
短編 『君の細い首を。』
「私の首を絞めて」
ホテルのベッドの上で、彼女はそう言った。
僕はそんなことをしたことがなく、戸惑ったが、
彼女の吸い込まれるような目を見ている内に、
自然とその首に手が伸びていた。
僕の父は、暴力こそ振るわなかったが、母を雑に扱う人だった。
それを見て育った僕は、決してああはなるまいと決めていた。
そのため、女性には穏やかに接してきたし、
エスコートが出来るように勉強もした。
良く言えば紳士的、悪く言えば刺激の無い男だと自分では思っている。
そんな自分が今、目の前にいる彼女の首を絞めているのだ。
手は汗で濡れているが、その汗は自分のか彼女のか分からない。
そして手のひらに伝わる彼女の不規則な脈が気持ち悪い。
首を絞められている彼女の目は少し涙を含んでいる。
なんて酷い顔をしているのだろう。
彼女が僕の手の甲を撫でると、無意識に力が入る。
逆に、彼女の目が閉じかけると、僕の手はわずかに緩む。
もうこの時点で僕の身体は彼女のものになっていたのだろう。
僕はただ彼女の美しい目を見続けているだけの人形のようだった。
ふと我に帰ると、僕の目から涙が溢れてきた。
好きな女性を傷つけるどころか、
命さえ奪いかねないことをしていると気づいてしまったからだ。
それでも、
彼女の歪んだ笑みに、胸が熱くなる。
なぜ泣いているのか分からない。
分からないことが、ただ怖い。
けれど、目の前の彼女はあまりにも綺麗で、
もう止めたいのに、まだ止めたくない。
顔も感情もぐちゃぐちゃな僕を彼女は見て、
「気持ち良いよ。もっと絞めて」と言う。
あぁ、もう戻れない。
僕は笑顔で彼女の目を見る。そして首をまた絞める。
汗で濡れた手に、彼女の脈が打ち付ける。その感触が心地良い。
涙で濡れた彼女の目に部屋の光が反射して美しい。
じっと見ていると、その目には僕の目が映り込んでいる。
なんて美しい顔なのだろう。
僕は幸せだ。