
鍵を失くしたので事故再発防止報告書を書きます。
―――ない。どこにもない。
22時。友人と遊び、帰宅した私は家の前で絶望していた。
家の鍵が、ない。
出かける前の記憶を必死に辿る。何度思い返しても、たしかにリュックの肩ベルトの小さいポケットに入れている私が見える。しかし今そのポケットはチャックがだらりと開き、中には何も入っていなかった。
やってしまった。やばいやばいやばいやばい。いつ?どのタイミングで?
とりあえず深呼吸をして、落ち着け、落ち着け、と何度も思った。落ち着いている人間は自分に「落ち着け」と何度も言い聞かせたりしないので、たぶん全然落ち着いていなかった。
不安で心臓がバクバクと大きな音を立てていた。とにかく今できることをしよう。一旦、来た道を戻ることにした。駅までの約10分の道のりをもう一度歩く。これでもかと地面を凝視しながら歩き、何も見つからぬまま駅に到着。念のため駅員さんに鍵の落し物が来ていないか確認する。つけていたキーホルダーの画像を見せ、どうか、どうかと心の中で強く祈る。が、祈り虚しく「鍵かあ……来てないですね。」と眉を下げる駅員さんに「ありがとうございます。」と頭を下げてとぼとぼと再び家までの道を歩いた。
本当に心当たりがないため、もうこれ以上探しに行くことができない。たぶん渋谷の真ん中で落とした。渋谷に戻っても、この時間はもう商業施設は閉まり、道も薄暗くてよく見えないだろう。23時を回ろうとしている時間に渋谷の街中を一人で歩くのも不安である。結局鍵を探すことは諦め、徒歩20分の友人宅で預かってもらっていたスペアキーで家に帰ったのだった。
誰かが鍵を拾って私の家を突き止めたらどうしよう。そんなことを考え始めると止まらない。未だ見ぬ不審者に怯えながら夜を明かした。
翌朝、開店と同時にヨドバシカメラへ入店する。諦めた鍵を探しに来たのではない。再発防止策を買うためである。寝る前に調べたので売り場はバッチリ。迷うことなくSwitchbotの人感センサー(2,980円)、そしてドア開閉センサー(2,980円)を手に取る。急いで帰宅し、買ってきたデバイスをハブに接続する。これで誰かがうちの玄関を通る度スマホに通知が来るようになった。
この事件をきっかけに我が家の玄関の防犯体制は、急激な進化を遂げたのだった。さらに翌日には大家さんを通して鍵交換も依頼した。15,000円だった。ふと、脳裏に「スマホを落としただけなのに」が頭をよぎる。鍵を落としただけなのに、こんなにもお金が飛んでいく。(それはそう)
この過ちを二度と繰り返さないためにAirTagを購入した。さらに無印良品のカードケースに鍵を繋ぎ、お守りと予備の千円札も一緒に持ち歩くようになった。(なんと前面は鍵を繋げておける仕様になっていてとっても便利!)
後半があまりにも事故再発防止報告書なのが自分でも笑えるポイントだが、おかげで事件から数年経った今も鍵を失くしたことは一度もなく、失くしそうになったこともない。
この件からいつでも鍵の所在を気にする人になってしまったが、それくらいが安全なのかもしれない。
少なくとも、20,960円払って学んだ教訓としては。