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小説『転生なんかク゜くらえ』 第20話 終わりの圚り凊

 事件から䞀週間の時間が過ぎた。十䞃歳の少幎及び、同校の教垫による凶行は瞬く間に䞖間の耳目を集め、方々から様々な議論を呌んだ。

 幕原隆二は取り調べにおいお䜕䞀぀隠すこずなく、あらいざらい党おを癜状した。聞いたずころによれば、幕原隆二はそれをたるで自慢話でもするかのように実に楜しそうに語ったずいう。

 この事件の始たりは六幎前の八月に小孊校で起きたバラバラ遺䜓の事件にたで遡る。圓時小孊五幎生だった幕原隆二はバラバラ遺䜓の第䞀発芋者の䞀人だった。事件埌に実斜されたメンタルケアでは、異垞なしずしお誰よりも早く治療の察象から倖れた幕原隆二だったが、実は花壇に怍えられた死䜓を芋お途蜍もない興奮を芚えおいたずいう。

 その興奮をずっず忘れられないたた䞭孊校に䞊がった幕原隆二は、぀いに自らその欲求を満たそうず決意する。同じ孊校に通っおいた生埒の䞭から孀立しお存圚感の薄かった瀬戞瑠海に声をかけ、埐々に信頌関係を築き、冬䌑み盎前に圌女を山の䞭ぞ呌び出すず、そこで凶行に及んだ。

 だが、幕原隆二の欲求はそれだけでは満たされなかった。そればかりか、幕原隆二は自ら手を䞋す行為自䜓に遺䜓を前にしたずき以䞊の興奮を芋出しおしたったらしい。高校生になり、偶然にも新井先生が䞍倫しおいる蚌拠を掎んでしたったずき、぀いに幕原隆二は恐ろしい蚈画に着手する。

 幕原隆二は最初に新井先生を䞍倫の蚌拠で脅し、NPO法人IKOIぞず朜入させた。そしおDXを進めるずいう倧矩名分でIKOIの瀟内システムを構築させ、その際システムに電子カルテぞのバックドアを仕蟌たせた。぀たり、新井先生は垂内の孊校に通う生埒たちの䞭で家庭環境が著しく悪い生埒の斡旋をさせられおいたのだ。

 そしおそのシステムの最初の被害者になったのが西高に通う寺嶋満月だった。幕原隆二は新井先生から圌女の存圚を知らされるず、倩性の魅力を掻かしお西高の生埒にアプロヌチし、その䞭からずりわけ手駒に取れそうな人間を遞んだ。それがあの蟻華凛だ。幕原隆二は圌女を利甚しお寺嶋満月ぞのいじめを発生させ、培底的に寺嶋満月が孀立するように仕向けた。そしお昚幎十二月の冬䌑み前日。幕原隆二は新井先生に寺嶋満月を誘拐させ、再び犯行に及んだ。

 次に暙的ずなった五十沢幜はIKOIのカりンセラヌに盞談こそしおいなかったものの、幕原隆二にずっおはこの䞊なく郜合のいい存圚だった。もずもず石本みなみらからいじめを受けおいた五十沢幜は、幕原隆二が手を䞋すたでもなく呚囲ずの関係が垌薄だったし、家庭環境がこの䞊なく劣悪であるこずは圌女の家を特定しおしたえばすぐに分かるこずだった。

「倧森さん」

 私は名前を呌ばれ、ふず自分が物思いに耜っおいたこずに気が぀いた。芖線を䞊げるず、そこにはIKOIのカりンセラヌである皲垣先生がいた。

「倧䞈倫 随分ず疲れおいるように芋えるけど  」

 圌女はそんな颚に気遣っおくれたが、私は返事を返すこずができぬたた、再び俯いおしたった。それを芋お、圌女が同情的なため息を挏らす。

「疲れるのも圓然よね  。あたりにもいろんなこずがありすぎお、きっずただ敎理が぀いおいないんだず思うわ」

 皲垣先生はそんな劎いの蚀葉を遞んだが、私は自らが眮かれおいる状況に぀いおはよく理解しおいる぀もりだった。疲れおはいおも、頭の䞭は以倖にも敎然ずしおいる。ただ䞀぀の倧きな問題を陀いおは。

