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平成土葬狂想曲

    〈声の力〉

     倕刻になった。倏至たで間がなく、ただ倖は薄明るい黄昏時だ。
    「芳音講、頭者、銬枕セツ子参りたした」
     匵りのある声で、本堂ぞの扉の前に女性が立っおいた。その埌ろに人を超えるほどの女性ず男性が名ほど、手に手に鈎や倪錓などを持っお立っおいた。济衣のような癜地の服を着おいる。
     座棺を䞭心に本堂の壁たで䞊ぶず、男性陣が鉊ず倪錓で拍子を取り出した。続いお、銬枕さんの声が本堂に響き枡る。
    「補陀萜や 岞打぀波は 䞉熊野の」
     他の女性たちが続く。
    「那智のお山に ひびく滝接瀬」
     䞀斉に手にした鈎を鳎らす。ぎったりずタむミングがあっおいお、たるで倧きなリンを鳎らしたかのようだ。
     これを合図に、通倜が始たった。真野の土葬では、僧䟶は導垫ずしお参加しない。もちろん、お寺の本堂を借りさせおもらっおいるので通倜に参加しないわけではないが、あくたで今倜の䞻圹は六斎念仏を唱える芳音講の皆さんだ。
    「なぁむぅわぁみぃだぁぶぅぅ」
     堂がぐわんず揺らいだ気がした。数名の声の力が束ねられるず、力ずなる。その力は、今晩はわが父を悌むためにのみ䜿われおいるのだ。
     続けお、倪錓が激しく打ち鳎らされた。念仏の声を䞊曞きするように、鉊も激しくかき鳎らされる。六斎念仏は、鎮魂歌だず蚀われる。
     念仏がフェヌドアりトする。
     しばらくするず、鉊の音が小さくなっお、再床念仏の声が聞こえだした。
    「摂取䞍捚の光明は」
     枯れない声で、銬枕さんが唱えるず、皆が付き埓う。
    「はぁ念ずる凊を照らしたもう 芳音勢至の来迎は 声を尋ねお迎えたもう」
     阿匥陀来迎の和讃だ。次の和讃ぞ行くたでに「なんたいだ」ずいう念仏が繰り返される。続いおお別れ和讃、極楜和讃など䞀時間半にわたっお芋事な通倜の回向が行われる。その間、匔問客は倚くはないものの途切れずに蚪れた。父ず地元の関係がうっすら感じられる通倜になった。 

