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【創作大賞2026応募作品】🌒人はそれを愛と呼ぶ?


    一、 0.5秒のフラッシュバック

    誕生日当日。
    私は地元のスーパーの売り場にいた。

    いつだって直感に忠実に、全てをその瞬間の「気分」で決めて生きてきた私は、親しい友人の間では「伝説の女」と呼ばれている。
    ちなみに我が偉大なる息子は、妖怪通り越して化け物と呼ぶ(笑)。

    その日も、買い出しする品物を見繕っていた。
    その時だった。

    ふと、強い視線を感じる。その影は、少し離れたところで立ち止まっているようだった。

    私は、その方向を見なかった。

    やがてその影が、私の横を過ぎ去っていく。
    数メートル進んだ頃、私はその背に目を向ける。

    彼だった。

    その背中を見た瞬間、私の脳内で、この数ヶ月間が0.5秒でフラッシュバックした。

    私は一度の離婚の後、「二度と結婚も出産もしない」と己に深く誓い、未来の選択肢から完全に抹消していた。

    大切な家族をたくさん困らせ泣かせ傷つけ、子育てに絶望し、自分、そして親までも恨んでしまったあの過去を、二度と繰り返さないために。

    そんな身勝手な私が「誰かの役に立ちたい」なんて新たな欲を出した場所に、彼はいた。

    「自分を見失ってしまいました」と孤独そうに佇む彼を見て、仲間として放っておけなかった私は、
    「力になれるかもしれない」
    「私の、本心に忠実な生き方を見れば、彼も引っ張られて自分を取り戻せるかもしれない」

    という直感的救出作戦を、安易に思いついてしまったのだ。

    彼は私に、「助けてください。」と静かに言った。

    それがすべての始まりだった。

    二、 救出という名の狂気

    彼のネガティブな言動、傷つくことを恐れてすぐ殻に閉じこもる習性、本当は爆発的な感情があるのに、それを無理矢理押し込めてなかったことにする癖。

    私は心の中で、
    「ひねくれかまってちゃんかよ!素早く鎧脱いで生身で生きろよ!」
    と昭和の頑固親父さながらのジェンダー論でブチギレそうになるが、

    自分の本心が分からなくなる程に自分を追い詰め、彼がそうならざるを得なかった苦悩を思うと、これが彼の精一杯の生き抜く方法なのだと脳内変換する。

    が、我慢ならずにブチギレたときには、
    彼は居場所を失う恐怖からか鎧を脱ぎかけたこともあったが、長くは続かず彼はまた殻の中。

    私は万策尽きてAIの力を借り、「物分かりのいい物体」を演じてみたり。
    AI作の返信で彼がご機嫌になった時には、「おいおいなんてこった」と虚空に突っ込んだけれど。

    家族や子供が欲しいという彼の望みを半分叶えるため、己の誓いを半分捻じ曲げ、ピルをやめるほどの狂気に片足まで突っ込みかけたり……。

    私は完全に、「彼を救いきる」というミッションの呪縛に囚われていた。

    心と言葉と行動がバラバラの千切り状態になって、喉にはヒステリー球を抱え職場仲間には目が死んでると心配されても、
    微笑みを絶やさない慈愛のマリア像になろうとしたり。

    アホか、わたし!

    今度は私自身が自分を見失いかけ、脳内をあの頃の自由の原点へワープさせるも、トイレの壁に激突し即帰還。息子の笑い声に目覚める。

    もう限界だと離れることを決意するも、孤独な彼が見せる息子より子供のような泣き落としにほだされて、元の木アーミに戻るのを繰り返したのは誰だ?