「今日はもう終わりにしたしょう。家たで送っおいくわ。モラルのないマスゎミなんか、私が远い払っおあげる」

 圌女はそう蚀っお嚁勢よく胞の前で䞡の拳を握った。しかしそんな颚に励たしおくれる圌女もたた、䞖間からの非難を济びる立堎の䞀人だった。

 寺嶋満月の事件はもずを糺せばIKOIの電子カルテ流出がきっかけずなっおいた。圓然、IKOIの理事である圌女も責任を問われおいくこずになるだろう。しかも、今日の報道でIKOIが六幎前の事件で小孊生たちにメンタルケアを斜すために集たったカりンセラヌによっお立ち䞊げられた組織であるこずが䞖間に知れ枡った。今埌、メンタルケアの際になぜ幕原隆二の異垞性に気づけなかったのかずいう批刀が噎出するこずは必至だろう。皲垣先生がIKOIの立ち䞊げメンバヌではないずいうこずだけが、せめおもの救いだった。

「病院に  」

 私は蚊の鳎くような声で皲垣先生にそう蚀った。圌女はそれを聞き逃さずに「わかったわ」ず䞀蚀答えるず、私の手を匕いお郚屋を出た。



 幕原隆二が真犯人だったこずは確かに驚くべきこずではあったが、埌になっお考えおみるず思い圓たる節がないわけでもなかった。

 五十沢幜が襲われたあの日、幕原隆二は女子ずのカラオケを断っおおきながらなぜか私たちの誕生䌚には参加しようず蚀い出しおいた。そのうえ、圌は途䞭で電話をするために垭を倖しおもいる。それは぀たり、普段ずは違う行動をする五十沢幜を監芖し、新井先生に連絡をずる行為だったのだろう。幕原隆二が䞀人暮らしだったずいう埌から発芚した事実は、垭を倖したずきに口にした蚀葉が口実にすぎなかったこずを裏付けるものだった。

 今思えばショッピングモヌルで蟻華凛が芪の蚱可もなく家に泊たれたず蚀っおいたのも、幕原隆二が䞀人暮らしをしおいるこずをそれずなく瀺唆するものだったかもしれない。もっずも、あの時それに気づくこずができたかず問われれば、それは無理な話ず蚀わざるを埗なかった。

 䞀方で、もっずよく考えれば気づくこずができたはずの事実もあった。それは、䞀連の事件には党お幕原隆二ず同じ幎霢の人間が関わっおいたずいう事実だ。

 五十沢幜ず寺嶋満月が幕原隆二ず同い幎なのは蚀わずもがなだが、瀬戞瑠海も圓時の幎霢で考えれば幕原隆二ず同い幎になる。そしお六幎前のバラバラ遺䜓事件の第䞀発芋者は小孊五幎生であり、圓時の幕原隆二の幎霢を数えるずやはり小孊五幎生ずいうこずになった。

 ぀たり䞀連の事件に関わった人間の幎霢は、ある幎に生たれた人間の成長ず芋事に合臎しおいたのだ。犯人は倧人だろうずいう先入芳が、同玚生の䞭に怪物が朜んでいる可胜性を完党に芖野の倖ぞず抌しやっおしたっおいた。

 他にも、珟堎怜蚌の際に森の䞭で芋぀けたカメラを固定するための噚具には、しっかりず幕原隆二の指王が付着しおいたのが譊察によっお確認されおいた。䟛述によれば、䞍倫の蚌拠だけでは新井先生を埡し切れないタむミングが来るだろうず考えおいた幕原隆二は、新たな脅しの材料ずしお新井先生が五十沢幜を誘拐する珟堎を映像ずしお残そうず詊み、森の䞭や電柱などに暗芖カメラを蚭眮しおいたらしい。

 だが、実際にそれで録るこずができた映像は芋切れや乱れで到底脅しの材料にはならなかったらしい。しかしそのために、幕原隆二はさらに恐ろしい䞀石二鳥の策をひらめいおしたう。それが、新井先生ず圌を珟堎で゚ンカりントさせるずいう方法だった。

「倧森さん、぀いたわよ」

 皲垣先生が病院の駐車堎に車を停め、助手垭に座る私に声をかけた。私はその䞀蚀に、たた自身が䞊の空になっおいたこずに気づかされる。

 病院の入り口付近にも数人の報道関係者が埅機しおいた。圌らは私を芋぀けるなりずかずかずこちらに歩み寄っおきたが、皲垣先生はそれらから私を守っおくれた。流石の圌らも病院の䞭たで぀いお来るこずはできないので、必死にそれを劚害しようず詊みる。しかし぀いぞそれも叶わないこずを知るず、その䞭の䞀人がこちらに聞こえるほどの倧きな舌打ちをした。

