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Photo byhoshizoramochi

【自作ショートショート】老人と悪魔

    ある閑静な住宅街の、あまり目立たない場所に、その老人の家はあった。

    かつて研究職をしていた老人の家は広かった。

    どの部屋にも大量の本が置かれていた。


    先日84歳になったばかりの老人は、昨年、3つ年下の妻に先立たれ、孤独だった。

    広大な敷地に、広すぎる家。

    大量の本。

    老人は生きることを諦めてはいなかったが、特に希望を持つこともなく、毎日を同じように過ごしていた。


    その朝も老人はポストに新聞を取りに行った。

    新聞はいつもと同じ時刻に受け取られるはずだったが、

    その日は様子が違っていた。


    家の門付近、ポストの前に何者かがいたのである。


    ソレは明らかに人間ではなかった。

    犬のような耳をしていたが、猫のように眼光鋭く、

    猿のような体をして、二本足で立っていた。

    そして鳥のような羽を持っていたのだ。


    まるでドブのような色をしたソレは、

    見た目と同じニオイを発していた。


    「私は悪魔です」


    ソレ…悪魔は丁寧に名乗った。

    長い人生を歩んできた老人も流石に面食らった様子だったが、

    なんとか言葉を搾り出した。


    「何、悪魔だと」


    「左様でございます」


    「悪魔が一体、私に何の用だというのだね」


    老人には何もやましいことはなかった。

    清廉潔白に生きてきたのだ。


    悪魔は言った。


    「あなたさまの願いをなんでも叶えて差し上げます」


    「なんでもか…ふむ」


    老人は現状を理解し始めた。


    「本当に、なんでも叶えてくれるのだね」


    「ええ、ええ、本当ですとも。

    その代わり、願いが叶ったとき、あなたさまのt」

    「それならば、」


    悪魔の言葉に被せるように、老人は言った。


    「庭の草取りでもしてもらおうかな。

    この家の庭は広くて敵わん。

    年寄りが1人で草を取るのは難しいのだ」


    悪魔は少々驚いた様子だったが、老人の言葉に丁寧に返した。


    「はい、お安い御用でございます」


    そこからは早かった。

    悪魔は広大な庭にある雑草を、1本残らず抜いてしまった。


    「終わりました。

    願いは叶えましたよ。

    それでは、あなたさまのー」

    「まあ、待ちなさい。願いはまだある。

    庭木の剪定と、外壁の掃除。

    あとは…」


    老人はあらゆる面倒ごとを悪魔に頼んでいった。

    最初は迅速に願いを叶えていた悪魔も、

    だんだんとその尾が垂れ下がり、

    疲労感を見せ始めた。


    「いやあ、助かった、助かった。

    面倒ごとが全て終わってしまった」


    「それはよろしゅうございました」


    ぐったりとしている悪魔は答えた。

    そして最後の力を振り絞り、言った。


    「願いを叶えましたので、あなたさまのたまs」

    「そうそう、最後にもう1つ願いがあったよ」


    老人は悪魔をしっかりと見据え、言った。


    「今すぐここから立ち去って、2度と私の前に姿を現さないでくれ」


    願いを叶えるしかなかった悪魔は、そのままトボトボと帰っていった。

    人間の魂を奪うには、きちんとした手順で契約を行わないといけなかったからだ。

    そういう決まりになっているのだから、仕方のないことだった。


    約束通り、悪魔は2度とその姿を見せることはなく、

    老人はちょうど100歳まで生きた。

    天国で妻と再会した折、老人は悪魔の話を妻に聞かせた。


    「私はあの悪魔を家の中には絶対に入れなかったんだ」


    「あら、どうしてです」


    本当の理由を知っている妻は、少し気の毒そうな顔をしていた。

    老人は言った。


    「あんなにたくさんの悪魔研究の本を見られてしまったら、

    困るからだよ」

     
     
    名前は『つきよ』と読みます。30代統合失調症女子。 ほとんど引きこもりですが、前向きに生きています。 趣味は読書。最近は専らKindleです。 いつもありがとうございます(*´`*) あなたが幸せでありますように♡

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