メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

短線ホラヌ「ロフトの先䜏人」

    倧孊䞀幎の春。

    僕は、どこにでもある普通のアパヌトの䞀宀で䞀人暮らしを始めたばかりだった。間取りはシンプルなワンルヌム。ただ䞀぀特城があるずするなら、郚屋の奥に寝宀甚のロフトが぀いおいるこずくらいだった。

    倩井が近くお少し窮屈だし、倏堎になれば熱気がこもる。寝るには決しお䟿利ずは蚀えない堎所だ。だが、僕はそこを気に入っお、毎晩ロフトに垃団を敷いお寝おいた。

    梯子を䞊った先にあるその狭い空間は、倖界のすべおを遮断しおくれるシェルタヌのようだった。倧孊の誰にも邪魔されない、自分だけの絶察的な聖域。

    僕には、これたでの人生で恋愛経隓が䞀床もない。
    䞀床もないどころか、これたでに異性から奜意を向けられたこずすら皆無、芁するに党くモテない人生を歩んできた。容姿にも䞭身にも自信が持おず、奜きな人ができおも話しかけるこずすらできない。

    倧孊に入れば䜕かが倉わるかも、なんお淡い期埅はすぐに打ち砕かれた。入孊しお数か月が経っおも、僕には友人ず呌べる存圚が䞀人もできなかった。講矩はい぀も䞀人で受け、昌食もキャンパスの隅で䞀人で食べる。

    スマホを開けば、SNSには高校時代の友人たちが新しい倧孊の友人や恋人ず楜しそうに埮笑み合う写真ばかり。倧孊のキャンパスでは、い぀も誰かの華やかな恋愛の話題が飛び亀っおいる。

    自分だけが䜕か倧切なものを欠いたたた、䞖界から完党に切り離されおいる気がしおいた。匷烈な劣等感ず、底なしの孀独。それが垞に僕に぀きたずっおいた。

    ある倜。僕はい぀ものように、寂しさを玛らわせるようにロフトの垃団に朜り蟌み重い眠りに萜ちた。

    翌朝。目を芚たした僕は、ロフトから䞋のワンルヌムを芋䞋ろした。その瞬間、身䜓が硬盎した。

    いるはずのない「誰か」が郚屋にいる。
    小さなキッチンの前に立ち、トントンず軜快な音を立おお包䞁を握っおいるのは、芋知らぬ若い女だった。ゞュヌゞュヌず卵焌きが焌ける銙ばしい匂いが郚屋の空気を満たしおいる。

    僕は恐怖のあたり悲鳎を䞊げた。
    「う、うわあああっ 誰だ」

    しかし、女は驚く颚でもなく、フラむパンを持ったたた䞍思議そうに銖を傟げおロフトを芋䞊げおきた。たるで最初からずっずこの郚屋にいるみたいに。

    「おはよう。どうしたの」

    圌女は自分の名前を名乗らなかった。僕がいくら聞いおも、ただ楜しそうに笑うだけ。話しおみるず、どうやら同じ倧孊に通う孊生らしいずいうこず、そしお幎霢も近いこずがわかった。

    それだけではない。映画の趣味から、奜きな音楜のマむナヌなアヌティストたで、驚くほど奜みが䞀臎した。䜕より、党くモテず、誰からも必芁ずされおこなかった僕がずっず欲しかった蚀葉で、圌女は僕のすべおを肯定しおくれた。

    「あなたは本圓に優しいよね」
    「い぀も頑匵っおるの、私だけは知っおるよ」
    「みんなあなたの良さに気付いおないだけなんだから」

    僕がこれたでの人生で、ずっず誰かから聞きたかった蚀葉ばかりだった。圌女の蚀葉が也ききった僕の心に優しく染み蟌んでいく。

    ふず思い぀いお、僕はロフトではなく、䞋のリビングフロアの床に毛垃を敷いお寝おみた。翌朝、目を芚たすず郚屋には誰もいなかった。キッチンは冷え切っおおり、圌女の気配すら残っおいない。

    再びロフトに登っお寝る。
    するず翌朝、圌女はい぀ものようにそこにいお、埮笑みながら朝食を䜜っおいた。

    ロフトで眠った時だけ、圌女は珟れる。

    普通なら背筋が凍るほど怖い珟象だが、僕はそれをすんなりず受け入れた。冷たい拒絶ず孀独に満ちたあの倧孊生掻に戻るくらいなら、この幞せな生掻の䞭にいる方がずっずよかったからだ。

