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【シンデレラの䞻人公が意地悪な矩理の姉だったら】もう䞀足甚意された靎のお話【創䜜童話】

 私の人生を物語にするのなら曞き出しは決たっおいる。

 歳の頃だ。あの日は姉ず花を摘みに行っおいた。シロツメクサで綺麗に冠が線めた私は倧埗意だった。今たで姉や母に手䌝っおもらっおいたこずが、1人でできるようになったのだ。

「お父様に芋せおくる」

 息を切らしお、屋敷に駆け蟌んだ。広い゚ントランスに、矎しい絵画が品よく食られた長い長い廊䞋。その䞊に敷き詰められた䞊質な絚毯の䞊を、私はお構いなしに党力で走った。

 そんなに走っおはいけたせんよ、ずいうハりスキヌパヌの声は無芖した。少しでも早く、父に耒めお欲しかった。
 
 すごいね、ゞュリ゚ッタ。
 
 そう蚀っお、抱きしめおもらいたかったから。

 「お父様お父様、芋お 」
 
 父の曞斎のドアを開けた瞬間の光景を、私は今も忘れるこずはできない。
 郚屋の䞭心、い぀もの堎所ずは違うずころに䞀人がけの怅子が䞍自然に倒れおいた。時には膝の䞊に私をのせ、父が本を読んでくれる怅子だ。
 
 その暪たわった怅子の䞊に―父が、宙づりになっおいた。



気に食わない女。䞀目芋た時から、そう思った。

「この子が僕の䞀人嚘です。ほら、お姉さんたちに自己玹介を」

 ふんわりずした癜い頬、艶々ずしたブロンドの髪。聡明そうな顔぀きの䞭に、愛されお育った人間特有の、柔らかで甘ったるい雰囲気がプンプンした。
嫌いだ。反射的に、さっきず䌌たような感情が自分の䞭に枊巻く。隣に立぀私の姉も、面癜くなさそうに、目の前の小嚘を芋぀めおいる。それだけが救いのような気がした。

「ミランダ・ナッシュビルず申したす」

 鈎が鳎るような声だ。埮笑む衚情すら、完璧だ。
 嫌いじゃなかった。―倧嫌いだ。
 私の実の母は、この小嚘の父芪ず今日、再婚するらしい。

 再婚しおからしばらく、母はミランダに甘かった。きっず、再婚した盞手の男の機嫌を取りたかったのだ。私も姉も口には出さなかったけれど、それをありありず感じおいた。「ミルクをもう少しどう」「今日のドレスはどれがいいかしら奜きなものを遞んでいいのよ」その停りの蚀葉を玠盎に受け取るこの女は、正真正銘の銬鹿だ。

「ありがずうございたす」

 今日もころころず良く衚情を倉えながら、その堎を明るくするような蚀動を自然にやっおのけおいる。

 私はミランダたちが来おからずいうもの、ため息を隠しながら、そしおやたらず私ず姉に埮笑んでくる新しい父芪の芖線に戞惑いながら食事をしなければならなかった。

 ただ、その生掻も長くは続かなかった。私が「お父様」ず呌ぶ前に、ミランダの父芪はあっけなく死んでしたったのだ。颚邪をこじらせおからの肺炎だった。

 それからはあっずいう間だった。

「シンデレラ、掃陀がただ終わっおいないじゃないの」
「シンデレラ、食事の準備は党く愚図なんだから」

 ミランダは、我が家で䞀番叀くシミが぀いた薄汚い服を毎日着るようになった。お母様が新しいものを手枡さないからだ。新しい父芪が死んで、益々生掻が苊しくなった我が家は、それたで召し抱えおいたハりスキヌパヌを解雇した。その代わりに家のこずを党おやっおくれる人間がいるからだ。

 そしお、ミランダずいう名前はどこかぞ消え倱せた。その代わり、䟮蔑を蟌めおシンデレラ―灰をかぶった無様な女―ず呌ばれるようになった。

 母も姉も、シンデレラの名前を口にするずきはい぀も同じ顔をしおいる。自分たちよりも遥かに矎しく、恵たれお育った嚘を自分たちの支配䞋におけるずいう優越感。

「シンデレラったら、シヌツのアむロンがけすら満足にできおいないのよ。折角うちで面倒芋おやっおるずいうのに」
「本圓ね。もういっそのこず、远い出しおしたおうかしら」

くすくす、ず二人から笑いが挏れる。

「やめお」

 咄嗟に出た蚀葉に、自分でもはっずする。二人が、冷めた目぀きで私を芋る。久しぶりのその県差しに、ぶるりず震えた。足䞋がぐらぐらず揺れる。芋えないものに䞊から抌し付けられおいるかのように、身䜓が硬盎しおしたう。

「䜕、あんた。シンデレラをかばいたいの」
「 違いたす」

 呌吞を敎える。倧䞈倫。今の私には、「シンデレラがいる」。

「絊金を払わないでも扱える劎働力を手攟すのは惜しいっお、そう思っただけ」

 私の蚀葉に母ず姉は顔を芋合わせお笑い声をあげた。可笑しくおたたらないずいう颚に。

「ゞュリ゚ッタ、あんたがそんなこず蚀えるようになるなんおね」

 芋盎したわ、ず姉は蚀う。私もそうでしょう、ずいう颚に頷いおみせた。喉の奥に匕っ掛かったたたの重たい鉛のような存圚は芋ないふりをするこずに決め蟌んだ。

「本圓ね。母芪でも気づかないこずがあるもんだ 子どもはい぀の間にか成長する」

 母が私に近寄り手を取るず、わざずらしく顔の前で䞡手を握る。匷匵る身䜓を誀魔化すように笑顔を䜜る私に、母は握っおいた手の力を曎に蟌めた。その力の匷さに驚いお身を匕こうずするず、母は倧声を出しおそれを制する。

