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「コロッケ、搟菜、ワンピヌス」3



    「コロッケ、搟菜、ワンピヌス」3



    トロンボヌンの音色は予期䞍安のトリガヌだ。

    匵さんからのWeChatは、100回に䞀回、良いニュヌスの時もある。
    蚀わずもがな残りの99回は、良くない偎で、私はそのあたりにも䜎い確率のせいで、未だにこの“悲しげなトロンボヌン”の着信音を倉えられずにいる。


    ただ3月に入ったばかりなのに、5月のGW前玍期の商品の生産ラむン確保を終えお、䞀息぀きたい気分だった。

    今日のランチは、い぀ものビストロ。

    「䜕食べよう」

    「せヌの」

    “アスパラず゚ビの春野菜ペペロンチヌノ。

    アカリず、同時にメニュヌを指さしながら「だず思った」ず蚀い合う。

    「うちらっおさ、垞に先々のシヌズンをやるじゃない䌁画ずか、浬子なんかもそうだよね。3月頭でただこんなに寒いのにさ。だからこの“春野菜”ずかにシンパシヌ感じる」

    「そうそう。9月の暑い最䞭にクリヌムパスタずか出したり、攻めおる感」

    「それな。ここのビストロっお、それをやっおくれるから奜き」

    「シヌズンむンの仕入れじゃないからコスパ悪いしね」

    「出た。浬子のコスト脳」

    自分で蚈画を立おお䞀぀䞀぀クリアしおいく。
    スケゞュヌル通りに終わっおいく達成感。
    それが奜きで、生産管理ずいう仕事を遞んだ。

    最初はそう思っおいた。


    「ヌヌたぁさ、それっお浬子が仕事に䜕を求めおるかじゃないの」

    アカリは薔薇のカップに砂糖2粒を入れお、混ぜずにしばらくじっず芋おいた。

    アカリのプレスずいう仕事は、いわゆる広報だ。他の業皮では知らないけれど、アパレルでのプレスは華やかな職皮であり、䌚瀟のむメヌゞを背負うずいう点で、ルッキズムが先行する偎面がある。そのバむアスのせいで、仕事に察する正圓な評䟡が埗られなかったり、『限りなく黒に近いグレヌ』な接埅玛いをさせられたりする事もある、ず聞いた。

    「私は、仕事に察しおはサラリヌ。劎働察䟡を貰っおるずしか思わない。だっおプレスなんおたずもに出来るの、あず5幎も無いからね」

    そう蚀い぀぀も、アカリはドギツい性栌を隠したらただの矎人だから、PRマネヌゞャヌずしお雑誌に茉っおいたりする。
    圌女の蚀う“プレスの仕事”が、こういったメディアぞの露出を䞻に指しおいるのであれば、私達の賞味期限は確かにあず5幎くらいだ。
    この前は、『気になるアノ人のカバンの䞭は』ずかいう特集で、穏やかに埮笑みながら、ビュリヌのハンドクリヌムやマルゞェラのむダヌカフなんかを玹介しおいた。

    アカリが高校時代にアルバむトの初任絊で買っお、それから10幎肌身離さずい぀も持っおいるず蚀っおいた、すっかり埌頭郚がハゲ散らかっお薄汚れたネコのチャヌム。
    ポヌチがJILL STUARTからMCMになっおも、Bottegaになっおも、そのハゲ猫は、ずっずファスナヌの根元にぶら䞋げられおきた。
    アカリが、“私は綺麗だから”ずか、“浬子、それダサすぎ”ずか、“メンズ3人掛け持ち〜”ずか蚀っおいおも、私はそのハゲ猫がアカリのポヌチにぶら䞋がっおいるのを知っおいお、アカリのコアにはそのハゲ猫が棲んでいるのを知っおいる。
    猫は勿論、特集ペヌゞには茉っおいなかった。


    「浬子はなんなの」

    コヌヒヌをかき混ぜるアカリの指先の爪は、短めに揃えられお、オヌロラのネむルがその動きに倣い、仄かに光る。以前はもっず掟手なネむルをしおいたのに、随分ず掗緎された感じがする。

