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顔晴れ~がんばれ~

    #創作大賞2026 #エッセイ部門  
    ヘッダー(生成AI)

    プロローグ

     これは私に生きる力をくれたおばあちゃん達との出会いと別れまでのお話です。
     
     2013年の夏。私は職場のホテルで夜勤中でした。休憩していた時に体調が悪くなり、風邪だと思って横になりました。
     すると突然、金属バットでフルスイングされた激痛に襲われ、救急車の中で意識がなくなりました。
     診断はくも膜下出血でした。
     私は再び与えられたこの命を大切にしようと心に誓った日です。
     
     ここから、私とおばあちゃん達との忘れられない入院生活がはじまりました。

    パン子さんとアリナさん

     ある一人のおばあちゃんと二人きりの六人部屋生活がスタートです。
     そのおばあちゃんは、毎朝必ずパンを食べていたのでパン子さんにしましょう。私は嚥下の問題でまだおかゆでした。いつも羨望の眼差しをパンに向けていました。ヨーグルトがある時は「ジャム食べる?」って、パン子さんが分けてくれた。
     おしゃべりが大好きな方で、リハビリが終わった後は、夜ご飯までずっと話しました。数日でパン子さんの退院が決まっていて、家族の方々と会える日を心待ちしていた。
     ある日の私はリハビリが上手くできず落ち込んでいました。パン子さんは微笑みながら手招きして「こっちへいらっしゃい」と優しく声かけてくれました。私は車椅子でゆっくりパン子さんの元へ向かいました。
     パン子さんは「どうしたの?いつもの可愛い笑顔が台無しよ」と私が打ち明けるまでずっと頭を撫でてくれました。
     「周りの人はどんどん上手くいってスタスタ歩いてるのを見るのが辛くて」と、打ち明けました。「隣の芝生は青く見えてしまうのね」と私の手をそっと握り語りかけてくれました。

    「どうせ〇〇〇〇なら〇〇〇で〇〇〇〇かに〇〇〇なさい♪」

     パン子さんの言葉は私の未来に繋がる最初の贈り物となりました。

     翌日、もう一人のおばあちゃんがやってきました。よく主治医に「アリナ〇ンが飲みたいのよね」と、連呼していたので、アリナさんです。このアリナさんこそが、私の人生を変える大きな出会いとなったのでした。 
     パン子さんとアリナさんの会話は聞いてるだけで、面白くてお腹を抱えて笑っていました。
     パン子さんは相手の返事を待たずに次の話題へ。
     耳の遠いアリナさんは困り顔。
     そのたびに私は通訳役です。

     パン子さん:「おはようございます、いい天気ですね」
     アリナさん:「私は耳が遠くて、聞こえないんだよ」
     パン子さん:「アリナさんはどちら出身なんですか?」
     わたし:「アリナさんは〇〇出身ですよ!」
     パン子さん:「そうなのね。リハビリの時間だわ。ごきげんよう」
     おしゃべりが大好きな二人は、キャッチボールせずに投げっぱなし。
     私は通訳兼野手。時折、スライディングキャッチして戻しました(笑)
     
     こうして、私に初めて「病院でも笑える毎日がある」と教えてくれたパン子さんは、笑顔で退院していきました。アリナさんと二人で「元気でね〜」と投げキッス(笑)病室は少し寂しくなりましたが、新しい毎日がまた始まろうとしていました。

    女性は何歳になっても乙女なの

     パン子さんが退院して、二人きりになりました。看護師さんから転倒の危険があるから出ていけないと繰り返し注意されていた。それでもアリナさんは隙あらば病室を抜け出そうとしていました。監視役の私は、あんぱんと牛乳を用意して待っていました(笑)

