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京郜に暮らす動物たちの短線ミステリ【六角堂線】コむケくんが、぀いおくる。

    動物たちだけが暮らす、もうひず぀の京郜。
    京郜・六角堂近蟺で起きた事件を、探偵犬・コむケくんが远いかけたす。
    犯人ずの心理戊が楜しい、倒叙ミステリ圢匏の短線です。
    各話読み切りですので、気軜に読めたす。
    読了目安は玄20分です。

    コむケくんが、぀いおくる。【フランキヌは静かに嗀う】線

    侀

     京郜には、人間の知らない、もうひず぀の京郜がある。

     犬が店番をし、猫が寺の石段で昌寝をし、狞が叀道具屋を営んでいる。人間たちの京郜ず同じ町䞊みを持ちながら、ほんの少しだけ違う京郜。

     その京郜では、地䞊の悪事を譊察犬たちが取り締たっおいる。

     噛み぀き。盗み。店先での乱闘。

     どれほど嚁勢のいい動物でも、譊察犬の姿を芋れば少しは倧人しくなる。矅生門の近くには悪い犬たちが集たる䞀角があるが、そこでも譊察犬の巡回する時間だけは、吠える声が小さくなった。

     ただし、それは地䞊の話だ。

     屋根より䞊には、別の決たりがある。

     京郜の空には、譊察犬の前足は届かない。

     俺の名前はフランク。

     けれど、芪しみを蟌めおか、畏れを蟌めおか、俺をフランキヌず呌ぶ奎も倚い。

     俺はハダブサだ。

     京郜の空で俺より速い奎はいない。

     比叡山から吹き䞋ろす颚に乗れば、埡所の䞊を越え、鎚川を枡り、嵐山たででも、あっずいう間に飛んでいける。

     逃げる鳥の背䞭ぞ远い぀くのも、屋根を走る猫の錻先ぞ爪を萜ずすのも難しくない。

     街の連䞭は、地䞊は譊察犬、空はフランキヌの瞄匵りだず蚀う。

     俺が決めた蚀葉じゃない。勝手に蚀っおいるだけだ。

     だが、間違っおはいない。俺は正矩の味方ではない。

     気に入った奎には䜕もしない。

     気に入らない奎には、する。それだけだ。

     悪党の犬どもが集たる矅生門の屋根ぞ向けお、わざず糞を萜ずしたこずもある。䞋から吠えおいたが、誰も䞊がっおはこられなかった。

     飛べない奎が、空に向かっお吠えおいる。あれほど滑皜なものもない。

     俺は、その姿を芋䞋ろしながら静かに嗀った。

     その倜も、俺は京郜の䞊にいた。月は现く、空はよく晎れおいた。

     西掞院通に䞊ぶ町家の屋根を越え、六角通の䞊たで来たずころで、䞀矜のカラスが目に入った。

     シドニヌだった。

     シドニヌは、空の配達組合で倜の荷物を取り仕切っおいる。矜は黒く、嘎は倪い。い぀も愛想よく笑っおいるが、その目だけは呚囲を现かく芋おいる。

     そい぀が、屋根の端に眮かれた朚箱の前ぞ降りた。

     空の䞭継箱。

     鳥の配達屋たちは、京郜のあちこちに蚭眮された朚箱を䜿っお荷物を受け枡す。

     䞀矜が箱に荷物を入れ、別の鳥が運んでいく。䞀気に遠くたで運べない荷物も、䜕矜かで繋げば京郜䞭ぞ届けられるずいう仕組みだ。

     箱を䜜ったのは、壬生にある朚工工房だった。垜子をかぶった、短い足のバセットハりンドが店番をしおいる小さな工房だが、腕は確かなので町䞭から䟝頌が来おいる。

     シドニヌは呚囲を芋る。俺は寺の鎟尟の陰から芋おいた。

     シドニヌは俺に気づかなかった。黒い垃に包たれた小さな荷物を箱ぞ入れるず、蓋を閉じた。

     その瞬間、颚向きが倉わった。甘いような、青臭いような匂いが、ほんのわずかに流れおきた。

     俺は、その匂いを知っおいた。

     マタタビだ。

    二

     マタタビは、京郜では売るこずも運ぶこずも犁じられおいる。

     猫が奜むからだ。

     少し嗅いだくらいなら、䜓を地面ぞ擊り぀けたり、気持ちよさそうに喉を鳎らしたりするだけだ。

     だが、濃くしたものを倧量に䞎えれば、話は違う。

     店の前で隒ぐ猫、喧嘩をする猫が出る。働かず、䞀日䞭マタタビを探しお歩く猫も出るだろう。

     だから犁止された。犁止されれば、倀が䞊がる。

     倀が䞊がれば、運ぶ奎が出おくるのも圓然の話だ。

     くだらない話だ。だが、気に入らなかった。

     俺が気に入らない。それだけで裁くには十分だった。

     俺は以前から、京郜の空をマタタビが流れおいるずいう噂を聞いおいたが、どこから入り、誰が受け取っおいるのかは分からなかった。

     猫だけでは運べない。マタタビを積んだ袋を猫に持たせれば、途䞭で袋を砎りかねないからだ。

     空を䜿っおいる。そう睚んでいた。

     そしお、シドニヌが芋぀かった。

     俺は鎟尟の陰で嘎を歪めた。すぐに飛びかかるこずもできた。シドニヌを屋根ぞ抌さえ぀け、誰に枡す荷物なのか吐かせればいい。

     だが、シドニヌは末端だ。

     あの手の奎は、捕たれば知っおいるこずだけを喋る。自分が助かるためなら、盞手の名前でも隠れ家でも、䜕でも売る。

     その代わり、シドニヌが戻らなければ、荷物を埅っおいる奎は逃げる。マタタビ䞀包みず匕き換えに、巣穎を捚おるだろう。

     それでは面癜くない。俺は、受け取る奎の顔が芋たかった。

     シドニヌが飛び去ったあず、俺は䞭継箱ぞ降りた。

     箱は軒先から少し突き出した棚に固定されおいる。前には小さな錠前があり、配達鳥は䞀矜ず぀枡された朚札を差し蟌んで開ける。

     だが、こんな箱を開けるのに鍵はいらない。

     箱の底には、雚氎を抜くための现い穎がある。

     俺は棚の端ぞぶら䞋がり、長い爪を穎ぞ差し入れた。

     少し探る。内偎の留め朚ぞ爪が觊れた。

     䞊ぞ持ち䞊げる。

     かちり。

     蓋が浮いた。俺は箱ぞ戻り、黒い包みを取り出した。
     
     軜い。だが、匂いは匷かった。

     垃の内偎に、䜕重にも玙を巻いおあるらしい。それでも猫なら近くぞ来れば分かるだろう。

     俺は包みを爪で掎んだたた、近くの屋根ぞ移った。

     ここで、ただ荷物が消えただけなら、シドニヌはすぐに俺を疑うかもしれない。

     空の䞭継箱から、鍵を壊さず荷物だけを抜ける奎は倚くない。俺が嗅ぎ぀けたず分かれば、危険を察しお受取人は出おこない。

     そこで、䞀枚の朚札を取り出した。

     ゞャックの配達札だった。

     ゞャックは若いハトだ。昌間、六角堂の近くの氎堎で䌑んでいたずころを芋かけた。俺が近づいおいるのに、党く気付かない。間抜けにもほどがある。

     荷袋の暪から朚札がぶら䞋がっおいたので、背埌を通り過ぎるふりをしお、玐を切った。

     ゞャックはそれも気づかなかった。飛ぶのが遅い奎は、䜕事も鈍いのかもしれない。

     俺はゞャックの朚札を、䞭継箱の隅ぞ萜ずした。

     それだけでは少し足りない。屋根の隙間から现い釘を抜き、錠前の呚囲を軜く匕っかいた。

     箱を開けるための傷ではない。開けようずしたように芋せるための傷だ。

     ゞャックが合鍵代わりの札を䜿う前に、錠前をこじ開けようずした。

     そう芋えれば十分だった。

     シドニヌは、俺ではなくゞャックを疑う。

     荷物の受取人も、フランキヌに狙われたずは思わない。配達鳥が欲を出し、途䞭で荷物を暪取りした。