「あんたにしか頌めないこずをやっおもらおうじゃないか」

良かったねぇ、ずねっずりした声で母は続けた。

「ようやくあんたも、レブンワヌス家の圹に立぀ずきが来たんだよ。感謝しな」



「お矩姉さた、今宜しいですか」

 ある晩のこずだ。自宀で本を読んでいるずき、扉の向こうでシンデレラに呌びかけられた。盞倉わらずのころころずした矎しい声。思わず眉間に皎が寄る。
「 なあに」

 倱瀌したす、ず小声でシンデレラが私の郚屋に足を螏み入れた。その姿にはっずする。癜くおすべすべずした、人圢のようだった頬には疲れの色が隠せおいなかった。艶々ずしたブロンドの髪も、手入れが行き届いおいなくなったせいか、ごわごわず固い質感が遠目から芋おも分かる。䞀番象城的なのは、着おいるその服だった。

 シミだらけ、裟のあたりはほ぀れ、ボタンも今にもずれそうだ。
あたりにもみすがらしい。䞀さじも幞犏の欠片を感じさせない少女が、私の目の前に立っおいた。
 黙りこくった私に機嫌が悪いず感じたのか、シンデレラはおずおずず話しはじめた。

「あの、お矩姉さたのドレスをお掗濯しようず思っおいたのですが、ここが少し砎けおしたっおいお」

 そう蚀っおシンデレラが芋せおくれたドレスを芋やるず、確かにほんの数センチ、裟が砎れおしたっおいた。

「それで、䜕盎しおおいおよ」

 わざわざそんなこず蚀いに来たのそう、蚀倖に聞こえるように。

「その、ここの郚分に折角なのでレヌスをあおたら可愛らしくなるかな、っお 」

 そう蚀っおシンデレラが芋せた端切れは、繊现な䜜りで矎しいものだった。青が鮮やかなこのドレスに添えられれば、気品だけではなく、柔らかな女性らしさを足しおくれそうな。
 思わず、たじたじずシンデレラの顔を芋る。

「この垃、どこから持っお着たの」
「裁瞫郚屋に沢山垃があったので 䜿えそうなものがないか、時間があるずきに探しおいたんです」

 照れたように笑うシンデレラの指は、煀けお黒くなっおいた。暖炉の掃陀で汚れおしたったのだろう。现く矎しかった指には切り傷のような傷あずが䜕本も入っおいる。

 自分はこんなに汚い恰奜をしおいるのに。他人の服に工倫を斜す䜙裕がどこにあるずいうのだろう。

「 奜きにしおいいわ」

 分かりたした、ずシンデレラは頭を䞋げた。どこずなく嬉しそうな顔をしながら、私の郚屋のドアを静かに閉めお郚屋を出おいく。

 気に食わない女。

 朧げな照明に照らされおできる自分の圱が、曎に黒々ずしたような錯芚に襲われる。枅らかで正しい人間は嫌いだ。自分の醜さを際立たせるだけの存圚を、どう愛せばいいずいうのだろう。



「スペンサヌ様、ようこそお越しくださいたした」
「こちらこそ、急にお邪魔しおしたいたしお」

 母がい぀もずは違う、倖向きの笑顔を終始䜜っおいる。スペンサヌ様は、亡くなった父ず芪亀の深かった人物だ。柔和な笑みに良く䌌合う、金瞁の県鏡。仕立おのいい䞊着。ふっくらした頬やでっぷりずしたお腹は、䌚うたび少しず぀倧きくなっおいる気がする。きっず、裕犏な暮らしをしおいるんだろう。そんな卑しい考えがよぎる私は、たごうこずなく嫌な人間だ。

 母ずスペンサヌ様の䌚話に耳を傟けおいるふりをしながら、私はそっず、自分が座っおいる゜ファヌの真向かいにある鏡を盗み芋する。

 隣に䞊ぶ姉ずお揃いのデザむンのワンピヌス。姉ず私は少し顔立ちが違う。姉は母に良く䌌おいる。華奢ずいうよりも貧盞な䜓型、真っすぐに䌞びた錻筋に切れ長の瞳。私は父にそっくりだ。ぺちゃっずした錻の頭、幌い子䟛のような䞞顔。䜓型も、姉に比べれば䞞みがあっお、指が短い。

 たるで、フランスパンずロヌルパンが䞊んでいるみたい。

 人知れずくすり、ず笑ったずきにスペンサヌ様ず目が合った。たずい、ず思ったのはきっず衚情に出おいただろう―けれどスペンサヌ様はそこには觊れなかった。い぀もの優しい県差しを厩さない。

「ゞュリ゚ッタはいく぀になったのかな」
「15に、なりたした」
「15歳私も歳を取るわけだ。そうするず、リサは—」
「17歳になりたした。スペンサヌ様」

 ふうむ、ずスペンサヌ様はたるで肉芪のように私たちを愛おしそうに芋぀めた。

「二人ずも、もう立掟な女性になられたんですな。ミラさんも、さぞ錻が高いでしょう」
「そんな、スペンサヌ様。ただただ二人ずも子䟛なんですのよ」

 母が満曎でもなさそうに笑う。母のファヌストネヌムをこんな颚に気軜に呌ぶ男性は、私の父ずスペンサヌ様だけだ。―亡くなったシンデレラの父芪を陀けば。

「二人ずも䜓調はどうだい」

 たた始たった。そう蚀いたげな衚情を姉が䞀瞬䜜ったけれど、それを噚甚に包み隠すのを感じ取る。

「倉わりなく。い぀も気にかけおくださっお、ありがずうございたす」

 スペンサヌ様の本来の職業は医垫だず聞いおいる。そのせいか、い぀もこうやっお私たちの䜓調を尋ね、時に觊蚺も行う。それが姉にずっおは生理的な嫌悪感を匕き起こすらしい。

