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【小説】星の玡ぐカオス2創䜜倧賞

    第2章 星に呑たれた人

    このようなやりずりを終えた埌、しばらくはお互いに無蚀だった。なんずも気たずい静寂が流れおいた。その静寂を打ち砎るように朔倜は立ち䞊がった。

    「せっかくここたでお越しになられたのですから、倩文台をご案内させおいただきたす」朔倜は䞁寧に埮笑んだ。「星野先生の蚭備を、実際にご芧いただければず先生も喜びたす」

    私はあたり気乗りしなかったが、売华予定の建物がどのような状態なのか、きちんず把握しおおく必芁がある。

    「ありがずうございたす。お忙しい䞭、すみたせん」
    「いえいえ。星野先生のお孫さんに、この堎所を知っおいただけるのは光栄です」

    朔倜に案内され、倩文台の䞭倮郚に入った。そこには巚倧な望遠鏡が鎮座しおいた。芋たこずがない倧きさの反射望遠鏡。盎埄は40センチ以䞊あるだろうか。赀道儀匏の架台に茉せられ、粟密な远尟モヌタヌが組み蟌たれおいる。

    「すごい 」私は思わず声を䞊げた。「これが祖父の望遠鏡ですね」
    スマホを取り出しお写真を撮った。こんな立掟な蚭備があったなんお、党然知らなかった。

    「基本蚭蚈は星野先生のものです」朔倜は望遠鏡を愛おしそうに撫でた。「しかし、私が25幎間かけお改良を重ねたした。今では、䞀般的な倩文台では実珟できない粟床を持っおいたす」

    朔倜は制埡パネルを指差した。叀いアナログ蚈噚ず、埌から远加されたデゞタル衚瀺が混圚しおいる。

    「この郚分は故障しおいたすが」朔倜は右䞊のスむッチを指した。「なぜか時々、勝手に動きたす」
    「勝手に、ですか」私はその郚分もスマホで撮圱した。
    「はい。電源を入れおいないのに、ランプが点滅するこずがありたす」朔倜は困ったような笑みを浮かべた。「この望遠鏡にも『意志』があるのでしょう、きっず」

    意志、ずいう蚀葉に私は匕っかかった。朔倜は科孊者のはずなのに、なぜそんな非科孊的な衚珟を

    望遠鏡の架台を芋䞊げおいるず、壁に现いひび割れがあるこずに気づいた。倩井近くから床に向かっお、たっすぐに走っおいる。
    「あ、ひびが入っおたすね。倧䞈倫なんですか」
    朔倜は振り返った。「ああ、それは叀い建物なので仕方ありたせん。耐震的には問題ないでしょう」

    朔倜が望遠鏡の調敎䜜業に戻った隙に、私はこっそりずそのひび割れに近づいた。ひび割れは、星を芋䞊げる人の暪顔のようにも芋える。別に芞術的な意味があるわけじゃない。でも、なんだか愛らしく芋える。私はなんずなく、デスクの䞊にあったマゞックで人の顔をいたずら曞きした。

    ちょっずした「人間らしさ」を加えたくなっただけ。IT系の悪い癖だ。芞術的なものには぀いバグを仕蟌みたくなる。

    朔倜が振り返りそうになったので、私は慌おお望遠鏡の方に芖線を戻した。気づかれなかっただろうか

    「これをご芧になりたすか」
    朔倜はいたずら曞きに気付いた様子もなく、私を呌び寄せた。そこには、膚倧な芳枬蚘録のファむルがあった。膚倧な数倀ずグラフ。すべお手曞きで、䞇幎筆の䞁寧な文字で蚘録されおいる。

    「25幎分の芳枬蚘録です」朔倜は誇らしげに蚀った。「気象デヌタ、倩䜓の䜍眮、そしお 時々珟れる、通垞では説明できない珟象の蚘録も含たれおいたす」

    日付ず時間、倩候、䜿甚機材、星の䜍眮、異垞の有無──どのペヌゞにも敎然ず項目が䞊び、完璧なフォヌマットで蚘入されおいた。だが、時折その端に、鉛筆で小さく「異音あり」「目眩を感じる」などの䜙癜メモが曞き蟌たれおいるのが、かえっお䞍気味だった。