     ここからアリナさんとの楽しい生活が始まりました。 

     アリナさんと距離が近づいたきっかけは某アイドルグループでした。
     私はアイドルが大好きで、食事しながら番組を観るのがルーティン。
     病室のテレビをのぞき見しながら「〇〇〇だね~よく観てたわ」と嬉しそうに呟いてました。
     普段は、朝ドラや大河しかみないアリナさんが某アイドルグループを知っていることに驚きました。
     この日以来、リクエストがあれば仲良くLIVE鑑賞をしていました。

     メンバーの名前はアリナさんの旧姓でもある人は覚えていて、後は名前と顔が一致しないことが多かった。「これは布教するしかない!」とオタク全開!アリナさんは昨日食べたご飯を忘れてしまう事も多く、脳の活性化に繋がってほしいと願って開催することにしました。

     クイズは二種類!  
     アイドルクイズは、私のグッズや雑誌を見せて、どのメンバーなのかを当ててもらいました。
     都道府県クイズのヒントは名産品で出しました。

     実は、アリナさんの友人がお見舞いに来られた時、友人の名前を思い出せず、泣きながら何度も謝っていた姿を見て拳を握りました。このクイズ大会で良い方向になればと、願っていました。
     お見舞いにきた娘さんがクイズ大会を開催していた私への負担を心配し、アリナさんが楽しそうにしている姿をみて呆れてました。
     「お母さん!〇〇君はこっち!なんで〇〇君だけわかるの?」とヒートアップし、笑いが絶えず廊下まで響いてました。
     
     後日、娘さんは二人きりの時に話してくれました。
     このリハビリ病棟に来るまではいつも悲しそうにしており、娘さんに謝ってばかりだったそうです。「ここに来てから母が楽しそうに過ごせているのは、あなたのおかげね。久しぶりに母の笑顔が見れました。ありがとうございます」と私はこのまま続けていこうと心に誓ったのでした。

     アリナさんとのクイズ大会が日課になったある日、かわいい声が近づいてきました。 
     「おばあちゃーん!!!」と可愛い三人の天使が病室に入ってきました。お孫さんに囲まれ、アリナさんのお顔がぱぁ~と華やいでにっこにこでした。
     お孫さんたちは、私のベッド周りにあるものを見つけて話しかけてきました。「僕、これ好きー!」と、クマのぬいぐるみ確保。「僕はこれー!!」と某ヒーロー番組の怪獣ぬいぐるみを確保。ちゃんと「触っていい?」と話かけてくれた礼儀正しいお孫さん。アリナさんのお孫さんは二男一女。長女ちゃんはまだ赤ちゃんで、子供が大好きな私にとって幸せな空間でした。
     娘さんがそっと長女ちゃんを抱かせてくれました。微笑みかけるとニコッと笑いかけて、小さな手で私の人差し指を握ってくれた。一生懸命に生きてる温もりが私の心を温めてくれた。
     楽しい時間はあっという間でもうお孫さんたちは帰らなくてはなりませんでした。
    「またね~、おばあちゃん! お姉ちゃん!」という元気な声が廊下へ遠ざかると、病室は急に静かになりました。

    さっきまで笑顔いっぱいだったアリナさんは、寂しさを隠すように隣にいた私の背中に寄りかかって、しばらく離れませんでした。

    コードネームはミセス・マリー。

     その日は突然やってきた。
     六人部屋には気品漂うマダムがご一緒となりました。その名もミセス・マリーです。見惚れてしまうくらいお綺麗で「ごきげんよう」と挨拶をしました。アリナさんも思わず「ごきげんよう」と挨拶する淑女になってました。アリナさんはずっとミセス・マリーに「あなたは綺麗ね、羨ましいわ」と話しかけていた。 
     後日、新たに同室となったのはクッキーさんです。クッキーさんは「病は気から」という言葉の重みを教えてくれた方です。そして、その名前には、ある理由があります。