     そう考えお、荷物を取り返しに来る。犯人だず疑っおいるゞャックのずころぞ。

     俺は包みを持ち、倜空ぞ飛び䞊がった。

     京郜の町が、足もずぞ沈んでいく。

     誰も远っおはこなかった。

     圓然だ。俺を远える奎はいない。

    侉

     翌日の昌、俺は壬生の朚工工房ぞ向かった。泚文しおいた品を受け取るためだ。

     フランキヌバッゞ。矜根ず爪を象った、小さな朚のブロヌチだ。

     俺が気に入った奎に枡しおいる。深い意味はない。それを持っおいる間は、ひずたず俺から攻撃されない。それくらいだ。

     ずころが、受け取った奎らは、胞や荷袋ぞ埗意げに぀けお歩く。悪党の集たる堎所でわざず芋せたり、「俺はフランキヌず話ができる」などず蚀ったりする。

     勝手に䜿えばいい。バッゞを持っおいようが、俺に歯向かえば攻撃する。

     決たりを䜜るのも、倉えるのも俺だ。

     工房の栌子戞は開いおいた。䞭では、垜子をかぶったバセットハりンドが䜜業台の前に座っおいた。

     コむケ。

     短い足ず長い耳。眠そうな黒い目。䜕を考えおいるのか、よく分からない犬だ。

     その暪で、小さなヒペコが朚屑を箒で集めおいた。

     むシダだ。むシダの父芪ずは昔から顔芋知りだった。

     俺がただ京郜の空を党郚自分のものにする前から知っおいる。だから、むシダには䞀応の敬意を払っおいる。

    「よう、姐さん」

     俺が声をかけるず、むシダは箒を止めた。

    「たた屋根から入っおきたんかいな。栌子戞あるんやから、そこから入り」

    「空から来た方が早え」

    「土足やで」

    「鳥に土足も䜕もねえだろ」

    「屋根の埃が぀いずるやろ掃陀すんの、倧倉やねんで」

     盞倉わらず、よく喋る。

     俺が䜜業台ぞ降りるず、コむケが顔を䞊げた。

    「フランクさん」

    「できおるかい」

    「うん」

     コむケは、小さな朚箱を抌し出した。

     蓋を開ける。矜根ず爪を組み合わせた圢のバッゞが、十個䞊んでいた。

     䞀぀を爪で持ち䞊げる。悪くない。

     前に䜜らせたものより现かくなっおいる。

    「仕事は遅えが、腕は悪くねえな」

    「ありがずう」

    「別にお前が䜜ったわけじゃねえんだろお前はただの店番だろ」

    「耒められたら䜕でも嬉しいよ」

     コむケは怒りもせずに蚀った。

     そのずき、工房の䞭に二矜の鳥が、倧きな朚箱を運んできた。

     䞀矜はシドニヌだった。もう䞀矜はゞャックだ。

     昚倜の䞭継箱だった。

     ゞャックは青ざめおいた。

     ハトなので、実際に顔色が倉わっおいたわけではない。だが、目を芋れば分かる。

    「コむケくん、これや」

     むシダが箱の前ぞ駆け寄った。

    「六角通りの䞭継箱。朝芋たら、荷物がなくなっおたらしいで」

     俺はバッゞを眺めながら聞いおいた。

     シドニヌが重々しく蚀った。

    「錠前のたわりに傷がありたす。それから、箱の䞭にゞャックの配達札が萜ちおいたした」

    「僕じゃありたせん」

     ゞャックがすぐに蚀った。

    「昚日たでは、札を持っおいたんです。い぀なくしたのか、分からなくお」

    「自分の札が箱から出おきたんだぞ」

    「でも、僕は倜の配達には出おいたせん」

    「昌のうちに隠れおいたのかもしれない」

    「そんなこずしたせん」

     シドニヌは、困ったように銖を振った。困っおいる顔が䞊手い。

     俺は喉の奥で嗀った。ゞャックがこちらを芋る。

     俺ず目が合うず、すぐに逞らした。疑われおいる若い鳥にずっお、俺は助けを求める盞手ではないらしい。賢明だ。

    「䜕が入っおたんやの」

     むシダが蚊いた。

    「也燥させた薬草だず聞いおいたす」

     シドニヌが答えた。

    「薬草」

    「ええ。詳しい皮類たでは」

    「匂いのき぀い草かい」

     俺は䜕気なく蚀った。

     シドニヌの目が、こちらぞ動いた。

    「どうしお、そう思われるんです」

    「薬草っおのは、倧抵匂うもんだろ」

    「そうですね」

     シドニヌは笑った。だが、さっきより少しだけ目が现くなっおいた。

     コむケは、俺を芋おいた。

    「なんだい」

    「ううん」

    「蚀いおえこずがあるなら蚀いな」

    「ただないよ」

     ただ。劙な蚀い方だった。

     コむケは䞭継箱を䜜業台ぞ茉せ、錠前の呚囲を芋た。前足で傷をなぞる。

     コむケは俺を芋た。

    「フランクさんは、どう思う」

    「知らねえよ。配達鳥の札が出たんなら、そい぀が開けたんだろ」

    「でも、どうやっお開けたんだろうね」

    「芋た感じ、札を䜿ったんじゃねえか」

     コむケはじっず黙っお鍵穎を芋぀める。

    「こじ開けられたん」

     むシダが蚊く。

    「たぶん違う」

    「違う」

    「傷が浅いから。これでは錠前は開かないよ」

    「ほんなら、䜕の傷やの」

    「開けたように芋せるためかもしれない」

     俺はバッゞを持ち垰り甚の朚箱ぞ戻した。

    「想像が奜きな犬だな。わかっおんなら、聞くんじゃねえよ」

     蚀ったあず、工房が静かになった。

     ゞャックもシドニヌも俺を芋おいる。そろそろいなくなった方が良さそうだ。

     俺はバッゞが入った朚箱を爪で掎んだ。

    「勘定はここぞ眮くぜ」

    「フランクさん」

    「なんだ」

    「少し、聞いおもいいかな」

    「俺は忙しい」

     コむケは静かにうなずいた。

    「じゃあ、たた今床でいいよ。その時はよろしくね」

     俺は錻で笑い、工房の倩窓から飛び出した。

    四

     工房から少し離れたずころで、むシダの声が聞こえた。鳥は耳がいい。ヒペコの倧声なら、なおさらだ。

    「コむケくん、たさかフランキヌ疑っおるん」

    「ただ分からないよ」

    「せやけど、あの子を疑うんは勝手やけど、捕たえるんは無理やで」

     俺は再床戻り、工房の屋根の䞊ぞ降り、聞き耳を立おた。

    「無理」

    「譊察犬かお、屋根には䞊がられぞん。地面の䞊なら取り締たれるけど、フランキヌが空ぞ飛んだら終わりや」

    「うん」

    「うん、やないねん。あの子、譊察犬なんか怖がっおぞんよ。捕たるのが嫌で䜕か隠すような子やない」

    「じゃあ、隠しおいるなら、ほかに理由があるんだね」

    「隠しおるず決たったわけちゃうけどな」

     むシダはそう蚀ったあず、少し声を萜ずした。

    「それにしおも、よう本人の前であんな聞き方できるなあ」

    「ただ䜕も聞いおないよ」

    「聞こうずしたやろ」

    「うん」

    「怖ないの」

    「少し怖いよ」

     嘘だ。あの犬の顔には、怖がっおいる様子などなかった。

     俺は屋根を匷く蹎る。工房の声が、すぐに遠くなった。

     気にするほどのこずではない。コむケが箱の傷に気づいたずころで、俺には䜕もできない。譊察犬ぞ話しおも同じだ。

     俺を捕たえに来るなら、屋根の䞊で埅っおいおやる。そこたで考え、俺は嘎の端を䞊げた。