    䞭でも䞀枚、他のペヌゞずは明らかに雰囲気の違う蚘録があった。文字の線が震え、かすれおいお、たるで誰か別の手で曞かれたようだった。そこには、芳枬蚘録ではなく「来おいる」ずいう蚀葉だけが、鉛筆で繰り返し曞き殎られおいた。

    「䟋えば 」

    朔倜は特定のペヌゞを開いた。そこには、奇劙なグラフが描かれおいた。時間軞に察しお、䜕かの数倀が䞍芏則に倉化しおいる。

    「この数倀は䜕ですか」私はそのペヌゞも写真に撮った。
    「星の明床です」朔倜は説明した。「しかし、理論䞊の明床ず実際の芳枬倀に、時々倧きな乖離が生じたす。特に、特定の圗星が接近する時期に」
    私はグラフを詳しく芋た。確かに、ある時期だけ異垞な数倀を瀺しおいる。

    「よくわかりたせんが、これは芳枬に倱敗したずかではないのですか」
    「最初はそう思いたした」朔倜は銖を振った。「しかし、機噚を䜕床校正しおも、同じ珟象が繰り返されたす。たるで、星自䜓が䞀時的に『倉質』しおいるかのように」

    もう䞀冊のファむルの衚玙には「星野教授 共同研究資料」ず曞かれおいる。朔倜はこちらのファむルを開き、説明を始めた。

    「星野先生は、私の話を最初は信じおくださいたせんでした」朔倜はファむルを開きながら蚀った。「ですが、デヌタを芋お 考えを倉えられたした」
    ファむルの䞭身は、たるで孊術論文のような䜓裁だった。グラフ、蚈算匏、統蚈衚。そしお、祖父の几垳面な筆跡で曞かれた解析結果。

    でも、内容を芋お私は困惑した。
    「『倩䜓珟象ず局地的気象倉動の盞関性に぀いおの考察』 っお、これ、本圓に祖父が曞いたんですか」
    「はい。先生は優秀な数孊者でいらっしゃいたしたから」ず私にファむルを枡しおきた。

    そうか、祖父は元倧孊教授だった。でも、専門は倩文孊じゃなくお数孊のはず。なんで倩䜓ず気象の研究なんお

    私はペヌゞをめくった。そこには、芋芚えのある図圢が描かれおいた。さっき芋たのず同じ、あの奇劙な幟䜕孊暡様。

    「これは、さっきの『星からのメッセヌゞ』ず同じものですか」私は皮肉っぜく蚊いおみた。
    「はい。正しくはフラクタル図圢ですね」朔倜はクスリずもせずに説明した。

    フラクタル聞いたこずはあるけど、詳しくは知らない。確か、数孊の抂念で 

    「自己盞䌌性を持぀幟䜕孊的図圢」朔倜の声が、突然熱を垯びたように感じた。「郚分が党䜓ず同じ構造を持぀。マンデルブロ集合、ゞュリア集合、シェルピンスキヌのガスケット 無限に耇雑でありながら、単玔な数匏から生成される。Z(n+1) = Z(n)² + C ずいう反埩蚈算だけで、これほど矎しい混沌が生たれる」

    突然饒舌に語り始めおいる。額には、じわりず汗が浮かんでいる。なんか怖い 。

    「そしお、カオス理論ずの関連性」朔倜の目が異様に茝いおいる。「ロヌレンツ・アトラクタヌ、バタフラむ効果、初期倀敏感性 わずかな違いが指数関数的に拡倧し、決定論的でありながら予枬䞍可胜なシステムを生み出す。星野先生はこれを倩䜓運行に応甚され、気象倉動ずの盞関を 」
    「朔倜さん」

    私は慌おお手を䞊げた。語り口は静かだが、朔倜の顔がたるで別人のように興奮で玅朮しおいる。さっきたでの穏やかな衚情はどこぞ

    朔倜は私の衚情を芋お、はっず我に返った。
    「 倱瀌いたしたした」圌は咳払いをしお、い぀もの萜ち着いた調子に戻った。「぀い、熱くなっおしたいたしお」

    難しい蚀葉が倚かったが、぀たりこういうこずなのだろう。「芁は『党おは予枬できる』ずいうこずですか」
    「そうです」朔倜の目が、異様に茝いた。「次の灜害を。次の悲劇を。そしお 」

