『ぼくのおひめさま』第十話
セイが来た日から何回も夜を数えた。
ぼくは落ち着かない気持ちを走ることで振り払った。毎日走る分の何倍も走った。
夕暮れ時、ご飯に呼ばれるまでひたすら走った。
「シュオ無理をすると足を傷めるわよ」
ご飯を食べ終えたおかあさんが言った。
別に怒っているわけでもなく、心配してるだけというわけでもない。
ぼくは「うん」とだけ言っておかあさんのとなりに座った。
――静かに時間が流れた。
ぼくはずっと気になっていたことを聞いてみることにした。
前におかあさんから
「人と馬は生きる時間が違う」
と言われたことだ。
「シュオとシュリ様はまず同じ生き物ではないわよね。
そうね……花に集まる蜂は命が短いでしょ?
じゃた木の実をついばむ鳥は?」
「蜂よりは長いけどぼくらより短い」
「そうね。私たち馬にも生きられる大体の時間が決まっているの。
シュリたち人がどれくらい生きるか知っている?」
首を横に振った。
「六十年……いやもっと八十年くらい生きる人もいるのよ。
昔、フルファンとの国境近くまで行った時に私たちと違って人と暮らしていない馬に会ったの。
国境にある山のふもとの大きな森に、ひとりで住む人間の話しをしてくれてね、九十年は超えていたらしいわ。本当か嘘かは分からないねどね」
考えた。
シュリは僕より早く生まれた、
なのにぼくがシュリより大きくくなっちゃった理由。
ぼくはシュリより先に死ぬってこと?
シュリを悲しませたくない。
「シュリより先におとなになってるみんなは?
先に死んでしまうの?」
「みんな分かっているわ。同じ時を同じだけ生きられないこと――
別れは辛いわ。
でもねシュオ、それは生きている限り必ず来るものなの
それを人の言葉で"寿命"というのよ。
たくさん生きて終わるものもいれば、突然終わってしまうものもいるの」
「……」
あかあさんの話しはとても単純で分からないほうが難しかった。
――突然終わる
それは今のシュハク国王のことを言ってるんだろう。
でも……それって……
悲しさがあふれてぼくはおかあさんのほうを見た。
「生きようとするのよ」
ぼくの気持ちをさえぎるように力をこめた声。
「人も私たちも生きることを諦めないわ。
人も私たちも怪我をすれば手当てをし、病気になればゆっくり休むでしょう。
そうしてまた元気になって生きるの。
そうすれば突然お別れすることもないのよ」
おかあさんが言いたいことが少し分かった気がした。
きっとシュハク国王は元気になる。
何十年なんてどれくらいの長さかぼくには分からない。
シュリとぼくが一緒にいられる時間が限られているなら、ぼくはたくさんシュリの近くにいてあげるんだ。
そうすればきっと大丈夫だ。
その夜、夢の中でシュハク国王とユマリ妃に手をつないでもらい、はしゃぐシュリを見た。
頭にはあのお祭りの日の花飾りが乗っていて花びらが舞っていた。
でもシュリはそのまま振り返らずに行ってしまった。