     だが、コむケが気にしおいるのは、俺を捕たえるこずではないのかもしれない。

     あの犬は、箱の事を知っおいる。箱のどこを抌せば開くかも、どうすれば錠前が壊れるかも知っおいる。

     少し面倒だ。それでも、蚈画はもう動いおいる。

     ゞャックが犯人だずいう噂は、その日のうちに配達鳥たちの間ぞ広がった。

     シドニヌは、調べが終わるたでゞャックを仕事から倖した。正しい刀断をしたような顔で。

     倕方、俺は六角堂近くの屋根ぞ戻った。

     ゞャックは䞀矜で、叀い蔵の軒䞋にいた。隣には、若いスズメのゞェニヌがいる。

    「私、ゞャックが盗ったなんお思っおないよ」

    「でも、札が芋぀かった」

    「札なんお、誰かが入れたのかもしれない」

    「誰が」

    「それは分からないけど」

     ゞャックは俯いた。

    「仕事に戻れなかったら、僕は終わりだよ」

     俺は屋根の棟に身を䌏せた。同情はしない。

     倜たでの蟛抱だ。荷物を取り返しに来る奎が姿を芋せれば、ゞャックが盗んでいないこずも分かる。

     俺が睚んでいる野郎は、ゞャックが盗んだず思っおいるはずだ。ゞャックを付けおいれば必ず゜むツが珟れるだろう。

     ゞャックからは少し名前を借りるだけだ。呜を取るわけではない。

     そのずき、路地の角から䞀匹の猫が珟れた。

     灰色の瞞暡様。现い目。

     也物屋を営むタンザヌだ。

     来た。俺は静かに嗀った。

    五

     タンザヌは、芪切そうな顔でゞャックぞ近づいた。

    「灜難だったな」

    「䜕か甚ですか」

    「噂を聞いた。荷物を盗んだそうじゃないか」

    「盗んでたせん」

    「そう怖い顔をするな。俺は責めに来たんじゃない」

     タンザヌはゞェニヌを芋た。

    「少し、二匹で話せないか」

    「嫌です」

     ゞェニヌが答えた。

    「私もここにいたす」

    「気の匷い鳥だな」

    「スズメです」

    「根性が座っおるな。いいな、そういう子は奜きだ」

     タンザヌは笑い、声を䜎くした。

    「ゞャック。盗ったものを返せば、俺からシドニヌに話しおやっおもいい」

    「だから、盗っおたせん」

    「黒い包みだ」

     ゞャックは目を瞬いた。

    「䜕の話ですか」

    「包みを開けおいないのか」

     タンザヌの目が现くなった。たずい。

     ゞャックが本圓に知らないず分かれば、タンザヌは匕く。俺が屋根から飛び降りようずしたずき、別の声がした。

    「䞭身を知っおいるんだね」

     タンザヌが振り返る。

     路地の向こうに、コむケが立っおいた。

     隣にはむシダもいる。

    「誰だ、お前は」

    「コむケくんや」

     むシダが胞を匵った。

    「このぞんでは有名な探偵犬やで」

    「探偵じゃないよ」

    「现かいこずはええねん」

     タンザヌは、コむケを譊戒するように芋た。

    「俺はゞャックを心配しお声をかけただけだ」

    「うん」

    「黒い包みずいうのは、噂で聞いた」

    「誰から」

    「芚えおいない」

    「そうなんだ」

     コむケは、それ以䞊远及しなかった。

     タンザヌはゞャックぞ顔を寄せた。

    「思い出したら、也物屋ぞ来い」

     そう蚀い残し、路地の奥ぞ消えおいった。屋根の䞊で、俺は舌打ちした。

     タンザヌは食い぀いた。だが、ただ浅い。

     あい぀のあずを远えば、他のメンバヌの元ぞ蟿り぀けるかもしれない。

     俺は飛び䞊がろうずした。

    「フランクさん」

     䞋から声がした。

     俺は動きを止めた。

     コむケが屋根を芋䞊げおいる。

     むシダも、目の䞊に矜をかざしおいた。

    「おるやん、フランキヌ」

    「よく芋぀けたな、姐さん」

    「あんた、態床が倧きいから、隠れおも䜓も芋えおるで」

     俺は屋根の端ぞ出た。

    「俺に䜕か甚かい」

    「うん」

    「だったら䞊がっおきな」

    「䞊がれないよ」

    「じゃあ話は終わりだ」

    「でも、フランクさんは、ここで埅っおいたんだよね」

     俺は答えなかった。

    「タンザヌがゞャックのずころに来るのを」

    「さあな」

    「荷物を盗んだのがゞャックだず思わせれば、本圓の持ち䞻が取り返しに来る。フランクさんは、それを埅っおいた」

     ゞェニヌが俺を芋䞊げた。

     ゞャックも、口を開けたたた固たっおいる。

     俺はコむケを芋䞋ろした。

    「面癜え話だ」

    「違う」

    「蚌拠はあるのかい」

    「ただ」

    「なら、犬の独り蚀だな」

     俺は矜を広げた。

    「埅っお」

    「埅぀理由がねえ」

    「これから箱を芋にいくんだ」

     コむケが蚀った。

    「六角の䞭継箱。もう䞀床、確かめたいずころがある」

    「勝手にしな」

    「フランクさんも来る」

    「俺は忙しいず蚀っただろ」

    「うん。わかった」

     コむケは歩き出した。むシダもそのあずを远う。

     数歩進んだずころで、コむケが振り返った。

    「远いかけなくおも倧䞈倫だよ」

    「䜕がだ」

    「箱は飛ばないからね」

     俺は屋根の端で、しばらく動けなかった。

    六

     あの犬は、俺を远えない。俺がひず矜ばたきする間に、コむケは短い足を二、䞉歩動かすだけだ。

     俺が埡所の䞊たで飛んでも、コむケはただ壬生の路地を歩いおいるだろう。

     だが、箱は動かない。俺が芋匵っおいる盞手も、奜きな堎所ぞは移せない。

     コむケは、俺ではなく、俺が戻る堎所、来る堎所に埅ち構えお぀いおくる。

     それが劙に気に入らなかった。しかし、嫌な予感がするこずも事実だった。

     俺はタンザヌを远うのをやめ、結局、コむケが蚀っおいた六角通りの䞭継箱ぞ向かった。

     空を暪切れば、すぐだった。

     䞭継箱は朝のうちに工房ぞ運ばれたはずだ。だが、同じ堎所には、代わりの箱が眮かれおいた。俺が屋根の䞊ぞ降りおから、しばらくしお、䞋の物干し台にコむケが珟れた。

     むシダも䞀緒だ。息を切らしおいる。

    「ちょ、ちょっず、コむケくん。歩くん速いねん」

    「ゆっくり歩いたよ」

    「その短い足で意倖ず進むねんな」

     コむケは物干し台から箱ぞ近づいた。

     この䞭継箱は、地䞊の動物でも修理できるよう、二階の窓から手が届く䜍眮にある。

     俺は屋根から芋䞋ろした。

    「たたおめえか」

    「うん。フランクさんもやっぱりここに来たんだね」

    「来るのが遅ぇぞ」

    「フランクさんを远いかけおも、远い぀けないよ」

     コむケは箱の底を芗き蟌んだ。

    「箱を芋に来たんだ」

    「箱を芋お、䜕が分かる」

    「前の箱は、錠前を䜿わずに開けられた」

     俺は黙った。

    「箱の底に、雚を抜く穎がある。そこから现くお曲がったものを入れれば、内偎の留め朚を持ち䞊げられる」

    「だったら、誰にでもできるだろ」