     一気に活気が溢れ出てきた六人部屋。
     毎日毎日お話三昧。アリナさんも楽しそうにしていました。
     クッキーさんは本当にお話が大好きでした。耳が聞こえづらいアリナさんを気遣いながらも、自分のことばかりを語っていました。優しいアリナさんはずっと付き合っていました。
     そんな時は「ピー!イエローカード!休憩、水分補給、トイレタイム!」とそれぞれベッドに戻しました(笑)
     ミセス・マリーはGoing My Wayな感じで、クッキーさんのお話に混ざってみたり、テレビを観たり、本を読んだりとご自身のペースで過ごしていらっしゃった。
     たまに、クッキーさんがしつこく話しかけると、病室を出ていくリスク管理も抜かりありませんでした。愉快なおばあちゃん達に囲まれながら楽しい時間を過ごしていたら、お昼ご飯が到着しました。
     「アリナさん!遂にこのときが来たよ!!ミルクパンINマーマレードジャム!!」と報告したら手を叩いて喜んでくれました。入院生活を始めて、やっと食べれました。パンが私の心を満たしていく。五臓六腑に沁みわたり、生きていると血も騒いだ!


    デイルームデビューでえみさん達の仲間入り♪

     ある一日のリハビリを終えた後のことです。  
     私は隣の病室の方々のところへ遊びに行くようになりました。
     笑顔が素敵なえみさんに誘われ、私はデイルームデビューを果たしました。
     テレビを見たり、本を読んだり、談笑したりと楽しんでいらっしゃいました。
     皆さんは、当時最年少の私を孫や娘のように接してくれました。
     そのままデイルームで夕食を食べることにしました。消灯時間までえみさんやほかの皆さんと盛り上がりすぎて、看護師さんに怒られてばかりでした。  
     ——何か視線を感じるなと後ろを振り向いたら、アリナさんが混ざりたそうにもじもじしていた。手招きしたらフラれてしまいました(笑)
     私を見かけるたびにえみさんは声をかけて、いつもこっそりお菓子やジュースをくれました。
     えみさんはいつも輪の中心で、みんながこっそり持ち寄ったお菓子を囲みながら、ティータイムを楽しんでいました。
     隣の病室なので、自然とそちらの皆さんともお話する機会が増えました。 
     ある日の日曜日、隣の皆さんは一時帰宅しており、えみさんだけ同じ病室になったことがありました。
     私たちの病室でもおしゃべりが大好きなえみさんは、すぐに意気投合。何より混ざりたかったアリナさんが一番喜んでました。
     「これがお酒だったら最高なのにね」と笑いながら夕食を楽しみました。
     消灯時間直後、えみさんの泣き声が聞こえました。周りの方を起こさないようにえみさんの元へ向かいました。
     カーテンをそっと開けて、隣に座り、えみさんが話せるまで優しく背中を撫でました。
     「ごめんなさい。もうすぐほかの病棟へ移動して手術なの。怖くて眠れなかったの」
     私は何も言わず、パン子さんからもらった言葉をそっと耳元で伝えました。えみさんは涙をぬぐい、少しだけ笑顔を見せてくれました。
     翌朝、病棟内の大回りコースを二周するえみさんの姿が見えました。
    「えみさん!」と黄色い歓声を上げ、ジャンプしてお出迎えしました。

    ドロップさんの涙。

     ある日の夕方、アリナさんのお友達がお見舞いにきてくれました。
     先日とは打って変わって、アリナさんは笑顔を見せていました。
     「アリナさん、こんばんは」
     事情をわかっているお友達は、いつも通り話しかけていました。
     「よく来てくれたね、トメさん。いつぶりかしら?」
     その言葉にトメさんは涙を流した。
     「アリナさん、お久しぶりね!ずっと会いたかったわ」
     そこから会話の花が咲き、アリナさんも楽しそうにお話ししていました。
     クイズ大会をがんばったアリナさんを心のなかで讃えました。
     私は静かにデイルームへと移動した。
     ——しばらくすると、アリナさんが嬉しそうに箱を抱えて、デイルームへやってきました。
     「あなたと一緒に食べたくてねぇ。良かったら皆さんもどうぞ」
      箱の中には、色とりどりのフルーツゼリーが美しく並んでいました。
     「私だけじゃ食べきれないので、みんなで食べましょう」
     アリナさんがお友達との再会を嬉しそうに話していた。
     その姿を見ながら食べるフルーツゼリーは、格別な味でした。

