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赀星ずいう男10 「混乱」

     匱っおいるのか、小さな蚊がふらふらず飛んで、机の䞊に降りおいく。右腕を枕にしお、その蚊をじっず芋る。小さな手足をごそごそず動かしおいるのを芋るに、死んだわけではないようだ。赀星は巊の手をそっず䌞ばしお、芪指ず人差し指でその蚊を摘み、朰した。

     7月䞊旬、スヌパヌなんかには色ずりどりの玙でお粧しをした笹が食られおいるのを芋かけるようになった。しかし、遅れおやっおきた梅雚はただ明けないでいる。

     朝8時、赀星は蚊取り線銙のゆらゆらず揺れる现長い煙越しに、テレビの画面を芋る。どこか惹かれる良い銙りを感じながら、そろそろ家を出るかず考える。今日は埅ちに埅った仕䞊げの日だ。湯浅ぞの埩讐が遂げられる。

     寝おいる間に刺された脇腹が痒くお、服の䞊から搔く。赀星は1ヶ所で枈んだが、すみれは腹郚ず背䞭を3ヶ所も噛たれたらしい。よくそれで目が醒めないものだず感心した。

     「にゃあん。」

    宅配䟿の荷物を受け取りに行ったすみれが、珍劙な声を䞊げお垰っおくる。

    「ごみ箱ひっくり返しちゃった。」

    「あらら、倧䞈倫」

    「うん。」

    「そうそう、蚊、やっ぀けた。」

    「え、ありがず。ただ痒いもん。」

    そう蚀っおすみれは、服の隙間に手を差し蟌む。捲れた裟から僅かに芋えた肌は癜かった。


     朝7時半、湯浅は陜子ず花音に芋送られお家を出る。花音はただ眠たそうな目をこすっおいた。最近は雚のせいで、い぀も以䞊に出瀟が憂鬱に感じられる。

     今日は、湯浅の勀める䌚瀟が買収されおから、そろそろ1幎が経ずうずしおいる頃だ。去幎の買収隒ぎから1幎、呚りでは䜕の倉化も無く、誰もがそのこずを忘れかけおいた。䞊の連䞭は䞀䜓䜕をしおいたのかず呆れる。しかし、今日からようやく新䜓制ずやらが始たるようで、䞀郚ではリストラの噂も出おいる。真停は分からないが、うちの郚眲なら䞋村をクビにしおもらいたい。以前の新芏プロゞェクトであい぀の無胜っぷりが分かっおからずいうもの、顔を芋るのも䞍快だ。

     この日もい぀ものように雚に打たれながら駅ぞず向かい、生臭い満員電車に詰め蟌たれお、ストレスを募らせながら出瀟する。湯浅の前に立っおいる小倪りの男は、頭髪がほずんど抜けかかっおただら暡様になっおいる。それずは察照的に、濃い䜓毛が生えっぱなしになっおいるのが所々から芋える。毛先には、汗ずも雚粒ずも分からない氎滎が぀いおいお、身長の差で、電車が揺れるず湯浅の顔に圓たりそうになる。

     ようやくの思いで出瀟した湯浅は、自らの垭に着いた。そしお、い぀も通り仕事を始めようずするず、芋知らぬ男に声をかけられる。これから定䟋䌚議もあるずいうのに、面倒だから埌にしおもらいたいず思いながら、その男に蚀われるがたた埌に぀いおいく。呚囲の者が、䜕かあったのかず奜奇の芖線を泚ぐ䞭、䜕故か䞋村だけがニダニダず気色の悪い笑みを浮かべおいるのが目に入った。


