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働く私たち。と、恋の話。|#01|「新田くんの歴代の彼女って、美人な人ばっかりだったんだって。」前編

    「新田くんの歴代の彼女って、美人な人ばっかりだったんだって。」
    そう言ったのは、更衣室で前髪を巻き直していた真由だった。
    私はロッカーの鏡に映る自分の顔を見ながら、「ふうん」とだけ返した。

    美人、の定義ってなんだろう。
    目が大きいとか、スタイルがいいとか、笑うとえくぼができるとか。
    少なくとも私は、そのどれにも当てはまらない。

    学生時代に辛いフラれ方をして以来、恋愛の主役になるのはいつも別の誰かだった。


    新田くん…新田昴にったすばるは、同じ部署で、三つ隣の席。
    資料を渡すときに「ありがとう」と目を見て言う人で、それだけで胸に小さな灯りがともる人だった。

    先週から、“新田くんの歴代の彼女は美人ばかり”という噂が、給湯室や更衣室で囁かれていた。

    その噂だけが一人歩きして、本人はいつも静かだった。


    ある水曜日、終業間際に声をかけられた。

    「白石さん、今日この後予定ありますか?
     ご飯行きませんか?」

    一瞬、息が止まりそうになった。

    声をかけてきたのは噂の新田昴。

    今日は週一度のノー残業デー。

    「はい、いいですよ。」
    予定もない。
    断る理由もない。

    きっと特別な意味なんてない。

    そう思い込みながら、私はうなずいた。

    手早くデスク周りを片付けて、退勤打刻。
    更衣室をそそくさと出ていく。

    オフィスを出たエレベーター前で、彼は待っていた。

    「急にごめんね、行こうか」

    どうやら店は決まっているようだ。

    歩きながら話すのは他愛のない話。
    仕事のことだったり、上司の口癖だったり…

    2人でいるところを同じ会社の人に見られたら、どう思われるんだろう…。
    胸の内側で、心臓だけが少し早足なまま店に着いた。

    連れて行かれたのは洒落た店でも夜景の見える場所でもなく、駅前の古い喫茶店だった。
    穴場なのか、すぐに案内された。

    「ここ、夜はメニュー少なめだけどディナーセットもやってるんですよ。安くて美味い。」

    メニューを見ていると、新田が急に言った。

    「白石さん、僕の噂、聞いてますよね」

    持っていたお冷がグラスからこぼれそうになる。

    彼の目がまっすぐ私の瞳を見ていた。

     
     
    趣味で小説を書き始めました。 働く女性のこと、コンプレックスのこと、恋愛のこと。 生きていく中にある、ささやかな感情や出来事を物語にしています。 少しの共感や、静かな余韻が残るような作品を 書いていけたらと思っています。 読んでもらえたら嬉しいです。

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