ー設計者は何を見ているか #5ー設計者は、相手の頭の中を設計している
前回の記事では、
設計者は、
「今どうなっているか」
ではなく、
「これからどう変わるか」
を見ている、
という話を書いた。
では、
その未来のイメージは、
どうやってチームで共有しているのだろう。
先日、
ある設計レビューで、
私は途中から数字の話をやめた。
図を書き始めた。
「元はこう。」
「今はこう。」
「だから、ここが開く。」
「だから、こちらも同じ方向へ変えよう。」
会議では、
寸法も、
公差も、
面輪郭も議論していた。
でも、
本当に揃えたかったのは数字ではない。
変化のイメージだった。
同じ図面を見ていても、
人によって、
頭の中に描いている状態は違う。
だから、
言葉だけでは伝わらない。
数字だけでも伝わらない。
途中で私は言った。
「図で描こう。」
すると、
議論が一気に進み始めた。
それまで、
「0.4をどうするか」
だった会話が、
「ここが開くから、こちらも開く」
という会話へ変わった。
共有されたのは、
数字ではない。
状態遷移だった。
私は以前、
設計とは、
判断基準を設計する仕事だ、
という話を書いた。
そして、
人材育成では、
判断原理を観測している、
という話も書いた。
さらに、
同じ会議でも、
何を観測しているかが違う、
ということにも触れた。
今回、
改めて気付いたことがある。
観測点が揃っても、
まだ十分ではない。
その観測から、
未来をどう予測しているのか。
その頭の中のモデルまで揃って、
初めてチームは同じ方向を向く。
だから私は、
図を描く。
説明するためではない。
相手に理解してもらうためでもない。
相手の頭の中にある、
状態遷移モデルを揃えるためだ。
振り返ると、
設計の仕事は、
部品を設計している時間より、
人の思考を揃えている時間の方が長い。
これは、
設計だけではない。
人材育成でも、
1on1でも、
キャリア支援でも同じだ。
相手に答えを渡しても、
次の場面では使えない。
でも、
物事がどう変化していくかを一緒に考えられるようになれば、
初めて、
自分で判断できるようになる。
私は、
図面を描いているようで、
本当に描いているのは、
相手の頭の中にある思考の地図なのかもしれない。