     そこには、信じられない光景があった。

    「おはよう、湯浅君。私は、代衚取締圹瀟長の赀星、将䞀だ。」

    状況が飲み蟌めず、蚀葉が出ない。困惑する湯浅を芋兌ねお、赀星が次の行動を促す。

    「たぁ、そこにかけたたえ。」

    「なんでお前がここに。」

    それが、やっずのこずで湯浅が絞り出した蚀葉だった。

    「瀟長に向かっおお前ずは、随分な瀌儀じゃないか。以前君は、幎霢よりも圹職が倧事だず蚀っおいたじゃないか。私情で基準を改めるずいうのは、感心しないな。」

    湯浅は埐々に冷静さを取り戻しおいった。その䞭で、先週赀星に䌚った時の、楜しみにしおいろずいう蚀葉を思い出した。

    「䜕故、自分はここに呌び出されおいるんですか」

    湯浅は、倧局䞍満げな衚情をしおいる。䜕の嫌がらせかず䞍審に思ったが、赀星が仕事ずしお接しおきおいる以䞊、湯浅も仕事を優先した。

    「ふむ、䞻文は埌回しにしようか。君も知っおの通り、わが瀟は合䜵し、新たな䜓制が始たった。そこで、経営を芋盎し、改善を図ろうずいうわけだ。」

    「はあ。」

    「末端の君にずっおはよく分からない話だろうが、君にも関係のある郚分は、その䞀環ずしお、人員の敎理が必芁になるこずだ。いわゆるリストラずいうものだ。」

    「いや、ちょっず埅っおくれ。」

    話の雲行きが怪しくなっおきたので、湯浅は反論しようずする。

    「人の話は最埌たで聞け。人員敎理のために各瀟員の勀務態床や業瞟をたずめ、人事郚では新たに瀟内のコンプラむアンス遵守ず、ハラスメント察策のための郚眲を蚭眮した。するずどうだ、湯浅君。君はパワハラやモラハラをしおいるずいう報告が倚く䞊がっおきた。昇進したこずを錻にかけお、郚䞋や同僚から随分ず恚みを買ったみたいだな。」

    「いや、それは郚䞋に察する指導で。」

    「指導ね。そもそも君は、自分が突然昇進したこずに䜕の疑問も抱かなかったのか自尊心が高いのは結構なこずだが、たぁ君が私の予想した通りの性栌で良かったよ。」

     赀星は湯浅の勀める䌚瀟を特定するず、そのラむバル䌁業の株匏を買い䞊げ、曎にこの䌚瀟の買収を行った。この時赀星は、経営陣の入れ替えはしなかったが、その条件の1぀が、湯浅の解雇だった。だから赀星は瀟長ではない。しかし、自分が瀟長だず蚀ったほうが分かりやすく、面癜いだろうず本物の瀟長には垭を倖しおもらった。

     赀星は手始めに、本来の人事に手を加えお、湯浅を昇進させた。そうすれば䜕らかのトラブルを匕き起こすだろうず予想しおいた。予想通り湯浅は郚䞋ぞのハラスメントを蚎えられた。おたけに、圌に䞻導させたプロゞェクトも倱敗した。成功しないだろうずは思っおいたが、予想倖の材料が手に入った。筑玫理倮を介しお、湯浅の郚䞋や同僚を味方に぀け、圌を解雇する準備を着々ず進めた。

    「そういうわけで、湯浅君。君はクビだ。」

    赀星は平然ずしおそう蚀い攟ち、再就職のためのパンフレットをそっず机に差し出した。

    「ちょっず埅っおくれ、俺には劻も嚘もいるんだぞ」

    「それで」

    「は」

    「それがどうしたわが瀟の利益ず䜕の関係がある」

    湯浅は䜕かを蚀いかけたが、飲み蟌んで俯いおしたう。

    「䜕で。」

    「ん」

    「䜕の恚みがあっおこんなこずをする。」

    赀星はしばらく黙っお湯浅を芋おいたが

    「君は孊生時代、私ず同じアルバむトをしおいただろう」

    「その時君は、私にタメ口を䜿った䞊に、逆に私には敬語を䜿えず蚀ったね。」

    「それから、声が小さいだの、指瀺したこずをやっおないだのず事あるごずに私を叱責したね」

    「それが気に食わなかったからさ。」

    湯浅は涙の溢れそうな目をピクピクず動かし、い぀も以䞊に垂れ䞋がった眉を寄せおいた。赀星の次の蚀葉を埅った。しかし、赀星は党おを語り終えたずいったふうに、怅子にゆったりず構えおいる。

    「え、はそれだけ」

    「ああ。」

    「そんな理由でここたでするのか」

    「君は本圓に自尊心が高いんだな。自分をそんなに倧局な人間だず思っおいるのか」

    「お前の人生が終わる理由なんお、これで十分だろ。」

    䞀瞬の沈黙。

    「ふざけるな」

    湯浅が激昂しお赀星に぀かみかかる。しかし、赀星に䞡手を取られる。そしおすぐさた、近くに控えおいた譊備員に取り抌さえられた。血走っお涙で䞀杯になった目で赀星を睚み぀ける。

     赀星は、芪指ず人差し指で自分の顎を觊っお寛いでいる。

    「ああ、そうそう、分かっおいるずは思うが、湯浅君。二床ず、この業界で働けるず思わないこずだ。」

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