    〈野蟺送りの颚景〉

     翌日、導垫ずしお立った䜏職が葬列の皆に先立っお本堂の前で皆に声をかけた。老県鏡をかけ、手元の葬列の圹付け衚に目を萜ずしおる。
    「これから、サンマむ寺院の墓地ぞ向かいたす。申し䞊げる順番を守っおください。先頭は、先束明。これは、子安さんお願いできたすか。本来なら故人のご兄匟なのですが、どなたもいらっしゃいたせんので、喪䞻様のご兄匟ず蚀うこずで」
     先頭に静かに出たのは、叔父だった。珍しく裃を぀けおうやうやしく青竹を束ねた束明を持っおいる。こういう死出の野蟺送りの時の束明には火を点けないのが䞀般的なのだそうだ。
     寺を出発しお行く先がたた寺ずいうのも奇異に思えるが、そもそも土葬の受け入れ先は倚くはない。光界寺さんは火葬墓地のみで、土葬の堎所たで、故人を運んでいくのだ。䜏職が続ける。
    「続いお食べ物の䟛物をささげる盧持ろうじ、そしお幡名ず花茪  」
     花や䟛物に続いお、写真、䜍牌、提灯。そしおようやく座棺を運ぶ茿の登堎だ。茿には倩蓋が掛けられ、それを支える人が䞀人ず、蝋燭を本ず぀運び、山門の䞡脇に蚈本の灯を立おる六道が続く。
     私は、䜍牌を持぀係を仰せ぀かる。䜍牌には、昚日玙で䜜った䜍牌筒がかぶせられおおり、父芪の戒名は虫食いになっおずころどころしか芋えない。そうするこずがどのように死者を悌むこずになるのか、もう誰にも分からない。もちろん仏教の様匏でもない。
     説明をしながら、傍に来た䜏職がこうささやく。
    「本圓は、芪父さんをここから墓地たで運ぶ、茿を皌ぐ圹をしおやりたかった。しかし、儂は儂の圹割を党うするこずにするわ」
     そう蚀っお少しだけ衚情を緩めた。䜏職は皆に䞊び順の説明を終えお、列の埌ろの方ぞ向かう。先ほどの六道の埌ろだ。葬列の調敎を行っおいるようだ。
    「倧倉でしょう」
     䞉床猫田だ。倉なタむミングで声をかけおくる。そのたた、蚀葉を継いだ。
    「昔の村萜では、こうしお力を合わせお死者を送り出したのです。今の、亡くなった埌、葬儀瀟に枡しっぱなしず蚀うのではなく。
     私は、葬儀をお手䌝いする者ずしおやはり倧倉な土葬はお勧めしたせん。しかし、猪飌様ぞはいらぬご忠告でした。葬儀屋の仕事は土葬の堎合ここたでです」
     䜏職がここでひずきわ倧きく経を䞊げた。どうやら野蟺送りの葬列ができたようだ。振り返るず、猫田はいなかった。
     ひずしきり経文が進むず、先頭の叔父に小さくうなずいた。しめやかに野蟺送りの葬列が土葬墓地ぞず歩み始めた。
     土葬墓地ぞず続くのは、各々が䟛物をもった葬列だ。䟛物の倚くは玙補であり、父の死去埌に猫田の指導もあっお皆で䜜ったものだ。
     導垫である牛蟌䜏職の埌には、昚日の銬枕さん率いる芳音講の女性たち、そしお今回の葬列では圹に就けなかった芪族が続く。
     サンマむ墓地は、小高い䞘の途䞭にある。そこぞの葬匏道を葬列は進む。導垫の経に合わせお皆が「南無阿匥陀仏」ず唱和し、手に持った線銙からの煙がたなびいた。山ぞの入り口には、六䜓の地蔵が䞊べられおいる。瓊葺の小さなお堂の䞭だ。山頂ぞ向かう途䞭には、土葬の墓地が䞊ぶ。うちの䞀぀は倧きく二メヌトルほどの穎が掘られおいた。数刻埌に芪父はここぞ眠るのだ。
     䞘の頂䞊には、土葬ぞ向かう死者ぞ匕導を枡す韕前堂がんぜんどうがあった。茿を担いできた芪戚が、堂の前にある石でできた蓮華台の呚りを時蚈回りに呚回る。その䞊で蓮華台に座棺を眮いた。
     続いおきた葬列が、持っおきたものを手に手に食り立おる。皆が睡眠時間を削っお䜜った玙现工もここで䞀床棺桶を食り立おる䟛物ずなる。

    〈匕導〉

     䜏職が、座棺に正察しお立った。父芪ず同い歳ずいうのに背筋がピンず匵っおいる。最初の束明の次を歩いおいた嚘の文己から朚補の小さな鍬を受け取り、棺の方に投げた。これが匕導の儀匏の始たりのようだ。続いお、野蟺送りの道䞭で私の二人前を歩いおいた女性が持぀四花のうち本が手枡された。四花ず呌ばれる朚の棒には切れ蟌みを入れた半玙が花匁のように付けられおおり、たるで倧きな玙でできた枝を持っおいるようだ。日本䞭で甚いられた葬匏甚具で、土葬のみに䜿うものではないそうである。
     右手に噚甚に本持った䜏職は倧きく時蚈回りに回すず、本を自分ず棺桶の間に萜ずした。残りの本を持ちながら、長い経のようなものを唱え始めた。いや、経ではない、もはや呪文のような文蚀で匕導を枡しおいる。分、分ほどたっお、倧きく息を吞い蟌むず、
    「カヌッ」
     犅宗の䞀喝のような倧声が響き枡った。すぐさた右手の四花を投げた。
    これで、匕導の儀匏は終わりのようだった。
    「儂の仕事はここたでや。この埌、途䞭で通っおきた埋葬地に皆で行っお埋葬しおやっおくれ。ここからは、浄土宗の僧䟶ではなく、うたい手の出番だ」
     ゆるゆるずした坂をさっきず同じ葬列を組んで降りる。違いは、ここたでは䜏職の念仏だったのだが、今は、鉊ず倪錓ず六斎念仏が流れおいるこずだ。ものの10分ほどで、今朝掘り返したばかりの墓穎に着いた。皆で埋葬しお、卒塔婆を立おる。
     墓の呚りには、盛物现工が䞊べられた。
     六斎念仏の音声おんじょうがひずきわ倧きく流れた。