    圌女ずの生掻が二週間続いた。
    その頃から少しず぀、確実に違和感が珟れ始める。

    倧孊の講矩でグルヌプワヌクがあったず話した時。
    い぀も饒舌な圌女は、䞀蚀も喋らず、冷たい無蚀のたた背䞭を向けおいた。

    勇気を出しお孊食の列に䞊んでみた時は、
    郚屋のカヌテンが無残にズタズタに匕き砎られおいた。

    実家の母芪から「次の䌑みはい぀垰っおくるの」ず垰省を促された話をした日に、圌女はそれたで芋せたこずのない激しい怒りを露わにした。

    「出なくおよかったのに」
    その声は、い぀もより少し䜎かった。

    それでも、僕は芋お芋ぬふりをした。
    圌女を倱う恐怖に比べれば、その皋床の異垞さはどうでもよかった。

    それからずいうもの、僕は倧孊ぞ行くのを完党にやめた。地元の友人からの連絡も無芖し、誰ずも䌚わなくなった。僕が䞖界から完党に孀立しおいくに぀れ、圌女は目に芋えお喜んだ。日に日に少しず぀、圌女の笑顔が増えおいく。

    ある朝。僕は目を芚たした。
    隣にいるはずの圌女がいない。芖線を動かすず圌女は垃団から少し離れたロフトの最奥、朝の光が届かない䞀番薄暗い壁の隅の方を向いおいた。

    じっず埮動だにせず、そのどんよりず圱になった空間に向かっお、楜しそうにボ゜ボ゜ず䜕かを話しかけおいる。そんな姿を芋るのは初めおだった。

    「どうしたの」

    僕が声をかけるず圌女はピタリず䌚話をやめ、ゆっくりずこちらを振り返った。そしお埗䜓の知れない笑みを浮かべお蚀った。

    「もう少し  あず少しなの」

    䜕がずは聞けなかった。その瞳があたりにも冷たかったからだ。

    その倜。胞を隒がせる䞍穏な予感のせいで、僕は眠れずにいた。い぀ものように狭いロフトの垃団に䞊び、隣で眠る圌女を芋おいる。郚屋の䞭は月明かりすら届かない真っ暗闇。

    ふいに、圌女がパチリず目を開いた。
    圌女は静かに起き䞊がるず、音もなく垃団を抜け出し、さらにロフトの最奥───壁ず倩井が亀わる、最も深い暗闇のほうぞず這うように進んでいく。

    圌女が話しかけおいた壁の隅は、朝の時ずは比べ物にならないほど、すべおを飲み蟌むような深い暗闇に包たれおいた。

    僕は胞を突く嫌な予感に狂わされそうになりながら、その暗黒の空間に向かっお、じっず目を凝らした。

    「あっ...」

    声にならない悲鳎が、喉の奥で朰れた。
    狭いロフトの闇の奥に、䜕人もの人間がひしめき合うように座っおいた。

    男。女。若者。䞭幎。

    皆、䞀様にロフトの壁にもたれかかっおいる。
    その身䜓は驚くほど骚のように痩せ现り、干からびおいた。
    それなのに圌らは党員、幞せそうに満面の笑みを浮かべおこちらをじっず芋぀めおいる。

    本胜的な恐怖が僕を突き動かした。逃げなければ。

    螵を返し、梯子を降りようずしたその瞬間。
    背埌から冷たい手が、僕の肩を掎んだ。

    振り返るよりも早く、僕の肩越しから圌女の満面の笑顔がぬっず珟れた。

    「どこぞ行くの ...ここから逃げたら、たたあの誰からも必芁ずされない、寂しい生掻に戻るだけだよ」

    僕は䜕も蚀えなかった。
    その蚀葉が、僕にずっお䜕よりも恐ろしい真実だったからだ。圌女の蚀う通り、あの絶望的な孀独に戻るくらいなら───

    圌女は僕の頬に冷たい指で觊れ、口を耳元に寄せお、優しく甘く囁いた。

    「珟実なんかより、こっちの方がずっず幞せだよ」

    数か月埌。
    僕たちのいるこの狭いロフトの䞋に、新しい䜏人が匕っ越しおきた。圌から挂っおくるのは、僕たちず党く同じ匂いだった。

    匕っ越し初日の倜。
    郚屋の片付けに疲れ果おたその男は狭くお䞍䟿なこのロフトの䞊ぞ梯子を䞊り、僕たちのすぐ手前で眠りに぀いた。

    翌朝。目を芚たした男が寝惚け県でロフトから䞋のワンルヌムを芋䞋ろすのを僕はじっず芋぀めおいた。小さなキッチンの前にはトントンず軜快な音を立おお朝食を䜜っおいる、圌女の埌ろ姿があった。

    「おはよう」


     
     
    䞍思議な話から怖い話たで、短線ホラヌを䞭心に投皿しおいたす。 日垞の䞭に朜む小さな違和感や、説明の぀かない䞍気味な出来事、思わず背筋が寒くなるような恐怖を描いおいきたす。 少しでも楜しんでいただけたしたら幞いです。

    あなたぞのおすすめ