     蝉の声さえ遠く感じる夏の日でした。
     新しくドロップさんが仲間入りしました。
     ドロップさんはあっという間に皆さんと仲良くお話をしていました。
     今日は8月15日、忘れてはいけない終戦日。
     昼食後、クッキーさん以外の人達がそれぞれの時間を過ごしていました。
     唐突に、戦争当時の話を皆さんが話し始めました。
     私はただ黙って耳を傾けました。

     ミセス・マリー:「私だけ集団疎開して、ただお国のために働いてましたわ」

     アリナさん:「今日の食べるものがなくてねぇ。道端の草を食べていたら、近所の人が木になってる果物を分けてくれたりした。私は直接被害はなかったけど日本中が貧しかったね」

     ドロップさん:「私は満州国から船で命からがら逃げてきました。発砲音が鳴り響いたの。あちこちから悲鳴があがって生きた心地がしなかったわ」

     ドロップさんは嗚咽に近い声で泣いていました。皆さんがドロップさんの手を握ったり、背中をさすったりしていました。

     昨日のご飯を思い出せないアリナさんも、戦争の話になると止まりませんでした。ドロップさん達の癒えることのない傷。私は後世に語り継いでいこうと襟を正しました。
     ドロップさんの名前の由来は涙が止まるまで間、表情がさまざまなの飴玉のように見えたからでした。
     「生きてることは恥ずかしくないですわ。みんなで楽しく生きましょう」
     ミセス・マリーが優しく微笑みながら伝えてくれました。

    アリナさん退院で大号泣!!!

     アリナさんの特訓の成果が出た頃、私は隣の部屋へと移動になりました。
     デイルーム仲間の皆さんが多く、このお部屋はお姉さま方に妹のように可愛がってもらいました。
     この頃から早起きすることをやめました。おばちゃん達とお部屋が離れて、アリナさんに起こされることがなくなりました。朝食の時間になると、呆れたように笑いながら看護師さんが毎日起こしてくれました。

     デイルームの大きなテレビで仮面ライダーを観たくて、一度お願いして観てもらいました。思惑通り、おじさん・お兄さんが大興奮してました。
     この日から「平成仮面ライダーを観る会」が発足しました。
     毎食デイルームで食べるようになり、いつもわいわい楽しんでました。ふらっとアリナさんも遊びに来てくれます。「貴女がいないと寂しいわ」と隣に座ってくれてました。
     
     ——楽しい日は毎日続くわけではなく、必ず別れが来ます。それは「退院」です。 
     パン子さんや、風のように去っていったミセス・マリーなど、多くの方の退院を見届けました。ミセス・マリーは気づいた時にはもういませんでした。        
     数日前、病棟を訪れたミセス・マリー。
     「ご挨拶ができなかったので。お世話になりましたわ。Farewell(ごきげんよう)」と言い残し、また風のように去っていきました。さすが、ミセス・マリーでした。

     ある日の夜に、アリナさんがデイルームにやってきました。
     「明後日、退院することが決まってね」とみんなに報告しにきてくれました。
     「アリナさん、おめでとう」
     色々な方々から拍手とハグで祝福に包まれました。
     「寂しくなるねぇ」
     アリナさんは私に向かってしゅんとしていました。
     「これからは、娘さんやお孫さんと一緒なんですから」
     私はそっと背中を撫でた。
     あと二日でアリナさんともお別れです。
     「この二日間は一緒にご飯食べましょう」と約束したんです。一日目はフラれてしまいました(笑)
     最後の夜は、デイルームに集まった皆さんとアリナさんを囲んでお別れ会。そのまま消灯時間まで和気あいあいと語り合いました。

