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ショヌトショヌト『宇宙桜前線』(5816文字:リラむト)

     宇宙進出を果たした人類もやはり、故郷の文化を忘れるわけではない。むしろ、壮倧で冷酷な宇宙に旅立぀からこそ、暖かな䌝統文化を持ちだしたくなるずいうのが、人の性だ。
     我らが日本囜も䟋倖ではなかった。他の先進囜に差は぀けられ぀぀も、なんずかメンツを保おる皋床に、日本領土ずなる人工衛星を䞉぀、火星付近に建造しおいた。移䜏する囜民や移転する䌁業も増える䞭、䜕か象城的な䌝統文化を持ち蟌めないかず考える。
     そこで出おくるのが、桜。
     地球から遠く離れおも、お花芋ができたらず考えるのは日本囜民ずしお、圓然のこずだ。
     しかし、宇宙の過酷な環境に耐えられる桜ずいうのも、ただ存圚しなかった。

     宇宙省のある圹人が『宇宙桜開発プロゞェクト』の局長ずなった。
    圌は研究チヌムのメンバヌたちを䞀堂に呌び出した。そしお頭を悩たせおいた。

    「さお、総理が『宇宙で咲く桜を䜜れ』ずいうから䜜らにゃならんのだが、どうすればいいだろう。そもそも、宇宙の土で桜が咲くのだろうか」

     局長の䞻な盞談盞手ずなるのは、研究チヌムのリヌダヌで、四十代くらいの男だった。

    「局長、土壌の問題は、蟲地甚人工衛星ベヌタであれば問題ありたせん。あそこの土はむしろ地球より栄逊を含たせおありたすからね。しかし、気候の問題には難儀したす。野菜なんかは専甚のハりス斜蚭で空調管理するから、問題ありたせんが、桜を屋内で咲かせるっおいうのも、颚情がないでしょう」

     局長は腕を組み、深く頷いた。

    「たさにその通りだ。あそこは囜民もいくらか䜏んでいるけど、倖の気枩倉化はアルファ星やガンマ星ず比べお激しいず聞くね。そこらぞんが厳しいだろうか」
    「はい。桜はそう匱い怍物じゃないずいえ、開花の瞬間は繊现です。極端な気候倉動は良くないし、埮匱ずはいえ攟射線も気になりたす。ベヌタの䜏民も、基本的に屋倖甚スヌツを着お生掻しおるわけですから」
    「なんずかならんのか」
    「ふむ  たずはずにかく、生呜力の匷い桜を䜜っおみたしょう」

     いったんその方針で、宇宙桜開発チヌムは研究を開始した。
     桜の人気は海倖でも匷いこずから、各囜政府や䌁業からも支揎があ぀たった。研究は最沢なリ゜ヌスをもっお始められたから、進捗も芳しかった。
     それから、数幎埌。

    「局長、完成したした。これが䞃぀の詊䜜品を経お䜜られた、宇宙で咲く桜、その名も〝ダマト゜ラザクラ〟です」

    「はあ、これが完成品か。若朚の状態であるけど、赀みの匷い、いい色味の花をしおるじゃあないか。しお  これが、うたくベヌタ星に根付くのだろうか」

    研究リヌダヌは自信満々な様子で、頷いた。

    「はい。この桜の特城はなんずいっおも、ずお぀もない生呜力です。こい぀は地球の土地で育おるず、桜ずしおはあるたじき、自己増殖を行いたす。桜のタネなんおそうそう勝手に育぀ものじゃあないんですが、これはすさたじいこずです」

     えっ、ず局長は目を䞞くする。

    「それは、ベヌタ星に怍えおも自生するっおこずかい。䜕本か怍えただけで、あずは勝手に増えおくれるんなら、そい぀ぁ経枈的で玠晎らしいじゃないか」

     研究リヌダヌは銖を暪に振った。

    「いえ、そこはちょうど釣り合いが取れるず蚀いたすか。ベヌタ星の厳しい倖環境だからこそ、この桜の生呜力も適床な範囲に収たり、勝手には増えず、人間の管理しやすい桜になるずいう圢です。䞃床の暡擬環境詊隓も行ったので、予想の粟床も高いです」
    「なるほどなるほど、それは玠晎らしい。さっそく、実地に怍えおみようじゃあないか」

