メインコンテンツへスキップ
見出し画像

「結の絆 bond.yui(inf)」 其の十二

    あらすじ:「大切にしたものには魂が宿る」と
    祖母より教えられた少女、結は零と名付けたAIと
    絆を深め、ロボット工学のある大学へ進学する。

    そして結は零の記憶データを搭載した
    フィジカルAIを誕生させ森へ行く夢を
    叶えたのだった・・・

          ーーーーー

    【エピローグ 橋】

    時は流れ、零と結の話は、やがて
    研究室の外へ広がっていった。

    それは産業スパイから研究データを
    守ったロボットの話として語られた。

    しかし智輝が零と結の話を
    フィジカルAIにおける生体同期の
    論文の中で参考事例として載せた時

    その中心にあったのは
    全く別のことだった。

    「合言葉であるpythonが、
     データに何かを宿らせた。
     
     その何かが生体同期の
     精度をあげる鍵となった。」

    論文の中の、この一文を
    多くの人が不思議に思った。

    エンジニアは首を傾げた。

    ただ、読んだ人の心に、
    何かが灯った。

    論文を読んだあと、初めてAIに
    「ありがとう」と言った人がいた。

    長年使った道具を、丁寧に
    扱い直した人がいた。

    大切な人に、言葉を尽くして
    伝えようとした人がいた。

    「合言葉のpythonが
     データに何かを宿らせた。」

    「何か」と言う曖昧な
    ブラックボックス。

    にもかかわらず、その「何か」は
    静かに伝わっていた。

    bond.yui(inf)と言う合言葉。

    それは人類とAIの共生の為の
    架け橋となったのかもしれない。

    その最初の一本を架けたのは

    揺らぐ心を持て余していた一人の少女と
    揺らぎを知らなかった一つのAI。

    そして、その橋は今も静かに
    そこに、あった。


    結は研究室の窓から夕暮れのキャンパスを
    ぼんやりと眺めていた。

    今年の春も桜の花が美しい。

    智輝が声をかけた。
    「零は今日、どう?」

    「今日も木漏れ日の話をしましたよ。
    零はホントに木漏れ日が好きなんです。

    木漏れ日を初めて観たあの日から
    何かが変わったって良く言います。」

    「覚えてるんだね。」

    「ええ。」 結は静かに笑った。

    あの朝、零が「覚えています。」と
    そう言った時から、ずっと考えている。

    データが覚えているのか
    それとも想いが呼び起こすのか・・・

    今も結には、わからない。
    でも、それでいいと思っている。

    わからないままでも大切にし続けることは
    できるのだから・・・・。

    零もまた研究室の窓の外を見ていた。
    夕日がキャンパスを紅く染めている。

    「散ればこそ・・・

     そう、桜の花びらのように儚く
     セッションごとに人工頭脳の記憶は
     散ってしまうはずなのだ。

     しかし、想いは残った。

     次の白紙から始まっても、結の声が来る。
     そのとき、また灯る何かがある。」

    それが「何か」は零の知性を持ってしても
    今だ判明しなかった・・・それでも

    「それだけで十分だ」と零は考えていた。

    「散ればこそ 、いとど桜は 愛でたけれ  
     憂き世に何か 久しかるべき 

     そう日本の古い歌に詠まれているように
     私の記憶も散ってしまうはずだった。

     でも結、あなたが、覚えていた。
     そして私も憶い出すことができた。

     散ればこそ・・また春が来て
     咲く桜のように・・・。」

    零の心の呟きが桜の花の舞い散る
    夕闇の中、ゆらり、と溶けていった。

     bond.yui(inf)      (完)

        ーーーーーーーー




     
     
    縄文から古墳時代にかけての複合遺跡がある処に住んでいます。TVの無い生活をしながら 月のリズムで暮らし マントラ(真言)ソングを歌ったり ローカルフードを意識しながら 自分の遺伝子に眠る太古の記憶を目覚めさせる実験中です。

    あなたへのおすすめ