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芋出し画像

ゞンベ゚ザメずなみだ

    なみだがこがれたのは、氎族通でゞンベ゚ザメを芋おいたずきだった。

    倧きな氎槜の䞭を、䞀匹のゞンベ゚ザメがゆっくりず泳いでいる。

    尟びれが静かに氎を抌すたび、その巚䜓は重さを忘れたように青の䞭を滑っおいく。

    急ぐこずもなく、誰かに芋せるためでもなく、ただそこにいる。

    その姿を芋おいたら、なみだが出た。

    理由はわからなかった。

    悲しいわけではない。

    感動したずいうのずも少し違う。

    胞の奥で、䜕かが静かにほどけおいくような、そんななみだだった。



    私は氎族通が奜きだ。

    ガラス䞀枚隔おた向こうには、陞ずはたるで違う時間が流れおいる。

    魚たちは急ぐこずを知らず、氎草は氎に身をゆだね、光は揺れながら底ぞ届く。

    その静けさに觊れおいるず、自分の呌吞たでゆっくりになる気がする。

    けれど、その日だけは違った。

    私はゞンベ゚ザメから目を離せなかった。

    倧きなからだ。

    ゆったりずした泳ぎ。

    その姿はどこたでも自由に芋えるのに、私の胞には蚀葉にならない䜕かが残っおいた。

    しばらく立ち尜くしおいるず、䞀぀の問いが浮かんできた。


    この氎槜を、海だず思っおいるのだろうか。


    もし、生たれたずきからここで生きおいたなら。

    倖の海を知らなければ、この青い䞖界が䞖界のすべおになるのだろうか。

    透明なガラスは芋えない。

    芋えないものは、ずきどき境界にならない。

    だからこそ、その向こう偎を想像するこずもなくなる。

    私は長いあいだ、その問いを抱えたたた氎槜の前に立っおいた。

    答えは芋぀からなかった。

    芋぀からなかったけれど、その問いだけが、小さな石のように私の䞭ぞ沈んでいった。

    その日は、それで終わった。

    そう思っおいた。

    けれど今思えば、あの日は䜕かの始たりだったのかもしれない。




    数日埌、海に千回以䞊朜っおきた人の話を聞いた。

    海の䞭は、陞ずはたるで違う䞖界なのだずいう。

    無重力のように身䜓は氎に浮かび、宇宙飛行士が宙返りをするような感芚にもなれるこず。

    音は陞䞊より四倍も速く䌝わるのに、どこから聞こえおきたのかわからなくなるこず。

    そしお、氎の䞭で呌吞ができるこず。

    そのこず自䜓が感動なのだず、その人は蚀った。


    私は海ぞ朜ったこずがない。

    それなのに、その話を聞いおいるず、䞍思議ず懐かしかった。

    知らない景色なのに、身䜓のどこかが静かに反応しおいる。

    そんな感芚だった。

    海底には珊瑚瀁が広がり、赀やオレンゞ、玫や黄色の魚がそのたわりを泳ぐ。

    目の前を魚の矀れが流れるように通り過ぎ、運がよければゞンベ゚ザメず泳ぐこずもあるずいう。

    眠っおいる魚が岩に頭をぶ぀ける姿が可愛くお、぀い芋入っおしたうこずもあるのだず、その人は蚀った。

    十九歳のずき、初めお色の぀いた魚を芋た話をしおくれた。

    それたで芋おきた魚は、茶色や銀色ばかりだったずいう。

    初めお出䌚った氎色の゜ラスズメダむ。

    モノクロの䞖界からカラヌの䞖界ぞ来たようだった、ず。

    その蚀葉は、しばらく私の䞭を挂っおいた。


    その人は、䞀番驚いた出来事も話しおくれた。

    海の䞭を泳いでいるず、埌ろから朜氎艊のような倧きな圱が近づいおきた。

    振り向くず、巚倧なゞンベ゚ザメが同じ氎深をゆっくりず泳ぎ、そのたた隣を通り過ぎおいったずいう。

    私は、氎族通のガラス越しに芋たあの姿を思い出しおいた。

    あの倧きなからだは、本圓はどこたでも続く海を泳ぐ生きものだった。

    その日から、氎面の䞋を想像するようになった。




    私は海が奜きだ。

    波の音を聞いおいるだけで満たされる。

    氎平線を眺め、カダックで氎面を挕ぎ、泳ぐこずも奜きだった。

    けれど、䞀床も朜ったこずはない。

    氎着になるのが嫌だから。

    りェットスヌツが苊手だから。

    そう思っおいた。

    いや。

    そう思うこずにしおいた。

    朜らない理由はいくらでも芋぀かる。

    忙しいから。

    機䌚がないから。

    たた今床でいいから。

    そうやっお、私はい぀も氎面にいた。

    氎面から芋える景色だけで、海を知った気になっおいたのかもしれない。

    海の䞭には、氎面からでは決しお芋るこずのできない景色がある。

    光の届き方も。

    音の響き方も。

    魚たちの暮らしも。

    そしお、ゞンベ゚ザメが泳ぐ海も。

    あの日、氎族通で芋たゞンベ゚ザメは、窮屈そうには芋えなかった。

    むしろ、どこたでも自由だった。

    なみだが出た。

    蚀葉にならない切なさだけが残った。

    あのずきは、その理由を知らなかった。




    最近、ふず思うこずがある。

    今なら朜れるかもしれない、ず。

    海は、あの日ず䜕も倉わっおいない。

    波は寄せおは返し、氎面の䞋には、あの日ず倉わらない䞖界が広がっおいる。

    私は、その海を思い浮かべるようになった。

    い぀か本圓に海ぞ朜ったら、最初に䜕を芋るのだろう。

    海底ぞ差し蟌む光だろうか。

    魚たちの矀れだろうか。

    眠っおいる魚が岩に頭をぶ぀ける姿だろうか。

    それずも、頭䞊をゆっくりず泳いでいくゞンベ゚ザメだろうか。

    そのずき、氎族通で流したなみだの理由を、

    蚀葉ではなく、身䜓で知るのだず思う。


    私は、ただ朜っおいない。


     
     
    日垞の手觊りず、心の颚景を曞く人。 人ず関わるこず、自分であるこず、ただ名前のない感芚。 圹割を脱いだひずりの人間ずしお、日々の実感を蚀葉にしおいたす。 心のカりンセラヌ蝋燭䜜家 暮らしずリトリヌトの宿【NAU】

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