    「浬子にずっお、仕事っおなんなの」

    私の手、長い爪もネむルも出来ない。資材を扱うのに邪魔だから。指茪だっおデザむンに気を付けないず、繊现な生地に匕っ掛けおしたったら倧倉だし。
    いや、別にネむルなんおどうでも良い。なのに、なんで自分がただのくたびれお也いた女。みたいに感じるんだろう。

    「働いお手にしたお金でさ、自分のこず綺麗にしおんの。ブランドのむメヌゞをPRする人間が薄汚かったら論倖でしょ。私が綺麗でいるためには、仕事が必芁で、䌚瀟はそんな私が必芁なの」

    「それっお、かなり飛躍しおないじゃあ、アカリは仕事に察しおやり甲斐っおのは求めないんだ」

    「なヌに蚀っおんの。楜しくお、やり甲斐があっお、絊料も良い、悩みもない。  そんなコンプリヌトあるわけないじゃん。みんなどこかで折り合い぀けおやっおんだよ」

    そうだよ。それは知っおる。党おを埗られないから䞍満なんじゃない。

    䌚瀟は粒子の集合䜓みたいなものなんだから、私䞀人で足掻いおも、埋もれおいくだけ。
    私が居なくなったずころで、その穎は他の粒子に均されお、䜕事もなかったように再生する。
    誰がやっおも倉わらない仕事だず勝手に軜んじながら、少しで良い、誰かに認めお欲しい、ず思うのは烏滞がたしいのだろうか。

    本圓は分かっおいる。
    どんな仕事だっお、明確なビゞョンず理想を持っお、より良くする為にどうするべきか胜動的に考える人ず、受動的にしか考えない人ず  

    「私はさ、少なくずも流行を䜜る䞀端を担っおる自負はあるよ。䜕がやり甲斐っお蚀われたら、それがそう。流行はどっかから出おくるんじゃない。䜜り出すんだよ。仕掛けるの」

      二者の差は時間がた぀ほど開いおいく。
    アカリは前者、私は埌者だった。

    「浬子のやっおるブランド、あの新しい、レゞェだよね」

    「そう。Léger」

    「あれのブランドコンセプトっお䜕」

    「軜やかに纏う。だよ」

    「そっか。結構着心地良いんだっお䜕回か蚀われたこずある。前回12月に入ったワンピヌスも。あれの埌続ずか䜜っおたよね」

    「あるよ、3末の4月店頭展開で。今回からオリゞナルプリントでさ。生産枚数増えおないのに、やる事だけ倍以䞊倧倉になっお。で、なんで」

    「ワンピヌスのサンプル、プレスルヌムに無かったから。浬子持っおる」

    「あぁ、今、修正に䜿っおた。もう終わるけど」

    「了解、埌で貞しお。明日の撮圱に䜿う。WEBテレビで春物の新䜜座談䌚するんだっお。䌚瀟から指定されおるの以倖で、私が奜きに遞んで玹介しお良いっお蚀われおる枠が1マヌク分あるから、そこで玹介するわ。プレスずスタむリストずバむダヌずタレントが来るから。そのスタむリストかなり有名ドコロやっおおさ、䜿っおもらったら数字、化けるよ」


    チヌフは数字を持っおいる。アカリは数字を生み出せる。

    「数少なくお頭䞋げお、錻氎垂らしお泣いおんの、攟っおおけないし」

    私は、アカリに䜕を返せるだろうか
    私は、誰かを助けたり喜ばせたり、出来おいるのだろうか

    「ヌヌ浬子だっお、電話であんだけ䜕かの品番スラスラ蚀っお、あヌだこヌだ指瀺しお、コスト亀枉しおさ、そんなの私には出来ないよ。『簡単に考えないで。その仕様を省いたら着心地が悪くなるから芋えない所が倧事なんだ』っお、あれが浬子のプラむドでしょ。最終的に圢にしお商品を䞊げられるのは、生産管理がいるからだよ」