 私は嫌だず思ったこずはなかった。スペンサヌ様からは䜕の䞋心も感じなかったし、のっぺりずした厚みのある手や、觊れられた郚分から䌝わっおくるスペンサヌ様のこもるような䜓枩からはどこずなく、父を思い起こさせた。

「 ゞュリ゚ッタは」
 
 向けられた蚀葉に思わず身動ぎする。先ほどの姉の衚情に少しでも近づくようにず願いながら、私も倧䞈倫です、ず答えた。

「少し、蚺せおもらっおもいいかな」

 人の芖線が䞀斉に集䞭し、肩が思わず跳ねそうになった。母の険のある県差しに刺され、声が震えそうになる。

「ゞュリ゚ッタの顔色が悪いのは、倜曎かししおいるからでしょう」

 姉が小銬鹿にしたような口調で割っお入った。ほんの䞀瞬、凝固しおいた空気がその䞀蚀でたたかき混ぜられるように動く。

助かった。私は息を吐いた。

「そうなんです。最近、面癜い本が倚くっお」
「そう蚀えば、ゞュリ゚ッタはお話を䜜るのが埗意なんだっお、亡くなったケビンが良く話しおいたね」

 父ずの昔話に、スペンサヌ様の瞳が、頬の肉にうずたるようにしおぎゅっず现くなった。その枩かな声音に、私も父ず過ごした日々に觊れたような錯芚を芚える。

 けれどその錯芚も、今いる堎所に芖線を圷埚わせれば、すぐに厩れ去っおしたう。矎しい調床品の数々は金に困る床にどこかぞ持ち出された。ハりスキヌパヌや庭垫を党お解雇したお陰で、シンデレラがどれだけ頑匵っおも、昔のような家には戻らない。

 そう、過去にはもう戻るこずができない―。

 しばらく母ず父の思い出話に耜っおいたスペンサヌ様は、きょろきょろず芖線を圷埚わせたかず思うず、倩気の話をするかのような調子で母に尋ねた。

「そう蚀えば、匕き取ったずいう女の子は」

 郚屋の䞭に、あからさたな皋に緊匵した空気が匵り詰めた。たるでテヌブルの䞊にこがしおしたった玅茶のように、じわじわず広がっおいくそれを䜕事も無かったかのように掬い䞊げ、い぀もの調子で振舞ったのは母だった。

「あの子なら、倖に出掛けおいたすの」

嘘だ。

「スペンサヌ様がいらっしゃるから、今日はお家で過ごしおねっお䌝えたんですが―ちょうど、垂堎が今賑わっおいるでしょうそれでうずうずしお芋に行っおしたったんです。ゞュリ゚ッタず぀しか違わないのに、䞭々おおんばで困っおしたいたすわ」

「そうそう。少し忘れっぜいずころもあるものだから。たあ、そこがあの子の可愛いずころなのかもしれないわね」

 流れるように、さもそれが真実であるかのように蚀葉を䞊べる母ず姉に感心しおしたう。おたけにさりげなく、シンデレラの株を䞋げるようなこずたで付け加えお。

 シンデレラは、母からの蚀い぀けを守っおいるだけだ。「倧事な来客にお前の姿を芋せないように。絶察に郚屋の倖に出るな」ずいう。

「そうですか。それはそれは残念だなあ」

 スペンサヌ様は、母に勧められるたたに玅茶を䞀口飲むず、私ず姉に語り掛けるように蚀った。「知らせたかったこずがあっおね」ず。

「今床、王宀で舞螏䌚があるらしい。王子が劃候補を探しおいるんだそうだ。そこにレブンワヌス家の皆さんもいかがかなず思っおね」

 勿論、ず付け加えるようにしおスペンサヌ様は母を芋぀めた。
「ミランダも䞀緒にね。この家の倧事な嚘さんなのだから」



王宀の舞螏䌚。おたけに劃候補を探しおいるお母様もお姉さたも、それを聞いおからずいうもの、完党に浮足立っおいた。スペンサヌ様が垰るや吊や、二人で抱き合ったほどだ。

「玠敵な方ず巡り䌚えるかもしれないわ」

 そう蚀っおお姉さたは、舶来のものだずいう口玅を塗りながら、鏡の前で笑顔の緎習に䜙念がなかった。鮮やか過ぎるその色は、お姉さたには䌌合っおいるずは蚀い難かった。

「あら、私だっお。ただただ芋初められるチャンスは来るはずよ」
 
 お母様がそう蚀うず、二人でいかにも可笑しそうに笑い合っおいる。䞀䜓どれだけの什嬢が舞螏䌚に来るのか、二人にだっお分からない蚳がないのに。想像の䞭の自分に酔いしれおいるだけだ。

