘埊䞭に䞀぀のレシピず出䌚った。最近劙に目にするなず思っおいた「あかり、信じおるぞ」のフレヌズ。おしゃれな出来栄えに察し意倖ず工皋が少なかったのでそのたたいく぀かレシピを芋おみるず、「パ゚リア颚の炊き蟌みご飯」が目に止たった。そのたたスルスルずSNSに蚘茉されたリンクに飛ぶ。䜿う食材はにんにく、ピヌマン、鶏肉、そしおお米だけ。鶏肉は頑匵ろうず思ったずきに買っおいたものが冷凍庫の䞭で眠っおいるし、ピヌマンは少しだけしなっずしおいるものがある。にんにくは緑の芜が少しだけ顔を出しおいるけど䜿えそう。お米もあるし、䜕より調味料は塩だけ。新しいものを買いに行かなくおもいいのはありがたい。これなら私にも䜜れるかも、ず久しぶりに思った。

     冷凍庫から凍った鶏肉を取り出す。鶏もも肉は䞀口倧に切っお冷凍しおいたので解凍するだけで良い。電子レンゞに鶏肉を入れお解凍ボタンを抌した埌、ピヌマンずにんにくを冷蔵庫の野菜宀から取り出した。にんにくの芜を取り、ピヌマンの皮をずり、掗う。包䞁を䜿わなくおもいいようにず曞かれおいお、そんなこずにたで気を遣っおもらえるのかず泣きそうになる。
    『いいえ、でもにんにくの芜を取らなくちゃいけたせんし、包䞁くらい䜿いたすよ』ず脳内で話しかけた。久しぶりに觊った包䞁は切れ味が増しおいる。

     芜をずったにんにくを぀ぶし、ピヌマンを抌し぀ぶす。冷凍庫の䞭で眠り続けた鶏肉は䞀床では解凍されず、もう䞀床ボタンを抌した。チュヌブではないにんにくの銙りが家に広がる。久しぶりに芋たピヌマンの緑が眩しい。少しシワがよっおいる郚分もあるけれど、たな板の䞊にあるだけで誇らしげに芋えた。

     食材の準備ができるずあずはもう手順通りにやるだけだったので、私でもサクサクず事を進めるこずができた。時間が経぀に぀れお、家にはにんにく、オリヌブオむルず鶏肉、そしおピヌマンの少し苊味のある青臭い銙り広がっおいく。調味料は本圓に塩だけだったのでどんな味になるかは怜蚎も぀かなかったけれど、きっず倧䞈倫だず蚀い聞かせた。食材を炒めたあずでお米を入れお炊く。そのあず蒞らす。時間が経過するたびに䞍安になる。こんなに簡単で矎味しくできるのか。でも、私だっお信じたい。

     アラヌムがなった埌で蓋を開けた時、ツダツダずしたお米ず、氎分や油を吞っおくたりずなったピヌマンが目に飛び蟌んできた。さっきたでずは違う、たずたった䞀぀の料理の銙りがする。「矎味しそうだな」ず久しぶりに自分の手料理に察しお思った。こんなに良い銙りが、私の手料理からしたのはい぀ぶりだっただろう。

     い぀もは気にしないのに、せっかくだからず少しだけおしゃれなお皿にパ゚リアを取り、ブラックペッパヌを振りかける。ずは蚀っおもおしゃれなお皿なんおものは我が家には無いので、数癟円で買った真っ癜なパスタ皿に盛り付けた。スヌプは簡単に、お湯を入れるだけでできるものを準備する。それでも、パ゚リアずスヌプの2品が食卓に䞊んだ。

     倫ず䞊んで食卓に぀き、「いただきたす」ず二人でハフハフず熱々のパ゚リアを口に運ぶ。鶏肉の甘さずピヌマンの柔らかなほろ苊さ、火を通しおずろりず厩れるホクホクのにんにくが絡み合っおいる。矎味しい。ピヌマンは蒞された状態になっおいるからか䞀口噛むずゞュワッず氎分が出おきた。少し元気がなかったはずのピヌマンがこんなに矎味しくなるなんおず二人で感動しながら食べ進め、結局フラむパンにあったものたで党郚綺麗に平らげた。矎味しかった。食べながらどうやっお䜜ったのか、どれだけ簡単にできたのか、などを話した。私は数回にわたり塩だけしか䜿っおないのにこの矎味しさであるこずをアピヌルし、倫はその床に「すごいね」ず蚀っお笑った。

     倖食が嫌いなわけじゃない。コンビニ匁圓が嫌いなわけじゃない。自分がやるず決めたこずをやりきれない自分がずっず嫌いだったのだ。自炊をしないなら朔くやらないず決めればよかったのに、自炊に察する憧れだけはあったので、チャレンゞしおはやり切れないこずがずっず苊しかった。 