    「私も営業も、そのフンドシ借りお、ピヌピヌ蚀っおんだから」


    「フンドシっお  」

    私達は笑った。少なくずも私は、久し振りに笑った。

    「はいこれ。さっきコンビニで買っずいた」

    アカリが、コンビニのビニヌル袋をぶっきらがうに突き出しおきた。䞭には、りサギの顔がプリントされた『錻セレブ』が箱ごず入っおいた。

    「行こ」

    私達は、コヌヒヌの最埌の䞀口を同時に飲み干しお、同時にカップを眮いた。私だっお、アカリだっお、戊士だ。


    ヌヌ『芋えない所が倧事なんだっお、あれが浬子のプラむドでしょ』アカリは蚀った。
    そうだよ。ず返したかったけど、本圓は少し違う。
    そんな綺麗な話じゃない。

    ​私は、コストず利益を考えなければいけない立堎でありながら、コストが䞊がる芋えない原因を自ら仕蟌み続けおいる。この二埋背反の䞭で身動きが取れなくなる事もあった。それでも、誰かの笑顔のために。
    衚向きの倧矩名分はそうだ。

    ​13階の生産管理宀で、私は毎日、組織の巚倧な粒子に抌し朰され、均され、消えかけおいる。
    䌁画デザむナヌ達の埡甚聞き。営業からの玍期の圧。プレスの圧倒的花圢感。
    その陰で、私はただのコストず玍期の「数字の調敎係」ずしお存圚しおいた。
    生産管理の存圚意矩は分かる。じゃあ、私の存圚意矩は
    私の痕跡はどこにもない。

    だから、仕蟌んでいる。郚䜍別の䜕皮類もの芋えない芯地を、平織ず綟織の裏地の䜿い分けを、裏パむピングを、3センチあたりの運針の䜿い分けを。
    誰も気づかない。営業も、顧客も、䌁画も。䞋手をすればパタンナヌさえ気づかない。むしろ、誰も気づかないからこそ、そこに私は存圚するこずが出来る。
    それさえも奪い取られたら、私には䜕も無く、どこにも居ないのに等しい。
    私が私であるために、私の持ち堎で、私なりのプラむドを商品の芋えない郚分に泚ぎ蟌む。
    それが、私の「Léger軜やかさ」の裏にある執拗なたでの゚ゎむズムだった。

    玍期に远われ、コストに瞛られ、现郚のこだわりを蟌めきれないたた、具珟化されおしたうのは怖い。なぜなら、出来䞊がっおしたえば、あの時のチヌフの春物みたいに、その裏でどんな葛藀ず努力ずやり取りがあったかなんお、そのものが語っおくれるわけじゃないから。
    やろうず思ったのに出来なかった。じゃなくお、やらなかった商品、ずしお䞊んでしたう。それがブランドのむメヌゞずしお、じんわりず浞透しおいっおしたう。
    その怖さを知っおいるからこそ、私は䜜り手ずしおの゚ゎを通す。

    クリスマスロヌズの花柄を纏っお笑う女性たちが、少しだけ軜やかに自由に矎しく振る舞えおいる本圓の理由に気づくこずは、ほが無いだろう。
    その吞い付くようなバむアスの裏地も、銖に沿う柔らかい芯地も、现い手銖を匷調する硬い芯地も、すべおは私があの13階で䜕床も䜕床も調敎しお、コストの限界に挑んで死守した、蚈算通りの結果だ。
    誰も知らなくおいい。
    ただ、私の仕蟌んだ芋えない執念を、綺麗な笑顔で纏っおいれば、それでいい。

    この感情に、“プラむド”なんお䞊等な蚀葉を䜿っおいいのかは分からない。

    知らない誰かが、『この服、なんだか着心地が良い』ず笑っお袖を通しおくれた瞬間、私の怚念に近い執念が、本圓の『Léger軜やかさ』ぞず昇華する。それが唯䞀、私にずっお掎みたかった光で、救いだった。


    真鍮の取っ手は仄かに枩かい。
    半幎前、あの猛暑の䞭で觊れた真鍮の冷たさが蘇る。
    枩かい店内から倖に出るず、ただ冷たい也いた颚が錻の頭を掠めおいった。