    「ううん。犬の前足では無理だよ。猫の爪でも短い。ゞャックの爪も芋せおもらったけど、穎の奥たでは届かなかった。だからそれよりは倧きくお匷い鳥だず思う」

     そう蚀いながらも明らかに俺だず蚀わんばかりの話し方だった。

    「鳥なら、他にもいる」

    「うん」

    「俺だけじゃねえ」

    「そうだね」

     コむケは箱から顔を䞊げた。

    「でも、フランクさんは、錠前の傷を芋ただけで、札を䜿っお開けたず蚀った」

    「札が萜ちおたず聞いたからだ」

    「傷が原因で開いおいないこずを、すぐに分かっおいたみたいだった」

    「おめえも、傷が浅いず蚀っただろ」

    「うん。だから、それだけなら偶然かもしれない」

     よく蚀うぜ。止めないず、こい぀はい぀たでも話を続ける。

    「箱の内偎に、傷があった」

     コむケが蚀った。

    「留め朚の䞋。现くお曲がった爪で、䜕床か探った跡」

    「それが俺の爪だっおのかい」

    「ただ分からない」

    「なら分かっおから来な」

     俺は矜を広げた。

    「もう䞀぀、気になるこずがある」

    「ただあるのか」

    「ゞャックの札」

     コむケは物干し台に座った。

    「札を箱ぞ差し蟌めば、蓋が開く。そのずき、札の角に黒い朚蝋が぀くようになっおいるんだ。誰が最埌に箱を開けたか、配達組合が調べられるように」

     初耳だった。だが、俺は衚情を倉えなかった。

    「箱の䞭から芋぀かったゞャックの札には、朚蝋が぀いおいなかった」

    「拭いたんだろ」

    「どうしお」

    「蚌拠を消すためだ」

    「それなら、札を箱に眮いおいくのは倉だよ」

     むシダが口を挟んだ。

    「ほんたや。蚌拠消したいんか残したいんか、どっちやねん」

    「慌おたんじゃねえか」

    「ゞャックは、箱を札で開けおいない」

     コむケは静かに蚀った。

    「誰かが、ゞャックの札をあずから箱ぞ入れた」

     俺は、喉の奥で嗀った。

    「それで」

    「ゞャックが荷物を盗んだず思わせるため」

    「誰がそんなこずをする」

    「荷物の本圓の持ち䞻に、フランクさんが動いおいるず知られたくない者」

     颚が、屋根を越えた。むシダの小さな矜毛が揺れる。

     緊迫した空気が流れる。フランクさんが、ずいう蚀葉。

     コむケが真盞に深く螏み蟌んできたこずを、その堎の党員が理解しおいた。

    「フランキヌ」

     むシダが俺を芋䞊げた。

    「あんた、䜕盗ったん」

    「俺が盗ったず決たったわけじゃねえだろ」

    「コむケくんが、ここたで蚀うたら倧䜓そうやねん」

    「倧䜓で俺を犯人にするのかい」

    「譊察犬に捕たえおもらうんは無理やけどな」

     むシダは腰ぞ矜を圓おた。

    「だったら黙っおな」

    「せやけど、捕たらぞんから䜕しおもええずはならぞんやろ」

    「なるかどうかは、俺が決める」

     むシダは䜕か蚀い返そうずした。その前に、コむケが蚀った。

    「ゞャックを、このたた犯人にしおおくの」

    「倜たでだ」

     蚀っおから、俺は嘎を閉じた。コむケの黒い目が、わずかに现くなった。

    「今倜、誰か来るんだね」

     俺は答えなかった。

    「タンザヌ」

    「知りたきゃ、自分で芋おな」

    「ゞャックを囮にしお」

    「俺が芋匵っおる。手を出したら、その堎で止める」

    「止める前に、ゞャックは怖い思いをするよ」

    「死にゃしねえ」

    「フランクさんには、それでいいんだね」

    「もっず悪い奎を匕きずり出すためだ」

    「ゞャックは悪くないよ」

    「知っおるさ」

     物干し台の䞊で、コむケが黙った。俺は、䜕か蚀い返しおくるず思っおいた。

     だが、コむケは箱を芋た。

     それから、俺を芋䞊げた。

    「やっぱり、芋ないふりはできないね」

     俺は矜を広げ、物干し台ぞ颚を叩き぀けた。

     むシダが慌おお避ける。

    「ちょ、フランキヌ」

    「姐さん。その犬に蚀っずきな」

     俺は屋根を蹎った。

    「俺の邪魔をするなっおな」

    䞃

     俺は、マタタビの包みを隠した寺の鐘楌ぞ戻った。

     垃は砎れおいない。

     匂いも、それほど挏れおいなかった。

     今倜、タンザヌはもう䞀床ゞャックのずころぞ来る。

     ゞャックが䜕も知らないず分かれば、脅すか、連れ去るかもしれない。その前に俺が降りる。

     タンザヌを抌さえ぀け、仲間の名前を吐かせる。あずは、䞀匹ず぀巣から匕っ匵り出す。

     簡単な話だ。散らばられたら、さすがの俺も芋぀け出すのに苊劎する。だからこそ今回の隒動を匕き起こしたのだから。

     だが、コむケは動く。あの犬は、ゞャックの濡れ衣を今すぐ晎らそうずするだろう。

     シドニヌぞ話せば、密茞に関わっおいるシドニヌはすぐにタンザヌぞ知らせる。

     タンザヌは来ない。蚈画は終わる。

     俺は鐘楌から飛び出した。

     壬生の工房たで、時間はかからない。

     屋根の䞊ぞ降りるず、倩窓の近くに䞀枚の朚札が立おおあった。そこには、こう曞かれおいた。

    ――䞭継箱は、明朝すべお点怜のため回収したす。
     コむケ、むシダ――

    「あの野郎」

     俺は朚札を蹎り倒した。

     䞭継箱がなくなれば、密茞団は譊戒しお経路を倉える。ゞャックにも近づかなくなるかもしれない。

     工房の䞭を芗く。コむケは䜜業台で、別の䞭継箱を盎しおいた。

     俺は倩窓から飛び蟌んだ。

    「野暮な真䌌をしやがるな、コむケ」

     コむケは顔を䞊げた。

    「フランクさん」

    「箱を匕き䞊げるっおのは、本気かい」

    「うん」

    「箱はお前のものじゃねえだろ」

    「䜜ったのはココの工房だよ。配達組合からも、点怜を頌たれた」

    「シドニヌが頌んだのか」

    「ううん。譊察犬に話したら、そこから配達組合に指瀺が行ったんだ」

     工房の奥から、倧きな黒い犬が出おきた。

     譊察犬のレスタヌだ。

     短い毛。倪い銖。睚むような目。

     地䞊では、それなりに恐れられおいる。俺は䜜業台の䞊から芋䞋ろした。

    「譊察犬たで呌んだのかい」

    「マタタビが運ばれおいるかもしれないず聞いた」

     レスタヌが蚀った。

    「蚌拠はあるのかい」

    「今はない」

    「なら垰りな。ここは朚工工房だぜ」

     レスタヌの眉が動いた。

     だが、俺ぞ飛びかかっおはこない。

     俺が倩窓の近くにいるからだ。

     䞀歩でも近づけば、すぐに飛べる。

     むシダが工房の隅から顔を出した。

    「ほらな、コむケくん」

    「䜕が」

    「レスタヌさん来おも、フランキヌ捕たえられぞんやろ」

    「聞こえおいるぞ」

     レスタヌが䜎い声で蚀った。

    「悪いけど、ほんたのこずやもん。地䞊に降りおきた盞手ならレスタヌさんも捕たえられる。でも、フランキヌは空ぞ逃げんねん。屋根の䞊を远いかけられる譊察犬なんかおらぞん」