    〈土葬にしおくれ〉

     儀匏が終わり、実家に戻るず子安の叔父も来おいお物干し竿を立おようずしおいた。慌おお支える。
    「叔父さん、どうしたんですか」
    「いや、あんたり久しぶりでな、䞉日干しを忘れおおったんや」
     家の䞭から、父芪が入院の時に来おいた肌襊袢ず股匕を持っお母が出おきた。叔父の蚀うようにメヌトルほどもある物干し竿に短い竹を十字に括り付けようずしおいる。
    「母さん、それどうするの」
     近くで芋るず、本圓に䞀昚日たで身に぀けおいたもののようだ。
    「ええねん、ええねん。これに括り付けお䞉日間干しお、サンマむ墓地で葬具ず䞀緒に燃やすんや。これも叀くからのしきたり」
     そのたた竿を括り付けたずころで母の代わりに叔父が答えた。心なしか、母の顔もすっきりした颚にも芋える。䞡目は赀いたただが。
    「お父さんの土葬が、真野で最埌になるのかしら」
    「もしかするず、近畿どころじゃなく日本で最埌かもしれんぞ。䜕しろ、曞類を通すのも䞀苊劎だったし、儀匏も䟛物もし぀らえも廃れ぀぀ある。いや、もう廃れずった」
    叔父の蚀葉に、母がほんの少しだけ口角を䞊げた。
    「あの人の最埌の願いがかなえられおよかった」
     
    その足で原付を飛ばしお、堅田駅前の居酒屋・村さ来に向かう。我々のような安サラリヌマンにも優しいチェヌン居酒屋が、ここのずころ増えおきたようにも思う。
    い぀もの垭に、兌近が座っおいた。粟進萜ずしずいうほどでもないが、瀌も兌ねおいる。
    「寅雄は」
    「ただや、今日の野蟺送りは、芪父さんも来おくれおいたみたいで、いったん実家に送っおから来るみたいやで」
    「そりゃありがたいが、芪父さんも随分な歳だろう」
    寅雄は、䞉人姉匟の末っ子なのだ。
    䜕も頌んでいないのに、生ビヌルが二぀運ばれおきた。い぀もながら、こういう手回しは良い。也杯しおから蚀う。
    「この砎戒僧が」
    「こい぀は般若湯だから、倧䞈倫なんや」
    「それにしおも、土葬は倧倉やったな。実の芪じゃなければやり通せなかった」
    「俺も土葬は、通しでやるのは正盎初めおや。䜏職も火葬の方がよほど倚いず蚀うおたわ」
    「遅くなっおすんたせん」
    寅雄が汗だくで駆け付けた。
    「寅雄、遅いぞ。たぁ、今日はいろいろ手䌝っおもらっお悪かった。䜕でも奜きなものを食え  」
    「隆兄ィ、今日父芪も葬列に参加しおいたんだが、ずおも良い野蟺送りだったず  」
    「ありがずう。いろいろ皆で苊劎した甲斐があった。最埌の土葬で芪父も本望だろう」
    倧きくかぶりを振っお寅雄が蚀う。
    「いや、芪父が頌むんや、『俺も土葬にしおくれ』っお」

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