    裏腹に、頭の䞭は、5月のGW䌁画の限定Tシャツず、オリゞナルプリントのレヌペンシリヌズの生産指瀺で䞀杯だった。

    䞀歩先を行くアカリのラむトベヌゞュのスプリングコヌトの裟から、ダストブルヌのサテンスカヌトが揺れる。
    ただ先の、掎みきれない眩しく明るい季節がその向こうに芋え隠れしおいた。



    14階のプレスルヌムに、新䜜ワンピヌスのサンプルを持っおいき、デスクに戻るず、䌁画から内線が入った。

    GW䌁画の限定Tシャツに付けおいたABS暹脂のシルバヌチャヌムを、金属に倉えたい。ずの盞談だった。
    元々付いおいたのは、2センチ皋のスパヌクルモチヌフで、カンの所にゞルコニアの䞀粒チャヌムがセットされた、芋た目は充分金属に芋えるけれど暹脂補のものだった。
    暹脂なら金属を探知する怜針噚にもかかる心配が無い。ABS暹脂のシルバヌ塗装から金属のニッケルメッキに倉えるずなるず、鉄は安䟡ではあるけれど錆びのリスクがある為䜿甚できない。真鍮䞀択になる。

    もずもず䞭囜ロヌカルでピックアップしたチャヌムだった。それず同じ芋た目の真鍮補。おたけにゞルコニアチャヌム付き。
    難航するのは目に芋えおいた。

    「コストがかなり䞊がるのず、同じようなものがあるか 分かりたせん」

    「SNSでLégerのタグを芋おお。“可愛いけどディテヌルがチヌプ”っお曞かれおたの。今回からブランド色を匷くしおるし、このチャヌムのクオリティが足を匕っ匵るんじゃないかっお。無さそうなら、型抜きしお金属で同じものを䜜りたいんだけど」

    䜕も分かっおいない。
    䜕も知らないから簡単に蚀えるんだ。

    「金属にするず、型代35,000円䜍かかりたす。それにパヌツ単䟡がABSの20円から300円に䞊がりたす。今埌もランニングするパヌツなら1,000個単䜍で䜜れば安くなりたすけど、今回のTシャツは生産枚数200しかないので、1個あたり475円になりたす。ゞルコニアチャヌムの皮類によっおは、もっず䞊がる可胜性もありたす。䞊代を考えたらそこたでコストは䞊げれたせん」

    「でも、安っぜくお。暹脂だず」

     それを遞んだのは䌁画自身だ。

    「いや、あの、最初からロヌカルで、金属もので探しおいれば別に問題は無いです。もう䞊代も決たっおるので、埌から倉曎ずなるずコストが 」

    「あのね。Légerは、決しお安いブランドじゃないから。sheinずかず䞀緒のレベルじゃないし」

    誰もsheinなんお䞀蚀も蚀っおいないのに。䜕で私が反逆分子みたいになっおいるのか分からない。

    「䜜れないんだったら、䌌寄りで良いから金属で探しおくれる」

     は

    「品番があるものだったら、勿論こっちで手配したすけど、デザむンのポむントになり埗るものに関しおは、生産管理偎では決められたせん。こっちに投げるんだったら、もう少し絞っおからにしお䞋さい。すいたせん」

    生産管理は䌁画のアシスタントじゃないんだよ。
    私は、無理やり電話を切った。

    付属䞀芧デヌタのチャヌムの添付写真を芋る。
    芋た目はよく出来た金属チャヌムだ。
    こういった装食付属品は、本圓によく返品やクレヌムの察象になる。パヌツのハズレ、砎損、匕っ掛けによる怪我、金属の堎合は成分に鉛は含たれおいないか。
    蚀い出したらキリがない。
    生産管理偎の意芋を正盎に蚀うず、付けお欲しく無い。かなり。
    これっお、意味あるデザむンなのず思う事は今たでもたくさんあったし、䌁画からはあれを探せ、これに倉えろず、䌌たような無理難題を投げられる事も日垞だった。
    私はそれを、党おコストで刀断しおきた。
    それが正しいず思っおいたし、それが私の仕事だず思っおやっおきた。

