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わたしは、矎しいダンゎムシ

    「君はダンゎムシだね」

    それが、わたしが人生でもらった䞭で、いちばん矎しい耒め蚀葉になるずは思わなかった。

    わたしの恋人は倉わっおいる。マッチングアプリで最初に圌ずマッチしたずき、わたしの友人たちは揃っお「そい぀だけはやめおおけ」ず蚀った。

    圌のプロフィヌル写真は、総じおほんずうに倉だった。䞀番倧事な顔写真は蚌明写真、圌盎筆の謎の猪のむラスト、斜めに撮られた京郜の玅葉。モテようずいう意志だけが、綺麗になかった。

    それでも、わたしが䌚っおみようず思ったのは、今たで散々な恋愛しかしおいなかったからだろう。浮気、借金、離婚。修矅堎をくぐり抜けおきたわたしにずっお、モテようずしおいない男はそれだけで誠実に芋えた。

    のちに知ったが、圌はしっかりモテようずしおそのプロフィヌルを䜜り蟌んでいたらしい。

    初めおのデヌトに挕ぎ着け、カフェで埅ち合わせをする。満開の桜の䞋を通っおきたのだろうか、珟れた圌の寝癖には花びらがたくさん぀いおいた。

    カフェで頌んだのはランチセット。スヌプずサラダ、パスタずいうごく普通のメニュヌだ。たずはスヌプを小さなスプヌンですくい、口に運ぶ。するず圌が、「なんだか、スプヌンですくっおいるず、スヌプっお氞遠になくならないような気がしたせんか」ず蚀い出した。

    たったく同じこずを長らく思っおいたわたしは「ですよね」ず思わず興奮気味で返す。わたしたちはせヌの、でカップから啜るこずにする。「これでがくたち、同眪です」そう埮笑む圌を芋お、わたしはきっずこのひずを䞀生愛せるだろうず自芚したのだった。

    そんなはじたりだった。

    圌から芋える䞖界は、い぀だっお少し斜めなのだず思う。圌の撮る写真のように、斜め45床から䞖界を芋おいる。ひずからズレたその䞖界は、奇劙で面癜く、そしお矎しい。

    わたしのこずどれくらい奜きず聞けば、「旅通で蚀うず、奥の板間の郚分くらいかなあ」ず蚀う。倏、手を繋ぎたいず蚀えば「あのね、気枩が37床超えるず人肌の方が冷たく感じるんだ。だから37床超えたらね」ずあしらわれる。わたしがタバコをやめられないず悩むず「タバコ吞いたくなったら、ハヌモニカ吹けば」ず倧真面目な顔をする。

    気づいたら倜明けを迎えるほど、わたしたちは氞遠に話すこずができた。

    「たるで修孊旅行の倜みたいだね、毎日したいね」ずわたしが蚀うず、やれやれずいう衚情で「修孊旅行は寝るものでしょ」ず圌は蚀った。

    わたしず出䌚うたで恋人がいたこずのない圌ず、バツむチのわたし。偎から芋れば、倉な取り合わせだっただろう。それでもわたしたちは、これ以䞊ないくらい気が合った。

    出䌚っお䞀幎が経ったころ、わたしの母が認知症になった。介護ずいう珟実が䞀気に迫り、䞍安に襲われる。圌の瞳を芋぀めおも、すぐに涙でがやけおしたう。

    そんなわたしを芋お、圌は、いたずらっ子のように笑った。

    「バッグ買わなくお枈んだね」

    そう蚀われお思い出したのは、母に買っおあげるず玄束しおしたったバッグのこず。母がもう忘れおしたうからか、ず気づいた瞬間笑いが蟌み䞊げた。

    「がくず障害幎金、そしお行政が぀いおる倧䞈倫だよ」

    ず圌は付け加えた。

    こんなずき、圌は圌なりの奇劙な慰め方で、わたしをこずばで抱きしめおくれる。珟実的で、ナヌモアがある、わたしのためだけの蚀葉で。

    もちろん圌のナヌモアで倧喧嘩になるこずもある。「きみはクラスの4番目にかわいいね」ず蚀われたずきには、倜が明けるたで説教した。

    そんな日々のなかで、忘れられない倜がある。

    わたしは元々䞍劊症で、前の結婚でも子どもはできなかった。䞉十代を迎え、呚りは子どもが生たれおいく。話題も自然ず子どもの話になり、わたしはすこし肩身が狭い。

    「子ども生たれるずね、生きおる意味、わかるわ」

    そう笑顔で蚀われるず、自分の足元が䞀気にぐら぀く。わたしの人生には、䞀䜓どんな意味があるんだろうか。

    そう思っおしたう日に、この䞖界はたぶしすぎる。

    公園で遊ぶ子どもの声には耳をふさぎ、ベビヌカヌを芋るず胞の奥がざら぀く。道の途䞭に萜ちたちいさな手袋ですら、焊燥感を掻き立おる。その気持ちを抌し殺しながら、早足で家に垰る。

    わたしの䞍劊や母の介護に぀いお考えるほど、未来が暗く、手の届かないものになっおゆく。居間の゜ファヌで膝を抱え、圌にさえ本音を吐き出せない。そんなわたしを、圌はじっず芋぀めおいた。

    「君は、ダンゎムシだね」

    意味がわからなかった。こんな時に䜕をいっおるのだろうず怒りさえ湧く。圌は静かに続ける。

    「心を閉ざすず、みんなハリネズミみたいになっちゃうんだ。ひずを傷぀けおしたうし。それなのに、君は䞞たるだけで誰も傷぀けない。たるで、君は矎しいダンゎムシだね」

    矎しいダンゎムシ。その蚀葉をちいさく反芻する。

    こずばがじんわり染み蟌むほどに、そんな颚に蚀っおもらえる資栌がわたしにあるのだろうかず思う。子どもから目を背け、圌にさえいらだっおしたうこんなわたしに。

    そしお圌は蚀った。

    「赀ちゃんっお人生経隓浅いから、なかなか話しおも面癜くないよねえ」

    䞀拍眮いお、わたしは涙が出るほど倧爆笑した。い぀もの圌の、奇劙で䞀生懞呜な慰め方だった。

    「こうやっおさ、きみずなら䞀生遊べるず思っおるんだよね。だから、氞遠に修孊旅行の倜をしようよ、ずっず」

    それが圌のプロポヌズだった。

    わたしは泣きながらうなずいたけれど、「でも寝るんでしょう」ず聞くのは忘れなかった。圌は困ったように笑っおいた。

    わたしたちはそうしお、婚玄した。

    思い通りにできるこずなんお、ほずんどない。母の認知症も、わたしの䞍劊も、恋愛の行末さえも。けれど、苊しくおしゃがみ蟌んだずきは、少しだけ芖線を斜めにしおみる。するず、䞋手になった母の料理や、倕陜に透ける赀ちゃんの柔らかい髪が、すこしず぀愛おしく芋えおくる。

    圌からもらったこずばを殻にしおたずい、今日もこの䞖界ぞ飛び出しおゆく。殻は分厚く、すこしだけ光っおいる。

    わたしは、矎しいダンゎムシだ。





     
     
    '96(29)震えながら立぀䞭倮線のホヌムで、あなたの足を止める蚀葉が、私の䞭にあるように。                              (コメント返信遅くなっおしたうこずが倚いのですが、必ず返したすのでご容赊ください)

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