    「逃げるんじゃねえ」

     俺は蚀った。

    「飛ぶだけだ」

    「ほら、こういう子やねん。でも、ホンマはそこたで悪い子ずちゃうねんで。い぀からこんな感じになったんやろか」

     むシダがため息を぀いた。

     コむケは俺を芋おいた。

    「フランクさん。箱を残しおほしい」

    「箱がなくなるず、配達屋が困るだろ」

    「フランクさんが困るんじゃないの」

    「俺は困らねえ」

    「そうなんだ」

     コむケは箱の蓋を閉めた。

    「じゃあ、回収しおも倧䞈倫だね」

     こい぀は、本圓に腹が立぀。脅せば蚀うこずを聞く奎は倚い。

     圱が芋えただけで逃げる鳥もいるのに、コむケは逃げない。

     怖くないわけではないらしい。それでも、気になるこずを途䞭でやめられないようだ。犬の本胜なのだろうか。厄介な生き物だ。

    「䜕が望みだ」

     俺は蚊いた。

    「ゞャックの疑いを晎らすこず」

    「それだけかい」

    「うん」

    「今倜たで埅ちな」

    「埅おないよ」

    「数時間だ」

    「ゞャックにずっおは、自分が盗人だず思われおいる数時間だよ」

    「现けえな」

    「フランクさんが気にしなさすぎるんだず思う」

    「だったら、おめえはどうする」

     コむケは、䜜業台の端に眮かれた玙包みを前足で瀺した。

    「ゞャックじゃなくお、荷物を囮にすればいい」

     俺は目を现めた。

    八

    「マタタビを箱ぞ戻す」

     コむケは蚀った。

    「そんなこずをすれば、タンザヌは眠だず気づく」

    「ゞャックが返したように芋せればいい」

    「ゞャックは荷物の堎所を知らねえ」

    「向こうは、ゞャックが知っおいるず思っおいるよ」

     コむケは、タンザヌがゞャックぞ蚀った蚀葉を説明した。

     黒い包み。

     返せば話を぀ける。

     タンザヌは、ゞャックが荷物を持っおいるず思っおいる。

    「ゞャックが怖くなっお、倜になる前に䞭継箱ぞ戻した。そう思わせるんだ」

    「そのあずで、ゞャックは犯人じゃねえず発衚するのか」

    「先にするよ」

    「それじゃ、タンザヌが譊戒する」

    「じゃあ、ゞャックが盗んでいないこずず、荷物が箱ぞ戻るこずは、別の話にする」

     コむケは、修理䞭の䞭継箱を開けた。

    「ゞャックの札は、誰かに盗たれた。それは配達組合に説明する。でも、荷物に぀いおは䜕も蚀わない」

    「シドニヌは、ゞャックが持っおいねえず分かる」

    「わかっおもいい」

     俺はコむケを芋た。

    「それで」

    「別に誰が持っおいるかは問題じゃないんだ。マタタビが芋぀かりさえすればいい」

     コむケは、箱の底を前足で叩いた。

    「別の䞭継箱ぞ入れる。タンザヌが次に確認しそうな箱ぞ」

    「どこだ」

    「埡池通りの叀い薬問屋の裏」

     俺は黙った。

     そこは、確かにタンザヌが向かった方角にある。

    「さっき、タンザヌの前足に朚屑が぀いおいた」

     コむケは続けた。

    「濃い赀色の朚屑。六角通りから、埡池通り方面に向かう途䞭にある束の朚の削り粉だよ。い぀もあそこでリスのケニカットくんが朚を削る緎習をしおいるからさ。タンザヌはい぀もそこを通るんだず思う」

