
アーモンドチョコレート
#創作大賞2026 #オールカテゴリ部門
画像生成AI
今、目の前にハーピーの子どもがいる。
ベランダに倒れていたところを保護したのだ。
どうやら母親とはぐれたらしい。
この現代になぜ、ハーピーがいるのかはこの際、考えるのはあきらめよう。
とりあえず、ハーピーの知識を得るためにネットで検索してみたらとんでもない害鳥らしい。人のものは食い散らかし、悪臭を放っているらしい。おまけに、人を誘拐するらしい。
目の前にいるハーピーは、耳をつんざくような鳴き声も出さないし、ギリシャ神話に登場するハーピーとは違い、少しホッとした。
むしろ、身綺麗で可愛い顔をしている。俺がよく読むファンタジー小説に出てくる美人で少し妖艶に成長しそうなハーピの子どもだ。
とりあえず、何か食べるものがないかと探した。アーモンドチョコレートの箱を開けて匂いを嗅がせた。くんくんと鼻をぴくぴくさせた。嫌がる素振りをみせない。そっと口に運んでみたらパクっと食べてくれた。
花びらが舞うような笑顔で、アーモンドチョコレートを食べていた。どうやら気に入ったらしい。
「まだあるからな、ここにおいておくから食べてな」
「ピッ!」
可愛い鳴き声で返事をしたハーピーは、また食べ始めた。
*
とりあえず、ペットショップに駆け込み、ペットシーツやサークルなど必要なものを買い揃えた。
「ここがトイレで、これはベッド。狭くて悪いが、俺がいない時はここからは出ないようにしてな」
「ピッ、ピッ!」
「これでいいのかな。ハーピーは肉食だ、ささみでも湯がいてたべさせるか」
昨日はバタバタだったが、なんとか育てる準備は整った。
湯がいたささみをほぐして、器に入れて出してみた。何だかお気に召さない様子。生肉も細かく刻んで入れてみた。こちらも食べるけどご不満な様子だ。
「もしかして、これがいいのか?」
そう言って、アーモンドチョコレートの箱を取り出して見せた。ハーピーはキラキラした目をしながら、俺の周りをくるくる回った。
「ピッ!ピー!!」
「わかった、分かったから落ち着け」
ハーピーはバクバク食べている。よほど気に入ったのだろうなと、片付けて仕事へ行く準備を始めた。
内心、とても不安である。一人にさせていいのだろうか。母親が迎えに来るかもしれない。そう思う反面、寂しかった。まだ一日しか一緒に過ごしてない。それなのに、もう情が移ってしまっている。それでも家族のもとに帰るのが一番だと考えている。
「お前は、母親を呼ぶ念力とかできないのか?」
「ピッ!ピ〜ピッピッ!」
ピだけじゃわからないが、表情を見る限りドヤ顔してるからできるっぽそうである。
「なら、俺がいない間は念力みたいなの送るんだぞ」
「ピッ!」
「まぁ、なんとなるだろう」と、俺は仕事へと向かった。
*
「ピー!!!」
仕事がおわり、急いで帰宅したら手厚い出迎えを受けた。
ハーピーの母親呼ぶ作戦は、失敗したようだ。
昼間に帰ってきた時はお腹を空かせていたようで、急いでささみとアーモンドチョコレートを用意した。ささみは相変わらず、お気に召さないままだった。
今日はささみではない。給料日だから奮発し一人焼肉をすると決めた。
お腹を空かせているだろうから、夜ご飯の準備をはじめた。
テーブルの上には、ホットプレートと小皿が二つに、焼肉の定番カルビやロースやタンが並び、焼き野菜の準備も怠らない。
ハーピーは初めて見るのか、とても興味津々で羽をバタつかせていた
「今日は焼肉だぞ!肉や野菜をこいつで焼いて、このタレにつけて、ご飯と一緒にたべるんだよ」
「ピッ!ピッ!!」
「おっ?食べるか?どれにする?」
焼肉セットの肉を並べてみせた。
「ピッ!」
「カルビね〜了解!」
ジュ〜っと音がすると、ハーピーは羽をバタバタ。
「ほら、焼けたよ」
くんくんと匂いを嗅いで、ちょんちょんと小さな爪で確認してから口に運んだ。
「ピッ!ピッ!ピー!!」
どうやらお気に召したみたいだ。「なんだこれは!」って顔をしながらペロリと食べてしまった。食後にはデザートであるアーモンドチョコレートを要求された。
やっと俺も食べられる。自分の分を焼き始めて、ビールでクイッとカブのみした。こうして、一人焼肉?は大成功で終わったのだった。
*
翌朝、ハーピーを保護してから三日目の朝。
仕事も休みでゆっくりしていたら、ベランダからコツコツという音が響いていた。
眠い目をこすりながら見ると、そこには大きなハーピーがどーんと立っていた。俺はびっくりしてベッドから転げ落ちた。大きな音にびっくりして、あいつが起きてきた。心配そうに俺の元へきてくれたが、今はそうじゃない。
「あれ、お前のお母さんか?」
「ピ〜?……ピッ!!ピッ!!ピッ!!」
母親を見つけて大騒ぎで駆け寄っていった。ピョンピョン飛び跳ねて、母親との再会を喜んでいた。
俺はそっとベランダの窓を開けて、母親を招き入れた。
「はじめまして、見知らぬ人よ。私はこの子の母親のハイリといいます」
「あっ、はじめまして……関根といいます」
「この子の面倒をみていただきありがとうございます」
「いえ、楽しい時間を過ごさせてもらいました」
母親に抱かれてご満悦なあいつは大はしゃぎである。
三日間も会えなかったんだな。
「何か、お困りごとなどありませんでしたか?」
「とてもいい子でしたよ。言うことも聞いてくれましたし、好きな食べ物も増えたみたいですしね」
「好きな食べ物?」
「ほら、これ。持って帰れよ」
小さな幼稚園バックには、パンパンにアーモンドチョコレートが詰め込んであった。
「ピッ!!ピッ!!」
母親から飛び降りて、アーモンドチョコレートめがけて飛んできた。俺はチャックをしめて、そっとバッグを肩にかけてあげた。
バックをぎゅ〜っと抱きしめる姿は、可愛くてたまらない。
「ここまでしていただくのは申し訳ないです」
「いいんですよ、この三日間で楽しい時間をあいつからもらいました」
「しかし……」
「アーモンドチョコレートばかりたべるんじゃないぞ!ちゃんと他のも食べるんだぞ!」
「ピッ!ピー!」
頭を撫でながら元気でな、と伝えた。
あいつは母親に抱かれ、「ピッ!」と片翼をあげた瞬間に消えてた。別れも惜しむ暇もなかった。
残されたペットシーツとサークルとトイレを眺めながら
「猫か犬でも家族に迎えようかな」
たった三日。それなのに、誰かを育てることがこんなにも温かく、尊いものだと知った。宝物のような三日間だった。
片付けをする前、俺はアーモンドチョコレートを一粒口に入れた。
ー終わりー