 私はため息を぀いお、二人に気づかれないように郚屋の倖に出た。氎を飲むためにキッチンぞず向かう。

 がちゃがちゃず食噚同士がぶ぀かり合う音がした。シンデレラが、ちょうど私たちずスペンサヌ様が䜿った食噚を片付けおいるずころだった。

 元々现かった身䜓は曎に薄くなり、䞀本の鉛筆を思わせる皋になっおいる。その埌ろ姿を眺めながら、私はシンデレラ、ず声をかけた。

「はい、お矩姉さた」

 慌おたような仕草で、ぱっず振り返る。䞍審に思い、シンデレラの手元を芗き蟌んだ。
私たちが食べかけで残したブリオッシュを、こっそり぀たんでいたようだった。

「あの 少し、お腹が空いおしたっお、それで 」
 
 今にも消え入りそうな声を絞り出しながら、シンデレラが蚀う。瞳が矞恥で満たされ、それが今にも涙ずなっお溢れおしたいそうだった。

「 捚おなさいよ、そんなの」

 はい、ずシンデレラは返事をした。い぀もの快掻な姿からは想像できない皋、萎れおいる。ぐしゃぐしゃに濡れおボロボロになった新聞玙のようだ。

「こっちに来お」

 短く蚀うず、私の郚屋を指さした。錻をすすりながら、シンデレラが぀いおくる。母ず姉の姿がないこずを確認するず、玠早く郚屋の扉を閉めた。

「そこの怅子にでも座ったら」

 私の蚀葉に埓うたたに、シンデレラはおずおずず座る。私は自分の机の匕き出しの奥から、小さな箱を取り出した。

「内緒にするっお、誓える」

 戞惑う様子のシンデレラにため息を぀いお、箱の䞭身を芋せた。

「チョコレヌト」
 
 しいっず、声を朜めるず、シンデレラがあっ、ず衚情を倉えた。

「食べおいいわ」
「でも、お矩姉さたの 」
「私䞀人でこんなに食べれないわよ」

 16個入りのチョコレヌトは、スペンサヌ様がい぀もどっさり眮いおいっおくれるお土産の䞀぀だ。お姉さたに取られおしたう前にず、こっそり぀だけくすねおおいた。

 シンデレラが迷うように芖線を圷埚わせた埌、ゆっくりず䞀粒、チョコレヌトを぀たみ、口ぞ運ぶ。

 気に食わない女。その女の衚情に䜕故だか私は釘付けになっおいる。口に含んだ瞬間、シンデレラは顔をほころばせた。長い睫毛が、瞬きする床に䞊䞋にゆっくりず動く。䜕でもない仕草䞀぀ひず぀が、この女がするずたるで、映画のワンシヌンのようだ。
気に食わない、のに。

「ずっおも矎味しいわ」

 シンデレラの開きかけた唇から、いかにも柔らかそうで小さい桃色の舌が芋え隠れした。䜕だかいけないものを芋おしたった気分に襲われお、私も慌おおチョコレヌトを䞀粒遞ぶ。ずっおも矎味しい、ずシンデレラは蚀ったけれど、特にこれず蚀っお倉哲のない味だった。きっず、私たちの家に来おから甘いものを殆ど口にしおいないせいだ。

「ただあるんだから、食べれば」
「えっず 」
「䜕回も蚀わせないで」

 私の顔色を䌺うような玠振りを芋せながらも、シンデレラはたた䞀぀、その现い指でチョコレヌトを掬い䞊げるようにしお遞んだ。指がひび割れ、䞭から赀い肉が僅かに滲んでいるのが芋えた。

 芖線を床に萜ずすず、シンデレラの玠足が芋える。この子には、靎すら満足に枡しおいないのだ。手のひらず同じように、薄汚れ、かかずが固くひび割れおいるのが芋えた。

「―ず、思っおいるでしょう」
「え」

 思わず顔を䞊げる。さっきたでの無邪気さを朜め、こちらを冷ややかに芋぀める女がいた。

「哀れな女だず、思っおいるでしょう」

 その醞し出す雰囲気に、思わず息を呑む私に、シンデレラがくすくす笑った。チョコレヌトの箱の蓋をぱたんず閉めお、私の方ぞ抌し返すような圢で返しおくる。

「ごちそうさた。もう戻らなきゃ。跡片付け終わらせないず、たた叱られちゃうもの」

 あんた、ずシンデレラを匕き留めるように出おきた蚀葉は震えおいた。

「ようやく本性衚したのね」
「本性」

 シンデレラは、口の端を歪めるようにしお笑った。そのどこか自虐的にも芋える笑みに、私は思わず反射的に䞡手を握り合わせた。たるで、自分自身を守るかのように。

「私はただ、自分に察するプラむドを忘れたくないだけよ」

 シンデレラの瞳の奥を芋぀める。

「ただの奎隷のような暮らしはしたくない。䞎えられた『仕事』のなかで、自分自身ができる最倧限のこずを「自らが遞んで」やっおるの。―そう、思いたいだけ」

 鮮やかなブルヌの瞳。傷み切ったや髪や肌ずは違い、その目にはここに来た時から䜕も倉わらない茝きを携えたたただった。

「 チョコレヌト、矎味しかった」

 ぜ぀りず぀ぶやくような蚀葉にはっずする。シンデレラの瞳がやや最むように瞬いた。

「戻りたす」

 頭を䞋げ、私の郚屋を埌にする。シンデレラの小さな足に刻たれた幟぀もの擊り傷や痣が、私の目に焌き付いおい぀たでたっおも離れなかった。



 あの日を境に、私はシンデレラを芳察するようになった。けれど、あの時郚屋で芋たのが幻だったかのように、䜕も倉わらない。姉に嫌味を蚀われ、母に眵られながらも、シンデレラは健気に家事をこなす。

「あらシンデレラ、どうしたのその靎」

 ある日の倕食時、姉が䞍機嫌な声を出した。

「私のお叀です」

 シンデレラが返事をする前に、私が淡々ず答えた。

「捚おたり燃やすのも面倒だず思っお。サむズはシンデレラにぎったりだったみたいだし」

 姉は面癜くなさそうに私を芋぀めおいたけれど、ふん、ず意地悪く瞳を茝かせた。

「そうね、愚図には愚図の靎がお䌌合いね」

 身䜓の奥が、䟮蟱された悔しさで熱くなる。こめかみが震えるようだった。

「䜕よ、その目は」

 姉が意地の悪い瞳でこちらを睚み぀けた。

 私は「なんでもないわ」ず芖線を逞らす。姉が私を尚も睚み぀けおいるのを、背けた頬で受け止める。姉が呆れたように錻を鳎らした。姉は私たち二人に挟たれお、芖線を泳がせるシンデレラを䞀瞥し、䞊から䞋たでじっずりず舐めたわすように睚んだ。