     むシダが、感心したように声を䞊げた。

    「よう芋おるなあ」

    「フランクさんも芋おいたず思う」

     コむケは俺を芋た。確かに、芋おいた。

     タンザヌの前足に぀いおいた赀い粉。だが、俺はタンザヌの也物屋の棚の塗料かず思い、気にしなかった。

    「タンザヌは、六角通りでは荷物を手に入れられなかった。でも、匕き続き取匕をしたいから、そこの近くのい぀も䜿っおいる埡池通りの箱を䜿うはず。そこぞ包みを眮く」

    「眠だず疑う」

    「だから、蓋を完党に閉めない。ゞャックが正しい開け方を知らず、慌おお眮いたようにする」

    「ゞャックは配達鳥だ。開け方くらい知っおるぜ」

    「じゃあ、ゞャックではない誰かが、拟った包みを戻したように芋せおもいいね」

    「誰だい」
     
     コむケはむシダを芋た。

     むシダが目を䞞くした。

    「あたし」

    「うん。むシダさんが、路地で黒い包みを芋぀けたこずにする」

    「ちょっず埅ちいな。あたし、マタタビ運ぶん」

    「䞭身には觊らなくおいいよ」

    「そういう問題ちゃうねん」

     レスタヌが䜎い声で蚀った。

    「囮捜査のようなものか」

    「難しい蚀葉は知らないけど、ゞャックを囮にするよりいいず思う。フランクさんがマタタビは持っおいるんでしょ持っおきおくれないかな。それを䜿おうよ」

     俺は䜜業台の䞊で爪を鳎らした。

     コむケの方法なら、ゞャックを犯人にしおおく必芁はない。タンザヌも出おくるかもしれない。

     だが、それは俺のやり方ではない。コむケの決めた䜜戊だ。蚀いなりになるのも癪だった。

    「俺の獲物に、犬が口を出すのかい」

    「うん」

    「はっきり蚀いやがる」

    「ゞャックを䜿わないなら、箱は残すよ」

    「断れば」

    「党郚回収する」

    「お前は、俺に報埩されないず本気で思っおいるのか」

     工房が静かになった。

     むシダが俺を睚む。

    「そんなん、アカンよ喧嘩はアカンブレむク離れお」

     レスタヌは前足を少し開いた。

     コむケは、緊迫した空気を党く意に返さずに、眠そうな目のたた俺を芋おいた。こい぀は本圓に倧した犬だず思った。

    「それでも、箱は眮かないよ」

    「怖くねえのか」

    「怖いよ」

    「そうは芋えねえな」

    「でも、ゞャックはもっず怖かったず思う」

     俺は、しばらくコむケを芋た。
     短い足で屋根ぞも䞊がれなければ、空も飛べない。

     俺が爪を䌞ばせば、逃げるこずもできないだろう。それなのに、こい぀は条件を出しおいる。

     俺は喉の奥で嗀った。骚のあるや぀は嫌いではない。

    「面癜え」

     コむケは䜕も蚀わなかった。

    「今倜だけだ。倱敗したら、次は俺のやり方でやる」

    「うん」

    「それず、俺が盗ったずは、ただ誰にも蚀うな」

    「ゞャックの疑いは晎らすよ」

    「奜きにしな」

     俺は矜を広げた。

    「マタタビを持っおくる」

     むシダが、俺の背䞭ぞ声を投げた。

    「フランキヌ」

    「なんだい、姐さん」

    「ゞャックに、ちゃんず自分で蚀いや」

    「䜕を」

    「あんたが札を盗ったんやろ。ごめんやで、っお蚀うずき」

     俺は振り返らなかった。

    「アンタは昔から、うるせえよ」

     そう蚀っお、倩窓から飛び出した。

    九

     倕方、配達組合の前に鳥たちが集められた。

     ゞャックの疑いを晎らすためだ。俺は向かいの屋根から芋おいた。

     シドニヌは、萜ち着かない様子で矜を敎えおいる。

     コむケは、ゞャックの札に朚蝋が぀いおいなかったこずを説明した。

     札を䜿っお箱を開けたのなら、必ず角が黒くなる。それがない以䞊、ゞャックは札で箱を開けおいない。

     錠前の傷も、開けるために぀けられたものではない。ゞャックを犯人に芋せるための现工だった。

    「では、誰が札を入れたんです」

     シドニヌが蚊いた。

    「ただ分からない」

     コむケは答えた。

    「でも、ゞャックが盗んだずいう蚌拠にはならないよ」

     配達鳥たちは顔を芋合わせた。ゞェニヌが、ゞャックの隣で胞を匵っおいる。

    「ほら、蚀ったでしょ」

     ゞャックは䜕も蚀わなかった。安心したずいうより、ただ䜕が起きたのか分かっおいない顔だった。

     シドニヌだけが、コむケをじっず芋おいた。やがお集たりが終わるず、シドニヌはすぐに飛び去った。

     タンザヌぞ知らせに行く぀もりだ。だが、荷物がどこぞ戻されたかは知らない。

     俺はそのあずを远わなかった。埡池通りの薬問屋ぞ向かった。

     赀く塗られた䞭継箱には、むシダが䞋手な挔技をしながら箱に入れたマタタビの包みが入っおいる。

     あの挔技では、実際に運び屋になったらすぐに捕たるだろう。

     箱の䞋の路地には、叀い荷車が眮かれおいた。その陰にレスタヌず、二匹の譊察犬が隠れおいる。

     むシダは、向かいの二階の窓から顔を出しおいた。コむケは箱の近くの物干し台に座っおいる。

     どうしお、あの犬はい぀も䞀番目立぀ずころぞいるのだろう。

     俺は屋根の鎟尟の陰ぞ身を䌏せた。

    「コむケくん」

     むシダが小声で呌んだ。

    「なんであんた、そこにおるのん」

    「箱を芋おいるんだ」

    「芋たら分かるわ。芋぀かるで」

    「うん」

    「うん、やないねん。もうちょっず隠れ」

     コむケは物干し竿の埌ろぞ少し移動したが、ほずんど倉わっおいない。

     そうしおいるうちに、日が沈んだ。町家の窓から挏れる明かりが、路地ぞ现長く䌞びる。

     猫の鳎き声が、遠くで䞀床だけ聞こえた。それから、屋根の䞊ぞ黒い圱が降りた。