「たったく。あぁいうのがいるからマスゎミっお蚀われるのよね」

 皲垣先生が珍しく苛立ちの感情を露にする。しかし圌女は病院の䞭に入るずすぐにい぀もの穏やかな衚情に戻っお口吻を和らげた。

「倧森さん。申し蚳ないんだけど、私はこの埌ちょっず甚事があるから先に垰らせおもらうわね」
「あ、はい。ありがずうございたした」

 お瀌の蚀葉ずずもに私は深々ず頭を䞋げた。

「いいのいいの それよりも、早く圌のずころに行っおあげなさい」

 皲垣先生がそう蚀っお埮笑んだので、私は再床軜くお蟞儀をしおから螵を返した。病院独特の薬品の匂いが立ち蟌める廊䞋を進み、゚レベヌタヌで五階ぞず䞊がるず、降りたずころのすぐ近くにある受付で面䌚に来たこずを䌝える。もう五日間も連続で通っおいる病院なので、病宀の堎所は案内されなくおもよく分かっおいたし、受付の人も最早そんな野暮なこずをしようずはしなくなっおいた。

 しかし病宀に向かう途䞭で、私は思いがけない人物にばったりず出くわしおしたった。

「あ、沙倜ちゃヌん。久しぶりぃヌ」

 長袖のゞャケットに黒いズボンずいう以前より萜ち着いたその身なりは、しかしそれでもその男の䞋劣さを隠すこずはできおいないようだった。

「あ、芚えおないかなぁ ほら、フリヌのゞャヌナリストをやっおる岩尟力也だよヌ」

 なぜこの男がここにいるのか。私は匷い敵意を持っお圌を睚み぀けた。しかし、岩尟はその皋床のこずで身を匕くような男ではない。私に近寄っおきお、銎れ銎れしく肩に手を回すず、臭い息をたき散らしながら私に頌み事を始めた。

「なぁ、䞀時は情報提䟛者ずしお協力し合った仲だろ ちょぉヌっずばかしお話を聞かせおくれるくらい、別に構わないんじゃねぇか な」

 虫唟が走った。あの時散々私たちを芋䞋しおふんぞり返っおいた男が、今は䞋手に出お揉み手をしおいる。この男にはモラルやプラむドなんおものは䜕䞀぀ないないのだろう。

「おい、君。すぐにその子から手を攟すんだ」

 その時、埌ろから唐突に男性の声が飛んできた。岩尟は「あん」ず䞍機嫌そうに振り返り、盎埌その身を匕いお飛びのいた。芋るず、岩尟の衚情はこれでもかずいうほどに匕き぀っおいる。

「アンタは――」
「たた腕を捻られたくなかったら、さっさずここから立ち去るんだな」

 岩尟はその男の蚀葉を受けお怯えるように逃げ去った。その姿は、岩尟がどこたでいっおも小物にすぎないこずを芋事に䜓珟しおいるかのようだった。

「倧䞈倫だったかい 倧森君」

 私は隣に䞊んだコヌトの男を芋お、「ありがずうございたす」ず頭を䞋げた。

 コヌトの男の名は江藀盛貎えずうもりたか。あの日私たちを救っおくれた呜の恩人で、垂の小さな事務所で现々ず探偵業を営んでいる人物だ。もずもずは刑事だったらしく、圓時は眲内でもそれなりに名の通った人物だったらしい。

「あぁ、そんなに畏たらなくおもいいんだよ、倧森君。あぁいう䞋らないこずをする茩はい぀の時代も䞀定数いるものだしね。それより、脚の方はもう倧䞈倫なのかい」
「えぇず  ただ痛みはありたすけど、䞀応は」

 私の脚にできた裂傷は幞いにも神経を損傷させるようなものではなく、消毒しおから瞫合し、そこに包垯を巻くずいう比范的簡玠な治療で事足りおいた。

「そうか、ならよかった。今日は圌のお芋舞いかい 私も䞀緒に行っおも構わないかな」

 私はその申し出に頷きで答えるず、江藀さんず䞊んで廊䞋を歩いた。病宀の前に着くず、儀瀌的にノックを二床しおから䞭に入る。窓から芋える秋の倕日が、病宀の無機質な癜を綺麗なオレンゞ色に染め䞊げおいた。

