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Photo bysuama_monaka15

ショヌトショヌト「配る前に蚀っおほしかった」

    友達の家に行ったのは、課題を䞀緒に片づけるためだった。圌は、文章の動機付けがうたく、䞀緒に課題をするずアドバむスをくれるので、普段から助かっおいた。
    圌から蚀わせるず、芪の教育の賜物らしい。

    リビングの隣の和宀にノヌトパ゜コンを広げ、資料を芋ながら䜜業しおいるうちに、倖は暗くなっおいた。

    垰ろうずリュックに充電噚をしたっおいるず、台所から友達の母芪が顔を出した。

    「せっかくだから、ご飯食べおいきなさいよ。もう炊いちゃったし」

    「いや、そんな、悪いです」

    「いいのよ。若い子が䞀人増えたくらい、どうにでもなるから」

    父芪も新聞を畳みながら笑った。

    「遠慮しないでいいよ」

    祖母は俺の前にみかんを眮いた。

    「先にこれ食べお埅っおなさい」

    垰る理由が、ひず぀ず぀なくなっおいった。

    倕飯は普通においしかった。
    焌き魚ず味噌汁ず、少し甘い卵焌き。知らない家の食卓にいる緊匵はあったが、家族はみんな穏やかだった。

    食埌、母芪が食噚を䞋げ、父芪がテレビの音量を少し䞋げた。

    祖母がみかんの癜い筋を取りながら蚀った。

    「昔はよく、食埌にトランプをしたのよ」

    友達が顔を䞊げる。

    「あヌ、久しぶりに倧富豪やる」

    父芪が棚から叀い猶に入ったトランプを出した。母芪も「懐かしい」ず蚀いながら座垃団に戻っおくる。

    俺は䞀床、時蚈を芋た。

    「うち、食埌に始たるず長いんだよ」

    友達が圓然のように俺の前にもカヌドを配り始めた。

    「人数いたほうが面癜いから」

    長いんだ。

    その情報は、できれば配る前にほしかった。

    倧富豪のルヌルは、八切りあり、革呜あり、スヌト瞛りあり、ゞョヌカヌあり。郜萜ちはなし。

    父芪が䞉を出し、母芪が五を出す。友達が䞃を出し、祖母が少し考えおから十を出した。

    「おばあちゃん、匷いじゃん」

    友達が笑うず、祖母は「あら、たたたたよ」ず蚀っお、嬉しそうにみかんを䞀房食べた。

    次の堎で祖母が五を出した。

    俺の手札には八があった。

    出せるカヌドはいく぀かあったが、八を出せば流せる。

    「八切りで」

    堎が流れた。

    祖母の手が止たった。

    みかんを持ったたた、堎に出されたカヌドをじっず芋おいる。

    「  流された」

    「え」

    「私の五、䜕もできずに、流されたのね」

    母芪が静かになった。

    父芪は湯呑みを持぀手を止め、友達は目を䌏せた。俺だけが、ただ倧富豪の䞭にいるような空気だった。

    祖母は、堎のカヌドを芋たたた話し始めた。

    「私ね、昔、町内䌚でね。商店街の裏にあった小さな桜の朚を残したいっお、ずっず蚀っおいたの」

      なんの話だ

    「その朚はね、私が嫁いできた幎に怍えられた朚だったの。春になるず、店の裏に少しだけ花びらが萜ちお、掃陀は倧倉だったけど、あの通りで季節がわかるのは、あの朚だけだった」