     シドニヌだ。奎は䞭継箱を芋぀けるず、呚囲を確かめた。蓋の隙間から匂いを嗅ぎ、開けずにすぐに飛び去る。

     知らせに行った。間違いない。

     しばらくしお、路地の向こうから䞉匹の猫が珟れた。

     先頭はタンザヌ。
     
     埌ろの二匹は芋たこずがない。片方は倧きな茶猫で、もう片方は片耳の欠けた癜猫だった。

     䞉匹は、薬問屋の裏口ぞ入る。盎埌、シドニヌが屋根ぞ戻った。

     タンザヌが二階の小窓を開け、そこから物干し台ぞ出おくる。

     錻を動かした。マタタビの匂いを嗅いだ瞬間、目぀きが倉わった。

    「本圓に戻っおるじゃないか」

    「声を抑えろ」

     シドニヌが蚀った。

    「ゞャックの疑いは晎れたんだぞ。誰かが芋぀けお戻したんだ」

    「誰でもいい。包みがあればな」

     タンザヌが箱ぞ近づいた。

     その埌ろから、二匹の猫も出おくる。

     党員揃った。

     俺は翌を開いた。屋根の陰から、䞀気に近づく。

     矜音が倜気を裂いた。シドニヌが振り向いたずきには、俺は䞭継箱の䞊ぞ降りおいた。

     箱が倧きく揺れた。タンザヌたちが動きを止める。

    「俺の空で、随分ず面癜え商売をしおくれたじゃねえか」

     タンザヌの顔から血の気が匕いた。

    「フランキヌ」

    「フランキヌおめえは駄目だ。フランクさんず呌びな」

     シドニヌが埌ずさる。

    「お前が仕組んでいたのか」

     俺は静かに嗀った。

    「それを知っおいたら、のこのこ出おこなかっただろ」

     タンザヌが箱を掎んだ。

    「逃げろ」

     シドニヌが空ぞ飛び䞊がろうずする。

     俺は片方の翌を広げ、進路を塞いだ。シドニヌは急に向きを倉えたが、遅い。

     俺の爪が荷袋の玐を切った。䞭から、赀い朚札ず小さな包みがいく぀も萜ち、瓊の䞊ぞ散らばる。

     マタタビだ。

     タンザヌの仲間が屋根䌝いに逃げようずした。俺はその錻先ぞ降りた。

     爪で瓊を䞀枚割る。猫は悲鳎を䞊げ、薬問屋の䞭ぞ匕き返した。

    「䞊は駄目だ 䞋ぞ行け」

     タンザヌが叫ぶ。䞉匹の猫は階段を駆け䞋りた。

     シドニヌも、俺から逃れるため、開いおいた小窓ぞ飛び蟌む。だが、俺は远わなかった。

     地䞊ぞ萜ちる足音。裏口が開く音。

     それから、レスタヌの䜎い声が響いた。

    「そこたでだ」

     吠え声ず、猫たちの叫び声が続く。しばらくしお静かになった。

     コむケが物干し竿の埌ろから出おくる。

    「捕たったみたいだね」

    「俺が远い蟌んだからな」

    「うん。手䌝っおくれおありがずう」

    「おめえの手柄みおえに蚀うな」

    「蚀っおないよ」

     むシダが向かいの窓から矜を振った。

    「コむケくん レスタヌさん、䞉匹ずも捕たえたっお」

    「シドニヌもいるよ」

    「ほんた」

     薬問屋の䞋から、レスタヌの声がした。

    「シドニヌも確保した」

     俺は䞭継箱の䞊で、瓊の町を芋枡した。空には、もう逃げる鳥はいなかった。

    十

     譊察犬たちは、タンザヌたちを瞄で繋ぎ、路地ぞ䞊ばせた。シドニヌは俯いおいた。

     さっきたでの愛想のよい笑顔は消えおいる。レスタヌは、屋根の䞊の俺を芋䞊げた。

    「フランク」

    「なんだい」

    「最初の荷物を盗んだのは、お前か」

     俺は䞭継箱の䞊で爪を敎えた。

    「だったらどうする」

    「譊察犬ずしおは、事情を聞かなければならない」

    「ここたで来お聞きな」

     レスタヌは屋根を芋䞊げたたた黙った。薬問屋の壁は高い。

     窓から物干し台ぞ出るこずはできおも、そこから屋根ぞ䞊がるには鳥か猫でなければ難しい。

     倧きな譊察犬には無理だ。

     むシダが、コむケぞ小声で蚀った。

    「な。蚀うたやろ」

    「うん」

    「レスタヌさん、地䞊では匷いんやで。タンザヌたちもちゃんず捕たえた。せやけど、フランキヌのずころたでは行けぞん」

    「聞こえおいるぞ」

     レスタヌが蚀った。

    「さっきも聞こえおたん」

    「党郚聞こえおいる」

    「犬は耳ええもんなあ」

     むシダは感心したようにうなずいた。

     レスタヌは俺から目を逞らさなかった。

    「降りおくる気はないか」

    「ねえな」

    「そうか」

    「諊めが早えじゃねえか」

    「今倜は密茞団を連れお垰る」

    「俺は芋逃すっお」

    「そうは蚀っおいない」

     レスタヌの声は䜎かった。

    「い぀か、お前が地䞊ぞ降りたずきに話を聞く」

     俺は錻で笑った。

    「芚えおいられたらな」

     譊察犬たちは、タンザヌたちを連れお去った。レスタヌは最埌たで、䜕床かこちらを振り返っおいた。

     路地が静かになる。残ったのは、コむケずむシダだけだった。

    「フランクさん」

     コむケが呌んだ。

    「ただ䜕かあるのかい」

    「ゞャックのこず」

    「疑いは晎れたんだろ」

    「誰が札を盗んだかは、ただ蚀っおいない」

    「蚀いたきゃ蚀いな」

    「僕が蚀うんじゃなくお、フランクさんが蚀った方がいいず思う」

    「俺に謝れっおのか」

    「うん」

    「嫌だね」

    「どうしお」

    「俺は俺がやりたいこずをした。それだけだ」

    「ゞャックは頌んでいないよ」

    「だから䜕だ」

    「名前は、借りるものじゃないよ」

     俺は、屋根の䞊からコむケを芋た。静かな声だった。

     責めるような声ではない。怒鳎りもしない。

     ただ、それが圓然のこずのように蚀う。

    「现けえ犬だ」

    「うん」

    「それでも、俺が嫌だず蚀ったら」

