
Episode9「開幕・阿片先物市場」



紫苑「…おめざめですね」
お月「…ん」

子供「みんなー!お姉ちゃんが起きたよ!」




!!
??

お月「……………」

ガリム「……………なんだ?」



お月「……………あ!!」

kizz「…あ」
!!!
ガリム「…なんだ?あの山猿は…?」
お月「kizzおまえ!2ヶ月近くもどこを!」

お月「おい!聴いてるのか!!」
!!!

子供「…お姉ちゃん、あの人だれ…」
……………
お月「…うちの野良だ…多めに見てやってくれ…」


!!!
……………
kizz「お月……………おまえ男ができたのか?」
お月「紫苑は女性だ!」
紫苑「はは…まぁ女性というかレズビアンなんですけどね…」
お月「え!そうなのか」
紫苑「はい!」

宗久「私たちは記者です。今日はお月さんの密着取材をしておりました」
kizz「取材…」
ガリム「俺は違うぜ。だがお嬢ちゃんには助けられた…」
kizz「…ふうん。ようわからんが…」

kizz「お月、お前なかなか人気者じゃねぇか」

お月「そんなことより大変なんだぞ。問題は山積。なにも解決していない…」
kizz「…なんだ?神々の息吹のことか?」
……………!!!
ガリム「……………山猿の兄ちゃん。アンタなんでそれを知ってんだい?」
kizz「ジイさんに聞いたんだよ」
ガリム「ジイさんだと?」
kizz「あぁ。山奥にいたよ」
ガリム「おい…もしかして…白ひげ生やしたガリガリの…」
kizz「それだ」

ガリム「おいおい…パオジイだ…!生きてたのか…旧政府が滅んで行方知れずで…死んだとばかり…」
お月「その旧政府はシャーランが滅ぼしたという話だったな」
ガリム「…そうだ、10年前の話だ。」
宗久「……………」
お月「だが完全には滅んでいない。その燻りがこのあたり一帯を戦争状態にしている」
ガリム「…死ぬに死ねねぇよ」
宗久「…私もシャーランです。責任の一端を担っております」
ガリム「つまらんことはいうな…もうそういうのはいいんだよ。つまるところ、負けた俺たちが悪い…」
……………
ガリム「軍残党はそれぞれ別個に動いている。そして仲が悪い…
ある者は神々の息吹保持者を狙う、ある者は土地を実効支配する、ある者はシャーランに税を納める、ある者はシャーランと結託している…
いわばゲリラだ、滅ぼしたと思っても次から次へと湧いてくるぞ」
お月「kizz。私たちは知らず知らずのうちに神々の息吹の在庫を抱えていた。No.18000付近だ。だから今夜、該当のNo.を通常阿片に切り替えている。
だが今のガリムの話のように勢力は多層に渡る。一筋縄じゃいかないのが現状だ」
……………
kizz「…おい。グラサン」
ガリム「なんだ」

kizz「お前がウチの神々の息吹をすべて管理しろ。秘匿したうえでな…」
ガリム「…正気か?俺が全部持って逃げたらどうする?」
kizz「ムリだ。今のお前個人にあの在庫をすべて守りきる能力はない」
ガリム「……………」
お月「…だとしても……現状をどう打開するんだ?」
kizz「なに言ってるお月。お前が今日やったことじゃねぇか。邪魔な奴ら全員ぶつけあいっこだよ」


kizz「そろそろセリスに頼んでたもんが完成する頃だ…」



宗久「山猿氏設計。セリス氏構築。
阿片先物取引開始。以降、現物引き出し97%減…、代わりに先物が、喧騒のうちに取引されていく…これで阿片そのものに実需はないことが明らかになった…阿片の本質は交換価値だ…」

「雷帝様はごきげんだ…
来週、暗号通貨たる雷帝コインがローンチされる、とのこと。これは、これまで不安定かつ高額決済専門だった雷帝券のアップグレードだ。
先物市場のおかげで、突発事故による価格不安定は解消。さらに暗号通貨化して無限に細分化することで、少額決済の一般開放が可能となったー
…雷帝様はあんまり細かいことはわかってなさそうだけど…」