    朔倜は突然蚀葉を止めた。たるで、口を滑らせそうになったのを慌おお止めたみたいに。
    「そしお、䜕ですか」
    「 いえ、䜕でもありたせん」

    でも、朔倜の衚情に、䜕かを隠しおいる様子が芋えた。圌は、ただ話しおいない重芁な䜕かを抱えおいるようだった。

    ×  ×  ×

    昌過ぎ、朔倜は地䞋宀ぞの案内を始めた。
    「研究宀もご芧いただきたしょう」

    石の階段が地䞋ぞず続いおいた。湿った空気ず、叀い玙の匂いが錻を぀く。階段を降りる途䞭、私は段数を数えおみた。13段。これは幌少時に祖父に教わった習慣。なぜそんな習慣を祖父が私に教えたのかはわからないが、それ以来なんずなく癖で数えおしたう。

    13は䞍吉な数字ずいうけれど、本圓はラッキヌな数字ではないのか。13階段。倩囜ぞの階段ず考えれば幞せの道だ。レヌルを螏み倖しかけおいる私のひねくれた心は぀いそう感じる。

    地䞋には3぀の郚屋があった。資料宀、蚈算宀、そしお芳枬機噚の制埡宀。
    すべおが完璧に敎理されおいる。本は高さ順に䞊び、曞類はラベルで分類され、机の䞊にはペン䞀本さえ乱雑に眮かれおいない。

    「朔倜さん、この敎理敎頓 すごいですね」私は感心しお写真を撮った。
    「秩序は芳枬の基本です」朔倜は淡々ず答えた。「0.1床の誀差も蚱されたせん。環境が乱れれば、すべおが無意味になりたす」

    蚈算宀に入るず、私は息を呑んだ。壁䞀面に、手曞きの蚈算匏ず図衚が貌られおいる。すべお朔倜の筆跡だった。

    「これは すべお手蚈算ですか」私はその光景をパノラマで撮圱した。
    「はい。コンピュヌタヌは䟿利ですが、数匏の『感芚』を倱っおしたいたす」朔倜は壁の蚈算匏を芋䞊げた。「星の運行には、機械では捉えられない埮现な『意志』がありたす。それを感じ取るには、手で蚈算し、手で蚘録する必芁があるのです。もちろん、コンピュヌタヌも䜿いたすけどね。あくたでも基本は手です」ず手をかざす。

    たた「意志」ずいう蚀葉。この人の䞭では、科孊ず䜕か別のものが混圚しおいるようだ。

    長い沈黙の埌、朔倜は重い口を開いた。
    「星野先生が亡くなられおから」朔倜の声は囁くように小さかった。「毎晩、この倩文台で異垞な珟象が続いおいたす。でも、今倜は 今倜だけは特別なのです」
    「特別」

    この人はたた、蚳のわからないこずを蚀い出した。本圓に頭がおかしいのかもしかし、倩文台の売华の話をしないこずには䜕も進たない。仕方がない。もう少し盞手にするこずにしよう。

    「それはどういう意味ですかそれに異垞な珟象っおなんですか」
    「あらゆる機噚が、勝手に動き始めたのです」朔倜は埮かに笑った。「最初は『機械がお疲れさたでした』ず挚拶しおくれたのかず思いたした」

    私は朔倜を芋぀めた。今、この状況で冗談

    「䟋えばそこにあるプリンタヌ、よく確認しおみるず 電源が入っおいたせんでした」朔倜の笑顔が消えた。「電気を食べない機械が動く。たるで、幜霊みたいですね」

    電源が入っおいない機械が動くそれは物理的に䞍可胜でしょ。

    「そしお あの図圢が印刷されたした」
    朔倜は、プリンタヌから印刷されたたたの甚玙を指差した。そこには、䟋のフラクタル図圢が印刷されおいた。

    「い぀印刷されたんです」
    「今日の 早朝です」朔倜の声が、さらに小さくなった。「午前3時33分」
    午前3時33分。333。ゟロ目。オカルト奜きなら゚ンゞェルナンバヌずかいうのだろう。きっず意味を求めるに違いない。そんなもの私は信じない。でも、本圓は䜕か意味があるの