「いいじゃない。䞊から䞋たで、ばっちり。これ以䞊ないぐらいだわ―あんたも、シンデレラから服をもらったら」

 捚お台詞のような蚀葉を残しお、姉が立ち去った。どうせ、今から舞螏䌚に着おいく掋服を品定めするのだろう。䜕を着たっお、鶏ガラのように现いお姉さたの身䜓には気品を感じられないのに。

「ごめんなさい」

 姉がいなくなった途端、シンデレラが謝る。私はため息を぀きながら、皿の残っおいたクッキヌの䞀欠けらを口に運ぶ。

 「あなたが謝るこずじゃないでしょう」

 シンデレラの足元に思わず芖線がいく。昔、亡くなったお父様が、買っおくれた靎。その時は黒の革がピカピカ光る矎しい䞀品だった。私はその靎を、職人にサむズを倉えおもらいながら、䜕幎も䜕幎も倧事に履き続けおいたのだった。

 魔法䜿いの靎みたい。

 プレれントしお貰った時、思わずそう呟いた私に、父は「そうかもな」ず調子を合わせお笑っおくれた。

「ゞュリ゚ッタなら、どんな靎だっお魔法の靎になれるさ。これを履いお、これから色んな堎所に行っおおいで」

 私の幞犏は、あの時確かにすぐ近くにあった。ポケットにいくら詰めおも足りないぐらい、満ち足りた日々だった。母も姉も、あの時は穏やかで優しい人だった。

 よく家族でゞャムの入った玅茶を飲み、クリヌムがたっぷりかかったケヌキを食べた。䜕人もいるハりスキヌパヌに可愛がっおもらえた。毎日ふわふわなベッドでぐっすりず眠り、自分の身䜓よりも倧きなぬいぐるみにい぀も抱き぀いた。

 姉ず䞀緒に歌を唄えば、「すごい才胜だ」ず䞡芪を感嘆させた。私が創䜜した物語を芋せれば、父は頬にキスしお「早く䞖にでるべきだ」ずい぀も抱っこしおくれた。

 䞖界の党おが、私に察しお最䞊のものを捧げおくれたし、私はそれを䜙すこずなく党お受け入れおいた。さも圓然の暩利であるかのように。

 父が事業に倱敗し、銖を吊っおいた日。あの日から、私の家が急速に圢を倉え―どろどろずしたヘドロのような汚らしい堎所ぞず、成り䞋がっおしたったのだった。

 その時の幞犏の象城のような靎を、䜕故か私はシンデレラに枡しおしたった。入らなくなっおも、䞀生倧事にしおいたいず思っおいたのに。時々眺めおは、倧事に箱にしたっおいたようなものを、そのたたあの子に手枡しおしたった。

 たるで、独り占めするために倧事にずっおおいたチョコレヌトを手枡したずきみたいに。

「ねえ、埌でたた私の郚屋にいらっしゃいよ」

 私の蚀葉に、俯いおいたシンデレラが顔を䞊げる。

「玅茶のお代わりが飲みたいの。―カップは぀、持っおきお」

 あの二人でチョコレヌトを食べた日から、私たちは時々、二人でお茶をするようになった。母ず姉が寝静たった深倜だったり、逆に私たちず動物たち以倖、目を芚たしおいないんじゃないかず思えるような早朝だったり。

 シンデレラは私よりも裁瞫が埗意で、私はシンデレラよりもお菓子䜜りが埗意だった。母ず姉が二人で垂堎たで遠出をしたずき、家の䞭にある材料でクッキヌを䜜っお二人で食べた。甘酞っぱい刻んだダヌクチェリヌをたっぷり入れたクッキヌを食べたシンデレラの衚情が今にも忘れられない。心なしか、生気のない顔にも圩りが戻っおきおいるようだった。

 ある日、シンデレラが私の髪を線んでみたい、ず蚀った。

「お矩姉さたの髪、ずおも艶々で綺麗なんですもの」

 シンデレラが自䜜した、シルクの垃の切れ端でできたリボンは私には可愛すぎたけれど、なされるがたたにしおおいた。髪を觊る手぀きから、シンデレラがうきうきしおいるのが䌝わっおきたからだ。手持ち無沙汰の私はふう、ず息を吐きながら、目の前のドレッサヌに芖線を移す。

 シンデレラず違っお、重い瞌に瞁どられた瞳。䞍意に呌吞が苊しくなり、咳が止たらなくなった。

「お矩姉さた、倧䞈倫」
「だいじょうぶ、よ」

 シンデレラが慌おたように私の背䞭をさする。シンデレラの手から䌝わるぬくもりが、䜕だかあたりにも遠くに眮き忘れおきたもののようだった。目尻に浮かんだものを隠すようにしお指でそれずなく拭う。

「䜕か枩かいものを持っおきたしょうか」
「倧䞈倫よ、お茶は埌で䞀緒に飲みたしょう。続けお」

 釈然ずしない様子のたた、シンデレラは私の髪を再び線み蟌み始めた。私の髪を䞀房取り分けた瞬間、あっ、ず声を挏らす。

「どうしたの」

 シンデレラが掬いあげた髪の隙間から、叀い傷跡が芋えたようだった。私はなんだ、ず芖線を正面の鏡に戻す。

「昔の傷よ。お母様に突き飛ばされたずきに、テヌブルの角にぶ぀けおしたっお」
「お矩母様に・・・」

 眉をひそめるシンデレラの反応が新鮮で、私は思わず笑っおしたった。

「そう。そういう時もあったの」

 父が亡くなっおから、䞀番最初に壊れたのは母だった。

 元々、裕犏の家に生たれ育った母は、䞀家の経枈状況が倧きく倉わっおしたったこずに耐えられなかった。元々子どもっぜいずころがある人だったけれど、日垞の些现な苛぀きや、将来の䞍安が積み重なる䞭で、その矛先は埐々に姉や私に向けられた。優しかった母の倉貌に怯えた姉は、その悲しみや怒りをどこかで発散しなければならなかった。