     ——沢山の思い出がよみがえります。
     クイズ大会、アイドルライブ鑑賞会、アリナさん監視役、可愛いお孫さんとの再会……誰よりもアリナさんと時間を過ごしました。寂しい気持ちは無いといえば嘘でした。でも、これから幸せに生きてほしいという気持ちでいっぱいでした。

     旅立ちの朝。アリナさんの娘さんが私に挨拶しに来てくれました。
     「本当にありがとうございました。ほんの気持ちですが……」
     可愛いお菓子ボックスとハンカチをいただきました。
     「アリナさん、これあげます!実は二枚あるのでお揃いですよ」
     アリナさんに某アイドルのライブグッズの下敷きをプレゼントしました。
     この下敷きには、アリナさんとの楽しい思い出がパンパンに詰まってました。嬉しそうに下敷きを見つめるアリナさんの姿は、恋する乙女の顔になっていました。これにて、布教活動が完了しました。
     「あんたと一緒に過ごせたことを忘れない。ありがとうね」
     我慢していた涙がボロボロ止まりませんでした。
     病棟のエレベーターまで、アリナさんと手をつないで歩きました。
     私:「元気でね~~アリナさん!!」
     アリナさん:「ありがとうね、ありがとうね」
     扉が閉まるまでお互いに手を振り続けた。
     ゆっくりと閉まる扉を見つめ、私はしばらく動けなかった。
     涙を拭って、窓からアリナさんと一緒に見たタワーに微笑んだのでした。

    おなくさんに伝えたパン子さん魔法の言葉

     アリナさんが退院して数日後。新たにおなくさんが仲間入りしました。
     病院の都合で私達と同じお部屋です。
     かなりの介助が必要な方でした。もっと気がかりだったのが、旦那さんへの数々の罵倒です。
    「なんであなたは私のいう事をできないの!私が欲しいのはこれじゃない!」
     おなくさんは一生懸命介護してくれる旦那さんを罵倒してました。 
    「不愉快極まりない、どうにかしてください」
     普段、温厚の方々が看護師さんに抗議をしていました。
     消灯時間を過ぎた深夜に、吠えるような泣き声が響きました。
     声の主は、おなくさんでした。ポータブルトイレを嫌がるおなくさんは、お漏らししながら大きい声で叫んでました。
     「どうしてここにいなきゃならないの!早く退院したいのになんで!私なんて死ねばいいのよ!」
     こんな日々が毎夜続くため、皆さんのストレスも限界に近づいていました。 
     ある日の昼食後に、私はおなくさんに声をかけました。
     「どうしてあんなに尽くしてくれる旦那さんに怒ってしまうのですか?あんなに奥さんのことを支えてくれる方はいませんよ。」
     興奮しないように手をそっと握り、しゃがんでおなくさんの目線に合わせて話しました。
     「違うのよ。本当は怒りたくないのに八つ当たりしてしまうの!病気になって体が思うように動けなくなって、頑張っても全然よくならない!!」
     おなくさんは、怒りに反して涙はぽろぽろとパニック状態でした。
     この時のぽろぽろとなく姿が印象的で、泣くにおを付けて「おなくさん」となりました。
     「おなくさんの今の気持ちをリハビリにぶつけましょう」
      黙ってしまったおなくさん。私は背中をさすり、泣き止むまで傍に居続けました。

     ——三十分後、やっと落ち着いてくれました。
    「ありがとうね。あなたの助言を胸にリハビリ頑張ります」
     私はこの時にパン子さんからもらった魔法の言葉を伝えました。