     たくさんの食材をダメにした。たくさんの呜をダメにした。私の行き着く先は、地獄か倩囜かで蚀えばきっず地獄に決たっおる。それでも地獄に行く前に、もう少しだけ倉われるかもしれない。倉わりたい。

     私に足りなかったのは䜜戊だず思い、初めに䜕床か同じパ゚リアを䜜るずころから始めた。簡単に矎味しくできるので自然ず「たた食べたいな」ず思ったのもあるけれど、絶察に矎味しくできるレシピの力を借りお自分だっお料理ができるずいうこずを刷り蟌たせたかったのだ。台所に立぀こずが少しでも自然になるように。冷蔵庫から野菜を取り出す。切る。炒める。煮る。食べる。そう繰り返しおいくうちに、「面倒臭いが矎味しいものが食べられるし頑匵る䟡倀あり」ずいう気持ちが出始めた。

     そこから、少しず぀、新しいレシピにもチャレンゞした。SNSで芋おいたもの、買っただけで満足しおいた本のレシピ。䞖の䞭にはたくさんのレシピがあっお、よく芋るず簡単なものもあった。プロの方がたくさんの時間をかけお、倱敗しながら生み出しおくれたレシピたちは、どれも本圓に矎味しかった。䜜戊その2、プロの力を借りたくる。

    そのタむミングで、倫もダむ゚ットを再開した。朝りォヌキングに行き、ゞムで筋トレをしお、菓子パンやお菓子を食べるのを蟞めた。食事はなるべく自炊、か぀倫のダむ゚ットにも効果がありそうなものずいうこずになり、私は人生で初めおもずくやめかぶを賌入した。

     あれからしばらく。倫はみるみる痩せお、ず蚀いたいずころだけれど数キロ痩せた埌、停滞期に入っおいるらしい。い぀もならここで心が折れおいるずころだが、珟圚も朝りォヌキングに行き、Youtubeの動画を芋ながら筋トレをし、食べるものに気を぀けおいるのでただ圌の䞭の火は消えおいないようだ。

     私は仕事を蟞めるこずにした。自分を犠牲にしお、自分の家族を犠牲にしお、誰を幞せにできるんだず思った。もうずっず限界だったのを芋お芋ぬふりをしおいたので、これからの未来に䞍安はあれど、離れるず決めたこずでようやく息ができるようになった。

     退職も盞たっお、自炊はこれたでの人生で䞀番続いおいる。もちろんたたにお䌑みするこずもあるけれど倖食をしおも眪悪感が生たれるこずがなくなった。倖食も矎味しい。自炊も矎味しい。ご飯が、野菜が、お肉が、お魚が矎味しい。

     買った食材が少しず぀冷蔵庫の䞭から自分の䜓の䞭ぞず姿圢を倉えながら堎所を移しおいく。それがずおも嬉しくお、ホッずする。冷蔵庫の䞭が少しず぀空になっおいくのが嬉しくお、たたに倫を冷蔵庫の前に匕っ匵っおきお、「こんなに枛った」ず芋せびらかすようになった。倫は「えらい」、「すごい」ず繰り返しおくれおいる。

     もちろんできない日もある。倚分きっずこれからもできないタむミングがくるだろう。その時は、できた日々を思い出す。できるレシピを思い出す。簡単に、矎味しくできるレシピがちゃんず準備されおいるこず、私にも䜜れるものが確かにあったこず。蓋を開けた時の食材が絡み合う矎味しい匂い、私の知らぬずころで定期的に研がれおいた包䞁の切れ味、どんな時だっお支えおくれた適正䜓重を軜く飛び超えた優しいひず。

     本日の倕食は賞味期限が切れた牛乳を䜿ったギリギリシチュヌ。盞倉わらずちょっず気を抜くず賞味期限が切れるけど、それを捚おるのではなくお慌おお぀かようになっただけでも成長ず思いたい。シチュヌは冬のむメヌゞだったけど、初倏に食べおも矎味しかった。

     たくさんの食材をダメにした地獄行き確定の私の、地獄から這い䞊がるためではない、地獄に行くたでの時間のちょっずした賜の河原。ずっず完璧にはできないけど、自分を蚱せるくらいにできおいればそれで良い。

     明日は䜕を䜜ろうかなずだいぶ芋晎らしのよくなった冷蔵庫の前で考える。芋ないように冷凍庫に抌し蟌んだたくさんの食材たちの心残りを、これからの私の糧にしお。


    写真筆者

     
     
    倫ず猫二匹ず暮らすアラフォヌ。 2020幎から毎日曞き続けた日蚘に いたのわたしからのお返事を曞いお茉せおいたす。 数幎前の話かもしれないし、昚日の話しかもしれないけれど 確かに私が生きおいた蚌。

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