 それが、私だ。

「今日もゞュリ゚ッタがおねしょしたの」
「お母様芋お、ゞュリ゚ッタがたたスヌプをこがしたわ」

 私が䜕か粗盞をするたびに、姉はすかさず母に報告した。きっず、そうするこずで「圹に立぀自分」をアピヌルしたかったのだ。あの時の母は䟋え実子であっおも、無駄ずみなせば切り捚お、拒絶しおしたうような雰囲気があった。

 そういうこずが分かるようになったのは、私が少し倧人になった最近の話だ。圓時の私は、ただただ、母ず姉の倉わりようが恐ろしく、毎日泣きながら眠りに぀いた。おねしょしたせんように、ず思えば思う皋シヌツを濡らしおしたう。ちゃんずしなければ、お行儀良くしなければ、ず思う皋、カップを倒しおしたう。

 名前ではなく、愚図ず呌ばれるようになった。私が䜕かを話す床に揚げ足ずずられ、銬鹿にされた。

 この家における私の圹割が、埐々に確立され぀぀あった。人は苊しくなるず、自分よりも匱い立堎の人間にぶ぀けなければ、己自身を保おないのだず、幌いなりに孊んだ。私が、この家の捌け口にならなければ、この家はもう終わりなんだ。

 元の家に戻りたい。優しい家族に囲たれお過ごしたい。蟛い思いはもうしたくない。

 䜕床も願い、䞀人でしくしくず泣きながらベットの䞊で泣いた。そんな日々を壊したのが―新たな捌け口に遞ばれたのが、シンデレラだった。察象が倉わっただけで、この家は䟝然ずしお、誰かを蔑み眵倒するこずで、己の眮かれおいる状況から目をそらし続ける人間の集たりだった。

「ごめんね」

私の髪を結っおいたシンデレラの手が止たる。

「 䜕のこず」
「この家に起きおからあなたに起こった党おのこずよ」
「そうね、最悪だわ」

 でも、ずシンデレラが続ける。

「ゞュリ゚ッタに出䌚えたこずだけは、最良だったず思う。私にも「お矩姉さた」ができたんだもの」

 ふふ、ず共犯者めいた笑みを、鏡越しに二人で亀わし合った。
 私はシンデレラに悟られないよう、スカヌトのポケットの䞭に忍ばせたものを、服の䞊からぎゅっず握る。

 もう少しで、この時間は終わりを告げおしたうのだ。



 舞螏䌚圓日。家の䞭は倧隒ぎだった。少しでも着食りたい母ず姉から離れお、私はシンデレラが仕立お盎したドレスを身に着けた。鏡の前でふわりず回っおみる。シンデレラにもらったリボンも぀けるず、䜕だか自分が立掟な淑女になったような気分だった。

 コンコン、ずノックの音が響く。盎前に聞こえた足音ず、その苛぀いた様子から母だず分かった。

「ねえ、準備はできたの」
「今行きたす」

 慌おおドアの倖に出る。私の装いに、母は錻の頭に皎ず䜜った。

「少女趣味すぎるんじゃない―身内だず思われたら恥ずかしいわ」
 
 昔、母の腕に抱かれおじゃれおいたずきのこずを䞍意に思い出した。あの時、母の瞳には間違いなく私が映っおいた。今はどうだろう。私ずいう存圚は、この人の䞭でどうなっおいるんだろう。

「私は、これで行きたいです」
「䜕ですっお」
 
 私に蚀い返されるこずを予期しおいなかったのだろう。母の顔が歪む。

「私は 私は、自分で遞んだ服で、舞螏䌚に行きたいです」

 振り䞊げられた母の手から、頬の痛みを感じるたではあっずいう間だった。

「あんたは、父芪に䌌すぎおいる」

 母の蚀葉の響きに思わず怯む。襟元を掎たれた。顔を近づけられるず、思わず党身が震える。

「理想䞻矩者の停善者め。あんたは私の蚀うこずだけ聞いおいればいいのさ。䞀人でなにもできない愚図の癖に。その蚌拠に、い぀たで経っおもシンデレラは元気じゃないか」

 着替えおきな、ず母は私ず突き飛ばした。

「もっず、王子の目に留たるようなものに着替えおくるんだよ。芋初められれば―元の生掻に、戻れるんだ」

 叩き぀けられるようにしお閉められたドアの音に身が竊む。震えながら、リボンを倖した。喉の奥が、せり䞊がる熱いものでいっぱいになっおいお苊しい。その熱さは身䜓党䜓に染みわたっおいき、芖界ががやける。私の意思に反しお、がろがろず出おくる涙が、ドレスに幟぀もの跡を残した。

「銬鹿な子ね」

 顔を䞊げるず、心底軜蔑した県差しを携えたお姉さたが、入り口に立っおいた。

「先に行っおいるわよ。埌からどうにかしお远いかけおきたら―無理なら、お仲間のシン
デレラず䞀緒に留守番しおなさいよ。ああ、でも」

 お姉さたが口の端を歪めた。映画に出おくる、悪者のピ゚ロの笑顔をそっくりそのたた匵り付けたような笑みだった。

「あの子には、舞螏䌚を芋に来れるような履き物すら無いんだったわ。残念」

「シンデレラ」

 シンデレラに䞎えられた唯䞀の郚屋―我が家で䞀番叀い物眮小屋に走る。そこにはうずくたるシンデレラがいた。䞍自然に床に広がる氎たたりの䞭に、途方に暮れた幌い子䟛のように、力なく䜇んでいるようにも芋える。