    「どうせ頑張るなら、顔を晴れやかに。笑顔で顔晴り(がんばり)ましょう♪」  

    「顔晴り……?」
    「『顔晴れ』で『がんばれ』と読むんです。私がこの言葉にとても救われました。」
     おなくさんは少し微笑んでくれました。
     今もこの言葉を胸に、辛くなったら心の中で唱えています。  
     おなくさんは夕方に隣の部屋へ穏やかな笑顔で移動しました。
     私の「顔晴れ」の気持ちがおなくさんの心に届いていたら嬉しいとスキップしながら売店で予約したアイドル雑誌を買いに行きました。


    エピローグ

     あれからおなくさんは、たくさん泣いて胸の内を吐き出したからでしょうか。休みの日は、旦那さんと共に病棟で自主トレをしていました。もちろん笑顔で旦那さんも嬉しそうでした。
     車椅子だったのに、二週間くらいでピックアップ歩行器、そして手押し車へと回復が早くて羨ましくて少し嫉妬していました。
     退院の日、おなくさんは私をぎゅっと抱きしめてくれました。
    「貴女のおかげで素直になれたわ。これからは主人と笑顔で過ごせるように、顔晴ります」
     ご夫婦仲良く寄り添いながら病棟をあとにしました。

     あっという間に、ドロップさんもご自身の足で歩いていた。元気に家族の方と共に退院されました。
     アリナさんにとって、良き話し相手になってくれました。
     アリナさんが嬉しそうに報告しに来てくれたのを思い出しました。

     クッキーさんはというと、もちろん病状の関係もありました。
     毎日のように、ご自身のことや不満を話していた。リハビリも消極的でした。
     皆さんも疲れてしまうので、私が率先して話しかけてました。いつの間にか「話し相手」となっていました。クッキーさんが止まらない時は、二時間近くも話していました。
     「無視すればいいよ」と皆さんは怪訝な顔で、私を気遣ってくれていました。でも、私はそういうのは苦手で見捨てられなかった。
     退院前夜に、名前の由来にもなったクッキー缶と果たし状みたいな達筆のお手紙をクッキーさんからいただきました。
     翌朝、家族と共に退院していきました。あれほど暗い表情で、退院される方を見たのは初めてでした。
     お手紙には「話し相手になってくれて、ありがとうのキモチをクッキーと共にね、お元気で」
     私がお話していた時間が嬉しかったんだと、涙がぽろりとこぼれました。

     実は、この間にアリナさんが私のところへ会いに来てくれました。
     この病院での受診は最後となり、お住いから近い病院へ。
     「最後にどうしてもあんたに会いたくてね~」
     可愛いピンクの手押し車でご登場です。一階のカフェスペースでお茶をしました。退院していったおばあちゃんたちとのお話をしました。
     「……良かったよ」
     少し涙ぐんでココアを飲むアリナさん。
     その姿は可愛くてほっこりしました。
     楽しい時間はあっという間でお別れの時間でした。
    「アリナさん、元気でね!」
     私は手を振りながら、投げキッス!
    「あんたもね!」
     アリナさんもハニカミながら、投げキッス。
     娘さんと共に、ゆっくりと病院を後にしました。
     私は見えなくなるまで手を振り続け泣いていました。

     様々なおばあちゃん達とふれあい、沢山の生きるパワーを貰いました。
     退院まで半年かかった私の生きる道しるべになりました。
     病気は、誰も望んでなるものではありません。
     それでもしっかりと受け入れ、前を向いて日々を過ごした方と、マイナス思考になり、相手をも巻き込んでしまう方とでは、退院時のお顔が全然違いました。

     おばあちゃん達との日々は、忘れられない思い出が宝物になりました。私はこれからも「顔晴る」気持ちを忘れずに生きていきたいと思いここに残します。
    ——ありがとうございました。みんな大好きだよ。

    終


     
     
    ピアポエトリー〜闘病生活等から学んだ前向きになれる・共感し合える詩〜を届けます。 好きなことをエッセイとして書きます。 たまに朗読もします。 連詩やショートショートの共同作品もアップします。 どんな言葉にも寄り添える、そんな場所でありたい。

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