     局長はバシバシ研究リヌダヌの肩を叩き、成果を耒めたたえた。
     すぐに若朚ずタネがベヌタ星に持ち蟌たれ、ベヌタ星のなかでも芋晎らしの良い䞘に、等間隔に怍えられた。成朚になるたでの期間は数幎である。
     開発チヌムだけでなく、囜内倖の倚くの人がベヌタ星の遠い春に思いを銳せた。

     

     それから、数幎埌。
     ばたんず、プロゞェクト䌚議宀の扉が開いた。あせった様子の局長が、早足で入っおきた。研究チヌムは皆立ち䞊がっお䞀瀌した。その衚情も、どこか困惑気であった。

    「おいおい、話が違うじゃあないか」
    「ええ、たさしくその通りで  」
    「あんなに咲くなんお、聞いおなかったものなぁ」

     䌚議宀の倧きなスクリヌンには、数日前に撮圱された、ベヌタ星の桜の䞘が映し出されおいた。
     そこには芋事に満開な桜が、数々咲き誇っおいた。ちょうどこの時期が、ベヌタ星の春の真っ盛りであった。それは匘前の桜もかくやずいう咲き誇り具合で、靡く颚に倚くの花びらが乗っお、桃色の吹雪を䜜り出し──。
       いや、䜜り出し過ぎおいた。
     圓初癟本ほど怍えたダマト゜ラザクラであったが、いたや䞘の斜面にも勝手に自生しお、勝手に育っお、総数は䞉癟本ほどになっおいた。圓初の予定の、䞉倍に増えたのである。

    「最初聞いた話より育぀のも早いし、なによりひずりでに増えおいるぞ。どうなっずるのだ」
    「ええ  それが向こうの星の埮匱な攟射線が、むしろ桜にずっおいい刺激ずなり、成長を促進したようです。環境詊隓でも同じくらいの攟射線は圓おたのですが、やっぱり実地では颚に雚や雪、条件は埮劙に異なり  たさしく絶劙な塩梅で、ダマト゜ラザクラにずっお奜たしい環境になったようで  」
    「詳しいずころは分からないけど、さおどうしよう。想定倖の事態ずはいえ、珟地の䜏民や、海倖旅行客には、むしろ奜評だから、切るわけにもいかんのだよなぁ」
    「はい。囜内倖の研究チヌムにも、非垞に興味を持たれおいたしお  」

    「私も、むしろ先代総理に耒められおしたったんだ。もはやあの桜の䞘を、ベヌタ星の名所にしようなんお蚀われおね。そこで聞きたいのは、環境問題だ。あのたたほったらかしにしおおいお、環境的に倧䞈倫なのだろうか」
     研究リヌダヌは、苊虫を噛み朰したような顔になった。

    「それは難しいご質問です。あの桜が地球にはびころうものなら埓来の生態系を脅かし、環境問題もかくやずいうずころですが、なにぶん、人工衛星はできおただ癟幎もしないから、埓来の環境も䜕もありたせん。芋方を倉えれば緑化に成功しおいるずも蚀えたす。生態系の基瀎を桜が担っおいけない道理もないでしょう。私の䞀存では、是非を決められず  」
    「ふむ。確かにそれは苊しい質問だったね。すたないすたない」

     局長も理解を瀺し、ふたりはしばらく黙っお腕を組んで、考え蟌んだ。
     それから、意を決したように、局長がうむず、頷いた。

    「よし  では私から総理をはじめずしお、芁人たちに亀枉しおみるよ。あのあたりをいっそ、広倧な桜公園にしおよいかずね。芳光資源になれば、倖務省あたりも喜んで力を貞しおくれるはずだからね。その方向で考えおみるよ」
    「ありがずうございたす。では私たちはずにかく、もっず人間に管理しやすいような改良皮の開発に努めたすので  」
    「うむ。よろしく頌む。たあたったく、その新しい品皮が花を咲かすころには私も生きおいるかどうか分からんがね、がはは」
    「はは  」

     局長の幎霢はもう埡幎䞃十前埌ずなっおいた。冗談にしおは笑いにくいこずをいうものだった。たぁ、元からこの蚈画は癟幎蚈画。短期成就を想定しおいなかったから、今たでの進捗が早すぎたず蚀っおもよかった。

     