    母芪が小さく息を吞った。

    「お矩母さん  」

    もう声が震えおいた。

    「再開発で切るっお話になったずき、私は䜕床も蚀ったの。残せたせんかっお。根元だけでも、堎所をずらすだけでもっお。でも䌚議の最埌に、町内䌚長が䞀蚀だけ蚀ったの」

    祖母は俺の八を芋た。

    「『もう決たったこずです』っお」

    その堎に静寂が流れた。

    「その䞀蚀で、私が䜕幎も芋おいた桜の話は、党郚なかったこずになったの。誰も、私が䜕を蚀ったか芚えおいないみたいに」

    母芪が泣いた。泣いた、ずいうより、急に厩れた。

    「お矩母さん  っ」

    䞡手で顔を芆っお、肩を震わせおいる。

    父芪がすぐにティッシュ箱を取った。
    友達は黙っお母芪の背䞭をさすった。
    祖母は「いいのよ」ず小さく笑っおいる。

    慣れおいる。

    この家は、この流れに慣れおいる。

    俺だけが、八を出した姿勢のたた、どこにも入れない。

    父芪が静かに蚀った。

    「芚えおるよ。あの桜のこずは」

    友達もうなずく。

    「俺も、小さい頃芋た気がする」

    家族の茪ができた。

    䞭心に祖母がいお、母芪が泣いおいお、父芪ず友達が支えおいる。ティッシュ箱は、祖母の手が届く䜍眮に最初から眮かれおいた。父芪は、それを迷いなく滑らせた。

    動きに無駄がなかった。

    俺はその倖偎にいた。ただ、俺の八だけが䞭にある。祖母は、こちらに優しく埮笑んだ。

    「ごめんなさいね。あなたが悪いわけじゃないのよ」

    悪くない人間の居堎所が、どこにもなかった。

    次の堎が始たり、手札を芋るず、もう䞀枚八があった。出せるわけがなかった。

    しばらくしお、堎にハヌトが続いた。友達がハヌトの䞃を出し、父芪がハヌトの九を出す。

    母芪が、涙を拭きながら蚀った。

    「瞛り  ね」

    含みを持たせる蚀い方に身䜓が反応した。祖母が顔を䞊げる。

    「いったん状況が固定されおしたうず、もうそれに沿ったものしか出せなくなるのね  。
    もう、同じ印が぀いたものしか認められない」

    意味深に聞こえるので、やめおほしかった。
    祖母はみかんを眮いた。

    「私ね、昔、家を継げっお蚀われおいたの」

    母芪が小さく息を吞った。

    「お矩母さん  」

    「長女だから。女でも、この家に残りなさいっお。倖に出たいなら出おもいい。でも最埌は戻っおきなさいっお」

    父芪が湯呑みのふちを指でなぞった。

    「おばあちゃん、それ  」

    祖母は堎のハヌトを芋おいた。

    「私はね、別のずころで暮らしおみたかったの。仕事もしおみたかったし、知らない町にも行っおみたかった。でも、家の印が぀いおいる人間は、同じ印の䞭でしか次を出しちゃいけなかった」

    母芪はたた涙をこがした。

    「お矩母さん、もういいから  」

    でも声の感じは、止めおいるずいうより、続きを知っおいる人の声だった。

    友達が小さく蚀った。

    「ばあちゃん  」

    たた党員が入っおいく。

    なんで入れるんだ。

    「芪に蚀われたのよ。お前が出おいったら、この家は誰が芋るんだっお。仏壇は。墓は。店は。名前は。そうやっお䞀枚ず぀眮かれおいっお、気づいたら私の手札は、党郚この家の札になっおいたの」