 奥に進むず、そこには呌吞噚を぀けたたた眠り続ける圌の姿があった。医者の説明によれば、あの日圌の背䞭に刺さったナむフは肺に届いおおり、傷から挏れた空気で胞腔が圧迫される開攟性気胞を生じおいたずのこずだった。たた、十分な酞玠を䜓に䟛絊するこずができない状態が続いたため、脳が䜕らかの損傷を受けおいる可胜性もあるずの説明も受けおおり、珟に圌は未だに目を芚たしおいなかった。

 私は郚屋の隅に重ねおある䞞怅子を二぀持っおきお、それをベッドの暪に䞊べた。私はその片方に座るず、䜕も蚀わずに圌の手を自らの䞡手で包みこむ。江藀さんはそんな私を隣の垭に座っおただ静かに眺めおいた。しばらくの間、倕日の色だけが倉化する時間が流れた。

「君たちに、謝りたいず思っおいたんだ」

 江藀さんが静かに、しかし力匷い蚀葉で沈黙を砎った。私は䞀床圌の手を離しお、江藀さんの方に向き盎る。

「どうしおですか   江藀さんは䜕も悪くないのに」

 そもそもの話、江藀さんがあの堎所に珟れたこず自䜓が偶然――いや、奇跡ずも呌ぶべきこずだった。江藀さんは予おより新井先生の劻から䞍倫の調査を䟝頌されおおり、その過皋で偶然今回の事件に遭遇したにすぎない。孊校で噂されおいた䞍審者ずいうも、䞍倫調査をしおいる江藀さんの姿を誰かが怪しいず感じお広めたものに違いなかった。

 だから江藀さんが責任を感じる必芁など党くない。それなのに、江藀さんの顔には険しい衚情が浮かんでいた。

「倧森君は今回の事件の銖謀者である幕原少幎が六幎前の事件に倧きく圱響を受けおいたずいう話はもう聞いおいるだろうか」
「はい、知っおたすけど  」
「では、その事件の犯人が被害者の母芪で、クスリをやっおいたずいうのは」

 これに぀いおも私は「知っおいたす」ず銖肯した。私は急な話題の振れ幅に困惑しながら、先の芋えない江藀さんの話に耳を傟ける。

 江藀さんは「じゃぁ話が早いな」ず䞀蚀呟き、それから䞀床深呌吞をするず、昔のこずを思い出すような様子で口を開いた。

「今からもう九幎も昔の話になるな。ただ私が刑事デカをやっおいた頃、私のいた課は総出でクスリの密売組織を远っおいたんだ。あの頃は私もただ若かったからな、でかいダマを前に手柄を挙げようず躍起になっお捜査を進めおいたよ。しかし摘発たであず䞀歩ずいうずころたできお、その捜査に突然䞊からストップがかかっおしたったんだ」

 江藀さんの声には怒りや悲しみ、果おは倱望たで織り亀ぜたような、耇雑な感情が滲んでいた。

「圓然私は玍埗がいかなくお䞊に抗議したよ。それはもう進退なんか忘れおね。でも䞊は『お前ごずきが口を出す問題じゃない』の䞀点匵りで、党く取り合っおはくれなかったんだ」

 江藀さんの組む逞しい手に、血管が匷く浮き出おいるのが芋える。その気迫は、私が畏怖を感じおしたうほどに凄たじい。しかし、そんな颚になっおいるのを江藀さんは自身で気づいたらしく、急にはっず我に返るず、次には元通りの声音に自嘲の色を加えお語りだした。

「結局党おを有耶無耶にされた私はもう譊察をやっおいるのが嫌になっおしたっおね、それで凊分を䞋される前に自ら蟞衚を提出し、探偵なんおいう胡散臭い職業に身をや぀したずいうわけなんだ」

 江藀さんはそう蚀っお自虐的な苊笑を浮かべた。だがそれも次の瞬間には、痛々しい䜕かを思い出す枋面ぞず塗り替えられおしたう。

「今ずなっおは本圓に銬鹿なこずをしおしたったず埌悔しおいる。あれから二幎埌、摘発しようずしおいた密売組織からクスリを賌入した母芪が自らの子どもを殺めたず知るこずになるなど、あの時の私は想像すらしおいなかったんだ」
「えっ  」

 私はその衝撃の事実に、驚きのあたり声を挏らした。江藀さんの話はたさに、幕原隆二を殺人鬌ぞず倉えるきっかけずなった事件のこずを瀺唆しおいた。

「埌悔したよ。あの時私が自分の信念を貫き通すこずができおいたら――そんなこずをもう䜕床考えたかわからない」

 䌌おいる――。〝私〟は咄嗟にそう思った。

 無意味なたらればを考えおしたう倜を、あの時足を止めおさえいなければず考えおしたう倜を、〝私〟はもう幟床経隓したかわからない。それがどれだけ意味のない非生産的なこずかわかっおいおも、その呪瞛からは逃れられないのだ。

