
「季節」をいただく〜初めての花ズッキーニ〜
私は料理があまり得意ではない。というか、好きではない。
食べることは大好きなのに、極度のめんどくさがり屋なのだ。
オクラを板ずりすることですら「めんどうだ……」と心がひるむ。
お菓子づくりに挑戦すればなぜか失敗するし、憧れの「せいろ」も、カビないよう手入れが必要だと聞いて「自分には到底扱えない」と諦めた。
「時間をかけて丁寧に」「食べたことのない未知の食材」には、最初から手を出さないのが私の鉄則だった。
そんな私が、36年の人生で初めて食べて、感動した食材がある。
それが「花ズッキーニ」だ。
先日、主人が野菜を頂いてきた。
「ズッキーニの花だって、食べられるらしいよ。よろしく。」
と言われて手渡されたが、初めて見るその姿に、ただただ圧倒されてしまった。
花を食べるだと…?
この繊細な黄色い花びらを食べるのか、それとも下にくっついている実になりかけの緑の部分を食べるのか。
そもそも、これは本当にズッキーニなのだろうか。
困り果てた私は、主人よりも頼れる相談相手であるGeminiに、写真を添えて泣きついた。
『花ズッキーニ。ズッキーニの実が大きくなる前の、花がついた状態の希少な夏野菜です』
画面の向こうの相棒は、「食べれるらしいよ、あとはよろしく」なんて言わずに優しく教えてくれた。
花びらは破れやすいのでボウルに溜めた水でそっと洗うこと。
苦味のあるめしべは丁寧に取り除くこと。
現地イタリアでは、花の中にチーズを詰めてフリットにするのが定番であること。
そして、『花の部分にはほのかな甘みがあり……』という一節に、私の好奇心が小さく跳ねた。
一体、どんな味がするのだろう。
私はあえてチーズは入れず、素材そのものを味わうことにした。
薄く天ぷら粉をまぶし、熱した油の中へそっと滑り込ませる。
それにしても、なかなか大きい。
小さな揚げ物鍋を、一本の花ズッキーニがゆうゆうと占領している。
まるで花ズッキーニがお風呂に浸かっているようだ、と急に絵本に出てきそうな想像力がはたらいてしまい、なんだか面白くなってきた。
「今だ!」という直感を信じて、油のお風呂から引き上げる。
花びらを壊さないよう、慎重に。
まずは何もつけずに、一口。
サクッとした薄衣の向こうで、花の部分からお米のようなふんわりとした優しい甘みが広がった。
クセがなくて、上品だ。
身の部分はホクホクとしている。
なるほど、これは塩がよく合う。
そして確信する。これにチーズを閉じ込めて揚げたら、絶対に美味しい。
日本酒との相性も良さそうだ。
冷やした大信州の「夏のさらさら」を合わせたら、もう最高だろう。
想像をはるかに超える美味しさは、私の頑なな「料理の守備範囲」を壊していった。
いつもなら素通りしていた、今しか出会えない季節の食材。
それに向き合う時間は、思ったよりも楽しく、準備から食べるまでが「食を楽しむ」時間だった。
オクラもちゃんと板ずりして美味しくいただこう。
スーパーで見かけた瑞々しい赤紫蘇の束も、次はカゴに入れてみようか。
紫蘇ジュース、私にも作れるだろうか。
ジュースにした後の紫蘇をふりかけにすると美味しいと聞いたことがある。
ほんの少しの手間を惜しまず、今しかないこの季節を、いつもより丁寧に味わいたい。
花ズッキーニが教えてくれた食の楽しさは、私の好奇心とキッチンを少しだけ楽しく、鮮やかに変えてくれたような気がしている。