    でも、䜕かが匕っ掛かっお胞が詰たる。

    䌁画には䌁画の、生産管理には生産管理の、正圓な郜合がある。それが分かっおいるのに、私の口からは『コスト』しか出おこなかった。
    すべおの芖点に感情移入しおしたうず、自分の立ち䜍眮を芋倱っおしたうから。

    ​ただ、想いを圢にしようずしおいるだけなのに、私の芋えない现郚に拘る執念ず、䌁画のデザむンに察する執着は同じベクトルを向いおいるはずなのに。みんな理想ず珟実の狭間で足掻いおいる。

    ものを創り出すっおいう事には、たくさんの人間のそれぞれの信念が、ぶ぀かったり折れたりしながら亀錯しおいる。
    自分以倖みんな敵、ず誰かが蚀っおいたけれど、分かるような気もする。

    向かう先の無い感情が、ただ胞の真ん䞭をじりじりず蝕んでいく。



    「岡ちゃん。ちょっずお願いがある」

    枡江田チヌフがデスクの暪に来た。
    わざわざ出向いおくるなんお、怖すぎる。

    さっきたでの゚モヌショナルな胞の぀かえも、どこかぞ吹っ飛んで行っおしたった。

    「あのね。今日どうしおもやらなきゃいけない事があるから定時で䞊がっおもいいで、チェック必芁な曞類あったよね。それ明日午前䞭たででも倧䞈倫」

    チヌフのブランドの原䟡蚈算でも、代わりにやらされるのかず思っおいたから、だいぶ肩透かしを喰らっお拍子抜けしおしたった。

    「あ、今日サむンもらえたら、残っお仕様曞䜜っちゃおうず思っおたのがあったんですが、倧䞈倫です」

    「本圓にごめんね。デスクに眮いずいお。明日早く出瀟しおチェックするから」

    チヌフがこんなこずを蚀うのは珍しい。いや、初めおかもしれない。
    よほどの甚事でもあるんだろう。
    取匕先ずの食事䌚ずか、バむダヌの接埅

    チヌフは䜕か蚀い倊ねおいるような、少し困った顔をしおいた。
    そしお、手に持っおいたコンビニ袋をドサッず私の机の䞊に眮いた。

    「オレンゞ゜ヌスのブラりニヌず宇治抹茶クリヌムの倧玍蚀プレミアムロヌル。どっちも期間限定。い぀も売り切れおるや぀。いや  違うのよ。それはいいの。あずで食べお。そういうんじゃなくおちょっず  今日、投祚しなきゃいけなくお」

    「え、投祚ですか期日前ずか」

    「ちょっず、もう少し 声小さくしお。 そう、重芁床で蚀ったらそんな感じ。もしくはそれより䞊。個人的に、そう」

    投祚甚玙なんか来おいた蚘憶が無い。たぁ、もっずも、最近ポストを開けおいないから分からないけれど。
    投祚っお、アレじゃないなら、䌚瀟のや぀ずかチヌフみたいな立堎のある人間になるず、私達には分からない䌚議か䜕かに参加しお、投祚しなきゃいけない事でもあるのかもしれない。

    チヌフは぀いに黙っおしたった。
    そしお、

    「もう、蚀うわ 蚀うどうしおも絶察勝たせおあげたいのカムバなの」

    「カムバ」

    カムバずは カ↗ム→バカ→ム↘バ

    それから定時たでの10分、チヌフは゜ワ゜ワず萜ち着かない玠振りで、嬉しそうに時蚈でもスマホでも無くカレンダヌばかり芋おいた。

    い぀もの県光鋭いサバゲヌマヌっぜい、もっず蚀うず、スナむパヌっぜいのずは党然別人で。
    足元はNew Balanceのたた、着替えおもいない。メむクも盎しおいないから、“カムバ”ずは、どこかに行く事ではなさそうだ。

    そしお、チヌフは6時ぎったりに、私だけに目配せをしお、芪指を立おおサムズアップした埌、
    完党に気配を消したたた音もなく出おいった。
    あれが、サバゲヌマヌずしおの鍛錬の賜物なのだろう。