「圓然、譊察はあの事件でクスリの密売組織を摘発せざるを埗なくなったし、子殺しの母芪も然るべき手順で然るべき裁きを受けた。それですべおの事件は終わった――私はそう思っおいた。いや、そう思いたかったんだ」

 しかし、事件は終わっおなどいなかった。それは最悪の圢で幕原隆二に受け継がれおしたった。

「今回の事件を受けお私は思い知ったよ。事件ずいうのは、それが地球䞊に䜏む党おの人にずっお他人事になったずき、初めお終わりを迎えるものなんだずね」

 そうなのかもしれない。䞀床起きおしたった事件ずいうのはどういう圢であれ、䜕かしらの犍根を長きにわたっお残し続けるのだろう。ある人間が誰かによっお殺されるずいうのは、きっず慢性的な病巣をこの䞖界に生み぀けるこずを意味するのだ。

 そしおそう考えた時、〝私〟は息苊しさを芚えずにはいられなかった。それは〝私〟にずっお、あたりにも身に芚えのあるこずでしかなかった。

「おっず、すたない。時間が来おしたったようだ。申し蚳ないが、私はこの蟺で倱瀌するよ。圌の䞀日も早い回埩を願っおいる」

 そう蚀っお立ち䞊がる江藀さんに、私は軜くお蟞儀をし、病宀を出おいくのを芋送った。そしおベッドの暪に䞀぀だけ残された怅子ぞず戻るず、再び圌の手を取っお祈るように目を閉じる。

 眠り続ける圌を芋おいるず〝私〟は吊が応にも考えさせられおしたう。なぜよりによっお圌なのだろうかず。この䞍幞を背負うべきは〝私〟なのではないかず。もしこの䞖に神ずいうものが本圓に存圚するのなら、これはあたりにも䞍公平だず蚎えたかった。神に察し、〝私〟の方にこそ眰を䞎えるべきだず詰め寄りたかった。

 幕原隆二は法廷で裁かれ、眰を受けるこずになる。事件は家庭裁刀所を通しお逆送され、怜察によっお起蚎される流れずなるはずだ。だが、珟圚十䞃歳の少幎である幕原隆二は改正少幎法が定める特定少幎の察象からもギリギリ倖れおいるため、同法の五十䞀条に則っお死刑になるこずはない。䞖間はそのこずを取り䞊げお「いくら少幎ずはいえこんな凶悪な犯行に及んだ殺人犯に死刑刀決が出せないのはおかしい」ず隒ぎ立おおいた。

 しかし、そんな幕原隆二を芋おいお私は思う。〝私〟もたた、幕原隆二ず等しく裁きを䞋されなければならない立堎にあるのではないだろうかず。

 〝私〟は今たでありずあらゆる方法で転生先の〝䜓〟を死に远いやっおきた。぀たりそれは、〝私〟が幕原隆二にも匕けを取らない連続殺人を犯しおしたったずいうこずを意味しおいる。そしお眪深いこずに、その動機は「自分のため」以倖の䜕物でもなかった。

 〝私〟は幕原隆二ず同眪だ。そう確信しおしたうからこそ、〝私〟には圌が必芁だった。唯䞀〝私〟を認識しお、唯䞀〝私〟をこの䞖に存圚せしめおくる圌でなければ、〝私〟の眪を咎めおくれる人は他にいなかった。

 いくら謝っおも蚱されるこずではないだろう。〝私〟は人を殺すずいうこずがどういうこずなのかを埮塵も考えおいなかったのだ。倧事な存圚を倱う蟛さず怖さを、〝私〟は今の今たで知らずに生きおきおしたっおいた。

 〝私〟はこれたで、ずっず自分が䞖界で䞀番䞍幞なのだず信じおきた。意味の分からない運呜に匄ばれ、死にたくおも死ぬこずができないずいう呪いを背負った〝私〟以䞊に䞍幞な人間などいるわけがないず思っおいた。

 しかし、それはあくたで〝私〟が䞍幞になる道を遞び続けおきた結果に過ぎなかった。たずえこの転生ずいう珟象を経隓するのが埌にも先にも〝私〟䞀人だったずしお、䞖界で䞀番䞍幞な存圚にならない道は他にいくらでも甚意されおいた。それなのに、〝私〟は自ら光に背を向けお囚われ続ける矜虫に成り䞋がっおいたのだ。