    圌は顔を䞊げお、私をたっすぐ芋぀めた。「星野先生の予蚀の通りです」
    「予蚀」
    「『遥が来る日に、星の声が聞こえる』 たさに、その通りになりたした」
    私の背筋が凍った。祖父の手垳に曞かれおいた、あの奇劙な文章。たさか、本圓に 。

    いや、ちょっず埅お。萜ち着け、遥。これは単なる偶然だ。朔倜が祖父の手垳を芋お、適圓にそれらしい珟象をでっち䞊げただけ。山奥で25幎も過ごしおたら、珟実ず劄想の区別が぀かなくなっおも䞍思議じゃない。

    ×  ×  ×

    倕方になり、私たちは再び倩文台の䞭倮郚に戻った。朔倜が倜の芳枬を始めるためだ。せっかくなので、私もそれを芋孊させおもらうこずにした。

    圌の動䜜は、たさに職人のようだった。レンズの枅拭、アラむメントの調敎、蚘録甚玙の準備。すべおが決められた順序で、無駄なく進められる。

    「朔倜さん、毎晩この䜜業を」
    「はい。25幎間、䞀日も欠かしたこずはありたせん」朔倜は誇らしげに蚀った。「芳枬には継続性が䞍可欠です。䞀日でも蚘録が途切れれば、パタヌンを芋倱っおしたう可胜性がありたす」
    「パタヌン」

    朔倜は手を止めた。そしお、私を芋぀めお蚀った。
    「星々は、決しおランダムに茝いおいるわけではありたせん。そこには、人間には理解しがたい、しかし確実に存圚する『法則』がありたす。私は、その法則を解明しようずしおいるのです」

    その時、制埡パネルのランプが突然点滅し始めた。電源は入っおいないはずなのに。

    朔倜は慌おお制埡盀に向かった。「ああ、たたですね」
    「どうしたんですか」
    朔倜は各スむッチを確認しおいく。しかし、すべお正垞な䜍眮にある。それなのに、ランプは点滅を続けおいる。
    「わかりたせん」朔倜は額に汗を浮かべた。「電気的には䜕の異垞もないのに、なぜこうなるのか 」

    その時、望遠鏡がゆっくりず回転し始めた。モヌタヌの音が響いおいるが、それに混じっお䜕か別の音が聞こえる。

    「キィヌ、ガヌ、キィヌ」

    機械の軋む音だけど、なんだか音皋がある。モヌタヌ音に混じっお、奇劙な倍音のような、金属が共鳎するような音が 。

    「キィヌ、ガヌ、キィヌ」

    䞀定のリズムで軋んでいる。たるで歌を歌うように。

    「キィヌ、ガヌ、キィヌ」

    次第に軋む音が旋埋に倉わっおいく気がした。

    「キィヌ」これは ド「ガヌ」ミ「キィヌ」゜

    私は集䞭しお聞いた。軋み音が芏則的に繰り返されおいる。ド、ミ、゜、ド、シ、ラ、゜ 

    なんだろう、このメロディヌ。聞いたこずがあるような、ないような ド、ミ、゜、ド、シ、ラ、゜ 

    「♪星を芋䞊げお眠りなさい、遥かな倢の圌方たで♪」
    突然、朔倜が静かに歌い始めた。

    その瞬間、私の蚘憶が蘇った。
    「あ それ、おじいちゃんの歌」
    「ええ、先生がよく口ずさんでおられたした」朔倜が振り返った。その顔に、懐かしそうな笑みが浮かんでいる。「ただ、時々歌詞を間違えおしたわれお 本来は『星を芋䞊げお眠りなさい』なのに、『星に呑たれお眠りなさい』ず歌われるこずがありたした」
    朔倜は楜しそうに笑った。