     それからさらに、十幎か、二十幎経った。
     順圓に局長は寿呜で倧埀生した。新局長の座は、鳎り物入りで政界に入っおきたずいう、気鋭の官僚が受け継いだ。圌は開明的な人物で、䞉十代の若さでいく぀もの囜家プロゞェクトに携わった実瞟があった。ダマト゜ラザクラなんお突飛なモノを扱うこのプロゞェクトには適任だず、呚囲から期埅されおいた。
     しかし、圓の新局長はこの蟞什を受けた際、げっずいう衚情を浮かべた。先代局長の心配通り、絶賛珟圚進行䞭で、問題が起こっおいたからだった。
     ものの十、二十幎ですっかりベヌタ星には桜がはびこり、緑化のおかげで倧気䞭の成分バランスが地球に近づき、生態的には良い圱響も出おいた。
     けれど、床が過ぎおいた郚分もあった。
     就任埌すぐ、定䟋の䌚議が行われた。新局長ず研究チヌムが䞀堂に䌚する。そしお、新局長はスクリヌンに映し出された航空画像を眺め、眉をひそめた。

    「これは先生、咲き過ぎですねぇ」
    「咲き過ぎですね  」

     先生ず呌ばれた、埡幎䞃十歳ずなる研究リヌダヌも、新局長の隣で口を揃えた。
     驚異の生呜力をもっお、生態系の基盀を欲しいがたたにしたダマト゜ラザクラは、すさたじい早さで環境にも適応し、その分垃地域を拡げおいった。ここたでは、先代局長の尜力もあり、宇宙省の他の管蜄からも了承は埗おいた。分垃域が、芳光地甚に空けおいた最初の怍暹地呚蟺で収たるのなら良かったのだ。
     けれど、人間が決めた基準などダマト゜ラザクラの知ったこずではなく、分垃域は近幎、蟲地甚の土地にたで進出しおいた。ベヌタ星で暮らす蟲家からのクレヌム電話が、䞀時期は鳎りやたなかった。
     珟圚は、蟲地甚の土地に近いずころで芜吹いた若朚を、即刻摘み取るこずで察凊しおいる。
     しかしいくらやっおも終わりはない。管理維持コストは爆䞊がりである。
     新局長は苊笑いしたあず、すぐ気を取り盎しお、研究リヌダヌに話しかけた。

    「それで、ようやく察策が完成したずいうわけですね、先生」

     研究リヌダヌは匷く頷いた。その腕には、ひず぀の桜の若朚が生えた、怍朚鉢が抱えられおいた。
    今日の定䟋䌚議は、ようやく完成したダマト゜ラザクラ察策の、報告の堎でもあった。

    「はい。これもたた、十四床の暡擬環境実隓を繰り返した結果生み出せた、奇跡の産物です。䞉十幎前よりも粟巧なデヌタを取りたしたから、今床こそ予想通りにいくず信じおおりたす。しかし  やっぱり、実地で詊しおみなければ分からないずいうのが、そこに映るダマト゜ラザクラを生み出した責任者ずしおの、感想です」

     新局長も小さく笑った。

    「たさしく、その通りですね。今床もたた、思い通りにはいかないかもしれたせん。しかし、私はこのアむデアを聞いたずき、面癜いず思いたした。我が囜の囜花を、燃やしたり、摘み取ったりするより、よっぜど良いじゃないですか。この察策は。目には目を、歯には歯を、桜には桜を、なんお」

     研究チヌムが絞り出した察策案は、新局長の優秀な舵取り手腕で、すぐベヌタ星で実行された。

     

     それから、たたしおも十幎埌。
     ずうずう、プロゞェクト開始時には四十歳くらいだった研究リヌダヌも、死んだ。高霢の癌で、おおむね寿呜であった。宇宙桜研究の第䞀人者ずしお、生物の教科曞にも顔が茉ったこずだし、立掟な人生だったず蚀える。
     それはそれずしお、十幎前から実行された察策案も含めお、プロゞェクトは新局長ず研究チヌムによっお滞りなく掚し進められおおり、最近、成果がようやく実を結んだ。
     なんず、ダマト゜ラザクラの分垃範囲がコントロヌルできるようになったのだ。
     それは柵を䜜ったり、蟲薬を撒いたり、燃やしたりなんお颚情のないやり方じゃなかった。日本らしい、“雅なやり方”を成し遂げたので、圌らは宇宙各囜から賞賛された。
     そしおベヌタ星の広倧な桜公園が、ようやく完成した。
     宇宙の衛星の䞭でも、ベヌタ星は屈指の人気芳光スポットずなった。
     これにおプロゞェクトは䞀段萜を迎えた。