 目を芚たしおほしい。

 圌にずっおの〝私〟がたずえ䞀時の協力者に過ぎないのだずしおも、この先友達ずしおさえ芋おもらえないのだずしおも、それでよかった。それが圌の〝私〟に察する刀決なのだず受け入れられた。ただ圌がい぀もの日垞に戻っおくれさえすれば、それ以䞊〝私〟は望たない。

 圌の手を包む私の手に力がこもった。既に倕日は萜ち、郚屋は倜の闇に飲たれおいる。しかし、巡回の看護垫が来るたでこの病宀に明かりが灯るこずはなかった。

 ポケットに入っおいたスマホが振動する。それは家に垰らなければならない時間を私に知らせる唯䞀の手段だった。怅子を郚屋の隅ぞず戻し、最埌にもう䞀床眠り続ける圌の隣に立぀。

「じゃぁ、たた明日ね」

 たずえ蚀葉を亀わすこずができなくおも、最埌にその蚀葉をかけるこずだけは忘れない。それはか぀お、圌が五十沢幜に投げかけ続けおいた蚀葉ず同じだった。私は数秒間圌の顔を芋぀め、そうしおやっず螵を返す。

 その時、背埌で埮かな衣擊れの音がした。私は驚愕しお振り返り、圌の姿を凝芖する。そしお圌の指が小さく動いたのを認めるず、ベッドにしがみ぀いお圌の顔を芗き蟌み、必死に声を匵り䞊げた。

「新星」

 私の声に圌はゆっくりず瞌を開けた。私ず目を合わせ、数秒の時間をおいおから呌吞噚越しに掠れた声を発する。

「沙  倜  」

 私の目から涙が溢れた。今たで私の内に溜たっおいた䞍安が、䞀気に安堵の気持ちぞず倉化しお蟌み䞊げおくる。私はその勢いを抑えるこずができず、圌の胞に顔をうずめるず、声を䞊げお号泣した。

 泣き続ける私の䞭で、埐々に安堵以倖の感情が湧き始めおいた。圌が目を芚たしおくれたこずに察する玔粋な喜びや、あの時助けに来おくれたこずぞの感謝の気持ち。圌をこんな目に遭わせおしたったこずに぀いおの謝意に、長い間私を䞍安にさせ続けたこずに察するちょっずした怒り。目たぐるしい感情の枊に私は翻匄されおいた。

 そしおそんな䞭にふず浮かび䞊がったずある気持ちに〝私〟は気づいおしたった。それは〝私〟が五十沢幜に転生しおから始たった玠朎な感情で、倧森沙倜になっおもなお〝私〟の䞭で秘かに育たれ続けおいた感情だ。

 私が䜜った匁圓を「うたい」ず蚀っお食べおくれたこずが嬉しかった。圌ず䞀緒に出掛ける時はどこか気持ちが浮぀いおいた。付き合っおいるず誀解された時に芋せた圌の反応が、五十沢幜だった時ず違うのが悔しかった。それらは党お、ある䞀぀の感情に起因しおいた。


 〝私〟は久々利新星のこずが奜きだ――。
 

 蚱されない感情だずはわかっおいる。圌の隣から五十沢幜を奪っおおきながら、その垭に代わりに〝私〟が座るなどあっおはならないこずだった。それでも〝私〟はこの気持ちに気づいおしたった。もうその気持ちを知らなかった時の〝私〟には戻れない。

 結実しおはいけない、䌝えるこずすら蚱されない気持ちだ。でも、そのやりきれない痛みを、〝私〟はしっかりず抱きしめる。五十沢幜から倧森沙倜になっおもなお倉わるこずがなかったこの気持ちは、誰が䜕ず蚀おうず〝私〟のものだ。䞍幞がなくおも、〝私〟はこの気持ちを抱き続ける限り〝私〟でいられる。だから倱恋の涙を流すこずを、今だけはどうか蚱しおほしい。

 ただひたすら泣き続ける私の頭の䞊に、圌が䜕も蚀わずに手を眮いた。優しく觊れるその手から䌝わっおくる枩もりは、私のぐちゃぐちゃになった感情を萜ち着けるのにはあたりにも頌りない。しかし、そこに枩かい䜕かがあるずいうこずだけで、私は少しだけ救われたような感じがした。

いいなず思ったら応揎しよう