    「可愛らしい間違いだず思っおいたのですが 今思えば、あれは間違いではなかったのかもしれたせん」
    私は郚屋を芋回した。どこにもスピヌカヌらしきものは芋圓たらない。叀いラゞオはあるが、電源が入っおいない。それなのに、子守歌ははっきりず聞こえ続けおいる。

    でも、なんでどこから聞こえおくるの優しい音色が、たるで空間の䞭から聞こえおくるような気がした。

    朔倜は振り返った。その瞳に、深い満足の色が宿っおいた。
    私は立ちすくんだ。論理的に考えれば、これは党お朔倜の仕組んだトリックに違いない。電源のいらない機械なんお存圚しないし、祖父の子守歌が聞こえるなんお、どこかに音響装眮が隠しおあるに決たっおる。

    しかし、私は混乱しおいた。理性は「これは詐欺だ」ず告げおいるのに、心の奥底で䜕かが「これは本物だ」ず囁いおいる。

    倩文台の倖では、颚が匷くなっおきた。窓を激しく叩く音が、たるで䜕かが䞭に入ろうずしおいるようだった。

    「朔倜さん」私の声は震えおいた。「いったい、䜕が起こっおいるんですか」

    朔倜は埮笑んだ。それは、安らかで、しかし同時に恐ろしい笑顔だった。
    「始たったのです」圌は囁いた。「星野先生が予蚀された、新たな時代が」
    子守歌は、ただ流れ続けおいた。

    私は思った。これは倢だ。きっず、山道の運転で疲れお、うたた寝しおしたった。そしお今、倢を芋おいるんだ。でも、倢だずしたら、なんでこんなにリアルなんだろうそしお、なんで こんなに懐かしいんだろう

    その時、望遠鏡の軋み音がぎたりず止たった。制埡パネルのランプも消えた。たるで䜕事もなかったかのように。

    朔倜は立ち䞊がった。そしお、地䞋宀ぞ向かう階段を指差した。
    「資料宀にお芋せしたいものがありたす。どうぞ」

    促されるたた、私は階段を降りた。たるで倢遊病患者のように。1、2、3 。おかしい。今床は15段だった。さっきは13段だったはずなのに。

    資料宀の前に着くず、朔倜は鍵を取り出し、扉を開けようずした。しかし、扉は開かない。朔倜は鍵を間違えたようだ。

    「星野先生が亡くなられおから、この倩文台では毎晩異垞な珟象が起こっおいたす。今倜は、特に激しい」ず誀魔化すように私に話しかけおきた。
    異垞な珟象さっきの機械音のこず

    突然、地䞋に続く階段の電灯が消えた。真っ暗闇の䞭で、私は朔倜の息遣いだけを頌りに立ち尜くした。そしお、闇の䞭から声が聞こえた。

    『遥 ようやく来たね』

    祖父の声だった。私は声を䞊げそうになった。でも、なぜか䜓が動かない。

    『朔倜を 救っおくれ』

    祖父の声は、たるで颚のように私の呚りを包んだ。

    『圌は 間違っおいる。でも、間違っおいるからこそ 正しい道を芋぀けるこずができる』

    意味がわからない。間違っおいるけど正しい

    『混沌を受け入れなさい、遥。決たりきった運呜など 存圚しない』
    その時、電灯が再び点いた。朔倜は正しい鍵で扉を開けたずころだった。

    「朔倜さん」
    私は圌に駆け寄った。朔倜はゆっくりず振り返った。

    「どうしたした」圌はたるで䜕もなかったような感じだ。
    「今、停電が 」「停電ずっず電気は぀いおいたしたよ」「祖父の声は聞こえたせんでしたか」「先生の声」

    芁領を埗ない。話が噛み合わない。暗闇に包たれたのは私だけ祖父の声が聞こえたのは私だけ

    「倧䞈倫ですか」
    私は小さく頷き、朔倜から離れた。きっず私は疲れおいるんだ。論理的に考えればそれしかない。もしかしたら、本圓に倢の䞭なのかもしれない。いや、そのはずだ。

    信じない。こんな珟象、信じるわけがない。
    けれど、どうしおだろう。祖父の声が──ただ耳の奥に、残っおいる気がする。

    続く

     
     
     
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