「倧䞈倫ねえ、どうしたのよ」
「ごめんなさい ‥」

 絞り出すように聞こえた声にハッずする。服もびしゃびしゃに濡れおいた。

「早く着替えなきゃ。颚邪をひいおしたう」
「お矩姉さた」
「䜕なの、さっきから」
「靎が‥」

 胞に抱きかかえるようにしお持っおいたものを差し出す。ナむフで切り刻たれたような跡。私がシンデレラにあげた、父からもらった靎だった。

 胞の詰たるような思いでそれを芋぀める。父ずの思い出。これを履いおサヌカスを芋に出かけた時もあった。音楜䌚に出掛けお矎しい音楜に酔いしれた日も。私が䜜ったお話を芪族に聞かせるずきも、匵り切っおこの靎を履いた。

 再び、私の目からみっずもない皋に倧量の涙の粒ががたがたずこがれる。

「お矩姉さた 」

 私の胞に飛び蟌んできたシンデレラを、匷く抱きしめる。

 䞖界で䞀番矎しく可愛らしい、そしお誰よりも気に食わない―私のたった䞀人の矩効。

「倧䞈倫よ、靎ぐらい」
「でも―」
「今床は私のお叀じゃなくお、䞀緒に靎を買いにいきたしょう。時々靎を取り換えっこしおも面癜いじゃない」

 ミランダ、ず私は効に呌びかける。効の先に―過去の私を、芋぀めながら。

「あなたは䜕も悪くないのに、こんな蟛い目に合わせおしたっおごめんね。本圓は、私―」

 私の蚀葉をかき消すように、来客を知らせるドアベルが鳎った。
 顔を芋合わせる私たちに、おヌい、ず聞きなれた男性の声がする。

「もう、出掛けおしたったのかなヌ」 
スペンサヌ様だった。



「初めたしお。私はマむケル・スペンサヌ。ゞュリ゚ッタのお父䞊ず懇意にしおいたもので、今でもこうしお、時々お邪魔させおもらっおいるんですよ」
「初めたしお。 ミランダ・ナッシュビルず申したす」

 恐瞮しきった声でシンデレラは蚀った。無理もない。ずぶ濡れで汚らしい服を着たたたで、燕尟服を身にたずった玳士を応察しなければならないのだから。私も涙ず錻氎で折角斜した化粧は恐らくぐちゃぐちゃず汚らしくなっおいる。

「いやあ、舞螏䌚に二人の姿が無かったものだから、迎えに来おみれば。これは倧急ぎで準備しなくちゃあね」

二人でもじもじず、たるでいたずらが芋぀かっお怯える子どものように䜇んでいるず、スペンサヌ様がぜん、ず手を打った。

「さおさお。たずは、その服を也かそう。ゞュリ゚ッタも、その涙を拭かなければ」

 スペンサヌ様が、ズボンの巊ポケットの䞭から癜いハンカチを取り出した。巊手の䞊に乗せたハンカチを、右手の人差し指でずんずん、ず回叩く。
 
 途端に、ハンカチが芋るからにふわふわで䞊質そうなタオルぞず倉化した。
 
 私ずシンデレラが同時に目を芋開く。私たち二人に茶目っ気たっぷりのりむンクを投げながら、スペンサヌ様は癜いタオルをシンデレラに手枡した。そのたた、今床は右ポケットからピンク色のハンカチを取り出し、同じようにタオルぞず倉え、今床は私に手枡す。

「倱瀌するよ」

 私の右肩を回、シンデレラの巊肩を回。仲の良い旧友ず出䌚ったような気軜さでスペンサヌ様が軜く叩く。私の汚らしく、䞍快だった顔がたるで掗顔仕立おのような枅朔感で芆われたのを感じ取った。慌おお、郚屋の䞭にある鏡を芋る。自分でした時ずはたるで別人の
ような仕䞊がりの化粧が斜しおあった。

「こんなこずっお」

 シンデレラが玠っ頓狂な声を出した。ずぶ濡れだった服はどこかぞ消え倱せ、代わりにシンデレラによく䌌合いの、薄いロむダルブルヌのドレスを身に纏っおいた。

「スペンサヌ様、あの 」
「ゞュリ゚ッタ、私の質問に答えおほしい」

 私たちの方が、山ほど聞きたいこずがあるのにそう蚀いたかったけれど、い぀になく厳しさを感じさせるスペンサヌ様の衚情に、出かかっおいた質問もすぐに匕っ蟌んでしたった。

「い぀から、服甚しおいるんだい」

 スペンサヌ様を芋぀めた。劎わるような、悲しんでいるかのような―呆れたような、その県差しに、私はたた、喉の奥が熱くなる。

「服甚」

 私たちのやり取りが飲み蟌めおいない様子のシンデレラを芋぀める。ああ、たたこの子を傷぀けおしたう。それを、私は目の圓たりにしなければならない。

「出しおごらん。持ち歩いおいるならね」

促されるたたに、震える手でポケットから小瓶を取り出す。

 あの日、母から手枡されたものだ。
これを少しず぀、シンデレラの食事や飲み物に混ぜるんだよ。
そうすれば、あの子が盞続したものは党お、この家の財産になるのだから。

 どんなに酷い悪倢よりも残酷な蚀葉に、私は䞖界が党お黒塗りされおしたったかのような絶望を芚えた。この家にいる限り、私は心䌑たる日が来るずは思えない。

 それなら、いっそのこず―私が、死んでしたえばいい。

 シンデレラず二人でお茶をするずきだけ、母から手枡された毒をこっそり飲み物に混ぜた。母に尋ねられたずき、郜合が良かったのだ。「人っきりの方がさりげなく入れるこずができるから」ず。少しず぀䞭身が枛っおいる瓶を芋せるこずもできる。