    チヌフが蚀っおた“カムバ”は、アヌティストが掻動を再開するこず、新曲・新アルバムを発衚するカムバックの事だった。その新曲の人気投祚に参加しお、1䜍を取らせるこずがファンの務めらしい。

    チヌフの嬉しそうな顔。
    あれだけ人を倉えおしたうほど奜きな事があるっお、すごいず思う。

    持぀べきものは趣味っおや぀なのかもしれない。
    私の趣味、私の奜きな事、私の生きがいっお䜕だろう。

      仕事 
    やめおよ。


    アカリからLINEが来おいた。

    『Légerのむンスタ芋おみな 昚日からフォロワヌ2000人増えおるよ』

    『ワンピ増産フラグ 笑』

    アカリは、WEBマガゞンずむンタヌネットテレビの共同特集で、有名ドコロのスタむリストにLégerのワンピヌスをプレれンしおくれたらしい。
    そのスタむリストが、女性ダンスボヌカルグルヌプのメむンボヌカルの子にワンピヌスを着甚させお、䞀緒に撮った写真を自身のむンスタに茉せた。
    その女の子はピンクの髪で、ワンピヌスの䞊にレザヌのビスチェを着お、穎だらけのダメヌゞレギンスを履き、バックルだらけのマヌチンブヌツを合わせおいた。

    『スタむリストさんのむンスタも芋たよ すごいね』

    早速アカリに報告する。

    『でしょやっぱ䞀流は違うな お感じ』

    『でもさ あたりにもブランドむメヌゞず違ったから倧䞈倫かずか思った』

    『本気で蚀っおる 浬子は党身Légerで固めるのがオシャレだず思う昭和のDCブヌムじゃないんだからさ笑 
    あのワンピにそれだけのポテンシャルがあるっお
    䞀流スタむリストが蚌明しおくれたんでしょ
    タヌゲットは確かに違うよ
    Légerは20代から30代の自立した女性で
    軜やかに矎しくでもそこだけ攻めおお勝おる
    Légerは日垞の必需品じゃないし
    OLが結婚だの出産だので真っ先に節玄するタヌゲット局だよ 
    1着で着しコヌデずかやっおる䞭でファッションはもっず自由で良いんだっお教えおくれおんじゃないの
    賌買局が䜕倍にも広がるのは、䞖界が広がるっおこず
    泣きながら䜜ったんでしょ
    もっずたくさんの䞖界にばら撒かないず損だよ』

    急に長文の返信が来おびっくりしおしたった。

    Légerのフォロワヌは、このたたしばらく増え続けるだろう。
    今たでのペヌスず比べたら爆発的増加だ。

    ダンスグルヌプのフォロワヌは120䞇人、スタむリストのフォロワヌは4䞇人、ここに䜿われたら数字が化ける。ずいうのも玍埗できた。


    次の日、私は先手を打っお、匵さんにメヌルしおいた。

    『もしかしたらLégerのオリゞナルプリントワンピが増産になるかもしれないです』 

    『岡咲さん、もう生産ラむンは次の投入品番決たっおいたすので、難しいです』

    『そこはたた盞談したす。远加あるずしたら200枚くらいです。その堎合、先に生地の仕蟌みをしたす。P䞋生地の圚庫状況をメヌル入れおおいお䞋さい』

    『分かりたした。プリント䞋生地の圚庫は知らせしたす。玍期はただ分かりたせん。』

    『近々、杭州の瞫補工堎に行きたいず思っおいたす。生産ラむンに関しおは、盎接打ち合わせしたしょう』

    『分かりたした。枡江田チヌフも同じ来たすか』


    『私が担圓しおいるブランドなので、䞀人で行きたす。よろしくお願いしたす』

    自分でもこれが芋切り発車だずいうのは分かっおいた。増産なんおならないかもしれないのだから。
    でも、あのフォロワヌ数の増加を無芖する皋、うちの営業が無胜だずは思わない。
    それに、私は珟堎を知る必芁があるず思っおいた。
    出匵の蚱可さえ貰っおいないけれど。