今宵「なーに読んでるの?」
ヴィクラム「危険で魅惑的なことさ」

ヴィクラム「ここは景観の綺麗なところだが、ついこの前まで荒れ果てた街だったんだよ」
今宵「今は楽しそうな街だね!」
ヴィクラム「あぁスゴいことだよ。…どんな王様もできないことを、短期間でやってのけた若者たちがいるーーーーーあれ?」

ヴィクラム「もし、記者さん。人違いでしたらすみません。宗久さんでは?」
宗久「あ!はい!いかにも宗久でございます!」

ヴィクラム「やはり宗久さんでしたか。記事を拝見いたしました。あなたの人となりが知れる良い記事でした」
宗久「それはそれは…恐縮です。」
ヴィクラム「宗久さんの目から見てどうですか、バルファーニーの展望は…あ、いや失礼、私はヴィクラムと申します」
宗久「あ、いえこちらこそよろしくお願いします…そうですね、先物市場は決定的だったかと」
ヴィクラム「具体的には?」
宗久「まずは定石どおり、先物は物価の安定化をもたらします、これでバルファーニーは穏やかな活気に溢れるようになりました」
ヴィクラム「えぇ」
宗久「もう一つ。シャーラン過激派がバルファーニー付近に来られなくなった点。
一部の阿片が通常の50倍の値をつけています。途方もない額です。ゲリラの全勢力が蜂起し、シャーラン軍部は国内問題に手を焼いています。
つまり、先物はバルファーニーに平和と発展をもたらしました」
ヴィクラム「ふむ。一部の阿片…聞いたことがありますね、神々の息吹と呼ばれるものでは?」
宗久「…そのとおりです。なぜご存じで…?」
ヴィクラム「ふふ…。商売柄ですよ…。ところで神々の息吹は、どうしてそのような途方もない金額に?」
宗久「先物取引できない阿片としてプレミアがついたのだと思います。裏社会の、さらに裏の代物ですから…。
これまでの10倍から20倍がシャーランと軍閥ゲリラの折り合いのつく数字だったのでしょう。
ですがシーソーのバランスは崩壊しました」
ヴィクラム「…あなたはシャーラン地域を回らないのですか?」
宗久「…私は、バルファーニーを作ったハリケーンの皆さんに魅せられているのですよ。興味が尽きない…
たとえそれが祖国の衰退につながったとしても…彼らが動けば、この地域一帯に地殻変動が起きるのです。祖国とゲリラの戦闘もいわば、その余波でしかない」
ヴィクラム「…あなたは本当に聡明な御方だ。事態の核心を見抜いてらっしゃる」
宗久「ありがとうございます…あなたは、旅の御方ですか?」
ヴィクラム「…えぇ、そのようなものです」
宗久「そしたら特別に…。他言は無用でお願いします…。
実は、私は先物化の本質はさらにその深奥にあると考えています」
ヴィクラム「…というと?」
宗久「長いこと、この地域の隠然たる阿片利権を抱え込んでいるMr.Vという人物がいます。」