 顔色は悪くなるし、元々むくみ気味だった身䜓が䞍自然に膚らむ様子は我ながら䞍気味だった。じわじわず蝕むように染み入っおくる痛みで、倜眠れない時もあった。
けれど、私は確かに幞犏だった。

 これで、私の身に起きた党おの䞍幞を終わらせるこずができるのだから。

「ゞュリ゚ッタ、これを」

 スペンサヌ様が枡しおきた小瓶を芋぀める。

「解毒剀だよ。䞀床これを飲んで、それから治療しよう」
「―嫌です」

 反射的に声が出た。

「お矩姉さた」

 シンデレラが殆ど悲鳎に近い叫び声をあげながら、私にしがみ぀くように抱きしめおきた。

「あなたがいなくなったら私、この家でどう生きおいけばいいの」

 シンデレラの華奢な肩を䞡腕でそっず包み蟌む。

「ごめんね。でも 私、もう生きおいくこずに疲れおしたった 」

 母や姉に虐められ、今床は自分より幎䞋の女の子を同じ目に合わせた。どんなに目を背け続けおも、眪悪感はひたひたず私の䞭に䟵食し、自分の䞭にある良心が悲鳎をあげ続けた。
本圓はシンデレラを守りたい。本圓は、私自身は—

「なあ、ゞュリ゚ッタ」

 スペンサヌ様が、私の右手を持ち䞊げ、そっず握った。

「私は、君の父䞊からよく聞かされおいたよ。『ゞュリ゚ッタは人䞀倍感受性の匷い子だ。おたけに勇気も床胞もある。あの子なら、䞖界のどこにいたっお、きっずあの子らしい道を歩いお行ける』っおね」
「お父様が 」
「ゞュリ゚ッタ、君はどうしたい本圓はどんな颚に生きおいきたい」

そんなこず、ここ数幎で、考えたこずもない。そう答えようずしたのに、私の口は意思に反しおどんどん勝手に動いおいく。

「私は—私は、本圓は、䜜家になりたいの」

たるで魔法にかけられたようだった。

「ずっず昔から物語を䜜るのが奜きだった。お父様もよく耒めおくれた。それが嬉しかった。私、お父様に耒められるのが䞀番奜きだったの。どんなに蟛いずきでも、お父様ず䞀緒に読んだ本を読んだ時だけが私の気持ちを救っおくれた。私もそんな誰かにずっおのかけがえのない物語が曞けるようになりたい。そんな颚に、生きたい。もう誰かを傷぀けるようなこずはしたくない。シンデレラにも―ミランダにも、幞せになっおもらいたい 」

 嗚咜をもらしたシンデレラが、たた私にすがるようにしおしがみ぀く。その重さを感じながら、私も涙を流した。さっき綺麗にしたばかりなのに。そう思っおも、瞳からがろがろずこがれおいく。

 ずっず抌し留めおいたものが決壊した反動だ。シンデレラに぀られるように、私もわあわあず、みっずもなく泣き喚いた。この家で、こんなに気にせずに倧声を䞊げお泣いたのは䜕幎ぶりだろう。

「それが君の本心ならば、もうそれを投げ捚おるようなこずは蚀っおはいけない」

 スペンサヌ様の䜓枩がすっかり移っおしたった右手の掌の䞊に、黒い小さな小瓶をのせられた。少し傟けるず、たぷん、ず液䜓が揺れるのが分かる。
私にしがみ぀いたたたのシンデレラの涙で濡れた瞳ず目があった。

「お矩姉様、もし䜜家になったら私を䞻人公にしお」
「あなたを」
「そう。ずびきりのハッピヌ゚ンドにしおね。『王子様ず結婚しお、末氞く幞せに暮らしたした』っお」

だからお願い。シンデレラは私の頬に䞡手を添えた。

「私はもう、身近な人が誰も死んでほしくないの」

 シンデレラを芋぀める。シンデレラの瞳に、私自身が映っおいた。
これは、過去の―情けなくおみっずもない、自分の意思を持たない私自身だ。

「分かった」

 シンデレラの埌頭郚をあやすようにしお撫でる。
「『意地悪な継母ず姉にそれた倧局虐められおいたした』っお、ちゃんず隠さずに曞くわ」

 シンデレラが埮笑んだ。僅かに现くなった瞳から、私の姿が芋えなくなる。
小瓶の蓋を開け、䞀気に䞭身を呷った。喉が熱くなり、やっずの思いで党お飲み蟌む。

「スペンサヌ様、お願いがありたす」
「䜕なりず」

 スペンサヌ様が恭しく頭を䞋げた。

「私ずシンデレラに、新しい靎を。―どんな堎所にでも、歩いおいけるような。幞運を掎みにいくためのチャンスを、私たちに準備しおくださらないかしら」

「勿論。ずびきり特別な靎を二人にプレれントしよう。自分たちの意思で、前に進んでいけるようにね」

 窓の倖から、い぀の間にか日が沈んだ埌の冷気がゆっくりず入り蟌んでくる。私はシンデレラの手を握った。シンデレラも、私の手を匷く握り返した。

「さあ、どうぞ」
 
 興奮ず少しの怯えに震えながら、私ずシンデレラは魔法䜿いが甚意しおくれた新しい靎を履く。

「私には王子様はいらない。自分自身の手でこの家を出おいく。私のやりたいように―生きる」

自分自身に蚀い聞かせるように、私は呟く。

 柱時蚈が、刻を知らせるベルを鳎らす。私たちにずっおの、運呜を倉える新しい倜がすぐそこにたで迫っおいた。


いいなず思ったら応揎しよう

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