    俺の手札には、ハヌトの十があった。
    ルヌル䞊は出せる。でも、ここで出したら䜕を継ぐこずになるのか、もうわからない。少し迷っお、パスした。

    するず母芪が静かに蚀った。

    「出おいかないこずも、遞択だからね」

    パスも家督になるのか。
    父芪が小さく蚀う。

    「残るこずで守れるものもあるし、残るこずで壊れるものもあるからな」

    友達が頷いた。頷かないでほしい。

    俺は手札を揃え盎した。ずいうか、揃え盎す以倖に、できるこずがなかった。次の堎で、友達が四を四枚出した。

    「革呜」

    父芪が、小さく笑った。

    「革呜  か」

    母芪が父芪を芋る。

    父芪はカヌドを芋ながら、昔のこずを思い出すような顔になった。

    「䌚瀟にいた頃さ、急に評䟡制床が倉わったこずがあっおな。昚日たで偉かった人間が、翌日から䜕も持っおいないみたいになる。逆もある。あれは、慣れなかったな」

    母芪はたた泣いた。

    「あなた、あの時期ほんずに寝られおなかったものね」

    もう涙が足りおいないように芋えた。

    それでも泣いおいる。

    友達は、自分の出した四枚を芋぀めおいる。

    出した本人が䞀番気たずそうだった。

    じゃあ出すなよ、ず思った。
    でも、出したくなる手札だったのはわかる。

    父芪は少し笑った。

    「いや、いいんだ。そういうものなんだろう。匷いものが匱くなっお、匱いものが匷くなる。ルヌルが倉わるっおいうのは、そういうこずだから」

    母芪が目元を抌さえた。

    「でも、あの頃のあなた、本圓に無理しおた」

    父芪は䜕も蚀わなかった。

    友達が小さく蚀う。

    「父さん  」

    この家では、カヌドが家族䌚議の議題を開く鍵になっおいる。

    䜕巡かしお、俺は出そうか迷ったがゞョヌカヌを出した。出した瞬間、友達がぜ぀りず蚀った。

    「結局、最埌はそれだよな」

    俺は友達を芋た。友達は笑っおいたが、目は笑っおいな。たた䜕かが始たりそうで、したったず思った。

    「匷いカヌドを持っおる人は、最埌にそれを出せばいいんだよな」

    ゞョヌカヌは、もう堎に眮かれおいる。
    戻せなかった。蚀うなら、出す前に蚀っおほしかった。

    母芪は錻をすすりながら、みかんを食べた。
    甘かったのか、小さくうなずいおいた。感情の凊理に柑橘類が組み蟌たれおいる家だった。

    「でも、持っおいる人には、それが普通なのよね」

    父芪がうなずく。

    「持たない偎の気持ちは、持っおいる時には分からないからな」

    祖母が、俺ではなくゞョヌカヌを芋おいた。

    玙を芋ないでほしい。
    その埌も、䜕を出しおも䜕かになった。

    八を出せば、無効化。
    瞛りが起きれば、人生。
    革呜すれば、転萜。
    ゞョヌカヌを出せば、暩力。
    パスすれば、沈黙。

    嚯楜ずいう蚀葉から皋遠いトランプゲヌムの䞀戊目が終わった。

    誰が勝ったのか、途䞭からよく芚えおいない。
    最埌に残った䞀枚を、祖母が静かに出した。

    スペヌドの䞉だった。

    誰も䜕も蚀わなかった。
    祖母はそのカヌドを芋぀めたたた、小さく笑った。

    「結局、最埌に残るのは、こういうものなのね」

    母芪が目を䌏せた。

    父芪は湯呑みを持ったたた止たっおいる。

    友達は、堎ではなく祖母を芋おいた。

    「匷い札は、みんな先に䜿っおしたうものね」

    祖母は続けた。

    「勝぀ためずか、守るためずか、理由を぀けお」

    誰も盞槌を打たなかった。

    「最埌に残るのは、出せなかったものだけ」

    母芪が、たた泣いた。

    今床は誰も慰めなかった。俺だけが、䜕の話なのかわからない。祖母はスペヌドの䞉を指で撫でながら、小さく笑った。

    「昔から、最埌たで残るのよね。匱いものほど」

    郚屋の空気が、完党に終わっおいた。
    「革呜の状態なのに䞉を出さなかったのが悪いだろう」ずは、誰も蚀わなかった。俺も蚀わなかった。

    この家の空気では、そんなこずを蚀った瞬間に「正しさで人を傷぀ける話」が始たる可胜性があるからだ。

    錻をすする音ずみかんを食べる音だけが響く䞭、友達は圓たり前みたいにカヌドを集め始めた。

    「じゃあ次ね」

    次があった。なんなんだよこの状況は。気たずい  。
    祖母はこっちを芋おいる。
    母は泣き、父は静かに頷き、友達は共感を求めおくる。早く垰りたい。

    圓然のように、党員が座り盎しおいる。俺の前にも、たたカヌドが配られようずしおいた。

    その瞬間、䜓より先に蚀葉が出た。

    「すみたせん」

    党員がこちらを芋た。いや、祖母は元々こちらを芋おいた。

    「ちょっず、お腹痛いんで  今日は垰りたす」

    友達が「え、倧䞈倫」ず蚀いかけた。

    その前に、祖母が静かにカヌドを揃えた。
    そしお、顔を䞊げずに蚀った。

    「  郜合が悪くなるず、そうやっお堎を流すんですね。あの時の町内䌚長みたいに」

    母芪が、たた泣いた。俺は玄関のほうを芋た。友達には本気でお腹の心配をされた。
    それでもなんずか抌し切った。

    「すみたせん。今日は、䞊がらせおください」

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