ヴィクラム「…そうですか」
宗久「…私の見立てでは、もともとのMr.Vの阿片占有率は55%。残りを地方マフィアや元政府軍閥が奪い合うことでこの地域は成り立っていました。暴力の絶えない地域でした」
ヴィクラム「…えぇ」
宗久「価格決定権はMr.Vのものでした。マフィアの言い値もMr.Vの価格に引きずられざるを得なかったのが現実です。だからやはり、事実上の阿片王はMr.Vだったのです」
ヴィクラム「…」
宗久「ハリケーンの方々がMr.Vの傘下である事は明白です。Mr.Vの利権地域を背後に現れたのが彼らでしたから。
…ですが、ここで先物化が起きた。これは果たしてMr.Vの意志なのか?
価格決定権を手放して、わざわざ市場に権力を譲ることが、彼にどれほどのメリットがあるのかと考えざるを得ません」
ヴィクラム「…王が、みずから議会民主政に権力を明け渡したと。…たしかに奇妙ですが、近代においてはあり得る話ではないでしょうか。
…しかし、そうか。もしも明け渡すのならそれは国際外交の目を気にした場合。
しかし阿片のような非合法世界に国際外交もなにも関係がないー」
宗久「あとは、Mr.Vの権力に陰りがある場合です。上層にてなんらかの政変が起こり、Mr.Vが権力の一部を割譲した結果、ハリケーンのような現象が起こった可能性はあります。
しかし、これはうまく言語化できませんが…Mr.Vが追い込まれている気配は、私は感じないのですー。
ハリケーンのあまりの優秀さに、組織のほころびを感じないのかもしれません。
…すみません、ここはうまく言語化できないー」
ヴィクラム「いえいえ。むしろ私は、あなたの飛び抜けた洞察力を目のあたりにして痺れるような思いです。
…つまり、先物化はMr.Vの思惑ではなく、ハリケーンによる盤面返しなのではないか?ということですね」
宗久「そのとおりです。言いかえれば、ハリケーンはMr.Vに宣戦布告を突きつけているのではないか?と。だから私は、彼らに興味が尽きない…」
ヴィクラム「とても素晴らしい話を聴けました。
こんな知的刺激を頂ける機会はそうそうない。
あなたの記事は必ず追いかけますよ!」

今宵「ねぇ何言ってるのか全然わからない!」

ヴィクラム「ごめんごめん…
そうだなぁ。
…たとえば私は君を愛している。私だけの人であってほしい。
そんな今宵が、私の手を離れてみんなのアイドルになってしまった、という感じかな」

今宵「それは寂しいねぇ…」

(…あの記者の洞察は当たっている。私はまちがいなく権力を削られた。
だが、イワン・カラマーは本当に狙って権力を削りにきたのか?あるいは偶然か?
…危険な若者だ。
……………そして一番の問題は
私は高揚している……
いつぶりだ?こんなに胸が高ぶるのは………
これから何が起きるのかを見たい…
……………とはいえ…いずれにしても)

ヴィクラム「バランスシートがなぁ…」
今宵「もう。またムズカしいことを」
ヴィクラム「おっと!ごめんよ」

お月「土日が休みだなんてホワイトだな!」
セリス「それどころかお月、最近仕事激減でしょ」
お月「うん最高だ。戦闘屋はヒマなほうがいい」
セリス「kizzとバカンを残してきたのは気になるけどね…kizzが何しでかすか…」

お月「それがkizzのやつ昨日からまたいないんだ。最高のタイミングだろ!」

セリス「アツい!それはアツい!バカンは何してるの?」

リネン「バカンさんは親指職人のとこに行ってくるって」
セリス「親指職人…?」
お月「…ま、まぁいい。とにかくこれで心置きなく楽しめそうだな!」


!!
今宵「あれ?お月ちゃん?」

お月「え?」
今宵「ほら!やっぱりお月ちゃんだ!」
お月「……………今宵」
ヴィクラム「お知り合いかい?」
今宵「うーん、双子みたいなもんだよね!」

お月「……………違う。でたらめいうな…」
今宵「あ!わかった!」

今宵「ハリケーンってお月ちゃん達でしょう?」
!!

ヴィクラム「なんだって!」

セリス「ちょっとお手洗いにいってきまーす」
リネン「あ!」

ヴィクラム「はじめまして、ヴィクラムといいます。良ければイワン・カラマーさんにお会いしたいのですが」
お月「アイツはいま所用で出かけている」
ヴィクラム「そうでしたか………残念」
お月「悪いがもう行っていいか?これから楽しい旅行なんでな」
ヴィクラム「これは大変失礼しました。ご旅行、楽しんできてください」


……………

























ハルカ「みんなの笑顔が見たいからだ」

ハルカ「問題ない。あんなやつら、いざとなれば瞬殺だ」


「うおーーーー!!!」




「お前は、もう死んでいる⋯」

「お姉ちゃん大好き!」



「愛しているぞ⋯」
!!!


⋯⋯⋯⋯⋯



!!!!



⋯⋯⋯⋯⋯
その夜、風神ハルカは、バルファーニーはおろかシャーラン地域、のみならず山岳地帯、中国国境にまで熱烈な影響を与えたのだった⋯。


バカン「そ!そんな⋯」