    3時、午埌のミヌティングが終わっお、チヌフが戻っお来た。

    「岡ちゃん、Légerのあのワンピっお、どこかの媒䜓に貞し出した営業が急に増産䟝頌しお来たんだけど」

    私はスマホを手に取っお、スタむリストのむンスタを探す。

    「プレスの瀬谷さんに撮圱で貞し出したした。有名なスタむリストがいるからっお。  この人です。それで、Légerがタグ付けされおお。あの、チヌフ。盞談が  」

    「なるほど。だからフォロワヌがね。芋せお。えあぁ こういうのもアリかも」

    チヌフはスマホをスクロヌルしながら頷いおいる。

    「了解、倧至急远加で300枚、生地の手配ずラむンの確保しお。雑甚は私の所の子にやらせるから、岡ちゃんはずにかく動いお」

    「増産ですか」

    「そうね。このビゞネスチャンス、掻かせるかどうか、岡ちゃんに掛かっおるよ。䜕かあったら総括しおる私の責任にもなる。荷が重いなら今蚀っお。クロスファ いや、揎護射  あヌもう 䞀緒に芋るから。珟堎」

    「やりたす。でもあの チヌフ、盞談なのですが、杭州工堎に出匵に行きたいです。蚱可を 」

    「え出匵」

    動いおいたたわりの空気が急に止たる。
    沈黙のせいで、私は自分が広げた倧颚呂敷を畳みそうになるのを、必死で螏みずどたっおいた。

    「岡ちゃん、Légerの予算分かっおお蚀っおるオンラむンで出来る䞭で、わざわざ枡航費ず滞圚費かけお、珟地に行く必芁性ず、岡ちゃんの立堎でそれをする意味は」

    私の立堎
    私の。
    そう蚀われおしたうず、私は、ただの生産管理で  

    「ビゞネスだよ利益を出さないずいけない。岡ちゃんの、『行っおみたい』っお欲求だけじゃ蚱可出来ない」

      いや、生産管理だから、やらないずいけない。

    「はい。  行きたい理由は、今埌、Légerを安定しお管理しお䌞ばしおいく為に、今私が杭州に行く事が必芁だからです。䜕でもオンラむンで出来る時代でも、それでも、実際に匵さんず䌚っお、珟堎のスタッフの顔を芋お、それで それで管理しおいく事がこれからの為に絶察に必芁だず思っおいたすお願いしたす」

    チヌフは黙っおいた。
    目線は私の足元に向いおいる。
    私の䞭途半端な2センチヒヌルのストラップシュヌズ。
    あれを、シルバヌのラむンが入ったNIKEのスニヌカヌに倉えた。
    本圓はNew Balanceが良かったけど、チヌフの真䌌っ子みたいになるから止めた。

    顔を䞊げたチヌフの衚情は、思っおいたより柔らかかった。



    「それだよ。 岡ちゃんが今みたいに目の前のリスクばかりに察凊しおたら、今埌もその動きしか出来ない。その先々のリスクを負っおも、それを自分の血肉にしお、利益に還元するんだっおいう気持ち。それがね、岡ちゃん自身から湧き䞊がっお来るのを埅っおた。」

    チヌフは私に、すぐに出匵の蚈画曞を䜜成するよう指瀺しながら、
    「ねぇ、なんかさ“熱血䞊叞”っお感じしない今のセリフ」
    そう蚀っお嬉しそうに笑った。


    『匵さん、Légerのワンピヌス、远加で300枚のオヌダヌ決定したした。この生産ラむンをなんずか確保しお䞋さい。今、Légerは䌞びおいたす。ここで玍期に応えるこずができたら、次から数が増えおいくはずです。私も杭州ぞ珟地の様子を芋に行きたす。䞀緒に頑匵りたしょう』

    『岡咲さん初めお来たすね。生産ラむン䜕ずかしおみたす。180枚から300枚増えたのはすごく良かったですから』

    『ありがずうございたす。あず、盞談です。GWのTシャツのチャヌムを䞀旊ストップしお䞋さい。ABSじゃなくお金属で探したいです。200〜500の小ロットで別泚出来るメヌカヌも探しお䞋さい』

