不登校の子が理由を言わないのは、隠しているからではない #198
「何がつらいの?」と聞くほど、黙ってしまうわけ
秋の、ある夜でした。
家で、息子に聞きました。
「何がつらいの?」
息子は、
表情ひとつ変えずに、
淡々と言いました。
「……分からない。」
その声には、
怒りも、
ふてくされた感じも、
ありませんでした。
だから、焦りました。
ああ、これは本心だ。
本当に、分からないんだ。
隠しているなら、まだいい。
聞き方を変えれば、いつか出てくる。
でも、
本人にも分からないのなら..。
……分からないじゃないか。
私にも、もう、分からないじゃないか。
胸の奥が、
すうっと冷たくなりました。
もし、あなたも、
あの無表情の「分からない」を
見たことがあるなら。
その夜は、
胸の奥がざわついたまま、
うまく眠れなかったかもしれません。
心配で、焦って、
少しだけ腹も立って。
そして、腹を立てた自分に、また落ち込む。
その全部を、
私も通ってきました。
この話は、3回に分けて書きます。
今回は、子どもが理由を言わない。
いえ、言えないわけについてです。
原因が分からないと、何もできない父
私は技術者です。
仕事では、
問題が起きたら
原因を突き止めて、対策を打つ。
それで、何度も前に進んできました。
技術者にとって、
いちばん怖い言葉は「原因不明」です。
その「原因不明」が、
よりにもよって、自分の家で起きました。
だから、聞きました。
「何があった?」
「分からないって、どういうこと?」
「一番いやなのは何?」
気づけば、わが家は取調室。
カツ丼は、出していません。
聞くほど、息子の顔は固くなる。
やがて家の中で、
息子に避けられているのが分かりました。
同じ家にいるのに、遠い。
妻も、お手上げでした。
家の中に、お手上げの大人が二人。
このまま、
解決策が見えないのではないか。
このまま、
息子の人生まで
止まってしまうのではないか。
夜が更けるほど、
その考えは大きくなっていきました。
夜中に、心配で目が覚める。
心臓が、バクバクしている。
天井を見ながら、
答えの出ない会議を、
一人で続けていました。
なぜ、子どもは理由を言えないのか
今なら、
少し分かります。
息子は、
隠していたのではありません。
一つは、
本当に、
本人にも分からないことがあるからです。
苦しさが大きすぎると、
それは言葉になる前の、
もやもやした塊のままです。
教室の音、人の目、授業、朝の重さ。
小さな負担がいくつも重なっていると、
「一番の理由」なんて、本人にも選べません。
あの淡々とした無表情も、
平気だったからではなく、
感じる力さえ、
すり減っていたのかもしれません。
(発達特性があると、
気持ちを言葉にするのに、
さらに時間がかかることもあります。
詳しくは#170に書きました)
もう一つは、
言えば、
大ごとになりそうだからです。
子どもは、
親の顔をよく見ています。
焦りがにじんだ父親の顔を見て、
本当のことを言えるでしょうか。
息子が私を避けていたのは、
嫌っていたからではなく、
また質問が始まるのが、
怖かったからなのかもしれません。
私が、言えなかった一言
ここからは、
あまり書きたくなかった話です。
高校1年の10月。
息子は英語の授業で立たされ、
皆の前で、
繰り返し叱られたことがありました。
帰国子女の息子にとって、英語は、
いちばん安心して受けられる授業だったはずです。
その安心が、
皆の前で責められる時間に変わった。
きっかけらしい出来事は、分かっていたんです。
それなのに私は、
「どうすれば学校へ戻れるか」ばかり
考えていました。
本当は、最初に言うべき一言がありました。
「それは、つらかったな」
言えませんでした。
息子が
それほど傷ついていると認めたら、
父親の私にも、
すぐにはどうにもできない。
それが分かってしまうのが、
怖かったのだと思います。
息子のつらさを
見ないことで、
自分の無力さを、
見ないようにしていたのです。
もし、
あなたも、
「つらかったね」が
言えなかったとしても。
それは、
冷たいからではありません。
認めるのが怖いほど、
子どものことを大事に思っているからです。
お手上げの親にも、できること
だから、あなたに伝えたいのです。
理由を聞くこと自体が、
悪いわけではありません。
ただ、出てこなければ、今日はそこまで。
その代わりに、
「今は、話せなくても大丈夫だよ」
「理由が分からなくても、
しんどいのは本当なんだよね」
「それは、つらかったね」
答えを求めない言葉を、
置いてみてください。
もし子どもが、
ぽつりと話し始めたら、
途中で解決策を出さず、
最後まで聞いてみてください。
「それで?」より、
「そうだったんだ」。
眠れない、食べられない、体の不調が続く。
いじめなど、安全に関わる心配がある。
そんなときは、理由がはっきりしなくても、
学校や医療機関、相談窓口につないでください。
お手上げでも、
いいんです..。
あの秋の夜、
わが家にいたのは、
お手上げの大人二人でした。
それから何年もたって、
今では、息子と二人で
酒を飲みに行くこともあります。
解決策が見えない夜も、
子どもの隣には、いられます。
「分からない」は、
子どもが今出せる、
精いっぱいの答えなのかもしれません。
次回は、
きっかけが分かっていても、
学校に戻れない子の話です。
私が「名前を書くだけなのに」と
思ってしまった日のことを、書きます。
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