25年、結婚のメートル換算
1日5分
必要事項しか話さない夫婦。
何年間も。
自分の美しい世界を遂行する夫。
私の世界はまた別で、
お互いの境界がぎぎぎ...と軋み続けた。
ましてや子どもたちは一筋縄で行かない男ら。
子育て中は自分でも知らなかった、
激しい自分であり続けなくてはならない日々で、
世間は敵。懐に抜き身の刀を抱いていた。
学校からの呼び出しの謝罪服は、松竹梅。
ブラウスにスカート
ジャケット
ダークスーツ
仕事場も自宅の近くにした、
あれは確かに終わりの見えない戦いの沼。
夫婦協力して、とはいかず
少なくとも私は夫を敵だと思っていて、
自宅でも鎧は脱げない。
もし誰かがふいに私に触れたら、
その指はスイ、と切れただろう。
子どもが独立したら向き合おう
そう約束されたその時に
夫が突然故郷にUターンし、
許せない裏切りであったと同時に
日々が信じられないほど楽になり、
それは夫も同じだったと思う。
半年間、断絶。
憎い。憎い。
2年目、
日々の仕事に霞んでいく、夫という存在。
3年目、26,280時間後。
もう、個人として
いいとこ取りで良くない?
怨嗟はあれど
それはそれとして
今を楽しんでしまっても
罪にはならないのではないか。
半年ごとの逢瀬
何着て行こうかな?
美容液、レチノールも追加
前の晩は
何度も目を覚まして、
寝不足の顔で会いたくない…
寝なきゃ!
迎えの夫に会う時
どんな顔しよう?
高速バスの中で何度も鏡見て
アイラインが2重に見えるけど、
夫の前で老眼鏡は所持したくない。
技術部門に書類を届けに行き
ふっと入ってくる人を見た。
グレーのリュックの肩紐に添えた
袖口から覗く華奢な手首
25年後、そうと気取られない横目で
隣でハンドルを握っている
その微かな動きに、
視線を吸い付けられる
帰路、目に入る
昨日は海に沈んでいた夕陽が
山の稜線に馴染んで行く。
高速鉄道の窓を流れるみなもは、
朝、日が昇る、見知った海。
海から上る朝日を
わたしはずっと普遍だと思っていた。
ちりりと疼く胸
この痛みを得るのなら、
会わないほうがいいとさえ。
なのに。
スマホの指は
夏のワンピを予約してる。
半年後の彼に
いいな、と思われたい。
もっと早くそれに気づければ
なにか、を節約できたけどな。
でも何度タイムリープしても
結局同じことを繰り返す。
夫婦の適正距離は、854km。
今のところ。