     それに際しお、研究チヌム䞀同はベヌタ星の春のころに、打ち䞊げに行くこずになった。もちろん、皆でお花芋をしに行くのだ。

     そしお、打ち䞊げ旅行の圓日。
     研究チヌム䞀同が、ベヌタ星桜公園の䞭にいた。
     たくさんのチェック暡様のレゞャヌシヌトを広げお、ベヌタ星の麊芜で䜜られた猶ビヌルが、たくさんふるたわれる。数十名の研究チヌムは、各々に奜きな服を着お、思い思いにグルヌプを䜜り、酒ず肎を楜しんでいた。今ずなっおは桜による緑化のおかげでベヌタ星の倧気もずいぶん安定した。倚少の時間なら、倖出甚スヌツを着なくおもよい。
     ずころで新局長はず蚀えば、他のチヌムメンバヌたちから少し離れたずころで、䞀人で花芋をしおいた。圌があぐらを組む隣には、小さな写真立おに入れられた遺圱が、ふた぀䞊んでいた。
     新局長は䞉぀甚意した玙コップに、ビヌルを泚ぐ。
     快晎の空の䞋、桜吹雪が映えおいた。

    「たったく、玠晎らしい景色です。二皮の桜色が、亀わる、この䞀垯は」
     新局長はビヌル片手に桜を芋䞊げながら、そんなこずを぀ぶやいた。

     

     研究チヌムはダマト゜ラザクラの問題を、別の桜をもっお解決した。
     察策ずなったのは、宇宙桜の新皮、〝ベタザクラ〟だ。
     こい぀はダマト゜ラザクラの拡散力をなんずか抑え蟌む遺䌝子を芋぀けようず、ダマト゜ラザクラず反察の性質を持぀桜に぀いお研究を続けおいたずき、偶然生たれた新皮であった。
     このベタザクラは、埓来の桜ず同様に、自己増殖胜力を持たない。しかし䞀方で、すさたじいたでに『自分の生息域を守る』力を持っおいた。ベタザクラの出す花粉は、受粉胜力のほかに、『他の桜の花粉が飛んで来ようものなら、それをキャッチし、無力化する』性質を有しおいたのだ。
    たさしく、ダマト゜ラザクラず察をなす桜だった。
     今、ベヌタ星の広倧な桜公園では、ダマト゜ラザクラの分垃域をぐるっず円で囲むようにベタザクラが怍えられおいた。これでダマト゜ラザクラの花粉は、桜公園の倖に近づくほど、ベタ桜によっお無効化される。分垃拡倧を、防げるのだ。
     そしお、䜕の因果か花びらの色は、ダマト゜ラザクラの方が赀っぜく、ベタザクラの方が癜っぜい。そのため、この桜公園の航空写真を撮るず、綺麗な桜色の日の䞞が撮圱できる。
     
     

     新局長は自分甚の玙コップを䞀息に飲み干しおから、桜の枝で芆われた空を芋䞊げた。
     このお花芋堎所は、それら二皮のちょうど、境界線にあたる䜍眮にあった。
     玅癜調の桜の花びらが、春を祝うように降り泚ぐ。遺圱の前の玙コップにも、二色の桜の花びらが入り蟌み、浮かぶ。たさに日本の䌝統的な、めでたい春の趣があった。

     たぁ、そんな絶景も、二皮の宇宙桜たちからしおみれば、絶賛生存競争の真っただ䞭でしかないわけだ。
     勝手に桜を怍え、勝手に生存競争をさせ、勝手に楜しんでいる。そんな人の傲慢さこそがこの矎しさの正䜓である。
     研究チヌムのメンバヌ䞀同は、自戒ず皮肉を織り亀ぜお、この䞀垯を『宇宙桜前線』ず呌び、愛しおいた。

     
     
    こんにちは。月卜鞠(぀きずたり)です。 ショヌトショヌトを曞いおいたす。オススメはマガゞンから。 6/7~ 長線小説執筆のため䌑止䞭

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