    「明日から、フランキヌバッゞは䜜らない」

    「それずこれずは別だろ」

    「僕の䜜ったものを枡しおいるフランクさんが、無実の動物の名前を勝手に䜿うのは、気になるから」

    「たた、それかい」

    「うん」

     むシダが暪から口を挟んだ。

    「フランキヌ、諊め。コむケくん、気になったらずっず蚀うで」

    「姐さんたで犬の味方かい」

    「あたしは最初から、悪い方の味方はせえぞん」

    「タンザヌを捕たえたのは俺だぜ」

    「それはええこずした。ゞャックに濡れ衣着せたんは悪いこずした。別々や」

     俺は二匹を芋䞋ろした。

     飛び去るこずはできる。

     今すぐ東山たで行けば、コむケは远っおこられない。

     だが俺が工房ぞ行く床に。フランキヌバッゞを受け取りに行く床に。その床に、こい぀は蚀うだろう。

     ゞャックのこずが気になる、ず。い぀たでも。

    「めんどくせぇな、分かったよ」

     俺は屋根を蹎った。

    「ちょっず、どこ行くん」

     むシダが叫ぶ。

    「ゞャックのずころだ」

     俺は倜の京郜ぞ飛び出した。

    十䞀

     ゞャックは、配達組合の前にいた。ゞェニヌも䞀緒だった。俺が屋根から降りるず、二矜ずも䜓を固くした。

    「フ、フランクさん」

    「ゞャック」

    「はい」

    「おめえの札を盗ったのは俺だ」

     ゞャックは目を芋開いた。ゞェニヌが䞀歩前ぞ出る。

    「どうしお、そんなこずをしたんですか」

    「マタタビを運んでいる奎を匕っ匵り出すためだ」

    「だからっお、ゞャックを犯人にするこずないでしょう」

    「俺に蚀っおるのかい」

     ゞェニヌは䞀瞬、矜を瞮めた。それでも逃げなかった。

    「蚀っおいたす」

    「気の匷い鳥だな」

    「スズメです」

    「ふん、お前、なかなか良いじゃねえか。気に入ったよ」

    「面倒な奎らにばっかり、気に入られるわ」

     ゞェニヌは聞こえないように぀ぶやいた。

     ゞャックが、震える声で蚊いた。

    「僕が仕事を倱っおも、よかったんですか」

    「あずで戻しおやる぀もりだった」

    「戻らなかったかもしれない」

    「結果は戻った」

    「結果だけの話じゃないです」

     こい぀たで、コむケのようなこずを蚀う。

     俺は面倒になり、翌を畳んだ。

    「悪かったな」

     ゞャックずゞェニヌが、同時に固たった。俺自身も、少し劙な気分だった。

    「今、謝った」

     ゞェニヌが蚊いた。

    「二床は蚀わねえ」

    「でも」

    「聞こえたなら、それでいいだろ」

     俺はゞャックぞ顔を近づけた。

    「それから、埌ろは気を぀けな。札を盗られおも気づかねえようじゃ、配達鳥ずしお長生きできねえぜ」

    「盗った本人が蚀うこずですか」

    「助蚀しおやっおるんだ」

     ゞャックは困ったような顔をした。だが、少ししお、矜を䞀床だけ䞋げた。

    「分かりたした。ありがずうございたす」

    「玠盎でいい。お前も気に入ったぜ」

     俺は飛び䞊がった。

     少し離れた堎所に、コむケずむシダがいた。

     地䞊を歩くにはかなり距離がある。それでもコむケはわざわざ歩いおきたらしい。俺よりずっず遅いくせに、もうここたで来おいる。

    「聞いおたのかい」

    「うん」

    「趣味が悪いぜ」

    「ちゃんず蚀えたね」

    「おめえに耒められる筋合いはねえ」

     俺は屋根ぞ降りた。むシダが嬉しそうに笑っおいる。

    「なんだい、姐さん」

    「別に」

    「蚀いおえこずがある顔だな」

    「やっぱり、アンタはええコやフランキヌも謝れるんやなあず思っお」

    「次に蚀ったら、工房の屋根ぞ糞を萜ずすぜ」

    「そんなんしたら、バッゞ䜜っおもらえぞんで」

    「コむケ」

    「うん」

    「今の泚文、あず二個増やせ」

    「誰に枡すの」

    「関係ねえだろ」

    「そうだね」

     コむケは、それ以䞊蚊かなかった。䜕かを悟った颚だったが、それがたた、少し気に入らない。

     俺は京郜の倜空を芋䞊げた。東山の向こうから、薄い雲が流れおきおいる。
     
     地䞊では譊察犬たちが、捕たえた密茞団を連れお歩いおいる頃だろう。空には、俺以倖、誰もいなかった。

    「コむケ」

    「なに」

    「今床、俺の邪魔をしたら、ただじゃおかねえぜ」

    「うん」

    「分かっおるのかい」

    「分かっおるよ」

    「それでも邪魔をするっお顔だな」

    「気になったらね」

     俺は、コむケの眠そうな目を芋た。

     空も飛べない。屋根を走るこずもできない。もちろん俺を捕たえる力もない。

     なのに、俺がどこぞ来るのかを考え、先にそこで埅っおいる。

     奇劙な犬だ。俺は喉の奥で、静かに嗀った。

     そしお、翌を広げた。

     京郜の空は、今倜も俺のものだった。



    読了ありがずうございたした。
    以䞋、他のお話もありたすので、気に入っおいただけたら是非ご䞀読いただけたら倧倉嬉しいです。
    各話読み切りですので、どこから読んでも楜しんでいただけたす。


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    倒叙/本栌ミステリなどを䞭心に掚理小説を曞いおいたす。 名前は刑事コロンボの名台詞が由来。カクペムぞの投皿や新人賞ぞの応募も。 https://kakuyomu.jp/users/uchinokamisan 本業はデザむナヌ兌職人ずしお別名矩で掻動しおいたす。

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