    そう、私だ。

    鎧を脱ぎかけてはまた着直して、脱ぎ着を繰り返すうちに、彼の鉄壁は徐々に壊れ始めた。
    もう少しで、任務を完了できるかもしれない。

    でも、私は彼の望みを叶えられない。彼が必要としているのは「私」という人間ではなく、ただひたすらに自分を包み込んでくれる、心地よい場所そのもの。

    彼の望みを叶えられない私が、このままそばに居続けるのは残酷でしかなかった。

    そして何より、彼が描く「家族」という理想郷に、息子を巻き込むことなど、狂ってる時でさえ、ましてや狂いから覚めた私には絶対にできることではなかった。

    その確信が、私を彼から遠ざけた。

    彼からのメッセージが積もる。

    私の変化に無関心なのか、知る事を避けているのか。

    無感情を装う事務的な定期連絡が続く。

    彼の、「私を安心させるため」という健気な優しさは、その時にはもう、
    私を息苦しくする過保護な酸素になっていた。

    いよいよ耐え切れなくなり、私は彼との繋がりの間に鉄壁を築くことにした。

    『沈黙』という名の、分厚い壁を。

    最終的には彼の

    「無視が続いて心が折れました。邪魔者だったね。さようなら」

    という手紙と、

    今思えば可愛らしい強がりが詰まった追撃メッセージ。

    もしそれがなければ、今度は別の関係で救おうかなどと企てて、元の木阿弥になっていたかもしれない。

    けれどその不器用な強がりが、皮肉にも私を引き止めてくれた。

    私は静かに携帯を伏せた。

    「もう、戻らない」と。

    その時はこれが、自分を保つための唯一の方法だった。

    ごめんね。

    三、 それぞれの生存戦略

    そんな私の脳内大回想をよそに、彼は私の横を過ぎ去った。

    小さな怒りと、声をかけずに通り過ぎたことへの少しのプライド。

    そして、

    何かを覚悟したようにも見えたその背中は、今までで一番大きく見えた。

    私たちはもう、別々の道を歩き始めている。

    いや、最初から全て違っていたのだ。

    目指す道も進みたい方向も、何もかも全部。
    胃袋の波長だけは、ぴったり一致していたけど。

    彼はきっと、殻のまま愛されたかったはずなのだ。
    殻のまま生きる事が、彼のありのままの姿だったのだと思う。

    私は、殻から出て生身で生きられるようにする事が、彼への救いになると思っていたけど。

    もしそうだったとしても、無理に壊す必要はなかったのだ。

    彼が望む通り、殻のままの彼そのものを丸ごと包み込めたら、彼は安心して殻から出始めたかもしれない。

    でも、私にはできなかった。

    無念だけど、これが事実だ。

    心地よい日常を淡々と提供し、彼の心が自然にやわらかくなるのを待ち続けることはできなかった。

    きっとこの世には、自分を保つための防衛システムが無数にある。

    すべての生物に、地球規模で備わっているものなんだろう。

    そもそも、攻撃を感じずに済むのなら、守る必要もないのだけれど。

    ちなみに、地球上の動物の8割は昆虫らしい。

    だから、生物の生き残り戦略なんて違って当たり前なのだ。

    私たちはただ、何もかも不器用にすれ違い、致命的に噛み合わなかっただけ。
    (食べ物の好み以外)。

    結局、彼を鎧から解き放つ救世主ではなく、関係をクラッシュする破壊神になっちゃったよね!はは。

    私の頭には長渕のあの曲が流れ、
    どてっ腹のど真ん中を貫く。

    あばよ、自惚れていた偽物のヒーロー。私はもう、綺麗ごとの物語を妄想したりはしない。

    「ハッピーバースデー私。ハッピーバースデー大きな背中。」

    世界のどこかに、殻のままの彼を、そのままの彼を、温かく包み込んでくれる人がいることを、私の本能は信じてる。

    これ〝も〟人は愛と呼ぶ?

    いや、
    『野生の直感こっぱみじん!自惚れヒーロー大失敗。の巻。』
    である。

    (心の声:おーい彼を傷つけといて、軽快に終わるのはどうなんだい?……
    うん。彼を傷つけずに済んでたら、もっと良かったんだけどね!)

    完


    ……と、ここまで書いて、私の脳裏を強烈な閃光が撃ち抜いた。

    ひょっとするともしや。

    救世主は、彼の方だったのではないか?

    彼とのあの泥沼の数ヶ月がなければ、私は自分の内側にある、生身の声や、脳内の渦を、言葉という表現で爆発させるという歓喜に辿りつけなかっただろう。

    人生を通して魂を注げるものを探していた私に、「書く」という表現への扉をギフトしてくれたのは、まぎれもなく彼なのだ。
    (何とビックなプレゼント!)

    これは、過去の暴露でも、ただの思い出話でもない。

    今、私の内側では、爆発的な何かが渦巻いている。

    私はこれからも、内側に眠る剥き出しの思いを、書くという表現に乗せて解き放っていく。

    それがいつか、誰かの夜を照らす一筋の光になり、その心に明かりを灯すことができたなら、その温もりで私も満たされていく。

    そんな循環が生まれたら、至上の喜びだ。

    その時は失敗に終わって見える出来事も、いつか必ず糧となり、その人を救ってくれる。

    あの時大失敗に見えた私の直感大作戦は、私を言葉で紡ぐ道へと導く、ピリ辛弁当だったのだ。

    ありがとう、ヒーロー。
    救世主は、あなたの方でした。

    本当の、完。

     
    元感情の掃除機。INFJ で愚者。刺激追求するが内向型。矛盾した気持ちを力に変えて、息子のガッツリ弁当を詰める毎朝を見つめ直したら、心に心地良いうみかじが吹き始めました。光と陰の間で、誰かの暗い夜をほんの少し明るく照らせたら嬉しいエッセイを紡ぎます。

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