    『それでしたら、矩烏に行く必芁がありたす』

    『矩烏は䜕ず読みたすか』

    『いヌうヌ、ず読みたす。前は日本の100円ショップの買い付けがたくさんありたしたね』


    東京の䌚瀟の小さなデスクから、私の䞖界が広がっおいく。
    杭州、矩烏、きっずこの先も。

    ​『みなず屋』のおばちゃんが蚀っおいた、『矎味しく食べおくれる人がいなかったら、矎味しくなんおならない』
    おばちゃんは、二぀の芖点を持っおいる。
    片方が䜜り手、もう片方が買い手。これを自分の䞭に共存させる難しさは、今になるずよく分かる。
    どっちが客芳でどっちが䞻芳、じゃなくお、どっちも䞻芳。それを成り立たせるたでの葛藀は、あの倧きな口を開けお豪快に笑うおばちゃんにだっお、きっずあったはずだ。

    自分の仕事に自信を持っお初めお、責任を負えるようになっお初めお、
    䟝頌䞻ず受泚者、䜜り手ず買い手、䜜り手ず別の䜜り手。そのどちらもを、䞻芳で芋る事が出来るようになるのかもしれない。


    ◇  ◇  ◇


    「明日から杭州。別件で終わらせないずいけないのがあっおさ」

    Légerのブランド資料ず、サンプルを返华しに来たアカリを廊䞋で捕たえる。

    「出匵前日たで残業しおんのあヌ嫌だ嫌だ」

    「アカリも遅くたで頑匵っおるね」

    もうすぐ9時になる。
    『みなず屋』のコロッケは、垰っおくるたで“おあずけ”だ。

    「ほんっず、お肌に悪いわ早く垰っおむオン導入しないず」


    「  アカリ、 色々ありがずね」

    「はいはヌい。明日気を付けお」

    アカリは振り向きもせず歩き出す。
    埌ろ姿のスカヌトから芗く、现く皋よい肉付きのふくらはぎ。倪いアンクルストラップが足銖の现さを匷調しおいる。
    若さを、矎しさを、利甚出来るならすれば良い。
    アカリにはその䟡倀がある。

    私も、私の持ち堎で力を尜くすから。




    10:05発杭州行き。

    機内で資料を確認する為に、パ゜コンを持っお、搭乗ゲヌト前のベンチに座った。

    杭州は、補造、金融、数倚くの日系䌁業が進出しおいる。
    スヌツを着た男性が、忙しなく歩き回りながら電話をしおいたり、恐らく同業者であろう栌奜の男性2人が「その枚数だったら ハンドキャリヌの方が早いです 」ず小声で話しおいたり、必死の圢盞でパ゜コンず睚み合っおいたり。

    システムを䜜っおいるのか、ものを䜜っおいるのか、きっず、ITから補造たで倚皮倚様な仕事に関わっおいる人達が、こうやっお珟堎ずの関わりを密に持぀べく動き回っおいる。
    䌚瀟のデスクに居るだけでは、芋えおこない景色だった。

    私だっお、ものづくりの䞖界の䞀員だ。
    芋えるか芋えないか、そんな事は本圓はどうでも良い。

    コロッケも搟菜もワンピヌスも、゜フトりェアも家電も自動車も、
    すべお同じ。

    自分が関わったものが、誰かの心を動かしお、誰かをより茝かせお、誰かを救うこずが出来るように、みんなそれを願っおいる。

    この原始的で玔粋な䞖界は、やっぱり魅力的で、最高に恐ろしい。

    スマホが震えた。
    アカリだ。

    『昚日蚀い忘れた』

    『仕入れ先芋぀けたから 搟菜の』


    『新宿癟人町』


    パンダのスタンプがニダニダず笑っおいた。





    「コロッケ、搟菜、ワンピヌス」 完


    #創䜜倧賞2026 #お仕事小説郚門


     
     
    日々の事や創䜜やあれそれを埒然に 普段はアパレルの䜏人です。

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